第4話 日本国総理護衛任務
フロリダ半島壊滅から2時間後。
2199年のストーンヘンジ遭遇事件より42年の月日が流れ人々の記憶からその事件にことが消えかけた現在。その脅威は再び唐突に訪れた。
少し前までこれまでのように職務をこなしていた日本国国防省に一通の通信が入ってからは省内は騒然とし、怒号が飛び交う戦場と化していた。
「長官!ユニジア・AEL空間省より異空間振動波を多数検知、数5!規模は過去のすべてを上回る数値だそうです」
「場所は」
「はい、旧エジプトの三大ピラミッド、旧メキシコのテオティワカン遺跡、ウシュマル、チチェン・イッツァ、フロリダ沖バミューダ海域海底です。共通するのは古代遺跡ということでしょうか」
「すべてユニジア領か・・・・・・。AEL軍へ、ユニジア軍と合同で迎撃体制。すでにフロリダが被害を受けた。敵は前と同じなのか、何か分からん。」
軍拡を行ったとはいえ、数には限りがあった。
ユニジア・AELは統合軍を急遽編成。該当地域へ送り込んだ。
旧エジプトの三大ピラミッド
「所属不明艦隊視認。バミューダのヒトガタ部隊の報告通りの艦隊編成です。ピラミッドの上に静止しています」
『了解。全軍迎撃態勢』
急遽編成されたAEL軍主体のピラミッド攻略部隊は地平線の向こうに、見慣れた3つの四角錐と異様な雰囲気の物体を視認した。目標1500手前で散開し方位陣形を取り突如現れた艦隊にコンタクトをとる。
「こちら、AEL・ユニジア連合ピラミッド攻略部隊だ。そちらの所属と目的を明かせ」
少し間を置いてノイズが聞こえ”相手”が答えた。
〈滅び行く種族に語ることなど無い。管理者には逆らえない〉
「管理者?滅ぶ?・・・・。目的は!貴様らは何者だ!」
〈目的・・・・。我々が目指すべき事象。殲滅。それだけだ〉
言い終わるとほぼ同時に全周囲360°に向け例の球体がばら撒かれる。
『隊長!ヒトガタ部隊の報告にあった球体です。すぐに回避を』
〈もう遅い〉
刹那。3大ピラミッド空中の巨大艦艇を中心に半径25kmが消し飛び、艦隊以外は文字通り何も残ってはいなかった。
日本軍横須賀航空機動軍基地 ハンガー
紅葉、朽葉を降りた恋らはハンガーの開閉口付近に止まっている黒塗りの総理専用車に駆け寄る。
「なんで呼び戻したんですか!!バミューダや他の攻略部隊はどうなったんです!」
いきなり伊織が40代ほどの男性に怒鳴りつける。
「すまない。新稲1等空尉。今君達を失う訳にはいかないんだ。事実、攻略部隊は消滅した」
「しょう・・・・めつ・・・?」
横から恋が割ってはいる。
「総理、それはどういうことでしょう」
「桐端1等空尉。そのまんまだよ、君達も見ただろうフロリダへの攻撃を。解析の結果、あれは旧世代の異物である悪魔の兵器、核をも超える破壊力を持つと推測される。だがオービットリングからの観測では爆風、熱放射共に観測されなかった。しかし爆風ではないが強烈な閃光の後、乱気流が発生している。まぁまだよくわかっとらん」
「消滅ということは、ユニジアは・・・」
「占領された。とは言い切れん、まだ明確な侵略行動は示してない」
「でも、攻略部隊は壊滅状態なんですよね!?侵略じゃないんですか!?」
落ち着け伊織。と恋がなだめる。
「あれは迎撃行動に過ぎん。本当の恐怖はこれからだ。これからAEL大統領府に飛び緊急会談の予定だ。モーガン大統領とも連絡がついていない」
「ユニジア大統領と連絡がつかない・・・・。これから僕達はどうすればいいんですか」
「帰ってすぐですまないがAELへの護衛を頼みたい。出発は翌早朝6000だ」
「護衛と言っても、我々日本軍もほとんどが攻略部隊に編成されていたはずです。あれに立ち向かえるかどうか・・・・」
この時点で各国軍は戦力の半数を攻略部隊に投入していた為、一気に地球規模での軍事力低下が起きた。
「すでにその件は動いている。ACERNにも協力を要請済みだ。日本国内でも3大企業主導の国軍再建計画機構が発足し増強に動いている。敵の正体が謎に包まれている今、暗闇の中を手探りで進むしかないが攻撃された以上それに対応する為の軍事力確保は重要課題だ」
すると総理の脇にいたSPから飛行計画の入ったアタッシュケースを渡される。二人共がそれを受け取るのを確認した総理は専用車に乗り込み走り去った。
兵舎に帰るまで伊織はずっと泣いていた。泣き疲れて寝てしまった伊織をベットに押し込み、恋は渡されたアタッシュケースを開ける。
ー極秘ーの2文字が赤くでかでかとかかれた表紙をめくり順を追って確認していく。
はぁ~、起きたら伊織に説明か・・・。
憂鬱になりながらも隅々へ目を通す。
深夜2時、伊織が目を覚ますと部屋は暗くシャワールームの明かりが点いているだけだった。丁度恋が出てきた。
「あ、起きた?」
「うん・・・・。ごめん迷惑かけた」
はっきりと映らない寝起きの目を擦りながらベットのふちに座る。
「いやいい、いつもは僕がかけてるからね、迷惑。ん」
「あ、ありがと。それもそうね」
恋が持ってきた水を受け取り、今朝のことを思い出して少し笑う。
「あ!飛行計画!見なきゃ!」
大丈夫、今から簡単にはしょって説明するから。
そう言われ要点をまとめて各所にアンダーラインが引いてある恋の飛行計画書に目を落とす。
翌日早朝横須賀航空機動軍基地の滑走路に政府専用に改造された99式輸送機が進入してきた。2発のエンジンを唸らせ短い滑走で陸を離れた。続いて航機軍の90式空中警戒機が離陸する。そうして空中で待機している紅葉、朽葉の元へ向う。
「アンタレスよりセンター1へ、今日はよろしく頼む」
『センター1よりアンタレス、共に飛べて光栄だ。護衛を頼む』
『センター2より、進行方向の空域はクリア。案内は任せろ』
「アンタレス了解。作戦行動に移る」
横須賀を飛び数時間、黒海上空に差し掛かろうとしている2機の全長50mはあろうかという流線型の巨体と2機の小型の物体の編隊は音速を超え順調に飛行していた。かに見えた瞬間、90式空中警戒機のセンサー類が異空間振動波を捉える。
『振動値拡大!12時の方向距離150km。急減速!対ショック!』
90式空中警戒機と総理の乗る99式輸送機と2機の機動兵器は速度を落とし進路を北北西へ帰る。
『続いてレーダー反応!1つ!』
『ジャンパー、このまま向います』
「大丈夫か?」
総理搭乗機の斜め後方を飛行する恋は対の位置にいる伊織に問いかける。
『大丈夫、今回は実戦装備だし。ジャンパー、編隊を離脱します』
『センター1よりジャンパー、離脱を許可』
ゆっくりと編隊から離れていく朽葉の後ろ姿が紅葉のコックピットに望遠で映し出されていた。
振動波検出ポイント高度15000m
「この高度での振動波探知なんて聞いたこと無いよね・・・月読命、最大望遠で」
『あいよ、でたよ~。ってこれって!!』
「これは・・・信じられないね・・・」
15000mの高空にぽつんと浮遊しているのはヒトガタの黒い金属。伊織はそれと似たものと約40年前に戦火を交えていた。
「国防省の機密にアクセス。例の機体と照合」
『了解っと・・・・出た!ほとんど同じだよ』
「まさかこんなところで会うなんてね・・・・・。FN反応炉出力上昇。サポート頼んだよ。・・・・こちら日本航空機動軍、特戦術隊所属だ。貴様の所属を明かせ」
《双葉の内の一枚が来た》
〈・・・大丈夫だ。可能性は早期に取り除く。被管理者が管理者に並ぶことは許されない〉
《了解した。彼に》
「まぁ・・・返答なんて無いよね~・・・」
予想通りの結果に呆れていると黒塊はグッ、っと踏ん張る動作を一瞬見せると急加速し朽葉に突進してきた。突然のことでうろたえたが天羽々斬でなぎ払う。
と寸前で回避し数十mの距離で静止しこちらに向き直る。どこか驚いている気がした。
なんて思っていると黒塊の腕部が変形し銃口とおぼしき円形がこちらを向いていた。
「やばいっ!!」
銃口が光ったと同時に下へ避ける。頭上数mを赤色にプラズマのようなものを帯びたビームが通過する。とコックピット内に警告音が鳴り響くと視界右端に頭部の損傷を示す文字と画像が写される。
「月読命!今の当たった!?」
『いや、上を通っただけみたい。でも頭部の一部が融解してる』
「どんなでたらめな威力なのよ、それ・・・」
『来るよ!』
またグッと加速し黒塊が突進してくる。次は咄嗟に零式光線突撃銃構え連射する。
零式光線突撃銃から放たれた緑色のビームは黒塊に当たると爆発を起こし爆炎で包んだ。
「やらる訳・・・ないよね~」
すぐに風に煽られ爆煙のなかから無傷のままの黒塊が姿を現す。
「牽制にしかならないか・・・。接近戦なら!!」
次は朽葉から距離を詰め天羽々斬と天叢雲剣の2刀流で切りかかる。相手も剣のようなものを出し応戦する。
「っらぁ!!」
力いっぱい振り下ろした天羽々斬は黒塊の右足を捉え切断する。
「ざまぁみろ!!」
距離をとっては詰めの繰り返しで双方に疲れが見えてきた。
『伊織、大丈夫?』
「心配ないって!接近戦なら恋とやったときのほうがキツイからっ!!キャァ!」
一瞬の隙を突かれ胸部に相手の剣が炸裂する。
「ってて・・機体は!?」
『戦闘継続は可能・・・でも・・・』
「でもな・・・に・・・・ウソ・・・」
剣を握った逆の手が銃のように変形し胸部に向けられていた。
『伊織脱出!!』
「この状態で・・出来たとしても、すぐに打ち落とされるよ・・・」
『でも何もしないわけにいかんやろ!!一か八かや!!』
「でも・・・・・」
『伊織!!諦めんのか!全部、全部なくなるんやぞ!恋との何気ない日常も!お堅いけど気さくな機体整備の人とかとの会話も!いいんか!?』
月読命は助けたい一心にまくし立てる。悔やんだ。これ以上自分が”ヒト”でない事を憎んだことが無いほどに。
「十分生きたよ・・・・。正直疲れた・・・もういいんだよ」
終わりだとでも言わんばかりに黒塊の銃に変形した腕部が光りだす。
最後を覚悟し、ぎゅっと目を瞑る。
直後、機体が大きな衝撃を受け吹っ飛ぶ。突然のことに目を開くと、そこには朽葉の見慣れたコックピットと掴み慣れた2本の操縦桿に計器類。そして機体の外に目を向け愕然とする月読命のVRモデル。
ん・・・・・?あたし銃向けられてて動けなくて、光って・・・・。
よく分からないまま、今の現状を理解しようと黒塊を探す。すぐに見つかった。そして朽葉が元居た位置には黒煙があり、下へ伸びていた。黒煙の発生源。そこには赤と黒の機体があった。
「え・・・・・。紅葉・・・?」
見慣れすぎた機体だった。自分の好きな色だ!と黄泉原の人たちに言いふらし、紅葉を褒められては自分の事のように喜んでいた恋の姿が浮かぶ。
「ちょ・・・・あれ・・・」
『直前に・・・恋が体当たりして』
「何?じゃあ、あのでたらめ砲をもろに・・・食らったの?」
『天照もさっきから、恋に呼びかけてるけど応答が・・・・ないって・・・・』
全身から力が抜けていくようだった。泣くことも声を出すことも出来ず、ただ落下していく紅葉を見ていることしか出来ないでいた。
「な・・・なんでいんのさぁッ!あんた編隊残してこっち来たの!?バカじゃないの!?だれが総理守ってんのよ!!なんで・・・・なんで・・・・」
『センター2よりジャンパー聞こえますか!』
『月読命です。紅葉が・・・撃墜されました。護衛の方は?』
『AEL軍が上がってきてくれました。数分前にアンタレスは編隊を離脱そちらへ・・・・・撃墜?』
『はい・・・アンタレスは撃墜されました。撃墜です。』
『・・・ジャンパーは?』
『無事です。無傷ではありませんが。伊織・・・伊織ってば!』
《双葉のもう片方を落とした》
〈十分だ。損傷も酷い。撤退を〉
《了解》
「んのクソがぁぁぁぁぁ!!」
『ちょ!伊織!』
我を失い黒塊に向け突っ込んでいく。
だが、黒塊の横の空間が歪むとそこへ黒塊は消えていった。
「待てごらぁぁぁぁぁ!」
手をめいっぱい伸ばし掴もうとするが空を切る。ハッと見上げた歪みの向こうには漆黒と小さな光の粒が無数に見えた・・気がした。
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