記憶
カエルはどんどん大きくなっていった。カエルはまるで風船みたいに膨らんでいった。そのうちカエルはパンパンになった。
空気がたくさん詰まっているみたいにパンパンになった。
私はそれを細い何かに突き刺したい衝動にかられた。あれを突き刺したらどうなるのかな? きっとバンとはじけるよね。
中から何が出てくるかな? どろどろの液体が出てくる? 内臓が出てくる?
それとも思いもよらないような気持ちの悪いものが出てくるかな?
ひたすらカエルの背中を追いかけた。
なんだか追いかければ追いかけるほど気分がよくなってきた。とても楽しい気分だ。
うれしいな。
ふとそう思った。嬉しかったんだ。私は。私は嬉しかったんだ。
「カエル」
呼びかけるとカエルは変な声をあげた。
「ねえ、カエル。私、楽しくなってきたよ」
カエルはきいいいと声を上げた。カエルは大きく膨らんで黄土色になって今にもはじけそうだ。
「カエル、あんたもうすぐではじけそうだね」
「そうだろう?」
「あんたはじけたらどうなるの?」
「それはねえ」
カエルは空高く飛んだ。まるで天まで行きそうなくらいだ。
カエルは高く高くまで上がって行った。
「カエル、お母さんはどこにいるの?」
「おまえの小さな小さなお母さんは別の世界に預けているよ」
「別の世界? それはどこにあるの? なんでそこに預けたの?」
「お母さんは癒す必要があるのだ。あのお母さんはまるで宇宙の穢れをすべて引き受けたような体だ。きちんと清浄してあげないといけない」
「清浄?」
「宇宙のパワーを借りて清浄するんだ。清めの力を使う」
「宇宙のパワー? お母さんは穢れてなんていない。勝手ことしないで」
「いや、あのお母さんは穢れている。あの穢れは宇宙全体に影響を及ぼすんだ。だからなんとしてでも清めないといけない。でないと宇宙が消えてしまう。またはじまりへと戻ってしまうんだ」
「なんでお母さんなの」
「それはおまえがある人にお願いしたからだ。ある人は宇宙を始まりへ戻そうとしている。地球で人間の願い事をかなえ続けているのは宇宙を始まりへと戻そうとしているからなんだ」
ある人は何かを超越した存在だ。それは感じていた。でも宇宙を始まりへ戻そうとしているなんて。
う? まてよ。宇宙を戻す?
宇宙を?
その時脳裏にある映像が浮かんだ。長髪の女性が立っている。その女性は手を高くあげ、何かを祈っているような仕草をする。
ああ、力を集めているのだ。力を。
思い出した。その時、私はすべてを思い出した。