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盗賊団プロローグ クッパ ・セブン・ペンペン

作者: 泡雪 める

 平和な暮らしとは一瞬で瓦解するものである。ここはとある裕福なお屋敷。この屋敷は町を一望できる小高い丘の上に立っていた。


「クッパ坊っちゃま!また、お勉強サボって、どこ行かれたんですか〜。」


 いつも隠れ家にしている古木の根元で彼は心配性の婆やの声を聞いていた。


「ふわぁ〜。もうすぐおやつ時か…。戻らなきゃなぁ。」


 クッパ・カムイヌプリ、10歳。小さな町の地主であるカムイヌプリ家の一人息子だ。最近、剣の稽古とか当主になるための勉強だとかいって家庭教師についてもらっているのだが…


「剣の稽古は体動かすから疲れるし、勉強はやっぱり面倒いなぁ…。」


 クッパは手にしていた本をまた開き、続きを読み始める。


「やっぱり、物語を読んでいるのが一番だな。」


 クッパは剣が苦手なわけでも、勉強が出来ないわけでもない。むしろ、10歳にしては剣も上手いし、読み書きは優秀なくらい早く覚えた。魔法も火の玉くらいなら出せるようになった。文字を読めるようになってから物語にはまり、勉強をサボるようになっただけである。

 特に気に入ったのが「勇者伝説」という物語だ。


「僕もいつか、こういう風に魔法が使えたらいいなぁ。」


 主人公はとある国の王子。主人公は剣と魔法を駆使して国に害をなす強大な敵国に立ち向かっていく。とても一般的な王道ストーリーである。

 クッパはこの本を読んでいつも一人遊びをしていた。今日もクッパは本を置き、立ち上がる。


「ハハハハハッ!よくぞ来た王子よ!しかし、我は最強!勝てると思うてか!」


 クッパが憧れたのは敵国のボスの方だったが…。それでも、このように物語の登場人物に憧れ、真似をするのは誰にでもあることだろう。


「我が力、その身で感じるがいい。シャドウ・ノバァ!」


 クッパがその言葉を唱えた時、地面が揺れだした。


「な、なんだ!?」


 古木の根元でクッパは膝をつき、揺れが収まるのを待った。しかし、揺れは徐々に大きくなっていく。


「ま、まさか、この私にこんな力があったとは…!」


 ふと、町を見ると所々で火の手が上がっている。悲鳴と砂煙りがここにまで届いている。


「クッパ!どこだ!いるのか!」


 ビクッと体を震わし、クッパは身を隠す。


「まさか、町に降りたのではあるまいな!探しに行ってくる!」


「お待ちください!そんなことしたら、ご主人様が危険です!」


 そんなやり取りが聞こえてきた。父と婆やの声だ。徐々に聞こえなくなったところを見るとここから離れたらしい。


(これが僕の所為だったらどうしよう…。どうしたらいいんだろ…。…ハッ!)


 クッパは突然立ち上がり、走り出す。玄関のところにはいつもの馬車がない。つまり、父と婆やは屋敷に戻ったのではなく、町に向かったのだ。母は亡き今、クッパと父はお互いに唯一の肉親なのだ。


(急いで止めないと…!)


 クッパを探しに行ったのであれば危険な町中に長居してしまう可能性がある。クッパは自らの剣を手に町へと駆け出していった。


 たどり着くと、そこは火に包まれた廃墟だった。倒れた人のほとんどは背中に切り傷や矢を受けて倒れている。


「これは…。」


 背後から人の気配がして、とっさに隠れる。


「おい、こんなもんでいいんじゃないか?」


「そうだな。生きてるやつもいなさそうだし、引き上げるか。」


 1人は甲胄に身を包んだ細い人。顔を隠しているが、声からして男だろう。もう1人は白いマントを羽織ったガタイのいい青年。精悍な顔つきはイケメンと呼ぶにふさわしいものだった。彼らは王国の騎士団と思われる。

 しかし、彼らの会話は国民を守る騎士団のものと思えない何かがあった。


「しかし、あの人も強引だよなぁ。いくらこの町が邪魔だからって、山賊に見せかけて皆殺しとか。」


「まぁな。死人に口なしと言うではないか。我々が駆けつけた時には火の海で生者はいなかった。そう報告すれば任務完了だ。」


「もしも、生きているやつが真実を外へ伝えたら…?」


 いつの間にかクッパは彼らの背後に周りそう聞いていた。


 国の騎士はゆっくり振り返り、答える。


「そうだな。問題はあるまい。騎士団部隊長と小さな町の子どもでは言葉の重みが違うからな。」


「もっとも…。」


 彼らはゆっくりと剣を抜く。


「1人も生かしておくつもりはないがな!」


 彼らはセリフとともに攻撃をしてくる。子ども相手にも手を抜かないあたり、本気で皆殺しをするつもりらしい。


(真の強者は弱者に対しても手を抜かない。そんな相手に出会ったら、倒すよりも生きることを考えろ。)


 クッパの師匠の教えだ。クッパは相手の初手をかわし、懐に潜り込む。そして…


「…!?逃げた!」


 甲胄の男は声をあげ、追いかけてきたが、足が遅いようだ。しかし、もう1人はとても速い。このままでは追いつかれるだろう。


(実際、あいつの方が強い。生きるためには逃げなきゃならない。)


 地の利はクッパにあるが、状況は最悪だ。差を詰められてはいないが、一向に巻くことができない。クッパの体力が尽きそうになったその時。


「ウワァーーーン。ワァーーーン。」


 大きな泣き声が聞こえてきた。見ると5〜6歳くらいの子どもが2人路地で泣きじゃくっている。


「おい!お前ら逃げろ!殺されるぞ!」


 クッパがそう声をかけるが全く耳に届いていない。泣いている子ども達に手を伸ばそうとした時、追いかけてきた騎士が追いつく。


「鬼ごっこは終わりのようだな。」


「くっ…。せめて、この子たちだけでも逃さないと…。」


「安心しろ。皆殺しなんだ。君も、後ろの子たちもまとめて葬ってやるよ。」


 これが国のやることなのかとつぶやき目を閉じた。


「なっ、どうしてだよ…。」


 クッパたちは突き飛ばされ、尻餅をついていた。彼らが先ほどまでいたところでは騎士が落ちてきた瓦礫を背に受けて膝をついている。


「くっ、本当は私だって殺しをしたいわけではない。しかし、あの方に逆らうことはできないのだ。」


 クッパは騎士の背負う瓦礫を退けようと一歩踏み出すが、一睨みで射すくめられた。


「早く行け。いくら遅いと言っても、あいつも追いつくはずだ。ここには私とあいつしかいない。早く逃げろ。」


 最後の方は聞いていなかったと思う。気づけばクッパは2人の子どもの手を引きひたすらに走り続けていた。




「うっ、うっ…うぅ。」


 何もない荒野でクッパは空を見上げた。聞こえるのは知らない子どもの泣き声。心配して声をかけてくる婆やも勉強勉強とうるさく言ってくる家庭教師も今日はどうだったと質問してくる父もいない。


「うぅ、私たちどうなっちゃったの…。」


 どうやら2人は女の子のようだ。歳は7〜8歳でクッパよりも年下のようだ。黒髪の少女は未だに泣き続けているが、金髪の少女は黒髪の少女を守るように涙をこらえ立っている。


「すまない。君たちをこんなことに巻き込んでしまって…。」


 警戒心を解かない少女にクッパはいつの間にか声をかけていた。


「私の力がこんなにも恐ろしいものだとは思っていなかった。」


「さっきの人は何なのさ?」


 金髪の少女はあっけにとられながらも、警戒心を解かず質問する。


「インフェルノ皇国のものだろう。どうやら私のことを聞きつけてきたらしいな。まさか町ごと焼きはらうとは、そんなに私の力が恐ろしいのか…。」


 意味不明な話に黒髪の少女も目を点にして質問する。


「お兄ちゃん、何者なの?」


 クッパは背を向けて立ち、かっこよく決める。


「私はダークユニオン王国の王子なのだ。国一つを滅ぼしかねない力を持っているがために力を封印され、あの町に身を潜めていたのだ。」


 クッパは拳を握り肩を震わせて続ける。


「しかし、許せん!インフェルノ皇国め!罪のないものまで斬り伏せるとは。今は解けぬ封印だが、いつの日か封印を解き、裁きの鉄槌を下してやろう。」


 クッパは振り返り、天に手を伸ばして言った。


「我が名はクッパ!今はまだ逃げるしかないが、必ず奴らを滅ぼして見せよう!"アグニショット"」


 クッパの手から火の玉が出て、消えていく。側から見たらショボいものかもしれないが…。


「ま、魔法!ペンペン、見たか!」


「う、うん。言ってることはよくわかんなかったけど、今のはすごかった。」


 魔法も見たことない子どもたちには十分だったようだ。出てきた言葉は物語の中に出てきたものだが、クッパはもうその役にはまり込んでいた。


「私についてきては危険が伴う。君たちは近くの町で助けを求めるといい。」


 クッパは少女たちに背を向け歩き出そうとする。すると、


「何言ってんだよ!俺はついて行くぞ!」


 金髪の少女の顔に不安はない。


「待って!私も行く!」


 黒髪の少女も涙を拭き立ち上がった。


「厳しい道のりになるぞ。わかっているのか?」


 クッパの問いかけに2人の少女は元気よく答える。


「当たり前だろ!俺はセブンだ。」


「ペンペンといいます。私もお兄ちゃんについていきたいです。」




 その後彼らが生きるために盗みを始めたのは言うまでもない。

 ユースティティア盗賊団と名乗り活動し始めたのはこの1年後。カノンたちとの出会いを果たしたのはさらに3年の時が経ってからである。

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