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天空の村2・水の妖精  作者: シード
29/33

第十一話『かえんりゅう(火炎竜) その二』‐②


 アリアに乗って湖『恵那えな』の上空まで飛んできた。

「じゃあ、行ってくるね」

 わたしは水の身体となる。たづなをにぎるお兄ちゃんの後ろに衣服を残し、アリアから水面みなもめがけて飛びこんだ。

 ざぶん!

 湖の真ん中あたりまでもぐったわたしは、思いっきりさけんだ。

「湖『恵那えな』の妖精よ、お願い。

 すいひりゅう(水飛竜)の力をわたしに与えて!」

 聞こえているはず。でも、恵那の妖精は姿を現わさず、言葉も返してはこない。

(だめなのかなぁ?)

 不安をふっ切ろうと、(こんしん)渾身の霊力を放つ。とたんに、わたしの光に導かれたかのごとく、次から次へと水の妖精がやってきて身体の中へと入っていく。

「えっ。えっ」

 とまどっているわたしの心に声が届く。

「まぁまぁ、ごきげんうるわしゅうございます。おっほほほ」

(声はすれども)

 きょろきょろ、とあたりを見まわず。

(やっぱり、姿は見えないなぁ。……あっ、そうか。わたしの中に入ってきた水の妖精たちが声を伝えているんだ。ってことは、ひょっとするとここの湖の妖精って、案外、引っこみ思案な性格なのかも)

 そんなわたしの心を察したのか、『大変、申しわけありませぬ』との言葉を返してきた。

「本来であれば、姿を見せねばならぬところでございますが……、なにぶん、わたしめの光が強すぎまして、子らからも『出てくるな』とうざがられる始末。仕方なく、声をつたえてもらう手段を用いた次第にございます。おっほほほ」

「はぁ」

(多分、『子』って、水の妖精たちのことだよね)

「されど、つくづく思うのでございますよ。こんな、親をないがしろにする子に育てた覚えはない、と。おっほほほ。

 ねぇ。あなたさま。こうやってめぐりあえたのもなにかのご『えん(縁)』。わたしめがどうすればよいか、ご存じであればお教えくださりませぬか?」

(知らない。わたし、おなやみ相談なんて一度もやったことないし。それより)

「ええと、あなたは?」

「これはこれは。名前も名乗らず、大変、失礼をば、いたしました。

 わたしめの名は『恵那』。この湖の精霊でございますのよ。おっほほほ」

(なんかしゃべっているだけであっとう(圧倒)されそう)

 こういう相手は初めて。どういう風に話を進めたら、と考えていると、また向こうから声が聞こえてきた。

「誠に失礼とは存じますが、あなたさまのお名前を聞かせていただいてもよろしゅうございましょうや?」

(あなたさまって……)

「あっ、フローラっていいます」

「フローラさまとは。なんともまぁ、お美しゅうお名前でおられますこと。

 して、ご用のおもむきは?」

「あのぉ。だから、すいひりゅうになりたいんだけど……」

(もうちょっと気の利いたいい方をしたって)

 自分でもそう思うが、情けないことに今はこれだけいうのが精いっぱい。

「おやおや。そのような願いごとをされるお方が来ようとは。わたしめは今の今まで夢にも思いませなんだ」

(うん。わたしも思っていなかった)

 ひとごとのようにうなずくわたし。

「されど……どうしてあなたさまがさようなことを?」

「実は……」

 わたしは時間もないので、『流れ星の力で人間になって、それで人間の世界で暮らして、そしたらかえんりゅう(火炎竜)が現われてめちゃちゃに』ってな感じの、ごく大ざっぱな答えを口にした。

(こんなんで相手に伝わるのかなぁ)

 自分でいっておきながら自信がない。てっきり、もっとくわしく、みたいな声がかかるだろうと待っていた。ところが、返ってきた反応は、予想をはるかに上まわるものだった。

「うっうっうっ。あなたさまの身にそのようなことが……。うっうっうっ」

 言葉の中に妙な声が混じっている。

(えっ。なんで泣いているの?)

「ええと、あのね」

「水の妖精でありながら不幸なできごとのため、人の姿になってしまわれるとは。……うっうっうっ。そして……人の世で苦労をし、それでもなお、人のためにつくしたいと願われるとは。……うっうっうっ。

 運命にほんろうされながらも強く生きていこうとするあなたさまのなんというけなげさ。わたしめは……わたしめは感動を覚えずにはいられませぬ! ……うっうっうっ」

(どうしよう。完全に誤解しちゃった)

「あのね、だからね」

(わたしは苦労なんてしていないし、悲劇の主人公でもないよ)

 そういおうとした。ところが。

「いえいえ。お話はよう判りましてございます。わたしめでお役に立てることがありましたら、もう、なんなりとおっしゃってくださいませ。喜んでお手伝い申しあげましょう」

 思いがけない言葉。話がこちらにとって都合のよいほうへとかたむいている。ここで余計なことをいってぶちこわしたら、それこそ大変。

(うそをいったわけじゃないしね)

 このままこのまま、と願いごとのほうを口にした。

(これで三回目、になるけど)

「さっきもいったように、すいひりゅうになるのを協力してくれない?」

「そうそう。それゆえ、理由を聞いたのでございましたね。

 ……すいひりゅう……すいひりゅう……と」

 なにやら考えこんでいるみたい、と思っていたら、とつぜん、こちらへ問いかけの言葉を。

「つかぬことをおたずねしますが、すいひりゅうについて、どの程度の『知』をお持ちでございましょうや?」

「えっ」

 困ってしまった。まさかそんな質問を受けるとは思わなかったから。知ったかぶりをしようかとも思った。でも追求されたら、いっぺんでうそだとばれてしまう。ここは正直にいうのが一番と判断、言葉を返した。

「それが……」

 ほとんどなにも知らないことや、それでもすいひりゅうになる必要があることなどを、手短ながらもうったえてみた。わたしの言葉が終わっても、恵那からの返事がなかなか来ない。これはだめかな、とあきらめかけたその時、わたしの心に言葉が届いた。

「ようございます。あなたさまの願い。かなえてさしあげましょう」

「えっ。本当に?」

「はい。ただ……今のあなたさまでは、すいひりゅうの力を半分も使うことはできませぬかと」

「かもしれないけど、……でもこのままじゃあ」

「そこで、でございます。むろん、すいひりゅうとなる『力』をお貸しいたしますが、それとともに、『力』をあつかうための『知』もお受けになられましては?

 たとえ、つけやきば(付け焼刃)であろうとも、なにも知らずにかえんりゅうを相手にするよりは、はるかにまし、と考えまするが、いかがでございましょうや?」

(やったぁ!)

 小おど(踊)りしたい気分。

 こんなありがたい申し出を断わる理由など、なにひとつあろうはずがない。

「ぜひ、お願いします!」

 勢いこんで答えた。

「では、すいひりゅうの『力』と『知』。この二つををあなたさまへお渡しいいたしましょう。どうぞ、お好きなようにお使いなされませ。おっほほほ」

 笑い声とともに、彼女の声は消えた。


 恵那の言葉はすぐに実行された。水の妖精が大群となって現われ、わたしの身体へ一気になだれこむ。たちまちわたしはすいひりゅうへと、その身を変えた。と同時に、頭の中にも新たな知識が埋められていく。

(この身体ってそんなこともできるのかぁ)

 知識自体がまるで教師のごとく、すいひりゅうとはなんたるかを教えてくれる。

「ありがとう、恵那さぁん!」

 ざざざざぁん!

 湖面をつきぬけ、大空へとまいあがる。あらためて自分の姿を見た。

(でっかいなぁ。これならかえんりゅうに負けない大きさだ)

「があぁぁう!」

 おたけびの第一声をあげた。井戸の妖精と造ったすいひりゅうの何倍も大きい。声も、はくりょく(迫力)に満ちている。これぞ本物、としみじみ思う。

 かえんりゅうに勝てるかどうかは判らない。でもとりあえず、対等に戦える力は確保した。あとは全てわたし次第。それだけ判ればそれでいい。

(うぅん。気持ちいい。……あれっ。お兄ちゃんは)

 アリアに乗って空にうかんでいるはず。身体をぐるりと回した。

(あっ。お兄ちゃああん!)

 真後ろにいた。ぐぃっと頭を差しだす。

「君は……フローラかい?」

 ちょっとひいた格好をしている。

(でも、気にしない気にしない)

「うん。さぁ、お兄ちゃん。早くわたしの中へ入って。かえんりゅうのところへ行こう」

「判りました。行きましょう」

 お兄ちゃんはアリアのせなかに身をたおすと、霊体となってぬけだした。霊体の身体に入るのに実体はじゃまとなるからだ。

「さぁ、お兄ちゃん」

 半とうめい(透明)であることをのぞけば、霊体の姿は実体となんら変わらない。わたしはすいひりゅうの口を開き、お兄ちゃんを招きいれた。

「どう? お兄ちゃん。居心地は?」

「ああ……。とても気持ちがいい。心がす(澄)んでいます。これからやろうとしていることに迷いがないしょうこ(証拠)です」

「えへっ。よかったぁ」

「フローラ。本当にかえんりゅうと戦うつもりですか?」

「うん。わたしが呼ぶまでは、お兄ちゃんはおとなくしていて。これは約束だよ」

「判っていますよ。じゃあ、僕はフローラのじゃまにならないよう、この身体と同化でもしていますか」

 そういうなり、お兄ちゃんの身体がうすらいでいく。

「いいですね。だめだと判った時には、すぐに大声で伝えなさい」

「うん。あてにしているからね。お兄ちゃん」

 わたしはうなずいた。でも心の中では。

(お兄ちゃんの出番なんて造らせない。わたしが絶対に終わらせてやるぅ!)

 そうさけんでいた。


「しまったぁ! おそかったかぁ!」

 かえんりゅうが視界に入った当初はまだ、護玉が周りにうかんでいた。『これならいけるかも』と思い、霊水を浴びせるべくつっこもうとしたところ、おかしなことに気がついた。護玉は小さいながらも強い光を放つ。だから、遠くからでも見えるのだけど、なぜか青い光がてんめつ(点滅)状態。それも全部だ。『ひょっとして力が弱くなっているのかも』と思っていたら、いきなり、かえんりゅうが円を描くように動いて霊火を放つ。ほのおが消えた時には、護玉はかげ(影)も形もなくなっていた。

(やっぱり。というより、今までもったことのほうがきせき(奇跡)なのかも。

 だけど、……これでセレン先生のご加護はなくなっちゃたな)

 あとは……わたしか。わたしがやるしかない。それだけ判ればそれでいい。

(よし、行こう!)

 かくご(覚悟)を決めて、霊火をまとう霊体へと向かった。


 近づいてくるすいひりゅうの姿にかえんりゅうは気がついたみたい。顔をこちらに向けるやいなや、口を開いて霊火をはく。

 ぶわあああっ!

(す、すごい!)

 黒竜の時とは比べものにならないほどの拡散力。でも、こちらだってすいひりゅう。これぐらいでひる(怯)んじゃいられない。

 ぶわあああっ!

 しゅわあああっ!

 再び放った霊火をあっさりと消火。その上で、相手の身体全体に霊水を浴びせた。

「きぃぃう!」

 まともに食らったせいか、のたうちまわる。

(今だ!)

「がぁぁう!」

 ぐいぃぃん!

 おたけびをあげながら勢いよくせまると、やつの首すじにかみついた。

 がぶっ!

「きぃぃう! きぃぃう!」

(苦しがっている苦しがっているぅ。お次はこれだぁ!)

 わたしはすいひりゅうのまなこ二つから円状の霊波を放つ。そらにぽっかりとこはく色の穴があく。

(行っくよぉ!)

 ずぼっ!

 かえんりゅうにかみついたまま穴の中へと入った。

(ここが、『せいろう(精廊)』か……)


『せいろう』とは精霊のかいろう(回廊)を指す。通常空間とは別に存在する通路で、行きたいところに出入口が造られていれば、いっしゅんでたどりつくことができる。これらはふだん、閉じて見えないものの、精霊や竜神などの高位とされる霊体が放つ霊波であれば、開くことができる。わたしもすいひりゅうになれたからこそ使える。もちろん、この知識も恵那からえたものであることはいうまでもない。

 この空間でできることはただひとつ。入った者の意志のまま移動することだけ。それ以外のあらゆる力が無効となる。霊力を使うことも、あらがうこともできない。すいひりゅうのきばにかみつかれている今、かえんりゅうは一切、身動きがとれない。


 すいひりゅうが、こはく色の空間をとおっていく。なにかふしぎな気がしないでもない。全ての出入口が目の前にうかぶ。この中には、行きたいところを念じるだけで行ける『天外魔境の分岐点』へとつうじる出入口もあるという。でも、わたしの目的地は恵那。すぐに見つけられた。

 ずぼっ!

(やったぁ! 恵那についたぁ!)

 真下には霊水をなみなみとたたえる湖が。

(よぉし。このまま飛びこんじゃえぇ!)

 ぐいぃぃん!

 急降下した。水面まであとわずか。ところが。

「きぃぃう!」

 ずばばばばぁっ!

 かえんりゅうが超常発火。身体中から霊火のほのおをふきだす。不意をつかれたわたしは、かみついていたきば(牙)を失うことに。すぐ元にもどったものの、今度は逆にかみつかれ、やつのほうが、せいろうへとつっこんだ。

(しまったぁ! かえんりゅうも竜神だってこと、忘れてたぁ!)

 ずぼっ!

 ずぼっ!

 せいろうを出た先は活火山『冥亜めいあ』の火口。かえんりゅうはその中へ、すいひりゅうにかみついたまま飛びこんでいく。

(ま、まずい!)

 かえんりゅうにとって湖『恵那』は墓場にも等しい存在。一方、すいひりゅうにとっては、この『冥亜めいあ』がそれにあたる。落ちたら二度と、はいあがれない。

(お兄ちゃんだっているんだ。絶対に死ねない!)

 無我夢中で超常発水。身体中から霊水を放つ。そのかいあってかえんりゅうからのがれ、無事に火口から飛びだした。

(はぁはぁはぁ)

 せいろうは、とおるだけでも、かなりの霊力をうばう。もうこれ以上は使うわけにはいかない。となれば、あとは直接戦って決着をつけるのみ。

(絶対に負けるもんかぁ)

 そう思いつつも、作戦がひとつ失敗したせいもあり、イマイチ不安はぬぐえない。

(でも、やるしかない)

 そう。やるしかない。


 力と力の戦いが始まった。

「がぁぁう!」

「きぃぃう!」

 がしん! がしん!

 共に身体をぶつけあう。痛打を浴びたり、浴びせたり。はじいたり、はじかれたり。そのくり返しの中、かえんりゅうは『霊火』を、わたしことすいひりゅうは『霊水』を周囲に、ぶわぁっ、とまき散らす。

 全てのものを燃やさんとはき出される『霊火』。そうはさせじと、いっしゅんで消火する『霊水』。一進一退の攻防がつづく中、二頭のりゅう(竜)はともに相手とからみあい、たがいの身体へ霊力の『きば(牙)』をつき立てる。

「ぎゃぁう!」とすいひりゅうが、

「ぎぃぃう!」とかえんりゅうが、

 共にうめき声をあげながらも、相手をにがすまい、と『きば』の霊力を強めている。

(ああっ!)

 わたしも激しい痛みを感じた。

 こう着状態がつづく。力がなくなるのをおそれてのことだろう。かえんりゅうは天空に拡がる霊力を自分の身に集めはじめた。おくればせながら、すいひりゅうも。ただ霊力をとりこむ勢いは段ちがい。かえんんりゅうのほうがまさっている。このまま持久戦に持ちこまれたら、すいひりゅうが力つきて負けてしまう。しゃれじゃないけど、それこそ火を見るよりも明らか。

(なんとかしなくちゃ。でもどうしたら、…………待てよ)

 すいひりゅうの『きば』の先から、まがまが(禍々)しい気配を感じる。ということは、かえんりゅうの深層部にまで達しているとみてまちがいない。

(これは……絶好の機会かも!)

 わたしは切り札をさけぶ。

「お兄ちゃああん!」


 すいひりゅうの体内にひとつのかげがうかびあがる。

「待っていましたよ。君が呼ぶのを」

 声が聞こえた時には、霊体のお兄ちゃんが立っていた。


「フローラ。痛みをおさえましょうか?」

(お願い、といいたい。でも……お兄ちゃんにはやることがある。わたしのために霊力や時間を使わせるわけにはいかない)

 ここはがまんのしどころ、とばかり、ぐっ、とこらえた。

「し、心配はいらないよ。それより、お兄ちゃん。今、わたしの『きば(牙)』がかえんりゅうの本体に食いこんでいるの。わたしが案内するからお兄ちゃんはそこをとおって、こいつの中へ入ってちょうだい」

「とはいっても……、ことが終わらないかぎり、痛みはずっとこのままつづきますよ。しんぼうできますか?」

「大丈夫。お兄ちゃんがもどってくるまでは、絶対にこいつから『きば』をぬくもんか。なにが起きてもた(耐)えてみせる。だから安心して行ってきて」

「フローラ……。やっぱり強いですね、君は。判りました。それじゃあ、行ってきますか」

 わたしはお兄ちゃんの目の前に光の玉を送った。

「これは?」

「わたしの意志。その一部だと思ってくれればいい。これのあとにつづけば、かえんりゅうの中に入ることができるよ」

「そうか。では、案内をお願いします」

「うん。お兄ちゃん、ちゃんとついてきてね」

 わたしは光の玉を使ってお兄ちゃんを導いていく。『すいひりゅう』のきばをとおって、かみついている『かえんりゅう』の中、その深層部へと入っていった。


「ここがかえんりゅうの中……。真っ暗なところですね。

 うん? あ、あれは!」

 お兄ちゃんの周りに人の顔が次々とうかぶ。いずれも、くもん(苦悶)の表情をたたえているところから、これらが『おんねん』の正体と察した。

「助けてくれぇ!」「まだ、死にたくない。ここから出してくれぇ!」

「必ずこの仕返しをしてやる」「うらみは消えないのだ」「のろってやる」

 生に対するしゅうちゃく(執着)の念。うらみやにくしみ。これらの『おんねん』が、うきでた顔には宿っている。

「フローラ。今、僕の目に映っている光景が見えますか?」

「うん。光の玉をとおして見られるよ。

 でも、お兄ちゃん。なんなの? このまがまがしい様子は」

「ウォーレスの地上でなにが起きたのか、今となっては知るよしもありません。ですが、ざんこく(残酷)なできごとであったのはまちがいないと思います。そうでなければ、かえんりゅうをこうも簡単に具現化できるほどの強い『おんねん』など、生まれるはずがありません」

「浄化をやるしかないね、お兄ちゃん。うまくいくと思う?」

「フローラ。君が与えてくれたこの機会。絶対、むだにはしません」

 お兄ちゃんは目をつむってつぶやく。

「……先生。禁呪の力を使うことをお許しください」

 口の動きがとまり、ゆっくりと目が開かれた。(いつく)慈しむような『まなざしと言葉』が、『おんねん』のこもった顔へと向けられる。

「全身全霊をもって、必ずあなた方をこのろうごく(牢獄)から開放して差しあげます。ご安心ください」

 再び目をつむると、今度は(もくしょう)黙唱を始めた。すると。

「やめろ!」

「やめるんだぁ!」

「やめてぇ!」

 声とともに全ての目がこちらにそそがれる。それと同時に、目や口から黒いほのお(炎)がはき出された。

 ばしゅぅっ! ばしゅぅっ!

 次々とおそいかかってくる。でも、大丈夫。お兄ちゃんは、身体全体があお(蒼)き光を放つ霊波で包まれていた。黒いほのおはその霊波にはばまれ、あとかたもなく消えていく。

「お、おのれぇ!」

「貴様ぁ!」

 どごう(怒号)がひびく中、お兄ちゃんはもくしょうを終えた。静かに開いた目のひとみにも、あおき色の光が宿っている。その光が外へともれたとたん、全ての声がちんもく(沈黙)した。

 全てが静まりかえる中、お兄ちゃんが呪の言葉を口にする。

全霊覚醒ぜんれいかくせい!」

(やっぱり……。今以上の力を使わないといけないのかぁ)


 これはお兄ちゃんから聞いた話。

『全霊覚醒』とは、

 顕在けんざい化した……ようするに自分が今、自由に使える……霊力のみならず、

 潜在している……つまり、未だねむっている……霊力をも強制的に使うことができるようになる呪のこと。

 早い話が自分の持つ霊力を全て使えるようになる。今までよりも多くの呪を動かせるという利点がある反面、過大なる危険が伴う。本来であれば長い修業の果てにやっと手にする霊力を、一時的とはいえ、無理矢理使えるようにしてしまうことから生じる。潜在部分の霊力を使えば使うほど、精神や肉体のほうかい(崩壊)といった事態を招きやすくなり、最悪の場合、死につながるおそれもある。このため、使用には細心の注意が必要とされている……のだとか。


 わたしが浄化を思いとどまらせようとしたのは、まさにこれが理由。加えて、お兄ちゃんがやろうとしている呪は、自分でもいっているとおり、禁呪。呪の制御が難しいことからセレン先生に、使うな、といわれている。やらないですむなら、それにこしたことはない。

(でも今となっては……これにかけるしかない!)


 お兄ちゃんの霊体自身があおき色の光となる。わたしの霊覚でさえも、もう、お兄ちゃんの姿をとらえることができない。

(すごい! これがお兄ちゃんの持っている本当の力……)

「おおっ!」

「なんという力だ!」

「これほどまでとは……」

 再びざわめきだした。どよめきの声やため息があちらこちらからもれてくる。でも、すぐにやんだ。あっとうてき(圧倒的)ともいえる霊力の光に恐れをなしたかのよう。わたしはさとった。お兄ちゃんがこの空間全ての支配者となったことを。

 そして……わたしの心に届いた。

 人が使える最上級のじょうかじゅほう(浄化呪法)を発動する言葉が。

滅羅めらぁっ!」

 お兄ちゃんの光がたちまち、しこん(紫紺)の色へと変わった。放たれたせんこう(閃光)も同じ色。わたしたちのまわりを浄化の光がうめつくす。


 しゃあああん!


「やっとだ。……やっと、じゅばく(呪縛)から解きはなたれた」

「光だ。待ちに待った光だ」

「これで楽になれる……」


 さまざまな声が飛びかう中、いくつもの顔が、現われては消えてゆく。どの顔にもおだやかな表情がうかんでいた。


 光が消え、周りが再び真っ暗になると、一つの言葉が声をそろえて聞こえてきた。

「ありがとう」

 この言葉を最後に、わたしたちのいる空間は『やみ(闇)』と『せいじゃく(静寂)』に支配された。


「あっ、お兄ちゃん!」

 霊体のお兄ちゃんがよろめいて、がくっ、と両ひざを底に落とした。身体から放たれていた強い光が消えたため、再び半とうめいの姿が見えている。とはいっても、未だうっすらとあおき霊波でおおわれているのだけれど。

 わたしは思わず身をかがめた。

「大丈夫? お兄ちゃん」

「なんでもありません。ちょっとふらついただけです。

 滅羅めらは初めてでしたからね。無理もありませんよ」

「えっ。初めてだったの?」

「だって禁呪ですよ。フローラも知っているでしょ?

 本来であれば見習いが使っていい呪ではありません」

「そう……そうだよね」

 実はまだ不安だった。念のために、とたずねてみる。

「お兄ちゃん、本当にこれで終わったの?」

「君が見たとおりです。『じょうか(浄化)』は完了しました」

 この言葉に、ほっとしたのは……もちろん、いうまでもない。気がついてみたら、身体に感じていた痛みもいつしか消えていた。

「それなら帰ろうよ」

「まだだめです」

 そういって立ちあがったお兄ちゃんの顔には、きんちょうかん(緊張感)がただよっている。

 理由はすぐに判った。


 がたがたがた!

「な、なに? お兄ちゃん!」

 お兄ちゃんはこうなることを予期していたみたい。うろたえているわたしをなだめるかのような落ちついた声が返ってきた。

「フローラ。かえんりゅうの身体は、いわば、霊力がひとかたまりになった姿です。これらを引きよせたおんねんは、たった今、消えました。よりどころを失った霊力が外側へと飛散するのも、もうまもなくです。かえんりゅうのような大きな霊体を造ったわけですから、相当な霊力がたくわえられているはず。それがひとつ残らず一気に、となれば、大ばくはつ(爆発)となる可能性はきわめて高いといわざるをえません。ここも非常に危険です。

 フローラ、時間がありません。すぐに、だっしゅつ(脱出)してください」

「えっ。お兄ちゃんも来るんでしょ?」

「いいえ。僕はここに残ります。飛散の流れをゆるやかにすることで爆発の程度をできるだけ小さくおさえこむつもりです。そうしないと、村にも多大なえいきょう(影響)をおよぼしかねませんから」

「お兄ちゃん……まさか……」

(最初っからそのつもりだったんだ。お兄ちゃんは自分の命と引きかえにしてでも村を守ろうとしている……)

「それならわたしも残るよ。だって、もうわたしの身体は」

「どうぞお好きなように。ただ……。

 君が最後の最後まで、人間でいたい、ともがいてくれるのであれば、ぼくもここで、もがいていられる。そんな気がします。で、僕が、もがけばもがくほど、村の被害は最小限ですむ。つまり……」

 お兄ちゃんは、にやり、と口元に笑みをうかべる。

「村の明日は、君がこれからどうするか? にかかっています。お判りですよね」

(なんて人だろう。『お好きなように』っていったって、これじゃあ、選択の余地なんてないじゃない)

「ずるぅい。そんないい方」

 口をとがらすわたしを見て、ふふっ、と笑うお兄ちゃん。でも、すぐに真顔となる。

「行ってください、フローラ。もう君にできることはありません。あとは自分のために行動してください」

 お兄ちゃんの意志は固い。もう言葉じゃ変えられそうもない。でもどうしても聞きたい。

「また会えるよね。お兄ちゃん」

 最後の別れ、のような気がした。だから、つい言葉に出てしまった。

「会えるかもしれません。君が人間の体にもどれるだけの力が残っていれば。僕が自分の霊体を保てるぐらいに、ばくはつ(爆発)をおさえることができれば。ですが」

「……さよならはいわないよ、お兄ちゃん」

「僕も、です。フローラ」

 わたしは光の玉をすいひりゅうの中へともどし、自分の心とひとつにした。かえんりゅうは、といえば、りゅうの形をした黒いかたまりとなっていた。口は開いたままだけど、わたしにかみついていた『きば(牙)』は、生えていたあとすら残っていない。

(そうか。だから、痛みがなくなったのね)

「行くね、お兄ちゃん」

 自分の『きば(牙)』をかえんりゅうだったものからはずした。自由の身になったわたしは、すいひりゅうの姿のまま、村へとおりていった。


 わたしは今、公園の高台に置かれた長いすのひとつに身体を横たえている。

(なんかつかれた。本当に)

 かえんりゅうからはなれると、湖『恵那』の中へともぐった。すいひりゅうの身体となっている水の妖精たちを元のすみかへ返すのが目的。湖と同じ名前の精霊にお礼と別れを告げるころには、わたしも人間の形をした『水の妖精』にもどっていた。

(身体がふらふらで今にもたおれそう)

 ふと、お兄ちゃんと夜中、公園で星空をながめたことを想いだす。そしたら無性にここへ来たくなってアリアを呼んだ。

「あっ、お兄ちゃん!」

 わたしは忘れていた。アリアのせなかにはお兄ちゃんの実体が残ったままだということを。あおむけにたおれている身体はアリアから放たれている紅い霊波で守られている。

「お兄ちゃん。わたしといっしょに公園で霊体がもどってくるのを待とうね」

 そういったあと、わたしはお兄ちゃんの前に乗りこみ、たづなをつかんでアリアを羽ばたかせた。そして……今、わたしはここにいる。そばには、つばさ(翼)を休めているよくりゅう(翼竜)の姿がある。もちろん、わたしがたのんだ。

(これならお兄ちゃんの霊体がもどってくればすぐに判るし、話も早くできる)

 そう思ったから。


 空をながめた。

(へぇ。ここからでもかえんりゅうの姿を見ることができるんだぁ)

 特になにも起きてはいない。

(大丈夫かなぁ、お兄ちゃん)

 少しねむろうか、と目をつむる。しばらくしてから、ぼん、という小さなばくはつ(爆発)、みたいな音が聞こえた。

 はっ!

(お兄ちゃん!)

 目を開いた。天空にうかんでいたかえんりゅうのざんがい(残骸)が、ちり(塵)となって消えていくさまをまのあたりにすることができた。

(終わったのかぁ。なにもかも)

 あとは……愛する者の無事をひたすら、わたしは願った。


「かえんりゅうもなんとか、たおせたみたいにゃん」

「めでたし、めでたし、っていいたいところだけど……。

 フローラがどうなるか? 気になるところだわん」

「まぁ、本来にゃら、もうひとりのほうも気にしにゃければならにゃいところなのにゃけれども」

「そうよね、本来なら」

 ぱんぱん。ぱんぱん。

「ここにいなきゃね。もっとお話的にもりあがったわん。

 でしょ? ネイルさん」

「…………」

「うわっ! 急にだまりこくったわん」

「ミーにゃん。きっと、ネイルにゃんは今、ここにいないふりをしているのにゃ」

「いまさら、手おくれだと思うわん」

 ぱんぱん。ぱんぱん。

「アタシ、いっちゃったし。それにほら、こうやって身体もたたいているわん」

 ぱんぱん。ぱんぱん。

「…………」

「あれっ。まだ、はかない『ていこう』を試みているわん。

 ねぇ、ミアン。愛するご主人さまのために、ここはすっぱりとあきらめさせたほうがいいわん。見苦しいだけだわん」

「それもそうにゃん。とはいうもののどうやって……。

 あっ! にゃったらこれがいいのにゃん」

「なにか思いついたの?」

「ミーにゃんはウチに協力してくれるのにゃん?」

「あったりまえだわん。親友同士だもの」

「ありがたいことにゃん。にゃったら」

 ひそひそ。ひそひそ。

「ふんふん。ふんふん。……ふふっ。それはおもしろそうだわん」

「ぶふふっ。にゃあ、ミーにゃん。これにゃら、いちころ、にゃよ」

「でも、本当に大丈夫なの? アタシ、おこられるのいやだわん」

「大丈夫にゃよ。仮におこられる寸前までいったとしてもにゃ。ウチとミーにゃんの可愛さをふりまけば、あっという間に、ぐにゃぐにゃになってしまうのにちがいにゃい」

「それもそうだわん。アタシたち、可愛いもんねぇ。『うっふぅぅん!』」

「ウチも負けないのにゃよぉ。『にゃふぅぅん!』」

「なかなか、だわん。それじゃあ、ミアン。そろそろ始めない?」

「ミーにゃん。念のためにいっておくのにゃけれども。不意をついて一気に、にゃよぉ」

「判っているわん。そこにぬかりはないわん」

「じゃあ、ぼちぼち行くにゃよぉ。

 今、後ろを向いているから、気がつかれないように、そおっとにゃ」

「任せておけ、だわん」

 そおっと。そおっと。そおっと。そおっと。

 そお……ぴたっ。そお……ぴたっ。

「ミーにゃん! 飛びかかるのにゃん!」

「おぉっ! だわん!」

 がしっ。がしっ。

「うっうっ」

「ネイルにゃんがまだがまんしているのにゃ。こうにゃれば打つ手はひとつだけ。

『くすぐり』大作戦、始めぇ! にゃん!」

 こしょこしょこしょ。こしょこしょこしょ。

「こっちだって負けないわん!」

 こしょこしょこしょ。こしょこしょこしょ。

「う……う……」

「ほら、ミアン。しゃべらせるまで、あともうひと息だわん」

「全力にゃあ!」

「うぉぉっ! だわん!」

 こしょこしょこしょ。こしょこしょこしょ。

「うぅぅん…………」

 ばたん!

「ミアン、大変だわん! ネイルさんったら口からあわをふいて気絶したわん!」

「そこまでやるとは思わなかったのにゃん。いないふり、がてっていしているのにゃん」

「ミアン……。これ本当だと思うわん」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「はて? ミーにゃんはどこに行ったのにゃろう?」

 うろうろ。うろうろ。

「探しまわってもにゃ。ここはこの部屋のみ。探しようがないのにゃん。

 しょうがにゃい。呼んでみようにゃん。

 えへん。あっあっ。うんにゃ。これなら大きな声をだしても大丈夫にゃ。

 よぉし。せぇのぉっ!

 ミーにゃんミーにゃんミーにゃんミーにゃんミーにゃんミーにゃん…………」

「おや? だわん。なんか『けいほう(警報)』みたいなものが聞こえるわん」

 みし。 すくっ。

「さてと。いったいなにが」

 きょろきょろ。

「特にこれといって……うわっ!」

「ミーにゃん。ここにいたのにゃん。心配したのにゃよ」

「ねぇ、ミアン。どうしてそんなに首を長ぁくのばして、顔をでかぁくして、こっちを向いているの?」

「顔がでかいっていわれてもにゃあ。別にいばっているわけじゃないのにゃよ」

「本当に顔がでっかくなっているんだけど……、まぁ、いいわん。

 ねぇ、ミアン。今、心配したっていったけど……、

 ひょっとすると、さっきの『けいほう』はミアンなの?」

「『けいほう』? 一体なんのことにゃん?」

「ほら。『ひぃぃふぁんひぃぃふぁんひぃぃふぁん』って、音がしたでしょ?」

「ちがうのにゃん。ウチがいったのは、

『ミーにゃんミーにゃんミーにゃん』、にゃよ」

「なるほどね。なんとなく語感が同じに聞こえるわん。まちがえるのも無理はないわん」

「ところでミーにゃん。いつもの、ごろごろ、もしにゃいで、ウチのせなかで一体なにをしていたのにゃん?」

「考えごと」

「考えごと? ミーにゃんが?」

「意外そうな顔をしてはいけないわん」

「ぶふふっ。それで、どんにゃ?」

「アタシのいいところをひとつ、大々的に発表しようと思ったわん。

 でもね。これが多すぎて多すぎて。一体どれにしたらいいかって迷っていたわん」

「ふわあぁぁあっ」

「こらぁ! でっかい顔の口を開けて大あくびをしているんじゃないわん!」

「どこかの花の妖精がよまいごと(世迷言)をしゃべっているのにゃん。ねむたくもなろうというものにゃ。ふわあぁぁあっ」

「だから大あくびするのはやめてほしいわん。

 ほら、今から発表するんだから。ミアン、しゃんとしなさい!」

「やれやれ、にゃん。できるだけ手短てみじかにお願いするのにゃん」

「任せて。あっという間にを終わるわん」

「どうしたのにゃ? ミーにゃん。両足をふんばって左手をこしにあてて右手の人さし指を前につきだして。にゃにをそんにゃに気張っているのにゃん?」

「じゃあ、いくわん! えへん! アタシはねぇ……。


『前言をひるがえさない女の子』


 だわん!

 ようするにね。一度口にしたことは変えない、つまり、ぶれないってことだわん」

「……それだけにゃん?」

「……うん。それだけ」

 はあうぅっ。

「深いため息なんてつかないでほしいわん」


「にしてもにゃ。いつの間にウチのせなかに乗ったのにゃん?

 全然気がつかなかったのにゃよ」

「ついさっきまで、うつらうつら、していたじゃない。当然だわん」

「はて? そうなのにゃん?」

「そう。こんな風にぎゅっと目を……うわあぁっ!」

「危にゃい!」

 するぅゅっ。

 まきまきまきまきまきっ。まきっ!

 ぐわぁん。

「ふぅ。にゃんとか間にあったのにゃん」

「あのね、ミアン」

「あっ。お礼はいわなくてもいいのにゃよ。ウチが勝手にやったことにゃし」

「まぁ。確かに助けてもらったことにはなるけど……」

「どうしたのにゃん?」

「今、ミアンはしゃがんでいたのよ。たとえ立ったままでも、せなかから床までの高さなんて、たいしたことないわん。すべって落ちてもけがなんてしないから、そんなに心配しなくてもいいわん」

「そうなのにゃけれども……。頭では判っているのにゃけれども……。

 なかなか、なのにゃん」

「どうしてそんなに心配性なの?」

「別に心配性ってわけでもないのにゃん。まぁ、し(強)いていえば、条件反射ってやつかもしれないのにゃ」

「条件反射? それってどういうこと?」

「ミーにゃんは覚えていないのにゃろうけれども」

「なになに?」

「ミーにゃんは生まれるとにゃ。その日のうちにウチのせなかで、ごろごろ、を始めたのにゃん」

「まぁ、かしこい子だわん」

「自分でいってりゃ世話ないのにゃん」

「それでそれで? そのかわいくてかしこい赤んぼうはどうなったの?」

「せなかのはしまで転がるとにゃ。『わん!』といって落ちてしまったのにゃん」

「危ないわん。それでけがは?」

「生まれたてのミーにゃんにゃよ。霊体にゃから、けがはないのにゃん」

「あっ、そうか。なら、よかったじゃない」

「それがよくないのにゃよ。落ちたしゅんかん(瞬間)は、きょとん、としているだけにゃったものの、しばらくするとにゃ。うえぇんうえぇん、と泣きだしてしまったのにゃ」

「ミアン!」

 びしっ!

「ミーにゃん。そうやって相手を指さすのは、見くだしている、とも思われかねにゃいから、つつしみにゃさい、ってセレン先生もいってたにゃよ」

「どうでもいいわん。相手がミアンだもん。判ってくれるわん」

「といわれてもにゃあ」

「そんなことよりさぁ。

 ミアン、だめじゃない。いたいけなこどもを泣かせるなんて。もっと気をつかってあげるべきだわん」

「なもんで、にゃんとかなだめようと、ウチのしっぽを目の前でふってみたのにゃん」

「ふん。そんなこどもだましで、アタシが喜ぶと本気で」

「そしたら喜んでにゃ。『きゃきゃきゃきゃ』とはしゃぎ始めたのにゃん」

「……本気で思ったほうがいいわん」

「ミーにゃん……もう一回目にゃよ。

 まぁ、そういう意味では、あつかいやすいこどもだったのにゃよ」

「イオラの木に宿る精霊がアタシを造ったのよ。素性も確かだし育ちもいい。『こどものもはん(模範)』となるこどもだったのにちがいないわん。あつかいやすいのも当然よ」

「でも、泣いてばっかし、いたのにゃん」

「ミアンがいけないわん。こどものめんどうを見ているんだから、そうならないように気を配らなきゃ」

「でも、すぐに笑ったのにゃよ。っていうか、笑ってばっかし、いたのにゃん」

「ええと……。

 どっちなの? 泣いてばっかし、なの? それとも笑ってばっかし、なの?」

「泣いては笑い、笑っては泣く。普通の表情にゃんて想いだそうとしても、にゃかにゃか想いだすことができないのにゃん」

「なんでそんなに……」

「ウチもそう思ってにゃ。過去をじっくりとふり返ってみたのにゃん」

「さすがはミアン。それで結果は?」

「ようするに、にゃ。ミーにゃんは泣いたあとでも笑ったあとでも、ウチのせなかをねらっている。必ずもどってくるのにゃ。ウチが起きていようがねていようが、おかまいなしにゃん。これじゃあ、守りようがにゃい。気がつけば、うえぇんうえぇんと泣いている始末にゃ」

「そこまでとは。なにが、こども心をそんな風にかりたてるのかなぁ……」

 ごろごろごろ。ごろごろごろ。

「本当、さっぱり判らないわん」

 ごろごろごろ。ごろごろごろ。

「ミーにゃん。今、ごろごろ、しているのにゃよ」

「えっ! ……本当……だわん。

 ああ、でも今は気にしなくてもいいわん。もう泣きだす年でもないしね」

「そうはいかないのにゃよ」

「どうして?」

「ミーにゃんがせなかから落ちるとにゃ。ウチの身体が無意識のうちに反応してしまうのにゃん」

「どんな風に?」

「身体が、ぴくっ、とするばかりか、しっぽが勝手に動いて、ミーにゃんを助けてしまうのにゃよ」

「あら、便利だわん。でも、なんでそうなっちゃたの?」

「ちっちゃいころのミーにゃんって本当、落ちたら泣く、のが決まりみたいなものにゃったから、くり返されるうちに自然と、にゃ」

「それが今もつづいている……。習慣っておそろしいわん。でもまぁ、おかげでアタシは泣かずにすむようになったわけだから感謝しないとね。ありがとう、ミアン」

「いいや。お礼をいわれるほどのことでもないのにゃよ」

「けんそんする必要はないわん」

 ごろごろごろ。ごろごろごろ。

「でもまぁ、今となっては宝の持ちぐされ、じゃないけど、必要の」

 するぅっ。

「うわっ! 頭からぁ!」

「ミーにゃん! 危にゃい!」

 するぅゅっ。

 まきまきまきまきまきっ。まきっ!

 ぐわぁん。

「ふぅ。にゃんとか間にあったのにゃん」

「……必要のまだまだあるくせだと思うわん」

「ミーにゃん……二回目にゃよ」

「なにが?」

「ミーにゃんが、自分はぶれない、っていってから、もう二回ぐらい、前言をひるがえそうになっていのるのにゃん」

「どちらも『みすい(未遂)』で終わっているわん。数には入らないわん」

「『みすい』って……。ぶれっぱなし、と思うのにゃけれども」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「にゃあまん」

「また始まったわん。でも前回でお話そのものは終わったわん」

「おとめにゃのに、にゃあまん」

「いうと思ったわん」

「とつげき! にゃあまん!」「それいけ! にゃあまん!」

「飛びだせ! にゃあまん!」「やったぜ! にゃあまん!」

「うわっ! いきなりいっぱいだわん!」

「これからのにゃあまん」「あれからのにゃあまん」「それからのにゃあまん」

「明日のにゃあまん」  「今日のにゃあまん」  「昨日のにゃあまん」

「なんでこんなに……」

「朝からにゃあまん」「昼からにゃあまん」「夜からにゃあまん」

「夜から、っていうのは意味深だわん」

「よろしくにゃあまん」

「あれっ。意外と『あいしゅう(哀愁)』ただよう感じが。なかなかいいわん」

「みんなのにゃあまん」

「歌が聞こえてきそうな割には静かでいいわん」

「にゃら、とどめの一発にゃん」

「本当に? ふぅ。助かったわん。いつまでもやっていたらどうしようかと。

 で? なんなの?」

「にゃあまんにしやがれ!」

「やかましいわん!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「はぁい。次の方、お入りくださいわん」

 がちゃ。

「ミーにゃん先生。こんにちは、にゃん」

 ぺこり。

 がちゃ。

 つかつかつか。つかつかつか。

「あれっ。かんじゃはミアンだったの? まぁ、そこに座るがいいわん」

「にゃら」

 すわっ。

「ミーにゃん先生。み(診)てもらう前に、ひとつ聞いてもいいのにゃん?」

「かまわないわん。でも一体なにが聞きたいわん?」

「にゃんでイオラの木に咲く花の妖精が人間姿の女医をやっているのにゃん?

 しかもにゃ。院長のセレンにゃんと同じぐらいの身長にゃし」

「まぁ、いろいろあってね。

 ミアンこそおかしいわん。なんで『ねこ』なのにもかかわらず、人間みたいに身体が使えるの? 二つ足で歩くことも走ることもできるし、前足を手としても使える。身長だってアタシと同じぐらい。ありえないわん」

「ウチにもいろいろあって……じゃにゃい!

 ウチは『ねこ』じゃにゃい。化け猫にゃんよ。できてあたりまえにゃんよ」

「そうだったわん。で? まだなにか聞きたいことってあるわん?」

「ミーにゃん先生の『まぁ、いろいろあってね』で終わってしまったのにゃん」

「そう。じゃあ、しんさつ(診察)に入らせてもらうわん。

 で、今日はどこが悪いの?」

「『えびふらい欠乏症けつぼうしょう』とにゃ。あと『にゃあまん熱中症』にゃん」

「ふむふむ。もう長いわん。持病といってもいいわん。

 それで? よもぎだんごは?」

「それは『にゃあまん熱中症』にふくまれているのにゃん」

「『合併症がっぺいしょう』ってわけね。今後も様子をみる必要がありそうだわん」

「ミーにゃん先生。ウチはなおるのにゃろうか?」

「まぁまぁ。とりあえず、おなかを、ぽんぽん、するわん。

 はい。服をあげてほしいわん」

「ミーにゃん先生。ウチは女の子なのにゃけれども、毛むくじゃらの身体にゃんよ」

「毛深いってわけね。でも、それは病気とはちがうから気にしなくてもいいわん。

 さぁ、やるわん」

 ぽんぽん。ぽんぽん。

「はい。それじゃあ、後ろにまわって。今度は『せなか』だわん」

 くるっ。

 ぽんぽん。ぽんぽん。

「はい。終わったわん。前を向いていいわん」

 くるっ。

「あのぉ。ウチはどうなのにゃろうか?」

 すらすら。すらすら。

「これでよし、と。カルテが書きおわったわん」

「あのぉ。ミーにゃん先生?」

「判っているわん。今、みたところ、『にゃあまん熱中症』に関しては、なおってきているわん。多分、『にゃあまん』が終わったからだと思うわん。ただ……」

「ただ? なんなのにゃん!」

 すくっ。ばたん! ぶるぶるぶる。

「いすをたおしちゃったわん。まぁ、落ちついて落ちついて」

「ミーにゃん先生! 早く教えてくにゃさい!」

「できれば、こんなせんこく(宣告)なんてしたくなかったんだけど……。

 かくごはいいわん?」

「は、はいにゃん!」

「実は……、『にゃあまん熱中症』が終わったことでね……。

 かくれていた『よもぎだんご熱愛症』が……ぶり返してしまっているわん!」

「にゃ、にゃんと! それでウチはどうすればいいのにゃん!」

 ぶるぶるぶる。

「だから、落ちついて、だわん。とりあえず、いすにもどってほしいわん。

 あっ、その前に。たおしたいすを元どおり立たせてほしいわん」

「これは……ウチとしたことがにゃんてはずかしいまねを。判ったのにゃん」

 がぐっ。すわっ。

「で、ウチはどうすればいいのにゃん?」

「ずばり、いわせてもらうわん。

 えびふらいとよもぎだんご。

 いぃい? この二つに関しては、食べる量について気を配る必要があるわん」

「というと?」

「えびふらいはもうちょっと多めに。よもぎだんごは今より少なめにするといいわん」

「どっちも多めに、ってわけにはいかないものにゃろうか?」

「現代医学では、まだ無理だわん。後世に期待するしかないわん」

「そうにゃのか……」

「あと、えびふらいとよもぎだんごを買うにあたって注意することがあるわん」

「にゃ、にゃにゃにをこの上……」

 びくびく。がたがた。

「ふるえるほどのことではないわん。

 当然のことだけど、ネイルさんとお財布とよく相談する。決して無理な買い物はしない。

 その上で、今しゃべった、身体に正しい量を買う。どう? 判ったわん?」

「そんにゃあ……。えびふらいは高いからちょっとしか買わないにゃろうし、よもぎだんごは安いから、いっぱい買うにゃろうし……」

 ばん!

「うわっ! ミーにゃん先生。カルテで机をたたくのはどうかと思うのにゃけれども」

「そんなだから、『えびふらい欠乏症』と『よもぎだんご熱愛症』に今なお、なやまされつづけているんだわん! もっと自分の身体を大切にしたほうがいいわん!」

「……判ったにゃん。いろいろと努力してみるのにゃ」

「ふぅ。判ればよろしいわん。

 じゃあ、お薬は出しておくわん。お大事にねぇ」

「ミーにゃん先生。ありがとうございました、にゃん」

 すくっ。

 つかつかつか。つかつかつか。

 がちゃ。

 つかつか。

 くるっ。

「じゃあ、またにゃん」

 ぺこり。

 がちゃ。

「ふぅ。やっと終わったわん。……はぁい、次の方ぁ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ごろごろごろ。ごろごろごろ。

「ふにゃあ、にゃんだか……。ふわぁぁんにゃ」

 ごろごろごろ。

「ちょっと待ってよ、ミアン」

「ふわ……。なんにゃ? ミーにゃん」

「そんなに、ごろごろ、されたら、アタシが困るわん」

「ミーにゃんが? どうしてなのにゃん?」

「ごろごろ、はアタシの専売特許だわん。大体、ミアンが、ごろごろ、すると、アタシがせなかで、ごろごろ、できないわん」

「ウチのせなかはウチのものであって、ミーにゃんのものではないのにゃよ」

「そんなぁ。いまさらひとりじめなんて、ずるいわん」

「ずるい、っていわれてもにゃあ……」

 すたすたすた。

「あっ、ネイルにゃん。洗いものは終わったのにゃん?」

「ええ。全部洗いおわってかたづけましたよ」

「ごくろうさまにゃん」

「ミアン! 大事な話をしているのに、どうしてネイルさんとおしゃべりしちゃうのよ。合点がいかないわん。ぷんぷん!」

「大事な話?

 ミアンさん。ミーナさんがおこっているみたいですけど、なにかあったんですか?」

「それが聞いてほしいのにゃん。ミーにゃんったら、ウチのせなかを自分のものにゃと主張しているのにゃよ」

「へっ? ミアンさんのせなかを、ですか?」

「うんにゃ。そうにゃよ」

「へぇ。せなかを、ねぇ……。どれどれ。……よいしょ、と」

「ネイルにゃん。ウチをだきあげてどうするのにゃん?」

「どうするって……、ただ顔に」

 すりすりすり。

「このせなかがミーナさんのものであるはずがないじゃありませんか」

「にゃろにゃろ。ほら、ミーにゃん。ネイルにゃんの言葉を聞いたにゃろ?」

「ぷんぷん! そんなはずはないわん! アタシとミアンはね。何百年も『精霊の間』で過ごした親友同士なのよ。ミアンのせなか、とだって同じぐらいのつきあいだわん!」

「あのにゃあ、ミーにゃん」

「もはや、ミアンのせなかはアタシの一部といってもいいわん。ミアンのもの、ってつまらない『りくつ(理屈)』だけで、おめおめと引きさがるわけにはいかないわん」

「つまらにゃい『りくつ(理屈)』って……。

 ちっちゃい子じゃあるまいし、無茶をいうものじゃにゃい。にゃあ、ネイルにゃん」

「ミアンさんのいうとおりです。ミーナさんのものじゃありません」

 すりすりすり。

「僕のものです」

「にゃ、にゃんと!」

 すりすりすり。

「ほら、このなめらかさ。このしょくかん(触感)。まさに僕ごのみです。ぼくのためにあるといっても過言ではないでしょう」

 すりすりすり。

「ひどいわん、ネイルさん」

 びしっ!

「今すぐにでも、ごろごろ、したいのよ。なのに、そんなに密着されたら……、

 アタシの入るすき間がないわん!」

「だから、ミーナさん。これは僕のものですよ」

「ちがうわん。さっきもいったとおり、昔からアタシのものだわん」

「僕のものです!」  「アタシのものだわん!」

「僕のものです!」  「アタシのものだわん!」

「僕のものです!」  「アタシのものだわん!」

 ……。        ……。

 ……。        ……。

 ……。        ……。

「はぁはぁはぁ」   「はぁはぁはぁ」

「こうなったら」   「こうなれば、だわん」

 くるっ。       くるっ。

「ミアンさん!」   「ミアン!」

「僕のものですよね!」「アタシのものよね!」


「ウチのものにゃん!」

「ええっ!」     「そんなぁ、だわん!」


「……まったくぅ。ミーにゃんといい、ネイルにゃんといい、困ったものにゃん」

 すりすり。すりすり。

「本当に困ったものですよね」

 すりすり。すりすり。

「にゃからネイルにゃん。ウチのせなかはウチの……。

 うん? どうしたのにゃ? ミーにゃん。にゃんか、うずうずした感じで、ウチの前につっ立っているのにゃけれども」

「ミアン。次はアタシの番だからね」

「アタシの番? それってなんにゃ?」

「説明するまでもないわん。ミアンのせなかで、ごろごろ、って、たわむれることに決まっているじゃない。ネイルさんが終わったら真っ先にやらせてもらうからね。気のすむまでつづけたいわん」

「あのにゃあ、ミーにゃん。アタシの番もにゃにも……。

 うっ! にゃ、にゃんと!」

「どうしたの? ミアン。アタシの後ろになにか……」

 くるっ。

「うわっ! これはすごいわん!」


 ずらぁりぃ。


「それじゃあ、ミーナの次はあたいだな」「ラミアにゃん。あんた、いつの間に」

「もち。ラミアさんの次はあちきだよ」 「レミナにゃんまで」

「では、次は我だな」         「セレンにゃん……」

「私もお願いできますか?」      「マリアにゃん。あんたまでが」

「オレっちは?」           「ソラにゃん。あんたがここに来るにゃんて」

「よしこ、もねっ。なんか面白そうねっ」「よしこにゃん! どうやって過去に!」

「わじもいるもじ」          「文字食いにゃんもやってきたのにゃん!」

「こうはいさん。わたしはだめかなぁ」 「あんたは……まさか、フローラにゃん?」

「ワタクシはいけません?」      「レイナスにゃん。ここは湖じゃないにゃよ」

「それならワタシも」         「イオラにゃん。あんた、どうやってここへ」

「わらわもぜひ、試してみたいものじゃ」「銀霊にゃん。いつ復活したのにゃん?」

「余は……」             「ガムラにゃん!」


「あっ! ミアン、見てよ。屋台もずらりとならんだわん!」

「にゃ、にゃんと! えびふらいとよもぎだんごも売っているのにゃん!」


 がやがやがや。ぞろぞろぞろ。


「すごい人だかりにゃん。にゃあ、ネイルにゃん」

「すごい店ぞろいだわん。ねぇ、ネイルさん」

「そんなぁ。……無茶というか、無理ですよ」

「どうしたの? ネイルさん」

「みんにゃが集まってくれたのに、うれしくないのにゃん?」

「いや、みんなが集まったから、とかそういうことじゃなくて」

「じゃあ、なんなの? さっぱり判らないわん」

「ウチにも判るように説明してほしいのにゃん」

「じゃあ、いわせてもらいます。

 お二体ふたりさん。お忘れのようですが、この部屋……、

 はちじょうひとま(八畳一間)なんですよ」 

「あっ!」「ふにゃあ!」


『あっ!』


「全員でおどろかれましても……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「さてと。それじゃあ、最後の最後まで一気に話を進めちゃいますか」

「ということは……はっ!」

「ウチらが今度、こうやって話をするのは……はっ!」

「ミアン。なんか、わくわく、するわん」

「ミーにゃん。にゃんか、どきどき、するのにゃん」

「どうやら、判ったみたいですね。

 このお話の最初。つまり、プロローグは僕たちの話でした。なら当然、終わりだって。

 本文のようで……本文じゃないようにも思える。

 本文じゃないようで……実は立派な本文。

 さぁ、ミーナさん。お話的には、ほんのちょっとあとになりますが、あなたが主人公にもどるお題の紹介をお願いします」

「え、えへん! ネイルさんのいうとおりだわん。アタシこそ本当の主人公だわん!」

「ミーにゃん。おおとりの話にゃ。しっかりとたのむにゃよぉ」

「わ、判っているわん!」

 どっきんこ。どっきんこ。どっきんこ。どっきんこ。

「ミーにゃん。白くすきとおった顔が、今は真っ赤になっているのにゃよ。

 こうふんしすぎと思うにゃ。深呼吸をして落ちつくといいのにゃん」

「ありがとう、ミアン。やってみるわん」

 すぅぅっ、はぁぁっ。すぅぅっ、はぁぁっ。

「どうにゃん?」

「すごいわん。おどろくほど落ちついてしまったわん」

「よかったじゃにゃいか。にゃら、たのむにゃよ」

「ううぅん。でも、やっぱり最後のお題だから、みんなでいっしょにいわない?」

「ミーナさんがそういうのであれば」

「ミーにゃんのいうとおりにするのにゃよ」

「決まりね。それじゃあ、ミアン、ネイルさん。いぃい? いっしょにいくわん。

 せぇのぉっ!」


『エピローグ「雨がやむ」!』


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