表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/42

五呪 勇者と魔王の関係

 鈴音は椅子に座り直し叶真に隣の席を勧めると、読んでいた本の目次ページを叶真にも見えるように広げ、疲れたようにそこを指さした。


「この目次を見てわかると思うけれど、若ハゲになる呪いなんてものは載っていないわね。

呪われる人間が最も嫌がることが起こる呪いとその解き方なら載っていたのだけれど、魔王が一番嫌がることが若くして髪の毛がなくなると言うのは考えにくいわ。絶対にないかと問われれば頷けないけれどね。あなたの方に進展はなかったのかしら?」


「こちとら一族総出で何百年と解呪の方法探してんだぞ。そう簡単に見つかってたら、お前に協力求めてない。いちおーお前にも情報共有しておいてもらおうと思って、魔王の日記なら持って来たけどな。これで呪われた原因だけならわかる」


「なら、見せて貰えるかしら?」


 鈴音に言われ、叶真は鞄から一冊の本を取り出した。


 ボロボロで、あちこちページが剥がれかかっているが、読めないことはない。その日記が、日本語で書かれていれば、の話だが。


「……読めないわ。何語かしら? 見た事のない言語どころか、文字すら根本的に違うわよね、これ」


「俺達の先祖って、異世界から来てるだろ? その別の世界の言語みたいだぞ」


 そう言った叶真は、読めない鈴音の代わりにその日記を日本語に訳して読み始めた。


「『フレイカの月、五日』あ、フレイカの月ってのは、日本で言うところの八月らしい。『今日は久しぶりにいいことがあった。美しい少女が、私のことを求めてやって来たのである。その少女は照れ屋なのか私の言葉に中々耳を貸そうとしなかったが、次第に心を開いてくれるようになった』」


「日記って、そこから始まっているの?」


「いや、必要なとこだけ抜粋してる。これ以前だと『今日は魚が安かった。あの港町はいいところなので、支配下に置くのはやめておこう。漁が滞ってしまったら、魚が値上がりするかもしれない。それにあそこの看板娘はとても美しい』とか。

 他は『今日は近くの花畑に、宿屋の娘と出かけた。やはりここはいいところだ。魔界で唯一の花畑であるここだが、世界を制服し終えればきっと他にも綺麗な場所に行けるようになるだろう。そうすればもっと色んな者を喜ばせることが出来るに違いない』、みたいな話ばっかだな」


「一つ訊きたいのだけれど、魔王って好色家だったのかしら。さっきから違う女の話ばかりしているような気がするのだけど」


「好色家って……まあそうだったんだろうけど。これ日記としてだからまだいいけど、もしこれをどこかの出版社に和訳して持ち込んだら、確実に官能小説扱いにされるぞ」


 鈴音のストレートなのか迂遠なのか微妙な言葉のチョイスに首を捻りながら叶真は頷いた。


 ぶっちゃけこの日記を最初から読んで聞かせなかったり和訳したものを渡したりしなかったのは、そんなことをすればセクハラで訴えられること間違いなしだったからだ。

 魔王本人は日記として書いたものだから別にどう書いてもよかったのだろうが、後の世でこれを子孫が読むと知っていれば流石にもっと違う書き方をしていただろう。これはその、何というか子供に悪影響を与えるクラスの書物なのだ。完全に身内の恥である。


 その話に、鈴音は赤い顔で呆れていた。


「バカなのかしら魔王って。異世界の言語なんて読めなくてよかったわ、私」


「読めてたら見せなかったって。俺は小さい頃に親父に読み方習ったけど、異世界語なんて何もなけりゃ学ぼうと思わないしな。最初のページ見せて読めなかったから続きも見せたけど」


 叶真の言う通り、いくら勇者の子孫でも何の理由もなしに異世界の言語を学ぼうとはしない。代々受け継いで来ている可能性もないではなかったが、最初のページを見て何も反応がないのを見れば鈴音が読めないのは一目瞭然だった。


 ここで魔王の女性に対するだらしなさに論議していても話が進まないので、叶真はページを必要だと思われるところまで捲って行った。


「『フレイカの月、二十五日。今日はとてもいい日だ。やっとあの美しい少女――女勇者が私のものになってくれたのだから』」

「ちょっと待ってくれるかしら。今何か不穏と言うかあってはならないことが起こったような気がするのだけど」


 叶真は今間違いなく勇者が魔王のものになったと言った。それはつまり、鈴音の先祖である勇者は魔王を倒すどころか魔王を好きになり、魔王を倒すのをやめてしまったということだ。いくら遠い先祖のこととはいえ、いくらなんでもそれは恥過ぎる。


 だが叶真は、鈴音の反応になぜか脱力感と、怒りがないまぜになったような複雑な表情で返した。


「ここで終わってりゃーそうだったかもしれねえけど。これ、続きっつーかオチがあるんだよ」


「オチ?」


「そ。『ゲッカラの月、七日』ゲッカラっつーのは九月で、一か月がこの世界は三十日だから勇者を嫁にしてから二週間と経ってない頃な。で、ここからが問題だ。『今日はレネルアの機嫌が悪い。何をあそこまで怒ることがあったのだろうか。ただお前の他に、違う城に住む妻が二人いると言っただけなのに』」


「……まさかとは思うけれど」


「そのまさか」


 叶真は投げやりな口調で、その決定的な部分を読み上げた。


「『ゲッカラのつきようか。わたしが何をしたと××なぜ呪わ×××ばならぬ、×××××××し、××だなん××この美しい深紅の髪がなくなるなど三ばん目にいやなことで、なんでこんなことの起こり×××××たのむレネルア呪いを解いてくれこののろいはゆうしゃの血を持つ者でな×××とけぬのだか』っと、ここで途切れてる」


 ショックが大き過ぎたのか、その文章はあちこちが滲んで読めなくなっていた。しかも分が乱れまくっていて、それ以上解読出来なかったのだ。


 だがその解読出来た部分だけでも、何が起こったかは明白だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ