第3話 流転
遅くなりました(;´Д`)
事件当時は世界は混乱に陥り、様々な宗教、団体が世界の終末を危惧し形無き神に救済を祈った。
が、終末を迎えることは無く、それまで同時多発的に起こっていた異空間振動波もピタリと止み世界はひと時の安息を得た。だが、1回の侵攻。これがあったことは事実で、”来れた”ということは、また来る可能性があるということだ。日本政府はそれを念頭に世界規模での軍事力強化を決定した。
ストーンヘンジ遭遇事件でのデータより現行戦力での対抗は厳しいと見た日本政府は、2201年世界に声明を発表した。
上記のことに加え、極秘裏に行っていた2足機動兵器開発とその基礎技術の譲渡。2足機動兵器の早期運用開始。ストーンヘンジ遭遇事件の真相を発表した。
以下、声明文より抜粋。ストーンヘンジ遭遇事件の真相
「2年前の事件発生直後、我々は敵対兵器の回収に成功し精密な解析を行った。結果、その兵器の技術は我々よりも先を行く技術を持っていた。同じ箇所もいくつか見受けられたが、これの開発、運用をしている文明はかなり高度に発達したということはよくわかった。しかし一番に驚くべきところは他にあった。戦闘データから得られた敵の機動性は我々の2足機動兵器を凌駕していた。その機動性を考慮すると、とてもじゃないが人間が耐えれる機動ではなかった。故に無人兵器かと精密スキャンを行ったところ金属のほかに、ヒトの体を構成しているのと似た生体物質を検知した。しかも兵器の大部分を占めていた。あらゆる可能性を考慮し万全の体制を持って開閉部をこじ開けた。そこにはヒトがいた。正確にはヒトをそのままでかくしたような巨人がいたのだ。身長は約6.42m体重は約450kgと身長の割には体重が軽く。その生物は既に死んでおり解剖作業へ回された。結果、体内構造など多少違う点もあるもののヒトとほぼ同じ生物であった。呼吸は我々と同じく酸素を吸い二酸化炭素を吐く、目や鼻なども同じで違うところといえば骨格が異なるぐらいだった。我々はまだこれが何なのかは把握していない。宇宙人。というのが最大の可能性だろう。」
この後にも演説は続いている。
基礎技術譲渡後、各国で各々の機動兵器を作り上げ試作・量産・配備と進めていた。
西暦2241年 皇紀2901年 4月28日
この日、旧アメリカ合衆国領の乾燥した砂漠地帯の荒野に各3国の2足機動兵器が集結していた。第4回世界合同軍事演習だ。
日本主導の下、各国の機動兵器の性能向上を目的とする演習だ。
ユニジアからは日本の技術提供から生まれたUZ-02「LEG」のD型。AELからは「ユースス」古典ラテン語で経験の意味。この2機種は第2世代に当たる。日本からは零式ヒトガタ戦術機「瞬雷」と一式ヒトガタ戦術機「光雷」日本の2機種は第三世代型2足機動兵器に分類される。
以下性能表
UZ-02D「LEG」
型式番号 UZ-01D
頭頂高 14.8m
重量 42.3t
動力源 熱核融合炉
固定武装 腕部50mmチェインガン左右2挺
武装 LG-005(アサルトレールガン)
HMM06(高機動ミサイル)
HG-002(ハンドレールガン)
LS-MS2(レーザーブレード)
ユニジア開発の2足機動兵器。第1世代に当たる「FOOT」から続く通りこの機体も中距離汎用型である。主兵装を連射型のレールガン1挺、補助兵装を腰、脚部から放たれる高軌道ミサイル、人で言うふともも側部に単発のレールガン1丁。それに加え非常用装備であるレーザーブレードを腰の後ろに2本携帯している。
頭頂高は他の2足機動兵器に比べやや低め。装甲も十分に確保しており自機が持つLG-005なら連続して4発以内であれば操縦、戦闘に影響は出ない。操縦形態は他国同様2本のレバーと各種スイッチで行う。コックピットは大きな3枚のディスプレイで前面左右に設置されており、機体頭部からの光学カメラ映像が映し出される。
「ユースス」
型式番号 AEL-USUS
頭頂高 16.6m
重量 70.8t
動力源 プラズマ熱反応炉
固定武装 無し
武装 AA-G1(2連4銃身ガトリング砲)
R.225M(高軌道小型多連装ミサイル)
AS-G2(重ショットガン)
AS-G2S(軽ショットガン)
VIRIDE
AEL主力2足機動兵器。ユーススは経験の意。第1世代の「マキナ」が遠距離支援型だったのに対し、このユーススは重武装近距離突撃型だ。ここまで派手に進路変更したのには各国の開発状況をかんがみてのことだろう。AA-G1を左右両手に1挺ずつ持ち継続的な制圧を可能にする。R.225Mはマキナに搭載していたR.225を小型高性能かしたもので、小型にすることにより搭載数を増やしこちらも継続的な制圧を主眼に置いて開発された。AS-G2はそこらの地面に撃つと小規模のクレーターが出来るほどの威力を持っている。AS-G2のS型は、単純にAS-G2の小型版。レーザーブレードVIRIDEは刃形成時の発光色が緑の為、この名前が付けられた。VIRIDEは3国の中で最長刀身、最高威力である。装甲も他国のどの2足機動兵器の追随を許さない。その外観から機動性の心配が開発当初上がっていたが、旧式の熱核融合炉から新規開発のプラズマ熱反応炉を採用したことにより機動性は並な物になっている。VIRIDEを除き武装すべてが火薬加速方式の薬莢を持つ。コックピットはLEGと似ている。
零式ヒトガタ戦術機「瞬雷」
型式番号 零式ヒトガタ戦術機
頭頂高 18.1m
重量 49.5t
動力源 FN反応炉
固定武装 頭部右側部45mm機関砲
武装 零式光線突撃銃(ビーム兵器)
天羽々斬(実体剣)
天叢雲剣(実体剣)
昨年、2240年に配備された日本の第3世代機。最新鋭ではないが、それでも他国の2足機動兵器は到底及ばない。頭頂高が高く全体的にスラッとしていて一番人間に近い意匠だろう。こうなったのはより人間的な動きを目指し作られ、E繊維を人口筋肉として組み込まれており、これが第3世代である決め手といえるだろう。他国はまだ各関節にモーターを使用している。外観を見ても分かる通り細身であるが装甲にE-カーボンを採用し、主機であるFN反応炉で生成されるFN粒子をE-カーボン装甲に浸透させることにより防御力は見た目以上に高い。この瞬雷は高機動高速近接戦闘を主眼に設計、開発が行われたため完成後かなり癖のある機体となった。その為、武装も必要最低限である。そして日本機の大きな特徴である実体剣である。刃部分に高純度精練済みE-カーボンを用い戦闘時にはFN粒子で刃表面をコーティングすることにより他国のレーザーブレードにも引けをとらない物となっている。形は日本刀に近く腰の両側に数世紀前の武将のように取り付けられる。コックピットは完全な球体で全周囲モニターを採用し死角はない。
一式ヒトガタ戦術機「光雷」
型式番号 一式ヒトガタ戦術機
頭頂高 18.5m
重量 58.5t
動力源 FN反応炉
固定武装 頭部右側部45mm機関砲
武装 零式光線突撃銃(ビーム兵器)
一式電磁投射銃(高連射レールガン)
天羽々斬(実体剣)
天叢雲剣(実体剣)
今年、2月にロールアウトしたばかりの最新鋭機。瞬雷に次ぎ1年という短期間で配備されたのは、この光雷は瞬雷に装甲追加、出力、総合性能の安定化を図った機体であるからだ。その為、外観こそ少しごつごつしているものの本質的には汎用的な瞬雷といった感じだ。
演習開始5分前 仮設待機ハンガー
「なぁ、今回何日間だっけ?」
腑抜けた顔でジュース片手に専用機で瞬雷の特別カラーリング機である「紅葉」を見上げているのは、元黄泉原所属パイロットの桐端 恋
「はぁ・・・。しっかり把握しときなよ!参加人員の内書類上最年少組とはいえ教育係なんだから!」
こちらは黄泉原時代からの恋の相棒である新稲 伊織だ。愛機は光雷の特別カラーリング機「朽葉」
「で、何日間なの?」
「15日間でしょ!黄泉原のときはしっかりしてたのに」
「あれは秘密組織ってアレだったしかっこよかったじゃん?やる気が違うんだよ。今じゃ正規軍人だ」
溜め息すら出ずに呆れている伊織。
だけど、確かに恋の言うことにも一理ある。黄泉原は非公開組織で機密保持体制の上での誓約は多かった。だけどそれ以外のところはなんら日常生活と変わりなかったし、組織内の人間関係も家族のそれに近くってストレスのスの字もなかった。でも40年前の声明発表と共に黄泉原を解体されて以来、正規軍属になってからはいろいろと窮屈な生活が多い。実際、私も今のモチべージョンを保つのには苦労しているし・・。
「そもそもさ、なんで実年齢隠さないといけないのさ」
「そんなの、当たり前でしょ!!いきなり自分達の寿命の数倍を生きれる人が目の前にいたらストーンヘンジ並みの驚きでしょ!」
「そんな全力で突っ込んでたら疲れない?」
誰のせいだ!と頭をコツこうと振りかぶったところで。
『演習開始2分前です。各パイロットは機体に搭乗を開始してください』
これも正規軍の嫌なところだ。その作戦概要が明確で、使用許可が降りないと機体に触れることすらできない。特に機体を溺愛している恋にとっては苦痛でしかなかった。
「さ、お仕事だ」
「前みたいに撃破したらだめだからね。手加減、手加減」
もたれていた自分の体温で暖かくなった仮設ハンガーの無機質な壁から前に体重をかけて離れ、胸部にあるコックピットから垂れる昇降機に片手片足をかけスゥーっとものの数秒で目的地に着く。
恋は座りなれた座席に深く座るとコックピットを閉めシステムを起動した。周囲360°のモニターに外のハンガーの景色が映り真横にオレンジと黄色を基調としたカラーリングの朽葉が見える。
「天照、起きてる?」
『起きてるわよ~』
「ん、バックアップ頼むね」
『・・・それはいいけど。なんで毎回上を見て話すの』
「だって天照がいるの上じゃん」
『目の前にVRモデルがいるんだからこっち見て話なさいよ!』
と、毎回お決まりのようにやっている芝居をやっていると横の伊織から通信が入る。
『あんたら毎回それやるのね・・・。アンタレス、通信回線」』
「ほっとけ。こちらアンタレス。ジャンパー、回線クリア」
アンタレスは恋のTACネーム、10月生まれのさそり座から取った安易なTACネームだ。伊織は高校時代・・といってもいつの事は忘れたが陸上部で高飛びをやっていたことからジャンパーとなった。
『月読命~。そっちのパイロットは楽そうでいいね』
『天照あんたね・・・それ毎回聞いてるうちの身にもなってぇよ』
月読命。天照を元に作られた黄泉原開発の量子型演算処理システム。天照同様対地静止軌道上に投入された。
天照、月読命がそれぞれ恋、伊織の機体のバックアップ・サポートを担当している。
あらかじめ、決められていたポイントに移動し模擬戦の相手の到着を待つ。最初の演習相手はAEL軍2-11隊だ。到着を待つ間ペイント弾が装てんされた零式光線突撃銃を模したライフルの試射をする。少し離れた地面に向けて1発。着弾と同時に蛍光色が弾け砂埃が舞う。いくらペイント弾とはいえ着弾の衝撃はそれなりにある。
そうこうしているうちに通信が入る。
『いやぁ、悪い。遅れてしまった』
渋い声だ。30過ぎぐらいだろうか。3時の方向から低空をブースターを噴かせながら飛んでくる機体が2機見えた。
「いえ、かまいませんよ」
伊織が答える。
『コイツの準備に手間取ってな。ほれ、あやまらんか』
そう言ってユーススの臀部にあたる部分をポンと叩く。・・まぁ、実際はものすごい金属音だが。
『す、すいません!自分はAEL軍2-11隊2番機タンゴであります!』
『で、ワシが2-11隊1番機ウォーカーだ。お手柔らかに頼む』
少しおどけて見せる。
「こちら日本軍特戦術隊1番機アンタレス。でこっちが」
『2番機ジャンパーです』
それぞれ自己紹介?が終わり。開始の為お互い距離をとる。もう開始している所もあるのか、遠方に濃い砂埃が見える。
《翻訳装置稼働確認》
「では演習を開始します。ルールはこれまでと同じ2対2のデスマッチ形式」
《ポート開放開始。開通まで3》
『世界最強の部隊だ。しっかり見てその技術を盗め』
『はい!』
《2》
「ジャンパー、とりあえず相手の出方を見る。開始後高度500まで上昇」
『ジャンパー、了解』
《1》
「エンゲージ!!」
《流転プロセス、第1段階殲滅開始》
恋が演習開始を宣言し高度を上げようと踏ん張ったところで、緊急回線で通信が入る。
『演習中止!繰り返す。演習中止!今しがたユニジア、AEL両空間省で異空間振動波を確認。各部隊、現地指揮に従い該当ポイント5つへ急行。規模は信じがたいがストーンヘンジ時を越えている・・・・。以上』
唖然としていると、通信が入り5つある異空間振動波検知ポイントの内ある一つに急行せよとの事だ。
「聞きましたね?演習は中止。ウォーカー、そちらはどこへ」
『ウォーカーよりアンタレス。こちらは旧メキシコ、チチェン・イッツァだ。そちらは』
「こっちはバミューダだ」
『了解。幸運を』
ウォーカーはたタンゴを連れ轟音を轟かせながら目的地へ向った。
「ジャンパー、僕達も行こう」
『・・・・・・・・』
「どうした」
『いや、ここずっと無かったじゃない?いきなりでちょっと着いていけなくて。もう大丈夫!』
「・・・そうか。天照、該当ポイントまで案内頼む」
『まっかせて!!』
実に半世紀ぶりの振動波検知で空間省は怒号の応酬で大騒ぎだった。
確認された5つは旧エジプトの三大ピラミッド、旧メキシコのテオティワカン遺跡、ウシュマル、チチェン・イッツァ、フロリダ沖バミューダ海域海底の5つだ。
十数分後、高度5000で音速飛行を続ける恋たちの前に目的の海域が見えてくる。
「ちょっとまて・・・・」
『なに・・・・・これ』
天照、月読命の操作で、いわゆるバミューダトライアングルの中心を高感度光学カメラで捉えた映像が、紅葉、朽葉のコックピットに最大望遠で映し出された。
”海にぽっかりと大穴が明いている”
『恋!内部にレーダー反応!警戒して』
「あれは・・・船・・?」
大穴の中心に全長1kmはあろうかという真っ黒な巨大艦艇を中心にまるで陣形を組むように周りに中小の艦艇十数隻が囲む形で”浮いている”
大穴の手前で急制動し高度を1000まで下げる。
直後、大音量のノイズが鳴り耳を抑える。
『なに?いまの・・・・』
伊織も聞こえていたのだろう。
《現生地球人類に告ぐ、これより我々は流転プログラムを開始する。抵抗するものは容赦しない》
野太い低い声だ。流転?なんだ?
恋達が何がなんだか分からずにいると十数隻ある船の内一際大きな1隻から何かが射出される。
「天照、なんだあれは!拡大して出せ!」
『え!?あ!了解!』
天照もあっけに取られていたのか、サポートが遅れる。
拡大の結果、得られた情報は球体ということだけだった。依然、球体は放物線を描いて飛んでいく。
あの方向はフロリダ半島か・・。ん?抵抗・・容赦しない。・・・まさか!?
「伊織!!アレを落とせ!」
『は!?無茶言わないで!演習から直行したせいで実戦兵器は天羽々斬と叢雲だけなんだから!』
「45mmじゃ・・・無理か」
『接地します!』
天照がそう叫ぶが、地には落ちず空中で静止する。
次の瞬間に球体を中心に光が歪み強烈な閃光を発した。直前に天照、月読命がコックピットの光度を変更した為、恋、伊織は目をやられずにすんだ。それでも眩しいが。
光が収まりカメラで拡大された半島を見て伊織が小さな短い悲鳴を上げる。
そこには何も無かった。いや、陸はあるのだが沿岸部の町など、人工物はおろか植物すら忽然と消えていた。
《我々は観測者であり管理者だ。抵抗は許されない》
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