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六呪 知りたくもなかった事実

「……つまり。魔王と女勇者が恋仲になったはいいけど、自分が三番目だと知った私の先祖であるレネルアさんがブチ切れて魔王に呪いをかけた。しかもそれは、自分しか解けないようなものだった――ってことよね」


「だな」


「……」

 くだらないと言えばくだらない、色恋沙汰のせいで呪いをかけられた魔王に呆れているのか。仮にも魔王討伐が指名であるはずの勇者が、自分が一番ではなかったことに腹を立てて人を呪った勇者を軽蔑しているのか。鈴音はとびきり面倒そうな顔をしたかと思うと、机に突っ伏した。


「心底迷惑よご先祖様……夏になったら文句言いに行ってやるわ」


「え? どこまで?」


 まさか天国まで行くとかないよなと内心驚く叶真に鈴音が返したのは、至極常識的な返答だった。


「お墓までよ。お彼岸になったらいつもうちの一族の墓に行くのだけれど、そこに納められている中で一番古い物が勇者のものなの」


「勇者の墓なんてものがあるのか……」


 お墓にはなんて刻んであるのか少々気になった叶真だったが、それを訊くと話が際限なく脱線して行きそうなのでやめておいた。


「魔王のお墓はないの?」

「あったかもしれねえけど、お墓の維持費なんて払えるほど金ねえから、多分今はもうねえと思うぞ? 少なくとも、俺は一回も見た事ねえし」


 それにあったところで墓参りに行ってどうこうするような、まともな先祖じゃねえし、と叶真が言うと、鈴音はやけに納得した様子だった。


「そうよね。魔王ですもの。そのくらいの扱いで十分だわ」


「マジで嫌いだなー魔王……」


「例え私が勇者の子孫でなかったとしても、大抵の人は魔王なんて嫌いだと思うわよ? さっき日記にもあったけれど、世界征服しようとしていたみたいだし。今で言う独裁者とか、そういう系統の犯罪者ですもの」


「そう言われると元も子もねえな……」


 確かに魔王は独裁者だし犯罪者でもあるだろうが、それにしてもはっきりと言う。要約すると叶真が犯罪者の子孫と言うことになってしまうのだが、どうも鈴音は気づいていないらしい。叶真本人も別に気にしているわけでもないのでいいかと流すと、脱線しかけていた話を戻しにかかった。


「とにかく、だ。魔王が呪われた原因が勇者を相手にして浮気をしていた――とはちょっと違うか? まあ本人に許可なく一夫多妻していたからキレられて、そんな呪いをかけられたってことだ」


「単純過ぎて面倒な話ね。魔王が不届きな行いをしたから、勇者が怒って呪ったってのはまだいいのだけど、やっぱり疑問が残るわね。なぜ三番目に嫌がることを呪いにしたのか、なぜ自分にだけではなく自分の血を引く者も範囲に含めて解呪出来るようにしたのか。そして、なぜその呪いが子孫まで受け継がれるようにしたのか」


「そうなんだよなぁ……」


 どちらも不思議だ。どうせ呪うのなら一番嫌がることを呪いにすればいい。三番目と言うのがいかにも中途半端だし、しかも内容が陰湿だ。そのうえ実害、と言うか命に関わるようなものではない。死なない程度に苦しめたいと思ったのならば、他に良い呪いがいくらでもあっただろう。

異性に嫌われる呪いや、逆に同性に好かれる呪いであれば女好きであった魔王に効果覿面だったろうに。


 そして、解呪出来る者の限定も妙だ。勇者本人だけでなく、なぜ子孫にも呪いが解けるようにしたのか。本気で魔王のことを憎んでいるのならば、呪いが解けるのは自分だけにすればよかったのだ。そうすれば自分一人が魔王に見つかりさえしなければ、永遠に呪いが解けないように出来ただろう。


 最後の疑問は一応妥当と言うか、それらしい理由ならある。ズバリ、魔王が憎過ぎて子孫まで憎いと思った、という理由だ。


勇者が自分の本当の立ち位置を知った時点で他の女との間に子供がいた場合、その子供も憎いと思うのは理解しやすい。しかもその子と魔王と別の女が三人でいるところを見てしまえば、自分のことをより惨めに思うだろう。

ならばやはり、その子供も呪うはずだ。でなければ、魔王の血を呪ったか。これはこれで魔王の血を引く者が呪われる理由がつく。だがこの場合、二百年も経って呪いが全く薄まっていないと言うのが問題だ。それだけ強力な呪いであれば、解くのも一筋縄ではいかないだろう。


 そこまで話し合った辺りで、くぅ、と鈴音のお腹から可愛らしい音が聞こえて来た。


「……お腹空いたわ」


 くたりと気が抜けた様子で言う鈴音の動作に喚起され時計を見ると、ロングホームルームが終わってから二時間が経過していた。


「あ、もう一時過ぎてんじゃん。そりゃ腹も減るか。悪いな、手伝ってもらっちゃって。俺から言っといてなんだが、ここまで真面目に手伝ってくれるとは思ってなかった。ありがとう」


 叶真が思ったことを素直に言うと、鈴音は微かに頬を赤らめた。


「別に、そんな風に感謝されるようなことはしていないわよ。ご先祖様がちょっとばかりやり過ぎてしまったから、そのアフターケアみたいなものだもの。二百年経っても解けない呪いを、しかも関係のない子孫にまでかけるというのは些か以上に陰湿だと思うのよ。魔王が正しくないことをして魔王が呪われるのは自業自得で終わるけれど、あなた達子孫は全く悪くないもの」


「蛇喰……」


 今まで叶真には、こんな風に言ってくれる友達はいなかった。そもそも、一般人にこんな話自体が出来ない。さっき鈴音が言った通り、そんなことを言っても信じて貰えないだろうし、信じられたら信じられたで厄介だ。場合によっては、魔法の恩恵だけを受けようとする輩だっているかもしれないのだから。

そんな中、魔王からすれば敵であった勇者の子孫とこんな話が出来たと言うのは嬉しい反面、皮肉だなと思わざるを得ない。


もし叶真に何の呪いもかかっておらず普通に過ごしていたら、勇者の子孫を探そうなどとは思わなかっただろう。今回見つけたのはたまたまではあるが、探していなかったわけではない。もしこうして出会っていなければ、魔法のことを隠したままずっとまともに会話なんて出来なかったかもしれないのだ。


鈴音ほどではないが、叶真もそれほど隠し事が上手いわけではない。そんな大きな秘密を抱えたままであれば、本心で話す友人など出来なかっただろうから。

鈴音のことを友人などと呼べば、鈴音の方は怒るかもしれないが。


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