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天空の村2・水の妖精  作者: シード
33/33

おまけ話『ウチの水の妖精「にゃあまん対かえんりゅう」』

「ええと、ここはどこなんでしょうねぇ」

 とぼとぼとぼ。とぼとぼとぼ。

「近道をしようとしたのが、そもそものまちがいでしたね。とはいえ、私がいたのは住居区。どこをどう歩いたってイオラの森になんて入るはずがないのですけどねぇ。おまけに、こんなむらさき色っぽくて、ぬんめりとした空間がまわりに拡がっちゃうなんて」

 とぼとぼとぼ。とぼとぼとぼ。

「建物の中、みたいにも思えるんですけど……、出口は一体どこに……おやっ?」

 ひそひそひそ。ひそひそひそ。

「なにか話し声が聞こえますね。この通路を曲がった先から聞こえるようです。

 だれなのか判らないのでちょっとこわいですが……、ひょっとしたら、出口のことを教えてくれるかもしれません。

 よぉし。行って声をかけてみましょう」

 すたすたすたっ。すたすたすたっ。ぴたっ。

「どれどれ」

 ひょい。

「えっ。あれはミアンさんとミーナさんじゃないですか。どうしてこんな…………はっ!

 そうでした。ここはイオラの森。ミーナさんちの庭みたいなものでしたね。

 じゃあ、さっそく声を……。

 ああ、でもなにやら秘密めいたお話のご様子。じゃましちゃ悪いですかね。

 いや、でも、このままだとここから出られませんし……。

 とりあえず、お話が終わってから声をかけてみましょうか」

 ぴくぴくっ。

「これは決して立ち聞きなんかじゃありません。あくまでも話が終わったのを確認するための、やむをえなく、です。ええ、そうですとも。やむをえなく、です。

 それで……一体どんな話を……こんなだれもいないところで……」

 ごくっ。

 ぴくぴくっ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ねこはそれをがまんできにゃい!」

「早く行ってくれば? ここでおもらしされても困るわん」

「ミーにゃん。おしっこじゃにゃくて」

「じゃあ、大きいほう?」

「ちがうのにゃん! トイレじゃにゃくって!」

「だったらなんなの? ねこの心って複雑すぎてよく判らないわん」

「ミーにゃん……。あんた、ひょっとして、ねこは食べるのとと出すのしか、脳がないように思っているのじゃにゃいか? もし、そうにゃとしたら、あきらかに、ねこを『ぼうとく(冒涜)』していることになるのにゃけれども」

「そんなつもりなんてこれっぽっちもないわん。ただね、ミアン。食べるのと出すのって、生きものにとっては生活するうえで最低限、必要な行動だわん。これがちゃんとできて、じゃあ、お次は? ってことになるんだと思うわん。 ちがう?」

「なるほどにゃ。いわれてみれば、そのとおりかもしれにゃい。

 ミーにゃん。半分おこったようないい方をして、すまなかったのにゃ。これ、このとおり。あやまるのにゃん」

 ぺこり。ぺこり。

「んもう。アタシとミアンは親友同士。これぐらいのことであやまる必要なんてないわん。

 それよりさ。どうしたの? 本当に?」

「実は、ここだけの話なのにゃけれども」

「急に小声になったわん。一体なんなの?」

「ほら。前にウチが、『水の妖精の話をとちゅうで変える』企画を造って、実行手前までいったことがあったにゃろ?」

「ああ。確か、『黒竜対にゃあまん』にしようとしたのよね。結局、セレン先生のかんちがいで、あえなく『ぼつ』になっちゃったけど」

「そう。それにゃよ。ウチはにゃ。あれを実現させようと思うのにゃ」

「へぇ。今からお話をすりかえようってわけ?」

「いや、お話的にはちょっと悲しいものがあったのにゃけれども、あれはあれでいいと認めるのにゃん。ただ、にゃ。ウチは最近、とある霊体たちが妙な話をしているのを小耳にはさんだのにゃよ」

「というと?」

「にゃあ、ミーにゃん。この世って生きていく上で、選択をする機会がたくさんあるとは思わにゃいか?」

「なんか、ねことのおしゃべりにしては、いささか難しい話になってきたわん」

「いいじゃにゃいか。たまには」

「まぁね。ここで負けちゃあ、花の妖精としての面子めんつにかかわるから聞いてあげるわん。

 さぁ、話をつづけて。選択の機会があるからなんなの?」

「選択によってはにゃ。その生きものの生活が大きく変わることもある。ちがう生き方を歩み始めるきっかけにもなるってわけにゃん」

「かもね。否定はしないわん。でも、だからどうだっていうの?」

「ひとつの選択をにゃ。ひとつのぶんきてん(分岐点)と考えてみるのにゃん。そしたらどうにゃると思う? たとえ、自分だけにまとをしぼったとしても、にゃ。一生を終えるまでの間には、ものすごくたくさんの歩みかた、生きざまがあることににゃる」

「ふむふむ。それもうなずけるわん」

「さっき聞いた話というのは、まさにこのことにゃん。実はその生きざま全てが実際に存在するというのにゃん。そのひとつひとつを歩んでいる同じ自分がいるというのにゃよ」

「ええっ! 本当なの? ミアン」

「うそかまことか。それは判らないのにゃけれども」

「なぁんだ」

「しょうがないのにゃよ。今の自分が判るのは、自分が選択した生きざまのみにゃから。それ以外の選択をした場合の空間をのぞくにゃんて無理なのにゃん。

 でもにゃ。選択がひとつ増えるたびに、並列的に生きざまがひとつ増える。もし、これが本当にゃら……」

「本当なら?」

「『水の妖精』に、にゃ。全然、別な終わり方があってもおかしくはないことににゃる。

 そうにゃろ? ミーにゃん」

「その仮定が正しいなら、の話だけどね」

「ミーにゃん。ウチとミーにゃんの仲じゃにゃいか。ここはひとつ、正しいと思ってほしいのにゃけれども。そうしにゃいと話が進められないのにゃん」

「判ったわん。親友が困っているのに、ほおってはおけないわん」

「ぐすん。ミーにゃん、ありがとうにゃん。ぐすん」

「ほら、なみだぐんでいないで。正しいと思ってあげるから話をどんどん進めなさいな」

「うんにゃ。……ってなわけでにゃ。ウチが企画した『水の妖精』も実際にないとはいえにゃい。となれば、にゃ。『すりかえ』などではにゃく、まさに『もうひとつの水妖精の話』として残そうと思うのにゃよ」

「なるほどね」

「にゃら、ミーにゃん。そろそろお話に入りたいのにゃけれども。いいのにゃん?」

「全然かまわ……あっ、ちょっと待って。

 ねぇ、ミアン。これって最初からの話になるの?」

「いいや。正確にいうとにゃ。第十一話『かえんりゅう(火炎竜) その二』‐②からの話ににゃる。それより前は同じにゃ。判ったのにゃん?」

「うん。了解したわん」

「とはいってもにゃ。前の話が判らにゃいと、これからの話も判らにゃいかというと、そんなことはないのにゃん。このお話だけでも十分、楽しめると思うのにゃ」

「へぇ。ミアンにしては自信満々だわん」

「でも念のため、これだけは、というところは、あらかじめ説明しておくのにゃん」

「へぇ。ミアンにしては自信なさげだわん」

「にゃら、いくにゃよぉ。

 場所         :天空の村。

 ミアン(ウチ)    :化け猫。主人公。

 ミーナ(ミーにゃん) :イオラの木に咲く花の妖精。ミーにゃん。主人公。

 にゃあまん      :よもぎだんごの化身。実はウチが変化へんげした姿。

 かえんりゅう(火炎竜):霊火をまとったりゅう(竜)。

 ネイル        :人間(ウチのご主人さま)。観客。

 フローラ       :人間の姿をした水の妖精。 観客。主人公(元)。

 まぁ、これくらい判ればいいのにゃん。

 おっとと。これも一応、にゃ。

 えびふらい      :えびをこなでまぶして適度な温度であげたもの。

 よもぎだんご     :きざんだよもぎを混ぜたまんまるおもちをくしにさしたもの。

 よもぎだんごのまんまるは三個ぐらいに考えてほしいのにゃん。あと、あまりにも大ざっぱな書き方かもしれにゃいけど、ウチは化け猫にゃし、得意とするのは料理を食べることであって造ることじゃにゃい。にゃから、もっとくわしく知りたいのにゃら、自分で調べてほしいのにゃん」

「別に。えんりょしておくわん」

「そうにゃった。これもいわにゃいと」

「なになに?」

「忘れてはならにゃいのが、かえんりゅうにゃん。今回はセレンにゃんが声のふき替えをやってくれることとにゃった」

「へぇ。なんでまた?」

「ウチが前に造った企画をぶっつぶした『おわび』にゃと」

「セレンさんも大変だわん。

 あっ、そうそう。ねぇ、ミアン。さっきの説明でいうと、ミアンとアタシが主人公になっちゃうんだけど、ネイルさんとフローラは?」

「残念ながらにゃ。『にゃあまんのかつやくを観ているだけ』というあつかいにゃんよ。もっともフローラにゃんの目から見たお話という点は、元と変わらないのにゃけれども」

「なんか文句がきそうだわん」

「大丈夫にゃよ。今回の『水の妖精』はウチが造った話。いわば、ウチが創造主。なんとでもなるのにゃん。……それとも」

「なによ。こっちに冷やかな視線を浴びせて。なにがいいたいわん?」

「いや。ひさしぶりの主人公にゃんで、ひょっとして、ぶるっているのじゃにゃいかと」

「そ、そんなこと、ありえるはずがないわん。ア、アタシはいつでも主人公だわん」

 ぶるっ!

「にゃら、始めるにゃよぉ」

「い、いつでも来い、だわん!」

 ぶるぶるっ!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あれあれ。なにかお話が始まるみたいですねぇ……。

 ここで割りこむのもなんですし、耳をすませてわたしも聞くとしますか」

 そぉっ。


 おまけ話『ウチの水の妖精「にゃあまん対かえんりゅう」』


 ごおおおっ!

 湖『恵那えな』に向かおうとする直前、上空からなにかが飛来してきた。

「お兄ちゃん、ずいぶんと大きな鳥よ」

「いや、フローラ。あれは宇宙船でしょ」

「どんどん近づいて……、あ、あれは!」

「にゃ、にゃあまんさまです!」

「にゃあまんさまぁ!」


 とつじょ、わたしとお兄ちゃんの前に姿を現わした者。それはにゃあまん神社にまつられている『にゃあまんご神体』そのものだった。

 ごおおおっ!

 ぼっとん!

 ずんぐりむっくり。

 重々しい感じでわたしたちの前に着地するやいなや、これが目に入らんか、とばかりに右手の肉球を見せる。

「おとめにゃのに、にゃあまん」

「ははぁっ!」

 もちろん、わたしとお兄ちゃんはその場にひれふ(伏)した。

「そんなにかしこまることはないのにゃん。二人とも頭をあげにゃさい」

 さすがはご神体。言葉ひとつにもおおらかさを感じる。とても人間にはまねのできない芸当と舌をまく。

 すがた形を見れば、ねこが後ろ足だけで立っているといった感じ。身長はお兄ちゃんとほぼ同じくらい。ただその身体は、『よもぎだんごのまんまるがくっついた』といった造りになっている。

「そうよ。さぁ、立って。気楽にしてほしいわん」

 次にしゃべったのは、にゃあまんさまのかたで足をぶらつかせている小さき者。なんでも、最長老の木とされているイオラに咲く花の妖精で、ミーナとかいう名前らしい。人間の女の子を花の大きさにまでちっちゃくしたような姿。でも、せなかには二枚翅がついている。

(白くすきとおった身体と白いはね(翅)が清純な乙女を感じさせる……なんてね。

 ちょっと、おおげさかな)


 ――――ちょっと早いけど、ここでお話はひとやすみ。


「ほら、そこの一般人! おおげさじゃないわん!」

 わたしの目の前に飛んできた妖精は、立ち姿で、びしっ、と人さし指をつきつける。

「うっ!」

(一般人って……)

「あのぉ。勝手に心の中を読むのはやめてほしいなぁ、なんて思うんだけど」

「考えとくわん」

(考えとくって……、なんて上から目線な妖精……。

 あっ、そうかぁ。妖精なのよねぇ。じゃあ、しょうがないのかも)

 わたしはちがうけど、本来、妖精というものはわがままで身勝手なものらしい。自分は達観している、と思いこんでいるようで、いうことやること全てがごうまん(傲慢)。あたかも、自分以外は見くだしていい、といわんばかりの態度を示すという。

(それなら)

 ちょっとからかってみたくなった。

「あのぉ、ミーナ……っていうんでしょ? ……ちょっと聞きたいことが」

「なに? 民間人」

(今度は民間人か……。おおっと。気にしない気にしない)

「ええと……。あなたは、にゃあまんさまの『おまけ』さんですか?」

 わたしの言葉に、最初は、びくっ、としたみたい。でもすぐに、それをかくすかのごとく反発を始めた。

「ち、ちがうわん! 逆よ。ミアンがアタシの」

 言葉が終わらないうちに、にゃあまんさまから、たしなめるようなお言葉が。

「ミーにゃん。今のウチはにゃあまん。ミアンなどでは断じてないのにゃん」

『おまけ』さんの顔に、はっ! としたような表情がうかぶ。気が動転したのか、

「しまったぁ、わん。そこの二人ぃ。今のは頭の記録から、そく(即)、さくじょ(削除)だわん」と常識ではとても考えられないような無理を要求してくる。

(これも気にしないでおこう)

 ほったらかすつもりでいた。

(だれも相手にしなければ、自然とおとなしくなるのにちがいない)

 予想? あるいは、期待? どちらでもかまわない。わたしは思いどおりになると信じていた、のだけれど……、予想は予想でしかない、期待は期待でしかない、と知らされる。

「ふん。本当は判っているわん」

 そういうなり『おまけ』さんは両手をこしにあて、かなりいばった様子を見せる。

「そっちこそネイルさんの『おまけ』じゃない。えらそうにいわないでほしいわん」

(な、なななな……なんてことを!)

 ふだんは温厚なわたしでも、これはさすがに、かちん、ときた。

「なによ! そのいいかた。いくら自分が、『おまけ』さん、だからって」

「『おまけ』はそっちだわん! アタシはミーナ」

「えんりょしなくてもいいよ、『おまけ』さん。わたしはフローラ。水の妖精」

「なんだわん!」「なによ!」

 ばじばじっ! ばじばじっ!


「おっ。ネイルにゃん、見てみにゃ。新旧主人公が火花を散らしあっているのにゃ」

「本当ですね、ミアンさん。どっちが勝つと思いますか?」

「ネイルにゃん。ウチは今、『にゃあまん』なのにゃけれども」

「いいじゃないですか。ひとやすみの時ぐらい、もっとやわらかくいきましょう。よもぎだんごなのにあんまりかた(硬)いと、買い物客はみんな、そっぽを向いてしまいますよ。そうなったら大変です。人気はがたおち。売りあげにひびかないともかぎりません。

 ミアンさん。なにごともじゅうなん(柔軟)さが大切です。そうは思いませんか?」

「にゃあるほど。ネイルにゃんのいうとおりにゃ。ウチは、『にゃあまん』がよもぎだんごの化身だということを失念してしまっていたのにゃん。いやあ、めんぼくにゃい」

 ぺこり。

「いいんですいいんです。あやまらなくったって。だれしもひとつやふたつの……」

 ばじばじばじっ! ばじばじばじっ!

「あれっ? まだやっている……どころじゃありません!

 ミアンさん。火花がやたらと激しくなってきましたよ」

「ミーにゃんは負けずぎらいなのにゃん」

「フローラも、ですよ。仕方がないですね。ここはひとつ」

「なにかやるのにゃん?」

「ひさしぶりにやりましょう。それぇっ!」

 ぱぱんがぱん!


「僕がアホならミアンさんもアホです。同じアホならおどらにゃそんそん。

 ミーにゃん音頭でどどんがどん!」

『あっそぉれっ! そぉれっ!』

「ウチがアホにゃらミーにゃんもアホにゃん。同じアホにゃらおどらにゃそんそん。

 ミーにゃん音頭でどどんがどん!」

『あっそぉれっ! そぉれっ!』

「アタシがアホならフローラもアホだわん。同じアホならおどらにゃそんそん。

 ミーにゃん音頭でどどんがどん!」

『あっそぉれっ! そぉれっ!』

「わたしがアホならお兄ちゃんもアホねぇ。同じアホならおどらにゃそんそん。

 ミーにゃん音頭でどどんがどん!」

『あっそぉれっ! そぉれっ!』


 ぱちぱちぱち。ぱちぱちぱち。ぱちぱちぱち。ぱちぱちぱち。

「初めてで、しかもパクリまくりの歌詞なのに……。

 歌とあいの手。どちらもばっちしですね!」

「パクリまくりの歌詞なのに、ばっちしにゃん!」

「パクリまくりの歌詞なのに、ばっちしだわん!」

「パクリまくりの歌詞なのに、ばっちしみたいね!」


「息もぴったりとあったし、これ以上、けんかごしでいるのもつまらないわん。

『おまけ』、じゃなかった。フローラ、仲直りだわん」

 ミーナは小さな手を差しだした。

「こちらこそ。『おまけ』さん、じゃなくって、ミーナ」

 もちろん、わたしは彼女の求めに応じて、あくしゅ(握手)を交わした。とはいっても相手の手が小さいため、指でつまむ感じになったけど。

「じゃあ、友だちってことでいいわん?」

「了解」


「ネイルにゃん。どうやら、ミーにゃん音頭が効いたようにゃよ。

 めでたしめでたし、みたいな雲行きにゃん」

「そうですね。まだ言葉の中に『おまけ』が残っていますが、まぁ、なんとかなるかと」

「ぜひ、そうあってほしいものにゃん。『天空の村』の二大看板にゃもん」

「そういえばミアンさん。ちょっと話は変わるんですが」

「なんにゃ?」

「よもぎだんごって、上にこしあんかつぶあんがぬりたくられていますよね。でも、にゃあまんさまの姿は、よもぎだんごのまんまるだけ。どうしてですか?」

「ぬりたくりたいのはやまやまなのにゃけれども、実際にやったら、ちょっと動くだけでたれおちてしまうのにゃん。ずいぶんともったいない話じゃにゃいか」

「なるほど」

「そこでにゃ。このまんまるの中に『つぶあん』がしのばせてあるというわけにゃん。これにゃら動いても落ちにゃいですむ。まぁ、いうにゃれば逆転の発想というやつにゃよ」

「見えないところに工夫と努力があったわけですね。いやあ、感動しました」

「うんにゃ。判ってくれてにゃにより、にゃん。

 それじゃあ、ネイルにゃん」

「ええ。話をもどしましょう」


 ――――すっごく勝手だけど、これでひとやすみは終了。お話のつづきへ……。


「ところで、にゃあまんさま。今日はなんのご用で?」

「ネイルにゃん。君たちの話は全部聞かせてもらったのにゃ。命をかけてまで村を守ろうとする君たちの心根。ウチはうれしく思うのにゃん」

「それはそれは。感激、雨あられです」

「うんにゃ。ウチは『あられせんべい』も好きにゃよ」

(話がずれてきている……。なぜ、ここでおせんべい?)

「かたいほうですか? それともやわらかいほうで?」

(話が進展しないって判っているのに……。お兄ちゃんったら悪のりを始めちゃった)

「ううんにゃ。そこがすっごく微妙なのにゃよ」

「そうよね。しけっぽいのもなかなか味わいぶかくていいわん」

「といって立てつづけでもにゃあ……。

 にゃあるほど。こうやってあらためて考えてみると、おせんべいもにゃかにゃかおくが深い。研究に値する『食べもの』なのかもしれにゃい」

「研究ってなにをなさるんですか?」

「ご賞味にゃん。それ以外、にゃにがあるというのにゃん?」

「当然のこと、だわん」

「いえ、おっしゃるとおりです。こちらは無学なもので、つい余計なことをいいました。お忘れください」

「うんにゃ。判ればいいのにゃよ」

「そうそう。判ればいいわん」

(話がずれまくって、なかなか口が出せないや)


 ――――ずれた話はここまで。本当の本当に、お話のつづきへ……。


「ところで、にゃあまんさま。さっきも聞いたと思いますが、今日はなんのご用で?」

「おおっと。そうにゃったそうにゃった」

「すっかり忘れていたわん」

(ふぅ。本当。なにしに来たのかな?)

「君たちの心根にうたれたのにゃん。そこでウチが代わりに、あのかえんりゅうをたおすことにしたってわけなのにゃよ」

「そうでしたか。いやあ、助かりましたよ。それではどうかよろしくお願いします」

 お兄ちゃんはお礼をいうと、わたしをふり返る。

「それじゃあ、フローラ。にゃあまんさまも、ああいってくださいますし、僕たちはこのへんで帰りましょう」

「うん。帰ろう、お兄ちゃん」

 一時はどうなるかと思ったけど、『とんでも正義の味方』が現われてくれたおかげで、めでたし、めでたし、となりそう。ほっとした。

 わたしたちは『きびす』を返すと、足を一歩、前にふみだす。ところが。

 ぐい。ぐい。

「待つのにゃ」「待つのだわん」

 にゃあまんさまに首後ろのえりをつかまれてしまい、お兄ちゃんともども歩けなくなる。

「にゃあまんさまぁ。なにをなさるんですか」

「これじゃあ、前に進めないよぉ。にゃあまんさまぁ」

 ふり返ってみる。わたしの目に映ったのは、にゃあまんさまのさみしげな顔。

「あんたたちがいなくにゃったら、ウチのかつやくをしゃべってくれる者がいなくにゃってしまうのにゃん。それはいけないことなのにゃよ」

「そうだわん。しょくむほうき(職務放棄)だわん。いけないわん」

 ……ってなわけで、最後までつきあわされる羽目になる。

(やれやれ)


 お兄ちゃんは上空を指さす。

「じゃあ観ていてあげますから、早く上空にもどって……。

 あぁあ。ほおっておいたから大変です。見てください。先生、いや、かえんりゅうが、いらいらしながら霊火を放っています」

 ぶわあああっ! ぶわあああっ! ぶわあああっ! ぶわあああっ!

「ほら。『早く来い』って急かしていますよ」

「それもそうにゃん。

 ミーにゃんミーにゃん。そろそろ始めようにゃん」

「うん。判ったわん。それじゃあ、フローラ。またあとで」

「うん。楽しみにしているね」

 ごおおおっ!

 手をふるわたしたちを後ろに、にゃあまんさまは、かえんりゅうのところへと向かった。


「おまた、にゃん」

「さっきから待っているのに……。なにのんびりと世間話を」

 ぶわあああっ!

「ほら、見てのとおりだ。いらだっているから、はきだす霊火のほのおも大きくなってしまった」

「とはいってもにゃ。ウチらは初対面同士。まだあいさつひとつしにゃいのに、さも来るかのごとく待っていてもらっても困るのにゃけれども」

「それもそうだ。では、まずは我から。かえんりゅうだ」

 ぺこり。

「これはこれは。しゅしょう(殊勝)なごあいさつ。痛みいるのにゃん。

 ウチはミアン、じゃにゃくて、にゃあまん。正義と愛の戦神にゃ。

 そんでもって、かた(肩)に乗っているのはミーにゃん。

 二体ふたりともども、よろしくお願いしますのにゃん」

「うむ」

 二大戦士がともに、にらみあう。

 かたや、セレン先生のふき替えで活気づくかえんりゅう。かたや、親友のミーナを引きつれて、やる気満々気分のにゃあまんさま。

(どちらも、わたしが観たかぎりでは、の話、だけどね)

 戦いの火ぶたが、たった今、きっておとされた……のはずなのだけれど。


 ごおおん。ごおおん。ごおおん。ごおおん。ごおおん。…………。


「にゃあまん、とやら。君は一体、なにをやっているのか?」

 かえんりゅうが苦情ともとれる言葉を口にする。

「それがにゃ。にゃかにゃか安定しにゃくて。さてと。どうしたらいいのにゃろう?」

 見れば、にゃあまんさまは上にあがったかと思えば、下にさがったりと、不安定そのもの。さすがにこれではまずいと思ったらしく、うでを組んで考えこむ仕草をしている。

「そうにゃん!」

 なにか思いついたらしい。ぽん、と手をうつ。

「かえんりゅうにゃんめ!」

 びしっ、と人さし指をつきつける。

「よぉく聞くのにゃよ。ウチにはにゃ。合体技が使えるのにゃん」

「ほぉ。で? それがどうした?」

「いや。あらためて、『どうした?』とたずねられても困るのにゃけれども」

「だから、なにがいいたい?」

「にゃから、そんにゃにこわい顔でにらみつけられても困るのにゃけれども」

「だぁかぁらぁ!」

「つまりにゃ。……いくにゃおぉ、ミーにゃん!」

「ミアン、判ったわん!」

「にゃから、ミアンじゃにゃくて、にゃあまん!」

「もう、どっちでもいいわん」

「どっちでもよくにゃいけど、いくにゃよぉ! それぇっ!」


 にゃわんわんわんわんわん!


『合体! ミーにゃあまん!』


 ふわふわふわ。ふわふわふわ。


「にゃあまんさまが……」

「ミーにゃあまんさまに……」

 思いがけない出来事にわたしもお兄ちゃんも口をあんぐり。


「どうにゃ? この勇姿は。かえんりゅうにゃん。

 ほらほら、ずいぶんと安定したにゃろ?」

「なんと……。よもぎだんごにつばさが」

「こらぁっ! よもぎだんごの化身なのにゃけれども、よもぎだんごじゃにゃい!

 ミーにゃあまんにゃ!」

「どちらでもかまわない。ならば、ミーにゃあまん。我と戦うか?」

「まだまだ。実はにゃ。

 ウチにはこれから先、さらに九百九十九種類の変化へんげができるのにゃん」

「ほぉ。で? それがどうした?」

「いや。あらためて、『どうした?』とたずねられても困るのにゃけれども」

「だから、なにがいいたい?」

「にゃから、そんにゃにこわい顔でにらみつけられても困るのにゃけれども」

「だぁかぁらぁ!」

「つまりにゃ。……これにゃあ!」


 ぱにゃんにゃんにゃんにゃんにゃん!


「巨大ミーにゃあまん!」

「これは……またずいぶんと大きく……」

「にゃははは。アホみたいに大きく口を開けておどろいているのにゃ。

 にゃははは。これにゃら楽勝……」

「と見せかけて」

 ぶわあああっ!

 だまし討ちとも思える方法で、かえんりゅうの口から、ぐれん(紅蓮)のほのおが。

「うぅわあんにゃあ!」

「きゃあああ! 巨大ミーにゃあまんさまぁ!」

 わたしの口から思わず悲鳴が。

 正義と愛の戦神は霊火をまともに食らってしまった。

 しゅうしゅうしゅう!

「身体の表面が……焼けてしまったのにゃあ……」

 くらくらっ。くらくらっ。


「ああっ! 巨大ミーにゃあまんさまぁ!」

 正義の味方が絶対の危機をむかえている。さけび声をあげずにはいられなかった。むねがしめつけられる感覚におそわれる。まるで自分自身がやられたみたいに。

「本当に?」

 こちらに向けられたのは明らかに、ふしん(不審)気な目。なもんで、当然、人さし指を立ててふる。

「ちっちっちっ。お兄ちゃん。妹を疑っちゃいけないと思うの。

 ……っていうか、それ以前に、心を読んじゃだめだってばぁ」


 巨大ミーにゃあまんさまは、めまいでも起こしているかのように、ふらふら状態。

(大丈夫かなぁ)

 と心配したその時。意外なところから意外な者が。

「どうしたの! ミアン。 やられちゃったの!」

「にゃから、ウチは巨大ミーにゃあまんなのにゃけれども」

「どっちでもいいわん。それより大丈夫なの?」

「いやにゃに。表面が焼けて香ばしいにおいがただよってきたのにゃん。

 それで、つい、くらくら、っと……にゃん」

「自分のこ(焦)げたにおいに、よ(酔)いしれてどうする! っていいたいわん」


「信じられない……」

 そうつぶやくような光景をまのあたりにした。

 なんと! ミーにゃあまんさまのひたいに、ぱかっ、と丸い穴が開いて、中にミーナの姿がのぞける。

「お兄ちゃん。あんなところでなにをやっているのかなぁ? ミーナは」

「多分、巨大ミーにゃあまんさまのつばさは、彼女が担当しているんでしょう」

「なぁるほどね。だから、合体したのか」


 びしっ!

 巨大ミーにゃあまんさまは、いきおいよく人さし指をつきつける。

「かえんりゅうにゃんめ!

 ウチをこがすにゃんて。危うく自分で自分を食べるところににゃった……にゃんて、これっぽっちも思っていないのにゃん!」

「自分のいったことをあわてて否定する……。ということは本当に思っていたのだな」

「う、うるにゃい。思っていないっていったら、いないのにゃん」

「そうむきになるところが、ますますあやしい」

「うっ!

 ……い、いけにゃい! 危うく敵のじゅっちゅう(術中)にはまるところにゃった。

 やい、かえんりゅうにゃん。そんにゃことでウチが参ると思ったら、大まちがいなのにゃよぉ!」

「というか、現にくらくらしていたはずだが?」

「あ、あれはとつぜん、立ちくらみにおそわれただけにゃん」

(立ちくらみって……)

 けんめい(懸命)にいいわけをくり返す巨大ミーにゃあまんさま。なぜか、よもぎ色のほおが真っ赤になっている。

「まぁ、よい。もう一度、我の霊火を食らえば、それで君も終わりだ。

 では、いく……ううっ! な、なんだ! 急に身体に痛みがぁぁっ!」

 とつぜん、かえんりゅうが身もだえ始める。

「……ぶふふっ。ぶはははっ。ぶわっはははは!」

「な、なんだ! 急に大笑いを始めたようだが、気でも狂ったのか?」

「ぶふっ。……大変申しわけにゃいが、ひとつ、いい忘れていたことがあるのにゃよ」

「忘れていたこと? 一体なんだ? それは」

「にゃあまんにはにゃ。敵からけがや痛みをこうむった場合、無意識のうちにそれを与えた相手へ移す能力があるのにゃん。これは巨大ミーにゃあまんにもなっても、受けつがれる力なのにゃ」

「な、なにぃ! ということはつまり……」

「そうにゃ。今、あんたが感じた痛みは、ウチがこうむった痛みにゃん。

 ……そしてにゃ。移すと同時に、こちらのけがは消えてなくなるのにゃん。

 どうにゃ? 巨大ミーにゃあまんには勝てないにゃろう?」

 巨大ミーにゃあまんさまのいうとおりだった。どのおこげも、みるみる間に失せていく。

(すごい! さすがは巨大ミーにゃあまんさま)

「そ、そんなことが……。だが、我もかえんりゅう。この程度の痛みを与えられたぐらいで、たおれる、などということはありえない」

「にゃあ、かえんりゅうにゃん。やせがまんを張っても見苦しいだけにゃよ。もっと自分に正直になったらいいじゃにゃいか。負けを認める相手には、ウチもかんだい(寛大)なあつかいをするのにゃ」

「その言葉、そっくり返そう。大体、自分が焼けたにおいにうっとりして、くらくらっ、となったのにもかかわらず、それを『立ちくらみ』としょう(称)するなど、正直者のやることとはとても思えない」

「にゃ、にゃんってことを!」

 巨大ミーにゃあまんさまのほおが再び真っ赤に。

「ねこが『終わった話』と思ってほっとしているところへ、今さら蒸しかえすにゃんて言語道断にゃあ。

 もうおこ(怒)ったのにゃ。こんな話しあいをしていても、らちがあかないのにゃん。今度はウチの番にゃ。ミーにゃん、いくのにゃよぉ!」

「任せておくわん。それぇっ!

 超ど(弩)級型対応、『妖力爆風波ようりょくばくふうは』っ!」

 ばっふわああああっ!

「あぁぁれぇぇっ!」

 ひたいの穴から放たれた、ものすごい妖力の風。いや、あらし(嵐)といってもいい。その強力な力に、かえんりゅうがまるで紙のごとくふっ飛ばされる。でも、それだけにとどまらなかった。湖岸に集まっていた村人たちもまた同じようにふっ飛ばされた。

「びやあぁぁっ!」「うぎゃあああ!」「どぉうわぁぁっ!」

 本来であれば、わたしも、となるはず。ところが。

(あれっ?)

 風をまったく感じない自分に気がついた。

「大丈夫ですよ、フローラ」

「これは……」

 わたしは理由をまのあたりにする。

 とっさに張りめぐらしたのだと思う。お兄ちゃんの造った強力な霊波シールドにすっぽりと包まれている。おかげで、けがひとつなくその場にとどまることができた。

(よかったぁ。さすがはお兄ちゃん)


「巨大ミーにゃあまんさまぁ! かえんりゅうがどこかに行ってしまいましたよぉ!」

 お兄ちゃんが大声で話しかける。巨大ミーにゃあまんさまは、こちらをふり向くと、すぐさまおりてきた。

「さぁ。ネイルにゃんもフローラにゃんも、ウチらといっしょに行くのにゃよぉ」

「えっ。どこに?」

「決まっているじゃにゃいか。フローラにゃん」

 そういうと、よもぎだんごの顔が笑った。

「かえんりゅうが飛ばされたところ。つまり、……湖『恵那えな』にゃん」

「あっ、なるほどね」

 わたしは合点がいく。

(でもうまくいくのかなぁ?)

 期待と不安をいだきつつ、わたしはお兄ちゃんといっしょに、巨大ミーにゃあまんさまの手のひらに乗る。

(で、でかい!)

 ごごごごおおおっ! ごごごごおおおっ!

 ごう(轟)音をたてながら、一路、決戦の場となるであろう湖の上空へと飛んでいった。


 巨大ミーにゃあまんさまとかえんりゅう。両者ともに真正面から相手をにらんでいる。

「どうにゃ? ウチの力は。かえんりゅうにゃん」

 さも大いばりな感じの巨大ミーにゃあまんさま。こしに両手をあて、むねを張っている。

「ふふっ。さすが、といいたいが」

「なんにゃ?」

「ふっ飛ばされたものの、我の身体をおおっている霊火にはなんの支障もない。

 つまり君は、我になんの被害ももたらすことはできなかった、というわけだ」

「にゃははは」

 かえんりゅうの言葉に、巨大ミーにゃあまんさまは大笑い。

「あんたの目は……ふしあなにゃん!」

「な、なんと! それは一体どういうことか?」

「眼下を見てみにゃさい。そうすれば判ることにゃ」

「眼下を、だと?」

 かえんりゅうの視線が下を向く。と、そこには。

「こ、これは湖『恵那』! そうか。君の目的は我を墓場に連れてくることだったか」

「そういうことにゃ」

「だが、残念だったな。我はすぐにここから立ちさらせてもらう」

 びぃぃっ! びぃぃっ!

 かえんりゅうは両目から円状の霊波を放つ。

 びぃぃっ! びぃぃっ!

「うむ? おかしい。

 せいろう(精廊)への出入り口など、あけるのは造作もないはずだが?」


 ……『せいろう』とは精霊のかいろう(回廊)を意味する。通常空間とは別に存在する通路で、行きたいところに出入口が造られていれば、いっしゅんでたどりつくことができる。これらはふだん閉じて見えないものの、精霊や竜神などの高位とされる霊体が放つ霊波であれば、容易に開くことができる。


「ぶふふっ。かえんりゅうにゃん。これ、なぁんにゃ?」

 いつの間にか、巨大ミーにゃあまんさまの手には銀色に光るものがにぎられていた。

「そ、それはまさか!」

「どうやら判ったみたいなのにゃん。

 そう。これはにゃ。全てのせいろうを開け閉めできる『かぎ』なのにゃあ」

「ということはつまり」

「うんにゃ。今、せいろうの中にはだれも入れないのにゃん」

「こうぎ(抗議)する。めいわく(迷惑)ではないのか? ほかの竜神や精霊に対して。

 それに、だ。もしも、かぎを閉じる前にだれかが入りこんでいたとしたら」

「絶対にそれはにゃい」

「なぜ、そう断言できる?」

「せいろうの出入り口には、にゃ。前もって、『立ち入り禁止』のお札をは(貼)っておいたのにゃん」

「な、なんと!」

「その上で中に入って、くまなく探してみたのにゃ。だれも入ってはいにゃい」

「そこまで『よういしゅうとう(用意周到)』だとは……。

 こうなれば手段はひとつ。自力で飛んで、はなれざるをえまい」

 かえんりゅうは動きだすそぶりを見せている。

「ここまで追いこんだのにゃ。にがさないにゃよぉ」

 巨大ミーにゃあまんさまは、ひじを曲げた両うでを高くかかげる。

「今は亡き、ジュリアンが命名した」

「死んだのか? そいつは」

「いや、それは判らないのにゃけれども」

「じゃあ、なぜ?」

「ただの『のり』にゃん。それより、にゃ。必殺技をくり出す前に、ちゃちゃ、を入れるのは、やめてほしいのにゃけれども。れいぎ(礼儀)に反しているのにゃよ」

「ふぅむ。して、れいぎとは?」

「ほら。主人公がとどめをさす時って、なぜか相手はよけないじゃにゃいか」

「確かに」

「あれはにゃ。よけられないのじゃにゃい! よけられるけど、よけないのにゃん!」

「なんと……。それはまたどうして?」

「それが主人公に対するれいぎだからにゃ」

「そうだったのか……。判った。ならば仕方がない。おとなしくしてやろう」

「そこがちがうのにゃよ。仕方がない、とか、してやろう、じゃにゃくて。

 ぜひ、お願いします、と、こうこなくちゃいけないのにゃん」

「そ、そこまで低姿勢でなければ」

「ならないのにゃん!」

「きびしい世界と見える。まぁ、それがれいぎというなら、そうせざるをえまい。

 ええと……、ごほん。どうかよろしくお願いします」

「うんにゃ。にゃかにゃかすなおでよろしいのにゃ。

 にゃら、いくにゃよぉ! 

 今は亡きジュリアンが命名した『気の重くなる光線』。はっしゃ(発射)あ!」

 巨大ミーにゃあまんさまのおなかが目いっぱい輝く。……そして。

 びぃびぃびぃびぃびぃびぃ……。

「九千九百九十九万とんで一色の光が来るぅ! ……と、おどろいている場合ではない」

 ささっ!

 かえんりゅうは、よゆう(余裕)でかわした。

「ああっ! 

 かえんりゅうにゃん。今、話したじゃにゃいか。よけてはいけないのにゃよぉ!」

「とはいってもな。おそすぎる。これでよけなければ、アホといわれる。れいぎは失するかもしれないが、アホにはなりたくない」

「そうよ、ミアン。アホはいやだわん」

「にゃんと! 味方なはずのミーにゃんまでが!」

「それともミアン。ミアンはいいの? アホ呼ばわりされて一生を終えても」

「いやにゃんいやにゃんいやにゃんいやにゃんいやにゃん」

 ぶんぶんぶん、と激しく首を横にふって、いやがる巨大ミーにゃあまんさま。

(巨大ミーにゃあまんさまったら……。あまりの問いかけに、『自分は巨大ミーにゃあまん』って訂正するのを忘れているみたい)

 巨大ミーにゃあまんさまの返事を、『当然よ』といわんばかりに、うなずくミーナ。

「でしょ? このままじゃだめだわん。なんとか対策を講じなさい」

「とはいってもにゃあ。どうすれば……。そうにゃ! あれを使うのにゃん!」

「なにか思いついたの?」

「ミーにゃん。ミーにゃんの色気をかえんりゅうにみ(魅)せつけるのにゃん!」

「そんな急に。大体どうやって?」

「ほら。この前、ひろう(披露)してくれたじゃにゃいか。あれをやればいいのにゃよ」

「この前って……。あぁあ、『あれ』のこと?

 でも確か、ミアンには不評だったような……」

「いや。この場はあれで十分なのにゃ。さぁ、早くやってほしいのにゃん」

「本当に『あれ』をやるの? ミアン以外に見せるのってなんだかはずかしいわん」

「大丈夫にゃよ。ウチがたいこばん(太鼓判)をおすのにゃん」

「まぁ、ミアンがそこまでいうなら……やるわん」

「うんにゃ。たのむにゃよ、ミーにゃん」

「それじゃあ」

 ぴかあぁぁん!

 巨大ミーにゃあまんさまのひたいの穴から光が放たれた。と思ったら、光の先、空の一角に、ミーナの立体えいぞう(映像)が映しだされる。

「じゃあ、いくわん。せぇのぉっ!」

 ミーナは次の瞬間、異様なポーズをとった。

「うっふぅぅん!」


(…………なぁにやってんのかなぁ? あの妖精)

 左手は頭の後ろに、右手はこしにあてている。ひざを曲げてこしをくねらせたと思ったら、右目でウインク、右手で投げキッス。頭がどうかしたとしか思えない。

「ねぇ。お兄ちゃんは、あれってどう」

 ばたん!

「お、お兄ちゃん!」

 お兄ちゃんがぶったおれた。こおりついたような感じになっていて、『さ、寒い!』をうわごとみたいに連発している。

「どうしてこんなことに」

 空を見あげると、ぎせいしゃ(犠牲者)がもう一体ひとりいた。

「かえんりゅうまでこおりついている……」


「あれっ? なんだか知らないけど、かえんりゅうが動かなくなったわん」

 ミーナは親友をふり返る。

「ねぇ、ミアン。あれを……って、なにやってんの?」

 ミーナが首をかしげるのも無理はない。巨大ミーにゃあまんさまが目をぎゅぅっとつむって、身体をわなわなさせている。

「ミーにゃん。あれは終わったのにゃん?」

「あれって……、ああ、あたしの『のうさつ(悩殺)』ポーズね。うん。終わったわん」

(あれって『のうさつ』ポーズだったんだ)

「ほっ。よかったのにゃん。どれ」

 ぱっちり。

 巨大ミーにゃあまんさまは両目を開いて用心深そうにあたりを見まわす。ミーナに視線をあわせたとたん、ぎょ、っとびくついたものの、すぐにその表情は和らいだ。

「ふぅ。助かったのにゃん。『今度見たら命がなくにゃる』と、それだけが心配で心配で。『のうさつ(悩殺)』が『のうさつ(脳殺)』になるんじゃにゃいかって。でも、無事でよかったのにゃん」

 巨大ミーにゃあまんさまの言葉にミーナがかみつく。

「ミアン。それ、どういう意味よ。納得がいくよう、しっかりと説明してほしいわん」

「まぁ、いいじゃにゃいか。おたがい、すこ(健)やかに生きるのが一番にゃよ」

「大体、アタシの色気を『見たい』っていったのはミアンじゃないよ。ぷんぷん!」

「ウチは今、巨大ミーにゃあまんにゃ」

「もうどうでもいいわん」

「どうでもよくないのにゃよ。それに、にゃ。まちがっても、『見たい』とはいっていにゃい。『み(魅)せつけるのにゃん!』といっただけにゃん」

「ふん。きべん(詭弁)だわん。

 もうおこ(怒)ったわん。こうなったら色気三連発でいくわん!

 今度こそ、ミアンをきりきりまいにぃ」

「ふにゃああん! ごめんにゃあ、ミーにゃん」

 ぶるぶるぶる。ぶるぶるぶる。

「それだけはかんにんにゃあ」

 ふるえながら両手をあわせておがむ仕草をする巨大ミーにゃあまんさま。

「手おくれだわん! アタシの心についた火は、もうだれにもとめられないわん!」

「ごめんにゃごめんにゃごめんにゃごめんにゃごめんにゃあ」

「ふん。いくらあやまったって、もうあとの祭りだわん。それっ、いく」

 ぴたっ。

「ふにゃああああん!

 ……うん? どうしたのにゃ? ミーにゃん。急に動かなくなったのにゃけれども」

「いやあ……。かえんりゅうがね。こおりついていたような感じだったのに、ぼてぼてと動きだしてきたみたいだわん」

「にゃ、にゃんと! すっかり、かえんりゅうのことを忘れていたのにゃ」

「あのね……。戦っている相手を忘れてどうするの? っていいたいわん」

「こうしてはいられにゃい。ミーにゃんがはじ(恥)をしのんで見せてくれた、みっともにゃいまねの努力をむだ(無駄)にしてはならにゃい」

「みっともないまね、って……。

 ミアン。この件がかたづいたら、あとでゆっくりと話しあ」

「にゃら、いくにゃよぉ! 

 今は亡きジュリアンが命名した『気の重くなる光線』。はっしゃ(発射)あ!」

「んもう! アタシがしゃべり終わるまで待ってから、にしてほしかったわん!」

 びびびびび! びびびびび! びびびびび!

 せまりくる色あざやかなのんびり光線。でも、かえんりゅうはもがくのが精いっぱいらしい。

「ま、まずい。身体が動かない。ということは……よけられない! ぐわあっ!」

(や、やったぁ!)

『気の重くなる光線』が見事、命中した。

 ががががが! ががががが! ががががが! ががががが!

「ぐぐぐっ! か、かえんりゅうがこのくらいのことで、ぐぐぐっ!

 ……か、身体が重い。重くなっていく……ぐぐぐっ!」

「にゃははは。これで終わりにゃ。

 霊体とはすなわち、霊気のかたまりのようにゃもの。ウチの『気の重くなる光線』を食らったが最後、身体は重くなる一方なのにゃよ」

「お、おのれぇ。こうなれば」

「ぶふふっ。にゃあ、かえんりゅうにゃん。あんたが得意としている、身体を火の玉に分散させてにげる手段。あれをやろうとしてもむだにゃんよ」

「な、なにぃ!」

「ばらばらになった火の玉自身が重くて、結局、落ちるしかないのにゃん。

 そして落ちる先は……あそこにゃあ!」

 巨大ミーにゃあまんさまが指さしたのは、いわずとしれた、湖『恵那』。

「勝負あった、にゃ。さよにゃら、かえんりゅうにゃん」

「お、おのれ……ぐぐぐっ……こんなことで……ぐぐぐっ!」

 かえんりゅうは必死になって、落ちるまい、としているようだ。でも……。

「ぐぐっ……こんな……こんな…………ぐわああっ!」

(やっぱり。重すぎたみたい)


 ひゅうううっ。

 ざぶうぅぅん!


(かえんりゅうの最後……か。終わってみれば、あっけなかったな)

 あわれ、かえんりゅうは自らの重さで、湖へと勢いよくしず(沈)んでいった。


「お兄ちゃん! 巨大ミーにゃあまんさまが!」

「ええ。巨大ミーにゃあまんさまが勝ちましたね」

 お兄ちゃんはすでにミーナの『のうさつ』ポーズから復活していた。


『ばんざぁい!』


 わたしとお兄ちゃんはだきあって、勝利の喜びをかみしめた。

(なぁんにもやっていないけどね)


「終わったにゃよ」

 にゃあまんさまが再びわたしたちのところへとやってきた。巨大ミーにゃあまんさまではなく、にゃあまんさまとミーナ、お二体ふたりの姿にもどっている。

「にゃあまんさま。ありがとう」

「にゃあまんさま。僕からもお礼をいわせてください。本当にありがとうございました」

 わたしたちの言葉に、ちょっと照れたような顔つきのにゃあまんさまとミーナ。

「いやあ、ウチらは」「当然のことをしたまでだわん」

「そんなごけんそん(謙遜)を」

「いやいや。全ては危険をかえりみず、困難に立ちむかおうとしたあんたたちの……。

 おや?」

 ざざざざぁん!

 話のこしを折らんとばかりに、大きな水音が聞こえてきた。

「にゃあまんさま! あれは一体!」

 お兄ちゃんが指さすほうを見れば、なんと、金銀財宝の山。

「ネイルにゃん。あれはにゃ。かえんりゅうのなれの果てにゃん」

「あ、あれが」

「すごいね。きらきらよ。お兄ちゃん」

 目もくらやむばかりの光に、わたしとお兄ちゃんは、あっとう(圧倒)された。

「ネイルにゃん。あれを君たちに、たく(託)そうと思うのにゃ」

「えっ! あれを、ですか?」

「村の復興のために使ってもらいたいのにゃ。そして、もし余ったら」

「余ったら?」

「君たちの結婚式と幸せな未来のために使ってほしいのにゃ」

「えっ、わたしとお兄ちゃんの? でも、わたしは」

「そうにゃ。忘れるところにやった」

 びびびびび!

「ぎゃあああ!」

 わたしは、にゃあまんさまの指から放たれた黄色い光線を身体全身に浴びてしまう。

「フローラ!」

 お兄ちゃんは、たお(倒)れそうになったわたしを両うでで支えた。

「にゃあまんさま。なんてことを」

 こうぎ(抗議)の声をあげるお兄ちゃん。それに対し、にゃあまんさまは意外な言葉を。

「ネイルにゃん。今のはフローラにゃんを人間にするための光にゃよ」

「えっ、人間に。じゃあ、フローラはもう」

「うんにゃ。もう水の妖精なんかじゃにゃい。ほかの村人と同じふつうの人間にゃ」

「本当なの? にゃあまんさま」

 わたしは、むねの前に両手をからませた。

「フローラにゃん。あんたは村のために、自分の身体を捨ててまでつくそうとした。その心意気にウチらはうたれたのにゃ」

「にゃあまんさまぁ」

 にゃあまんさまの温かな計らいが、わたしのむねをうつ。

「これはウチらからの心ばかりのプレゼントにゃん。金銀財宝とともに受けとるがいいのにゃ」

「そうだわん。えんりょする必要なんて、これっぽっちもないわん」

「にゃあまんさま、ミーナ。ありがとう」

「あっ、でもにゃ」

 にゃあまんさまは、念のため、みたいな感じで言葉をつづける。

「フローラにゃん。もし、余計なことをしたのであれば元にもどすこともできるのにゃけれども。どうするのにゃん?」

 もちろん、わたしの返事はひとつしかない。かたわ(傍)らにいるお兄ちゃんを両うででだきしめながら、

「このまま人間でいたいです。いえ、いさせてください」と言葉を返した。

 わたしの言葉に満足したのだと思う。にゃあまんさまもミーナもにっこりとほほ笑む。

「にゃら、よかった」「本当。喜んでもらえてうれしいわん」

 わたしは感動で言葉も出ない。お兄ちゃんも同じみたい。二人そろって頭をさげることぐらいしかお礼の気持ちを表わすことができなかった。


 やがて、お別れの時が来た。

「じゃあにゃ。ウチはこれで神社に帰るのにゃよ」

「アタシも神社まではお伴するわん。

 それじゃあ、お二人さん。さよならぁ、だわん」

(もう帰っちゃうのかぁ)

 さみしい思いが心につのる。

「にゃあまんさまぁ。ミーナぁ」

「もうお帰りで……ああっ!」


 ごごごごぉっ!


 にゃあまんさまはミーナをかたに乗せて、にゃあまん神社の方へと飛んでいく。

「にゃあまんさまぁ。また会おうねぇ!」

「にゃあまんさまぁ。ありがとうございました」


「フローラ!」

「お兄ちゃん!」

 わたしとお兄ちゃんは喜びに包まれ、どちらからともなく手を取りあう。でも、たがいいを見つめる視線の先は、すぐに空へと向けられた。

(本当に、本当にまた会えるよね)

 別れがたいこの気持ち。多分、お兄ちゃんも同じはず。

 肩をよせあいながら、にゃあまんさまたちが飛びさる姿をじっと見送っていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 エピローグ『大団円』


 あれから数年の月日が流れた。


「あなたぁ。ミーナちゃん、ミアンちゃん。ごはんですよぉ」

「もうそんな時間ですか」

「ネイルにゃん。早くテーブルへ行こうにゃん」

「ほら。フローラさんが待っているわん」

(ミーナちゃんにフローラさん、かぁ。……ふふっ)


 結婚前、ミーナはわたしを『フローラ』と呼んでいた。ところが結婚後は、『フローラさん』と、『さん』づけで呼ぶようになる。ほかにもミーナとミアンさんから、『自分たちのことは、「ちゃん」づけにして』とたのまれた。このほうが自然に感じるらしい。だから今では、『ミーナちゃん、ミアンちゃん』と声をかけるのが、あたりまえの日常となっている。

(わたしが『我が君』さまの妻になったことを認めてくれたあかしなのかも)

 そんな風に思ったら、なんだか無性にうれしかった。


 今日はいす(椅子)を造っているみたい。ネイルさん、いや、我が君さまは道具を置くと、こちらへ向かって歩き始めた。

 すたっすたっすたっ。たったったっ。ぱたぱたぱた。

(ふふふっ。やってきたやってきた)


 ここはイオラの森。わたしたちは結婚後、この場所に新居を建てた。本来であれば『自由の森』以外の森に立ちいることは、なんびとたりとも許されてはいない。だけど、ミーナちゃんが精霊イオラの許可をもらってくれたことから村役場も了承、なんとかこぎつけられた、といった次第。

 新居となった家のそばには、ミーナちゃんの家、すなわち精霊イオラの宿るイオラの木がある。この広場には湖があるため、近くの大きな岩の上に座れば、せせらぎの音を聞きながら花を愛でて楽しむ、といった心安らぐひとときを過ごすことができる。自然をまんきつ(満喫)するには格好の場所といえよう。

 この森には、おいしく食べられる木の実や果物、のなる樹木が生えている。ただ数が多すぎるため、いくら食べてもほとんどが地面に落ちて土の『こやし』になるばかり。そこで始めたのが、地中深くほ(掘)った穴への保存。多めに(収穫)したあと、食べる分をのぞいたものが埋められている。天然の冷凍庫となってくれるため、『こうしておけば万が一、なにか非常事態が起きたとしても食事にはこと欠かないはず』と考えてのことなのだけれど……。

『食事に困る』といった事態には当分、おちいりそうもない。


「はぁい。今日はえびふらいですよぉ」

「やったにゃあ!」「やったわん!」

 霊体二体ふたりが喜ぶ中、つかれたように、がっくりと、いす(椅子)にこしをおろす我が君さま。

「どうしたの? あなた」

「あのぉ。フローラ。えびふらいって、あのえびふらいのことですか?」

 当然のことを聞いている。

「そうよ。えびふらい、っていったらあれしかないじゃない」

「はぁう」

 我が君さまは深いため息をつく。

「かえんりゅう事件が終わってから今日までどれだけ、えびふらいを食べたことか。

 しかも、ひどい時には、朝、昼、夜、と、一日だけで二十匹も。……はぁう」

 またまた深いため息をつく。

「あら。わたしたちは多くても二十匹ですむんだから幸運と思わなきゃ。ミアンちゃんとミーナちゃんなんて一番多い時は、たった一日で、それぞれが二百匹も食べているのよ」

「それもこれも、かえんりゅうが残した金銀財宝のせいかと思うと。……ふぅ」

「にゃあまんさまのいうとおり、『村の復興に使ってください』って、いったんは村役場へ差しだしたのよね。ところが」

「まさか、あれほどたくさんもどってくることになろうとは」

「それだけ値打ちものだったってことなんでしょうけど……、

 あっという間に村一番の大金持ちになっちゃったのよね」

「となると当然、ミアンさんやミーナさんにも、それなりのお礼はしなくちゃいけません」

「それはそうよ。ミアンちゃんは自分ではいわないけど、『にゃあまん』さま、だもの」

「ええ。そこで、『なにがいいですか?』とたずねたら」

「『えびふらい』に『よもぎだんご』。この二つがいいって言葉が返ってきたのよね」

「どちらも高級食材を使っているし、ほかの料理もいっしょに出していますから、毎日でも食べられることは食べられるんですが……」

「別なものが食べたいと?」

「まぁ。でも当分は無理でしょうね。ミアンさんもミーナさんも今の状況にすごく満足しておられるようですから」

「とはいっても、いくら自分が好きなものだって、一日平均百匹よ。よくつづくものね。本当、あきれちゃうくらい」


「にゃあ」

 我が君との会話にミアンちゃんが割りこんできた。

 ミアンちゃんはわたしたち家族の一員。ミーナちゃんとも何百年以来の親友という。実は化け猫さんで、一度はお亡くなりになったねこだ。身体の毛は茶色地に黒のしま模様。だけど、顔や腹、それに足などは、下の部分が白毛でおおわれている。尻尾の短い女の子で身体つきは……ミーナちゃんにいわせると、だけど……もわんもわんとしている。

「いや、フローラにゃん。ウチはまだまだいけるのにゃよ」

「へぇ。どれくらい?」

「差しあたっての目標は、さしずめ千匹にゃ。最終目標としては一万匹までいきたいと考えているのにゃん」

 いど(挑)むような口調でうったえるミアンちゃん。

「すごいわね。それでミーナちゃんも?」

「ううぅぅん。アタシは……そこまではいかないな」

「じゃあ、どれくらい?」

「最終目標が千匹、といったところだわん」

「うふっ。それでも、すごいわぁ」


(ミーナちゃんかぁ……)

 最初に会った時は、つん、とおすましさんで上から目線で。

(どうにもつきあいにくいなぁ)

 そんな印象を受けたんだけど、こうやっていざ、うちとけてみると、なかなかどうして。心やさしいし、話をしていても結構楽しい。

(やっぱり、ちょっと見、だけで相手の本当の姿を知るってのは、なかなかできないものなのねぇ)

 彼女を見るたびにつくづく思う今日このごろ。


「どうしたの? フローラさん。だまったままアタシの顔を見つめているけど」

 きょとん、とした顔のミーナちゃん。『えっ』と、わたしはあわてて右手を横にふる。

「ううん。なんでもないなんでもない」

(面と向かって、心やさしい、なんていったら、顔を真っ赤にするにちがいないもの。

 ミーナちゃんて案外、照れ屋さんだから)

 話題を変えるには、食事をすすめるのが一番。

「さぁ。おしゃべりしている間にも、おいしく造ったお料理がさめてしまうわ。早くいただきましょう」

「フローラにゃん。ウチらは『猫舌ねこじた』にゃから、さめてもかまわないのにゃけれども」

 ミアンちゃんが話に乗ってきた。これでもう大丈夫。

「でも、『ほんのり』、ぐらいならいいんでしょ?

 えびふらいなんて、そういつまでも熱いものじゃないわ。ミアンちゃんたちにとっても今が食べごろよ」

「にゃんと! 食べごろ、と聞いてはだまっていられないのにゃん」

 くるっ。

 ミアンちゃんは大の親友をふり返る。

「ミーにゃん、それじゃあ」

「うん。食べよう」

 ミーナちゃんとミアンちゃんはテーブルの上に乗って、それぞれのお皿のそばで待機している。

「どれ。僕も食べますか」

 少しおくれて我が君さまも席につく。自分のお皿に自分が造ったソースをかけている。何種類か用意してあるため、わたしも時に応じて好きな味が楽しめる。料理ができる夫がいてくれて本当に助かっている。

(感謝しているわ。あ・な・た)

 わたしも席についた。

「それじゃあ、みんなぁ」

 わたしのかけ声で全員が声をそろえる。


『いっただきまぁす!』

 もぐもぐもぐ。むしゃむしゃむしゃ。がつがつがつ。


 ミアンちゃんの食いっぷりもさることながら、ミーナちゃんの食べ方もなかなかなもの。がつがつがつっと、かなりの速さでかじっていく。たまぁに、だけど、わたしたちと同じ食べ方をすることもある。ナイフとフォークできれいに切り分け、さした具材を口へと運ぶ。身体を大きくすることで容易にしている。あざやかな手つきで、『わたしも見習わなくっちゃ』って思うぐらい。ただ、どちらの食べ方であっても、ミアンちゃんに負けない勢いでたいらげてしまう。はた目からすれば、競いあっているんじゃないかとさえ思えるほどに。

 一方、うるわしの我が君さまはといえば、相も変わらず、ぐち(愚痴)をこぼしておいでになる。だけど、それもほんの最初だけ。いっしょになって食べてくれる。『おいしいよ』と笑顔で声をかけてくれる。それがとってもうれしくて、思わず顔がほころんでしまう。わたしの食欲だってはねあがる。

 そんなこんなで、造ったえびふらいがあっという間に減っていく。ミアンちゃんやミーナちゃんが、ほとんどなのはもちろんだけど、わたしや我が君さまもそれなりに。

(いずれはあきて、別なものをねだってくるのにちがいない。えびふらいを夢中で食べてくれる間に、別なお料理も造れるようにしておかなくっちゃ)

 向かいあって食べる中、ふと思う、そんな午後の昼さがり。


(あっ、そうだ。これもいわなきゃ)

「ねぇ、みんな。これが終わったら、デザートのよもぎだんごよぉ」


「やったにゃあ!」「やったわん!」「やれやれ……」

(ふふっ。『やれやれ』、かぁ)

 でも大丈夫。我が君さまのことだもの。出せば必ず食べてもらえる。

 食べれば彼も………………………………笑顔になるのにちがいない。

 彼が笑顔を見せれば、わたしだって……笑顔になるのにちがいない。

 みんなが……………………………………笑顔になるのにちがいない。


 毎日を楽しく過ごすのにかかせないもの。それはやっぱり、みんなの笑顔。


 わたしは今、人間として生きている。ともすれば、『あるいは許されない選択だったのかも』との思いが頭をよぎることだってある。でも、みんなの笑顔が、『それはちがうよ。フローラの居場所はここだよ』ってわたしに教えてくれる。だから、わたしはみんなのそばにいられる。みんなと楽しく暮らしていける。

 わたしは願う。この笑顔が絶えないように、と。

 わたしは思う。この笑顔を絶やしてはならない、と。

 そして悟った。この笑顔を絶やさないようにするのが……わたしの務め、と。

 わたしが生きる意味もそこにある……と。




 それだけ判れば、それでいい!






                          お・し・ま・い。……よ!

 ぱちぱちぱち。

「ふぅ。やっと終わって、ほっとしたのにゃん。

 どうにゃった? ミーにゃん。ウチのお話は?」

 ぱちぱちぱち。

「うん。ミアンの欲望まるだしで、なかなかよかったと思うわん」

「そういってくれると、ウチとしても話を造ったかいがあったというものにゃん。

 ……にしても、これが本当にゃったら」

「そうねぇ。本当だったら」

「よかったのににゃあ」「よかったと思うわん」

「まぁ、最初にも話したと思うのにゃけれども、実際にこれがどこかの世界で起きていにゃいともかぎらないのにゃん。

 にゃあ、ミーにゃん。そう期待しようにゃん」

「そうねぇ。

 ネイルさんとフローラさんの家がイオラの森にあって、アタシやイオラ、それにミアンもいっしょになってしあわせに暮らしている……。

 うん。そんな世界があってもいいわん。というか、あってほしいわん。

 ミアン。アタシも期待するわん」

「いい話にゃったにゃあ」「いい話だったわぁん」


 ごとっ。


「だ、だれにゃん!」

「ここにはだれも入れるはずがないわん。それなのに……。

 一体だれなのぉっ!」

 びくびくっ。びくびくっ。


「……ひどいです。ミアンさんもミーナさんも」

 すたっ。

「あ、あんたは!」

「マ、マリアさん! どうやってここに!」

「ぐすん。……どうしてフローラさんなんですか? どうして……、

 私じゃだめなんですかぁ! う、う、うわぁぁん!」

「し、しまったぁ。聞かれてしまったのにゃあ!」

「し、しかも、よりによって大変な人にぃ、だわん!」

 くるっ。

「ミーにゃん。どうしようにゃん?」

 くるっ。

「ミアン。どうしたらいいわん?」

 じたばたじたばた。じたばたじたばた。

「あ、あのにゃ、マリアにゃん。これはただのお話でにゃ」

「そ、そうだわん。気にする必要なんてこれっぽっちも」

「……お二体ふたりには私なりに精いっぱい、お世話したつもりでした。

 おじいさんの反対をおしきって、村役場にかようことを許してあげましたよね。

 毎日、とまではいいませんが……、

、いっしょに遊んでもあげてますし、ネイルさんにはないしょで、『えびふらい』や『よもぎだんご』をごちそうすることだって……ありますよね」

「うんにゃ。ありがたいことにゃと思っているのにゃん」

「本当。感謝しているわん」

「……それなのに。ぐすん。ああ、それなのにぃ。ぐすん。

 ミアンさんもミーナさんも……私の気持ちなんてこれっぽっちも。

 ……う、うらぎりものぉ! うわぁぁん! うわぁぁん!」

 たったったったったっ!

「ああっ! マリアにゃあん。これは誤解にゃ。待つのにゃああん!」

「マリアさん。待つのだわああん!」

 ぼむぼむぼむぼむぼむ。

 ぱたぱたぱたぱたぱた。

「うわぁぁん! うわぁぁん!

 ぐずっ。もうなみだで……なにも見えませぇん! うわぁぁん! うわぁぁん!」

「待て、待つのにゃん! その先はぁ!」

「行きどまりだわぁん! お待ちなさいってばぁ!」

「うわぁぁん! うわぁぁん! ぐずっ。もう声すら聞こえ……」

 がん!

「はぁうっ!」

 ばたっ。

「ああっ! ぶつかってしまったのにゃん!」

「あおむけにぶったおれて、目をまわしているわん!」

 ぼむぼむぼむ。

 ぱたぱたぱた。

「……ううっ…………ミアンさん。ミーナさん」

 がしっ。がしっ。

「おっ、生きているのにゃん。それに、ウチは足をつかまれてしまったのにゃん」

「あっ、生きているわん。  それに、アタシは身体をつかまれてしまったわん」

 ぐわっ。

「あっ。身体はうつぶせでも、首から上はあげたわん」

「ど、どうでした? 今の私は……」

「立派だったのにゃよぉ。まさに体あたりの演技にゃった。まぁ、本当にぶつかったのにゃから、演技とはいえないのにゃけれども。でも、よくやったのにゃん」

「本当本当。よくあんなに勢いよくぶつかったわん。勇気あるわん」

 ぱちぱちぱち。ぱちぱちぱち。

「そ、そうですか。なら、もう『ヒロイン』として思い残すことはなにも……」

 ばたっ。

「マ、マリアにゃあぁぁん!」

「マ、マリアさあぁぁん!」


 つかつかつか。

「この空間に人の気配? そんなはずは……」

 ひょい。

「あっ、ネイルにゃん」

「あっ。ネイルさん」

「おや? ミアンさんにミーナさんじゃないですか? こんなところでなにを……」

 つかつか。ごろん!

「ああっ!」

 ばたん!

「痛ああっ……」

 すりすり。

「ふぅぅ。思わず鼻をぶつけてしまいましたよ。

 一体だれがこんなところに、こんな大きなごみを」

 ずずずっ。ぐわっ。

「ネイルさん。私はごみじゃありません!」

「うわっ! ごみが言葉を! ……ってよく見れば、お姉ちゃん。

 なにをやっているんです? 一体?」

 すくっ。 ぱたぱた。

「あっ。ネイルさんが声をかけたとたん、しゃんと立ちあがってほこりを払ったわん」

「な、なにって……。わたしはただ、近道をしようと」

「なに視線をさけながら話しているんですか。

 ふぅ。判っていますよ。また迷子になったんでしょう? それにしても、よくこんな疑似空間なんかに入れましたねぇ。まぁ、それだけお姉ちゃんの迷子には年季が入っているってことなんでしょうが……、あまりじまんにはなりませんねぇ」

「迷子って……。私はネイルさんよりひとつ年上なんですよ。そんなはずがあるわけ」

 よろっ。

「おっと」

 がしっ。

「おや。おでこがずいぶんと真っ赤にはれあがって……。前のめりでぶつかったんですね。鼻がつぶれていなくて幸いです。ああ、でも鼻血が出ていますね。それで、足は……と」

「あ、足は別に……痛っ! なにをするんですか、ネイルさん」

「やっぱり。くじいているじゃありませんか。

 すぐ外に出てちりょう(治療)をしましょう。ほら、早くせなかに」

「なんです。別におんぶなんかしてもらわなくったって」

 よろっ。ぱたっ。

「ふふっ。ちゃんとせなかに乗ってくれたじゃないですか」

「いや、これは」

「おおっと。動かないでください。じゃあ、行きますよ」

 すくっ。

「す、すみません」

 ぽっ。

「いいってことです。僕とお姉ちゃんの仲じゃないですか」

「んもう。ネイルさんったらぁ。

 私のことは『マリアさん』といいなさいって何度も何度も」

「ははははは。今は二人っきりじゃないですか」

「ちがいます。ミアンさんが、あと、ミーナさんもいるじゃありませんか」

「目をつむって見なかったことにしてくれますよ。ねっ、お二体ふたりさん」

 つむり。

「うんにゃ。ウチはなにも見ていないのにゃよ」

 つむり。

「アタシも、だわん」

「ほら。ああいってくださいますし」

「ネイルさん。そういう問題じゃなくて」

「ああ、動かないで。おとなしくしてください!」

 びくっ。

「ネイルさん……」

「僕は見習いとはいえ、呪医です。ほかの時ならともかく、けがをしている今は、すなおに従うものです。お願いします」

「……はい」

「結構です。じゃあ、外へ出ましょう。お姉……、ふふっ。いや、マリアさん」

「えっ。……は、はい!」

 ひしっ。

「それでいいんですよ。しっかりとつかまってください」

「はい」

 ぽっ。

 すたすたすたっ。


「にゃあ、ミーにゃん。見てみにゃよ。マリアにゃんが、ぶつけた『おでこ』以上に顔を赤らめているのにゃ。にゃかにゃか、いいながめじゃにゃいか」

「本当本当。しあわせそうな顔をしているわん。これも意外といい終わり方だったわん」

「めでたし、めでたし、にゃん」

「めでたし、めでたし、だわん」

「ウチらが気まぐれに造ったこの空間がこわれるのも、あとわずかみたいにゃ。

 それじゃあ、ミーにゃん。ウチらも」

「うん。外へ行きたいわん」

「にゃら、どっちが早いか」

「よぉい、どん! だわん」


 たったったったったっ。

 ぱたぱたぱたぱたぱた。 


 しぃぃん。


 ばしゃあああん!


 しぃぃん。


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