第二話『お買物』‐②
石をみがいたような外壁の建物……は、非木造建物と呼ばれている。服屋はこの建物にあたる。大きな窓から店内がのぞけ、作務衣がかなりの数、展示されていることが判る。
このお店では従来のような火、ではなく、発光線を用いた灯りを採用している。地中の岩盤や大岩にたくわえられている力を使うらしい。この力は村人にとっては新たな恵みの力であることから『恵力』と呼ばれ、恵力を利用した灯りは『恵灯』と呼ばれている。二つの灯りの違いは、といえば、部屋に拡がる光が、前者は薄暗くて淡い橙色だけれど、後者は明るくて強い白色。おかげで展示している服が色あざやかに映えている。
入口のドアを開けて中へと入る。うす緑色の内装をほどこした店内はとても静か。外のさわがしさがまるでうそのよう。といっても人がいないわけではない。みな作務衣の品定めに夢中なのだ。
作務衣。……村の定番となっている衣服。肌着の上に羽織るもので子どもからおとなまで身につけている。主なものとしては風とおしのよい布地で造られた上下一対型。上衣は両腕を『袖』と呼ばれる左右の筒部分にとおして前身ごろを重ねる。しめつけるには打ちあわせ部分にぬいつけられているひもどうしを結べばいい。下衣は両足を左右の筒部分にとおして持ちあげる。しめつけるにはこしまわりにつけられているひもを結べばいい。作務衣の中には腕や足のすそにも、しめつけができるようにひもがぬいつけられているものがある。上下の衣を着こんだあとにこしひもを結べば、それで着衣は完了となる。
……とまぁ、こう述べたててみると、それならみな似たりよったりでどれを選んでも大差ないのじゃないか、と思えないこともない。実はわたしもそうだった。ところが……。店内に飾られた見本の数々。これらを一つずつ見るにつけ、かぎられた範囲ではあるにせよ、よくもまぁ、これだけのものを造りあげたと種類の多さに圧倒。奥の深い着衣だとしみじみ感じた。そんな中でもひときわ目につくのは。
「うわぁ。作務衣といっても色がたくさんあるんだぁ」
そう、色だ。どんな色でも造りだせるんじゃないかと思えるぐらい、色とりどりの作務衣がひしめきあっている。わたしの声に『おどろくのも無理はありません』とうなずくお兄ちゃん。
「僕の小さい頃だってこんなにはありませんでしたからね。特にここ最近ですよ。やたらと多くなったのは」
「ふぅん、そうなんだ……。あれっ。よく見たら、胸のあたりに模様みたいなものが」
「『ししゅう』のことですか。布地に糸をぬわせることで絵柄を造りだしているんです」
「そうなんだ……。よぉく見れば、何種類か違うパターンがあるみたいね。あっ。これなんか、内袋がついているよ」
「作務衣って基本的には同じ様式ですからね。微妙なところに変化を持たせることで、お客の好みにあう品ぞろえを工夫しているのでしょう」
「ねぇ、お兄ちゃん。あれを見て。こしひもをとおすための差し口がついている。あれだったら、結び目が取れても落ちずにすむよね。それから……、あっ。これ、触ってみて。ずいぶんと丈夫みたいだけど」
「……本当に。しかも、厚みはほかとほとんど変わらない……か。あきらかに違う種類の生地を使っていますね」
「お兄ちゃん。これこれ。すっごく軽くてやわらかいの」
「へぇぇ。こんなのも今はあるんですね。僕も買いたくなってきましたよ」
わたしはお兄ちゃんと展示品の作務衣を見てまわる。実際に試着もしてみた。
(よぉし。決めたぁっと)
見本の服を手にとって、お兄ちゃんの前に立つ。
「お兄ちゃん。わたし、生地はこれにする」
わたしが差しだした作務衣を見たとたん、『ふふっ』とお兄ちゃんの顔に笑みが浮かんだ。「やっぱり、その色にしますか」
「だめぇ?」と心配げに尋ねるわたしに、
「かまいませんよ。フローラがそれでいいというなら」といってくれた。
「それじゃあ、フローラ。店員さんにせたけをあわせてもらいましょうか。
……あっ、こっちに来ましたよ。……店員さぁん」
わたしは服を仕立てるため、店員さんに身体の寸法を測ってもらう。
「お客様。他になにかご注文があれば承りますが」
店員さんがわたしに尋ねてきた。
「お兄ちゃん」
「どうぞ。要望があれば、どんどんいってください」
「うん、判った。ええと……。胸の『ししゅう』はあそこにある人魚の形で。それから……と。
あっ、そうそう。こしひも用の差し口もつけてほしいの」
「かしこまりました」
服の注文をすませると、他にも二、三買物をした。お兄ちゃんは今、これらの代金をまとめて支払っている。その姿を見ながらこんなことを考えていた。
(二人の人間が互いに相手の持っているものを手に入れたいとするよね。その場合、双方が相手の所有するものの価値を自分のものと同等であると納得し、かつ、自分のものを手放してもかまわないとするなら、交換が成立する可能性はきわめて高いと思う。だからこそ、物々交換をとおして自分がほしいものをどんどん手に入れられるようになり、やがては、お兄ちゃんが今やっているようなお金を使うお買物の姿へと変わっていったような気がする。
とはいっても……、さまざまな商品を手に入れる手段としてその間に『お金』を介在させるっていうのは、まぁ、便利といえば便利だし、判らなくもない。だけど、その商品の価値って一体誰が決めるんだろう? どの商品だってできあがるまでには、それ相応の人手なり、努力があったはず。本当に今、値札についている金額は、それに見あっているといえるのかな。人は誰もそのことに疑問をはさんだりはしないのだろうか)
「フローラ。どうかしましたか?」「えっ!」
気がついてみたら、お兄ちゃんが目の前で手をふっている。
「ううん。なんでもない。ちょっとつまらない考えことをしていただけなの。
さぁ、早く行こうよ。お兄ちゃん」
わたしはお兄ちゃんの腕を取って歩きだす。
「ちょっと、フローラ。そんなに引っぱらなくても」
後日、この件でお兄ちゃんに聞いてみた。
「ものの価値ですか……。簡単にいえば需要と供給。それをほしい人がどれだけいるか、それに対しどれだけ用意できるか、で決まります」
本当に……本当に簡単な答えだった。
(うぅん、判ることは判るんだけど……)
なんか釈然としないものが心に残った……のは、わたしだけかな?
わたしたちがお店を出るころには、あたりはさらに暗くなっていた。最初の予定とは違い、かなりの時間が経っている。だけど、いい買物ができたので、二人とも満足していた。
服は明日にでも届くという。どう仕上がっているか、とても楽しみ。
「途中で悩んでいたようですが……、結局、色は今と同じ薄紅色にしたんですね」
「うん。この色が一番わたしにあうような気がしたの。だけどね。生地のやわらかさは今以上に、ふわっ、とした感じで着心地がとてもいいの」
「気に入ったものが見つかってよかったですね」
お兄ちゃんはそういってから腕時計に目を走らせる。
「あれっ、もうこんな時間とは。これだと帰るのはかなり遅くなりそうだな……。
まっ、それならそれで、と。……じゃあ、フローラ。次に行くとしますか」
「うん」
「その袋、持ちましょうか?」
実は肌着も買っていた。前に買ったのがあるけど、乾かせない時のことを考えて。
「ううん。これはわたしのだから、わたしが持つよ」
(なんか恥ずかしいし)
「そうですか。ではお願いします」
次に行ったのは食器店。清潔そうな白い壁に配置された後ろ面のない木棚には、各種いろいろなものが並べられてある。
「お兄ちゃん。ここではなにを買うの?」
「もちろん、フローラが使う食器です。椀、皿、匙。箸、茶飲みなど、いろいろと」
「だけど、お兄ちゃん。わたし、今のままでいいのに」
「今、家にあるのは、みんな同じものですからね。これは僕の、これはフローラの、って、判るようにしたいんです。自分専用の食器があるっていうのも、なかなかいいものですよ」
「ふぅん。そういうものかもしれないな。それで、また好きなものを選んでいいの?」
「フローラ自身が使うものです。かまいませんよ。自分が気に入ったものを選んでください」
「判った。じゃあ、まず、どの色にしようかな……」
「やっぱり、薄紅色にしますか。それなら」
「ああ。あっちにあるんだ。うぅん。でも食器は別な色にしたいな。たとえば青とか」
「青系ならこっちに」
「あっ、本当だ」
一口に青系といっても、青色、水色、藍色など、その色あいには微妙な差がある。描かれているものもさまざまだ。わたしは慎重に吟味をして、一番気に入ったものを選びだす。
支払いをすませ、わたしたちは店の外へと出る。
「お兄ちゃん。それ、わたしが持つよ」
「食器は重いですからね。僕が持ちますよ」
「ありがとう。それにしても、ずいぶんと暗くなっちゃったね」
「この時期、暗くなるのも早いですから。僕が遅れてきたのも原因だし」
「これからどうするの?」
「本当は夕食を買って帰るつもりだったんですけど……。
これからだと遅くなるし、折角出かけてきたんです。どこか食堂に入って食べることにしませんか?」
「うわぁ、外食か。初めてだなぁ。なんかうれしい」
「決まりですね。じゃあ、どこにしましょうか……」
わたしとお兄ちゃんは、時間が経つのも忘れて、食堂探しに没頭する。
わたしたちは、とある食堂に入る。給仕係の人に案内され、窓際にあるテーブルの椅子にこしをおろした。
「ふぅ。やっと食事だぁ」
わたしは店の壁にかけてある時計をながめる。
(もうこんな時間なのか。買物をしていると、時間が経つのって早いなぁ)
お兄ちゃんの目も時計の方に。わたしと同じことを思ったみたい。
「まさか、これほど遅くなるとは。でも、よさそうな店が見つかってほっとしましたよ」といいながら、給仕の人が持ってきてくれた『おしぼり』で手をふいている。
周りを見まわしてみた。ここは火を用いた灯りを使っている。やわらかな光に包まれた店内には、どことなく落ちついたふんいきがただよっている。
「ここ、なかなかおしゃれなお店じゃない。店頭に並べてあったお料理の見本も、おいしそうなものばかりだったし」
「僕もこの店に入るのは初めてですよ。口にあうものだといいんですが」
「うん。すごく期待しているの」
わたしはお料理のことはあまりよく判らないので、お兄ちゃんに選んでもらう。お兄ちゃんと話をしている間に、それらが運ばれてきた。湯気とともに、あたりに拡がるにおいが鼻をくすぐる。とてもおいしそう。わたしはお兄ちゃんの手元を、ちらちらっ、とのぞきながら、見よう見まねでお料理を口へと運んだ。
「うわぁ、おいしい!」
「気に入ってくれてよかった。そうですね。確かに味がいい」
わたしはこれまで、『お腹がぺこぺこ』という感覚を持つことはなかった。でも今は違う。お昼を食べてからだいぶ経つので、この感情がわたしの中でうず巻いていた。買物をしていても時折、『なにか食べたいな』、なんて思っていた。だから今、こうやってゆっくりと食べられるのがうれしくてたまらない。
わたしもお兄ちゃんも、なに一つ残さず、お料理をたいらげた。
「どうです? 食後になにか飲みませんか?」
「うん。だけど、わたし……」
「ああ、そうでした。とりあえず、今度も僕のおすすめを飲んでみてください」
「うん。お願い」
しばらくして飲みものが運ばれてきた。口につけてみる。ほろ苦いようで、ほんの少し甘さもある。食後にちょうどいい。わたしはたちまち気に入った。
「どう?」
「これもなかなかいいよ。なんか落ちつく」
「よかった。もうほかに買物はありませんから、ここでゆっくりと休んでから帰りましょう」
「うん。賛成」
お兄ちゃんと話をしているうちに、いつの間にか夜もふけてきた。時刻からいえば真夜中といっていい。わたしたちの前にある茶飲みはもう空になっている。
「じゃあ、そろそろ帰りますか」
「ちょっと長居をしちゃったね。お兄ちゃん、外を見てよ」
「真っ暗ですね。ですが、たまにはいいかも知れません。今日のお昼は少し暑かったけど、今は快適そのもの。のんびりと夜風にふかれながら、帰りましょうか」
「うん。帰ろう」
わたしたちは食堂をあとにする。
「フローラ、ごらん。星空がきれいですよ」
「本当だぁ。……お兄ちゃん。わたしね。夜になると湖面に浮かんでこの星空をいつもながめていたの。きらきらと輝いてとても美しいから」
「夜どおし見ていてもあきない、っていう人もいるくらいだから。どんな生きものでさえも魅了してしまう力があるのかもしれませんね」
「お兄ちゃんはどう思う?」
「残念ながら……、『きれいですね』で、おしまい」
「お兄ちゃんってロマンチストには、なれないみたいね」
「ロマンチストって……。どこからそんな言葉を」
「買物に出かけるとね。近所の人と話す機会が多くなるの。だから自然と」
「へぇぇ。僕が知らない間に、すっかりなじんでいますね。人の世界に」
「そうみたい。それにしても……、ふぅ、お腹がいっぱい」
「でも、おいしかったんだから」
「そうよね。おいしかった」
わたしはお兄ちゃんの腕に自分の腕をからませながら、夜道を歩いている。口数も少なくなった。わたしはお兄ちゃんを見あげながら、ふと、こんなことを考えた。
(今は毎日、大好きなお兄ちゃんとあたりまえのように食事をしている。だけど、同じものを食べたとしても、お腹がすいた時や誰か親しい人と一緒の方がさらにおいしいと感じるのは、一体どうしてなのかな?)
「フローラ、どうしました? 黙って僕の顔なんか見たりして」
「えっ。……ううん。なんでも」
(まぁ、いいや。わたしがおいしいと感じるのは、食事の味ももちろんだけど、お兄ちゃんがそばにいてくれるからだもの。それだけ判ればそれでいい)
「お兄ちゃん」
わたしは前を指さす。
「帰る前に公園へ行ってみない? あそこから見る夜空の方が絶対にきれいだと思うの」
「そうですね。じゃあ、行ってみますか?」「うん」
そのあと、わたしたちはベンチに座って星空をたんのうした。お兄ちゃんと同じようにわたしの目にも天上の星々がきらきらと映っていたに違いない。
結局、家に帰れたのはずいぶんあとのこと。
ふとんをしいたが最後、ごろりと横になり、そのまま眠ってしまった。
「にゃうぉぉん! ぷんぷん! ぷんぷん! にゃうぉぉん!」
「また怒っていますね」「また怒っているわんミアン」
「にゃうぉぉん! ぷんぷん! ぷんぷん! うぅぅ、わんわん!」
「怒りすぎてねこをやめてしまいましたね」「怒りすぎてねこをやめてしまったわん」
「ミーナさんになってしまいましたね」「アタシになってしまったわん」
ごっごっごっごっごっ! ごっごっごっごっごっ!
「ふにゃあああ!」
「…………」「…………」
「はてにゃん?
(どうしたのにゃろう? 急に黙りこんでしまったのにゃけれども)
ネイルにゃん、ミーにゃん。ウチはにゃ。怒っているのにゃけれども……」
「…………」「…………」
「困ったにゃあ……。
(全然口をきいてくれにゃい。ちょっとやりすぎてしまったのかもしれないにゃあ)
ネイルにゃん、ミーにゃん。ウチが悪かったのにゃ。これ、このとおり。あやまるから許してほしいのにゃん」
「……ふぅ。よかったですねぇ、ミーナさん」「……ふぅ。よかったわん、ネイルさん」
「このままずっとつづけられたらどうしょうかと」
「本当本当。生きた心地もしなかったわん」
「やっとお話が前に進みますね。ミーナさん。ご協力ありがとうございました」
「ネイルさん。こちらこそ、だわん。よかったよかった」
「というわけで」「ミアン、話をつづけてちょうだい」
「(ネイルにゃんとミーにゃんに笑顔が戻ったのにゃん。ほっとしたにゃあ)
判ったのにゃん。任せにゃさい!」
「ネイルにゃん。あれではだめじゃにゃいか!」
「ええと……、なにがだめなんで?」
「市場へ行ったのは夕方ぐらいなのにゃろう?」
「そう……ですね。それがなにか?」
「にゃったら、お昼を食べてから相当経つってことじゃにゃいか」
「それはそうですよ。お話の中でも、夕食どき、ってあったでしょ?」
「それなのににゃよ。お買物を始めるにゃんて何事にゃん?」
「というと?」
「ウチがいいたいのはにゃ。市場へ着いたらまずは、はらごしらえをすべきだった、ということにゃん」
「うぅん。それはそうかもしれませんが……。
お買物が全部すんでから、ゆっくりと、の方がいいと思いまして」
「それが間違いの元にゃん。すきっぱらを抱えての買物にゃんか、ろくな結果がでにゃい。最低でもある程度ぐらいはおなかに納めて、心身ともにゆったりとした状態で行にゃうのが買物に対する正しい態度なのにゃん。
現にお話の中でも、フローラにゃんはおなかが空いて困っていたみたいじゃにゃいか」
「確かに。ミアンさんのいうとおりですね。
それじゃあ最初に食べてぇ、買物が終わったらすぐに帰ると」
「ネイルにゃん。にゃからだめにゃんよ。買物をし終わったらにゃ。最後にまたにゃにか口に入れてから帰る。これが一番、まっとうな方法にゃん。
つまりにゃ。
1.まずは飲食店でしっかりと夕食をとって、そのあとで買物にゃん。買物が終わったら再び飲食店に入ってひと休み。夕食は終わっているから、お茶を飲むだけでもいいし、にゃにか軽いものを口にしてもいいのにゃよ。
2.まずは飲食店でひと休み。軽いものでいいからおなかに納めて、そのあとで買物にゃん。で、買物が終わったら再び飲食店にゃ。今度はしっかりと夕食をとるのにゃよ。
この1か2のいずれかをやることで、心身ともに正常にゃ状態で買物が行にゃえ、帰る時も心身がいやされた状態で帰ることができる。これこそが理想的な買物の姿というものにゃん。
どうにゃ? ネイルにゃん。判ったのにゃん?」
「なるほど。大変、参考になりました」
「でも、ミアン。食べてばっかりじゃない。なにもそこまでやらなくたっていいと思うんだけど」
「ミーにゃん。にゃに世迷い言をいっているのにゃん。ウチだったらそれだけではすまないのにゃよ」
「へぇぇ。じゃあ、ミアンだったらどうなるの?」
「ウチ? もちろん、ウチにゃったらこんな感じになると思うのにゃん。
1.自宅でちゃんと夕食をとるのにゃ。
2.市場へ行ったら、まずは飲食店で二回目の夕食をとるのにゃ
3.買物をするのにゃん。
4.買物が終わったら、再び飲食店で三回目の夕食をとるのにゃん。
5.帰宅したら、四回目の夕食をとるのにゃん。
それから、ええと……、そうにゃ!
6.夜中に、五回目の……」
「ねぇ、ミアン」
「なんにゃ? ミーにゃん。ねこが盛りあがっている時に、話しかけないでほしいのにゃけれども」
「いや。ただ、ね」
「ただ、なんなのにゃ?」
「ネイルさんがね」
「ネイルにゃん? そういえば、ミーにゃんのとなりにいたはずにゃのに……。
一体どうしたのにゃん?」
「逃げだしたわん。見習いの身分で毎回それをやられたらとても生活ができないって」
「にゃんと!」
「そんでもってね。アタシにミアンをあずけるから、あとはよろしくって」
「にゃ、にゃんと!」
「ほら、部屋のすみでで荷物をまとめている最中だわん」
「にゃ、にゃ、にゃんと!
ネイルにゃあん。ウチが悪かったにゃあ。どうか思いとどまってほしいのにゃあん!」
たったったったったっ。
「会うは別れの始めなり……か。まぁ、アタシとしてはミアンがうちに戻ってくるわけだから、ばんばんざいなんだけど……。
あれあれっ。ミアンがネイルさんにしがみついて、うわんにゃ、うわんにゃ、って泣いているわん。
……ふぅ。一体どうなることやら。全然先が読めないわん」