処理
巡る月日の儚いことを、人は、知らない。それは、それでいいと
思うが、儚い事を知り足りなければ、人は、いつも孤独だけが
自らにまとわりついてしまう。だから、苛立ち、嫉妬し、自らの
行動に、切磋琢磨しながら、へこんでしまう。なんて、悲しい
生き物なのだ、人間とは。
『もう、いいかな』本田正和は、ズボンの右ポケットに手をいれ
独り言を呟いた。手に触れてるのは、家から持ってきた果物ナイフ。本田正和は、立ち上がる。『さぁ、パーティーの始まりだ』
心の中でさけびながら。
「あ、すみません。」立ち上がる本田の横に全身黒づくめのスーツ姿の男が声をかけてきた。
本田正和は、いつから、この男が、横にいたのかそれが、不思議だった。たしか、このベンチには、俺しかいなかったが?
と。
男は、ニヤニヤしながら、立ち上がり、「本田正和さんですよね。私、こう言う者です。」本田正和に、向かいあい、左ポケットから、四角の白い型紙を本田正和に渡した。名刺で、そこには
小さく、犯罪防止係担当係長とあり、その横に、
黒田ハイカと書かれていた。「犯罪防止係って、?」本田正和の問いかけに、男は、笑いながら、「すみません。ちょっと、すみません。」と、言いながら胸ポケットからタバコをとりだし、火をつけ一息ついた。「ふぅー。これ、これ」と言いながら笑い「あ、すみません。じゃ、説明しますね。えっと、本田正和さんですよね。貴方はこれから、そのポケットの中にあるナイフで、人を殺しますね。」「ハァ?」「またまた、とぼけちゃって。自分のストレスで、イライラしてて、その憂さ晴らしで、暴れるつもりなんでしょ?」「あんた、何を言ってるんだ。」答えながらも
背中が、ヒヤリとしていた。どうしてコイツは知ってるんだ、
誰なんだ、こいつは?と本田正和は、頭をめぐらした。
男は、タバコを、携帯用灰皿をポケットからとりだし、けした。
男は、本田正和に近づき胸ぐらをつかみ睨みながら、
「いいか?お前のストレス発散で、殺された人達はな、成仏出来ずにこの世をさまようんだよ。」「ハァ?」「ハァ?じゃ、ねぇんだよ。よくきけよ?本田正和。たかが、受験に、失敗したぐらいで、その憂さ晴らしで、人を殺すんじゃねぇよ。」
男は、胸ぐらから、手をはなし、本田正和を突き飛ばした。
本田正和は、そのまま倒れこみ尻をついた。男は、そのまま本田正和に近寄り腰をかがめ顔を本田正和に近づかせ、「ナイフだせよ。」と、右手をだした。「はよ、だせや。」
え?いきなり、関西弁?と、思いながら、聞いてると、
「はよしろや、その右ポケットに、入っとるやろ?ナイフやナイフ。はよ、せぇやぁ。はよぉ。」と、勢いに押されナイフをだして、渡すと、「こんな、けったいなもの、もっとると、あかんで自分」と、言いながら立ち上がり、受けとったナイフを、上にかかげ、「南無」一言いうと、ナイフが一瞬できえて、白い煙が宙をまった。
男は、本田正和に、手を差し出し、「さぁ、たちましょう」
笑顔で話し掛け、本田正和もその手を握り立ち上がる。
「あの。一体なにがなんだか分からないんですけど。」
その、質問に、男は、笑いながら
「分からなくていいんです。本田正和さん。私は、貴方を止められて良かった。元気で、頑張ってな。」と、言って、歩いていってしまった。
本田正和は、そのまま立ちすくみながら、空をみた。
さっきの、煙が残ってるはずないが、本田正和には、はっきりとみえた。
「さぁ、がんばろう。」
本田正和は、あるきだした。
黒田は、公園のベンチにいた。手には、手帳があった。
手帳には、今日対応するべき、人間が20人以上いた。
「どいつも、こいつも。」
黒田は、手帳を胸ポケットにしまい、立ち上がった。
歩きながら、「どうせいるんだろ?早く次の人間のいる場所を教えろ?」
と、話すと後ろから、
「さすがッスね、先輩は」
黒田と同じ格好をした男が、返事を返しながら
黒田にちかづいてきた。
黒田は、振りかえり、「早く言え。」
と、一言呟いたあと、振り返りまた歩きだした。