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極めて普通なラブホテルでの会話

初投稿になります。

面白かった、つまらなかった、どんな内容でも構いません。

ぜひ、感想をいただけたら嬉しいです。

 吸血鬼……吸血鬼と言えば、血を吸う、心臓に杭を打たないと死なない、コウモリに変身出来る、などなど。

 諸説あるのだろうが、所詮映画や小説に登場する吸血鬼しか知らない伊織にとっては、その程度しか知識のないものだ。

 いずれにしても、吸血鬼とは架空の存在であることだけは強く主張していきたい。


「明治時代の終わり頃、北陸にあるとある離島に、とても似つかわしくない洋館が建ちました。写真はコチラです」


 奈倉は机の上に一枚の写真と二本の缶コーヒーを置いた。

 写真には、有刺鉄線の奥にそびえ立つ黒ずんだ洋館が写っており、曇の日に撮影された写真だからか、はたまたその古さが原因なのか、とにかく雰囲気だけは不気味なものだった。


「当時の資料をめくっても、北陸の人口わずか数千人の離島に、これほどの洋館が建てられることになったのかは謎のままです。あっ、ブラックですけど大丈夫ですか?」


「大丈夫です。頂きます。それで、洋館には誰が住んでたんです? まさか、吸血鬼とか言い出しませんよね」


 奈倉から渡された缶コーヒーのプルタブを引く。普段は甘党なため、ブラックは無縁なのだが、二日酔いの朝には丁度いいもしれないと思った。


「うーん。最終的にそうなるんですけど……」と、奈倉は困ったように笑った。

「……まあ、まずはわかっている事実の話です。建てられた当時、一組の西洋人の家族が移り住んで来た。と、当時の役場の記録にもあるのですが、これがどこの国から誰が来たかはサッパリ記録にはありません」


「どこの誰が住んでたか役場は把握できてなかったわけですか?」


「身も蓋もなく言えばそういうことですね。まぁ、結局この西洋人の家族は第一次世界大戦終結の頃には、もうすでに洋館には住んでいなかったみたいです。おまけに元々この土地がどこの誰の所有地だったか、実は当時から曖昧だったらしく、最終的にこの洋館は敷地ごと市の財産として管理されることになるります」


「ずさんな管理体制ですね」


「まぁまぁ。ずさんなのは、この後の話です。なんと、この洋館、そのまま、昭和まで放置され続けます。軽く五十年は放置されてた計算です」


「……なんていうか。島の人も誰も指摘しなかったんですか?」


「後で話をすることになるのですが、島の人たちは誰もこの洋館には近づきたがらないのです」


「さて、放置され続けた洋館ですが、昭和のバブル期に老朽化に伴う倒壊を危惧して、洋館の取り壊しが計画されます。結局計画止まりに終わりますが」


「えっ、なぜです」


「解体工事業者が決まらなかったのです」


「そんなことって、あるものなんです?」


「記録からすればイレギュラーな事態だったのは間違いないみたいです。この時期、バブルのおかげで税収が増えて、市が公共事業にさける予算が拡大したようです。それに伴い、洋館の建っている離島自体、今まで遅れていたインフラの整備が一気に進んだみたいです」


 ソファーの脇においてあったカバンから、奈倉はタブPCを取り出す。


「市の事業計画によれば、この時、洋館を取り壊してポンプ場を建設する計画になっています。しかし、翌年の事業実施記録よれば、洋館跡地に建設予定だったポンプ場は、実際には洋館の東側の山を切り崩して建てられています」


 奈倉はタブPCに視線を落としながら、淡々と説明を続ける。


「山を切り崩すのは洋館を取り壊すよりもお金も手間もかかる行為なだけに、一見すれば行政側に何かミスがあったかのように見えますが理由は別のところにあったようです」


「計十一回。時期を分けて、この市としては異例の回数で工事業者の公募を行ったと記録にあります。しかし、それでも結局洋館の解体工事に手を上げた業者はいなかったようです」


「市はやむを得ず、別な場所でポンプ場を建設し、かくて洋館は手付かずのまま放置され、平成の今なお現存し続けるのでしたとさ」


 一気に説明を終えた奈倉の横顔を見ながら、洋館の話については一応、なるほどと納得する。

 しかし、伊織の疑問にはまだ何一つ回答がされていないのだ。


「それで、この話から吸血鬼はどう繋がるんです?」


 つまり、そういうことだ。奈倉はまだ、肝心の吸血鬼については何も語っていない。


「それについては、とりあえず朝食を食べながらということで」

 奈倉は伊織の言葉を軽く受け流すように、いたずらっぽく笑った。






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