朝目を覚ますと隣には見知らぬ女性が寝てました
初投稿になります。
面白かった、つまらなかった、どんな内容でも構いません。
ぜひ、感想をいただけたら嬉しいです。
よく、「意識高い系?」と聞かれる。
その度に、立花伊織は首を横に振った。
いつも着ている赤と白のボーダーのTシャツは、ウォーリーを意識してるだけだし、青の短パンは夏だから着ているだけ。
腕につけたシルバーリングは高校の時に姉からもらったものだし、ヴィヴィアン・ウエストウッドの派手な財布は大学で出来た彼女(一週間で別れた)の趣味だ。
黒縁が太い大きいメガネも、耐久値高そうという理由で選んだもので、特に何かこだわりがあるわけではない。
自分“ならでは”みたいなものは皆無で、いつも着ている赤と白のボーダーのTシャツだって、恋人に「明日からは黒と緑のボーダにして」と言われれば、黙って従うだろう。
大変残念なことに、これといって自分を表現するアイデンティティーも希薄で、周りに流されやすい、どこにでもいる平凡な大学生。
それが、立花伊織という人間だ。
だから、どうして、奈倉なるえは伊織のことを「ジャパンゲームの勇者さまだと」言ったのだろう。
結局吐き出すことのできなかった疑問を胸に抱えたまま、伊織はゆっくりと目蓋を開いた。
そして。
「……どこだ、ここ」
見知らぬ天井。
ふと、横を見れば。
見知らぬ女性。
伊織は声にならない悲鳴を上げた。ずれかけたメガネを正す。
よく見れば、横で寝ている女性は奈倉なるえだった。
パンツスーツに、ややはだけた白のYシャツ。長いまつ毛に白い肌。
昨晩より余程幼く見える奈倉の無防備な寝顔。
こんな女性を目の前に男として何かしなかったわけがない! と思うのに、実際何かしたのか一つも思い出せない。
ごろりと寝返りをする奈倉の胸元から、ふくよかな谷間が覗く。
出会ったばかりの女性と一夜で何かしてしまったのでは、という焦りと、それはそれでラッキーだったのでは? という邪な気持ちから、額に脂汗をかきながら、口元が自然と綻んでいくのが自分でもわかった。
そして、なにより伊織は自分自身の体の異変に気づくことになる。
「こ、…このキョウレツなムカつきは……………ぅっぷ」
ベッドから飛び出し縺れる足が絡んで転倒する。地面を這うようにして、どこにあるかもわからないトイレを探して扉を開けて回る。
幸いにもワンルームにトイレとバスルームがくっついただけの単純な作りをした部屋だったため、すぐにトイレを見つけることができた。
トイレにつくなり、伊織は昨日から溜め込んでいたものを一気に吐瀉した。
便器とにらめっこがしばらく続いたが、胃の内容物をほとんど吐き出したからか、あとに残ったのは頭が重く痛い感覚だけとなった。
さて。少し冷静になる。
ここは、どこだ。
部屋の作りだけ見れば、あるいは奈倉の部屋とも考えられなくもない。それはそれで問題だが。
しかし、奈倉の部屋にしては圧倒的におかしい物がベッドを飛び出しのたうち回っていた時に目に入ったのだ。
キングサイズのベッド、四十インチはありそうな大型テレビ。
そして、明らかにいかがわしいグッズの並んだ自動販売機が鎮座している。
恐らくここは、ラブホテルに違いなかった。




