第7話 身体の傷。心の傷。
今回短いです。
ピーッ、ピーッ、ピーッ、ピーッ
色が無い部屋。正確には限りなく白で統一された部屋、に、心電図のフラット音が一定のリズムで響く。
中央のベットに仰向けで寝ている少女はここ数日目を開けていない。
『定時のバイタルチェック完了っと・・・喋る相手がいないと暇だな~』
少女が収容されている部屋と外の空間を隔てる強化ガラスに映っている少女のバイタルサインの周りを、まるで無重力下のようにくるくる飛んでみせる月読命の姿があった。
『あれ以降天照とも通信できないし。最悪、機体がダメんなってても本体は衛星軌道にあるわけだし・・・』
んー、と唸って考えていると異変に気付く。心拍数が徐々に上がってきている。
『えーっと、これは報告した方がいいのかしら・・・えーと、えーと』
あたふたしているうちに少女の胸が目に見えて上下し、何かに対抗するかのように体をうねらせ始めた。
『あぁぁぁ!!おじさぁぁん!!』
半ば発狂しながらガラスの端へ消える。月読命や天照は機械であるが、人間と同じく思考し、感情を持っている為、変な話だが”慌てる”事が出来るのである。因みにおじさんとは少女の担当医の事。
十数秒後、少女のいる部屋に担当医と看護師数名が入ってくる。
「バイタル安定しません!」
「鎮静剤を打つ。体を押さえてくれっ!」
はいっ、と短く答えると4人がかりで押さえにかかる。
プシュッ、という音とともに注射器内の薬品が減っていく。だが
「ダメです!収まりませんっ、きゃぁ!」
そう肩の辺りを必死で押さえている看護師が言い終わると同時に、少女が叫び声を上げありえない力で上体を起こした。
目を開けた少女は人工呼吸器を引きちぎり喉に手をあて自ら呼吸を整え落ち着きを取り戻す。
飛ばされた看護師は腰が抜けたのか床にへたり込んだままだ。
担当医は咄嗟に対光反射の有無、心電図、動脈の触診を行い、生命活動の継続を確認すると少女に問いかける。
「私の顔が見えるかい?」
小さくゆっくりと頷く
「自分が誰だか分かる?」
「い・・・おり」
目の焦点が合ってないが自分は認識できているようだ。
「よかった、ここはジュネーブの病院だ。なにか思い出せることはあるかい?」
担当医の問いかけに途切れ途切れに答えだす。
「黒い人と赤い人・・・と赤い人から、黒い棒が出てる・・・・」
「それ以外は」
「・・・わからない」
「ありがとう、とりあえず休んでくれ。意識が戻ってよかった。後日精密検査をやるからな」
それだけ言い残すと看護師にあれこれ言って早々と出て行ってしまった。看護師は言われた通りもう一度伊織をベッドへ寝かせ散らかったものを片付けていく。強化ガラスには心配そうに見つめる月読命の姿があった。
『目を覚ましました』
会議を終え陸路、海路を経て日本に帰っていた熊谷のもとに電話が入る。
「わかった。検査が一通り済んだらまた連絡を。迎えを向わせる」
数世紀前の”黒電話”というものを模して最新鋭化し、作られた受話器を戻す。
「パイロットが目を覚ましたそうだ」
「そうですか。良かった、とりあえずは可能性を失わずに済んだということですな」
天の梯子から降りてきた川崎代表取締役社長、芦賀元伸がハンカチで額を拭う。
「あぁ、ですがまだ安心は出来ませんな。改装のほうは順調か」
「もう既に完了しております。後は積み込むだけです」
「いつも、いつもそのように簡単にこなして見せるとこれほどの規模の改装が些細なもののように感じるな。流石です」
「いえいえ、私は単なる飾りですよ。本当にすごいのは現場の方達です。頭が下がる」
数日後、意識レベルも正常値へ戻ったことが確認され、精密検査が行われた。
結果は。
『身体・脳などに異常は見られません。ですが・・・PTSDのような症状が見受けられます』
「どういうことだ」
はい、と応答すると淡々と報告を行った。
まとめると、
桐端 恋に関する記憶の消滅
以前のような明るい性格とは正反対の、無表情な性格に変わった
『他は大丈夫かと思います。2足機動兵器の操縦は以前となんら変わりありません。それと心的外傷に見られる幼児退行なども確認されていません』
「・・・分かった。準備出来次第迎えをよこす。1週間後辺りだろう」
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