第十話『かえんりゅう(火炎竜) その一』‐②
お兄ちゃんたちのところへもどったその時、大きな声が聞こえてきた。
「きんきゅう(緊急)放送です。全員、ちかごう(地下壕)にひなん(避難)してください。くり返します。全員、ちかごうにひなんしてください」
「お兄ちゃん、これは」
「村役場からの指示です。非常の場合に備えて村中に設置してある拡声器から、いっせいに流れています」
「過去にも予想すらできなかった災害に見まわれたため、村が多大の被害をこうむったことがある。『死の灰』と呼ばれるふんえん(噴煙)もしかり。かえんりゅう(火炎竜)もまたしかり、だ。ちかごう(地下壕)はこれらを教訓として造られている。(たいきゅうせい)耐久性はかなりあるはずだが、果たしてどこまで霊火にたえられるか。それが心配だ」
(セレン先生が不安を口にしている。『霊火』ってそれほど強い力なんだ)
村にはそれほど高い建物がないため、地上にいても、はるか向こうまで見わたせる。
「うわぁ!」「急げ! 早くにげないと、やられちまう!」
「おぎゃあ! おぎゃあ!」「あっ!」
にげまどう村人たちの姿が目に映る。次々とひなんする中、遠くの上空を飛んでいる黒竜の口が開いた。
ぶうおおおお!
「あ、あれが!」
わたしは絶句する。
火事とはひかくにならないほど、強い光を放つほのお(炎)、『霊火』。それが今、わたしの大好きな村をおそっている。霊火に飲みこまれた家や建物、そして田畑は、いっしゅんにして焼きつくされた。直接浴びなかった場所でも火の手があがり、燃え拡がりつつある。
「おぉい。大丈夫かぁ!」
聖竜のミレイに乗ってラミアさんがかけつけてきた。
「幸い、この近くでは、まだひがいはなさそうだが……」
セレン先生はそれ以上、言葉がつづかない。ここにいるだれもが、その強き力の前にあ然とするしか成す術がない。
「なんてすさまじい力なんだ……」
しょうど(焦土)と化した大地を見てラミアさんがつぶやく。
「先生、なぜ、あんな竜がこの村に?」
「ネイル。これは古くから村にいい伝えられている話で、決して確かだとはいえないのだが」
こんな前置きをして、セレン先生は話を始めた。
「はるか昔にもやはり、これと似たようなことがあったらしい。黒竜が……実際は、黒かっ色なのだが……とつぜん現われ、やがて『霊火』を身体にまとった竜、かえんりゅう(火炎竜)へと成長、人の住む区域を焼け野原にしたという」
わたしは彼女の話に、はてな? と思うものを感じた。話というのは妙なもので、判らないことをそのままにしておくと、それを土台として進めた話も当然、判らない。さらにその上の話も判らない。判らない、がどんどん積みあげられる。話が判るようになりたい、と思えば、話の意味を下へ下へと順に聞いて、最初の判らなかったところまでたどりつかなければならなくなる。これでは質問するほうはもちろん、答えるほうもたまらない。だから、判らないことは早めに聞いちゃえ、とばかりにたずねてみた。
「人の住む区域? じゃあ、森なんかは?」
「村の守護神といわれる精霊イオラ。彼女の造りだした霊波シールドのおかげで守られたのだそうだ」
「どうして人は救ってくれないの?」
「彼女のシールドの中で生きていけるのは、この村に元々すんでいる生き物や霊体だけだ。だが人間はちがう。ほかの天体並びにほかの世界からの移民がほとんどというのが現状。つまり」
セレン先生は口をつぐむと、急におごそかな顔になった。再び開いた口から出た言葉は。
「人間を守れるのは人間しかいない、ということだ」
セレン先生の言葉にラミアさんがなにかを想いだしたみたい。
「かえんりゅうか……。そうそう。あたいも、じいさんとばあさんから聞いたことがあるな。てっきり昔話だとばかり思っていたんだけど」
「僕は知りませんでした。それで先生。どうやって、その時は退治したんでしょう?」
(わたしも知りたいな。一体、あんな化けものをどうやって?)
「ネイル。君も聞いたことがあるだろう。はるか昔、ウォーレスの地上からこの村へ、どす黒いふんえん(噴煙)がわきあがってきたという話を」
「それはもう。小さいころから、たびたび聞かされている話ですから」
「あの竜が現われたのは、その直前だったらしい。当時、この村には五体の『森の精霊』がいたそうだ。彼女たちによってこの村は守られたと、記録には残っている」
「『森の精霊』がいたっていう話も聞いています。でもどうやって?」
「『銀霊の森』には……今では『銀光虫の森』と呼ばれているが……村で一番大きな湖『恵那』が横たわっている。この湖をたたえるぼうだいな霊水から、(すいひりゅう)水飛竜を造りだして戦わせたらしい」
「なるほど。かえんりゅうの『霊火』に対し、すいひりゅうの『霊水』で応戦したわけですね。
……待ってください。『霊水』なら、雨神フーレが使えるじゃありませんか。レミナさんにたのめば」
「あのな、ネイル」
ラミアさんがあきれたような顔でふり返る。
「よく想いだしてみろよ、フーレの身体を。水をいっぱいおなかにためて、さも、重そうに動きまわるあのさまを。戦いなんか絶対に向かないぜ。あれは。
それにだ。フーレに万が一のことでもあったら、それこそ大変じゃないか。この村で水を供給する手段がとだえてしまう。それこそ、この村の終わりだ」
「それはそうですが……。でもラミアさん。現在、この村には、『森の精霊』はいないんですよ。一体どうやってあれと戦ったらいいんですか?」
「ネイル。あたいに聞くなよ。それを知りたいのはこっちなんだから。なぁ、セレン。なんかいい案はないのか?」
「それなんだが」
うでを組み、考えこむ仕草をしていたセレン先生が口を開く。でもそれは、ラミアさんへの答えじゃない。お兄ちゃんへの問いかけだ。
「ネイル。本来、『霊水』っていうのは、どういう時に使うものだろうか?」
「えっ。……もちろん、『浄化』を行なうため、だと思いますけど」
「そのとおりだ。かえんりゅうをほろぼすには『浄化』しかない。だが、今はまだ黒竜だ。こうげき(攻撃)呪法だけで十分足りると思う」
「じゃあ、村の呪術師みんなでやれば」
「ネイル。今、病院がどういうじょうきょうにあると思っているのだ。村中の呪術師が応援にかけつけてはいるが、いりょう(医りょう)をほどこすことができる水準にある者は、未だほんのわずか。それに引きかえ、かんじゃの数は増える一方だ。かんじゃをみるのが精いっぱいで、黒竜対策にまでまわすよゆうなど、どこにもありはしない。現に我らもこのいそがしいさなか、無理をいってやっと出てこられたのだ」
「あっ、そうだ。それについて先生にぜひとも聞きたいことが」
「なんのことか?」
「応援に来た先生方から許しをもらえた、っていっていましたよね。あんな、ねこの手も借りたいようなじょうきょう(状況)で、どうやって説得したんですか?」
「むろん、心をこめてだ。我はこの病院の院長ではあるが、今、ちりょう(治療)にあたられている呪医のお歴々からすれば、ただのじゃくはいもの(若輩者)にしかすぎないからな」
「そういわれますが、僕が見たかぎりでは、なにかぼそっと、ひとことつぶやいただけ、みたいな感じでしたよ。一体どんな言葉をかけたんですか?」
「言葉は短くても思いはこめられている。それで十分だと思うが」
「でもふしぎですね。それを聞いた先生方はみな、一様に立ちすくんだような格好になって、無言のまま、こくこくとうなずくだけだったじゃありませんか。僕はあらためて先生に敬意を表します。その短いながらも説得力に満ちたお言葉。どうか、後学のためにぜひともお聞かせください」
「……どうしても聞きたいのか?」
「はい、先生」
「我は君の師だ。弟子が教えをこおうとしているのに、無下に断るわけにもいくまい。
言葉そのものはいたって簡単。無表情のまま静かに。だが、いげん(威厳)をもって告げた。
『病院とともに灰になってもよいのか?』とな」
「先生。それは説得じゃありません」
「では、なんだと?」
「ただのおど(脅)しです」
(うん。わたしもお兄ちゃんと同じ意見だな)
「なんと! だが、だれもそんなことをひとことも口には」
「病院の院長に、面と向かっていえるわけがないじゃないですか」
「なるほど。それにしても言葉というものは難しいものだな。同じ言葉でも、送り手と受け手ではかなりの差があると見える。まぁ、今、それを論じても仕方がないが。
理由はどうであれ、こうやって外に出られたのはまちがいない。直ちに黒竜へ向かうとしよう」
「先生。今もいいましたが、ほかにも呪術師は集まっています。みんなといっしょに行きましょう」
「ネイル。いりょうにもたずさわれない、未熟な呪術師がいくら集まってもむだだ。とてもではないが黒竜にたちうちなどできるはずもない」
「うっ……。相も変わらず、手きびしいものいいで。まぁ、そういわれればそうですがね。じゃあ、どうするんですか?」
「我らだけでやろうと考えている」
「我らだけって……。ちょっとおたずねしますが、まさかそれって、僕と先生の二人だけ、っていう意味じゃありませんよね」
「察しがいいな。そのとおりだ」
「それで無理矢理、ここに連れてきたんですね。このいそがしい時に」
「うむ」
「いや、簡単に二文字だけでこうてい(肯定)されても困るんですが……。
それで具体的には、どうやって戦うおつもりですか?」
「まずは黒竜に近づいてみようと思っている。ネイル。君には後方での援護をたのみたい」
「近づくって……なんのために?」
「君が黒竜の動きをけん制している間に、我は霊装具にて『こうは(光刃)』をやつの体内に流すつもりだ。これでほろぼせれば、と期待している。だがむろん、だめな場合もある。その時はまた、別な手を考えるしかない」
「僕は反対です。先生に、もしものことがあれば、村のかんじゃさんはだれがみ(診)るんです? 僕やほかの呪医では対応できないかんじゃさんが、すでにいっぱいいるんですよ」
「だが、黒竜はいずれ火炎竜になる。そうなったら、おそかれ早かれ、村はぜんめつ(全滅)だ。それならここは勝負に出たほうがいい」
「あたいもそう思うな。黒竜をほろぼさないかぎり、村に明日はない」
(ラミアさんもセレン先生と同じ意見かぁ。お兄ちゃんはどうするのかなぁ)
ふり向こうとする寸前、お兄ちゃんの声が聞こえてきた。
「先生。だったら、逆にしましょう。僕が黒竜の近くへ行きますから、先生は後方での援護をお願いします」
「ネイル……。だが、それでだめだった場合は」
「もちろん、先生のお言葉に従います」
「判った。そうしよう」
「どうやら決まったみたいだな」
ラミアさんはそういって、わたしのかたを、ぽん、とたたく。
「じゃあ、フローラ。行こうか」
「うん。……お兄ちゃん、行こう」
ラミアさんとセレン先生はミレイに乗って大空へ。わたしもお兄ちゃんを後ろに乗せると、アリアのつばさをはためかせた。
黒竜は、後ろから近づいてくるわたしたちに気がついたみたい。ゆっくりとその巨体を動かし、顔をこちらへ向けようとしている。
セレン先生が開いた右手を前に差しだす。
「出でよ、霊装具『攻盾霊』!」
彼女が見つめる空の一角。現われたのは、五角形の巨大な銀色の『たて(盾)』。
(でも……『たて』というよりは、うすいまく(膜)みたい。向こう側がすけて見えるもの)
「先生」
「うむ。準備は整った。いつでもいい」
二体の聖竜がかたを並べて空にうかんだ姿勢をとった。アリアではお兄ちゃんが、ミレイではセレン先生が、それぞれ立ち姿となる。
「じゃあ、僕に任せてください」
お兄ちゃんは自分の身体をあお(蒼)き霊波で包み、アリアからはなれる。
「フローラはここにいてください。なにかあったら大変ですから」
「お兄ちゃん……」
(わたしは水の妖精。なんとかしてお兄ちゃんの力になりたい。でも、ここには水がない。わたしに今できることっていったら、お兄ちゃんが無事であるよう、祈るしかないんだ)
「判った、お兄ちゃん」
黒竜は近づこうとするお兄ちゃんに気がついて口を開こうとする。
「そうはさせない!」
とはいうものの、セレン先生はぴくりとも動かない。ただほんの少し、まゆを動かしただけ。
(一体どうするつもりなのかな?)
考えている間などなかった。五角の『たて』。その五つの頂点から同時に、霊力と思われる光線波が放たれる。
びぃぃぃぃっ!
五つの光線波は一つに集約。黒竜へと向かったものの、わずかにそれる。すると、今度は自分の番とばかりに、黒竜は口を開き、こちらへ霊火をはきだす。
ぶうおおおお!
ほのおは一直線にこちらへと向かう。でもその行く手には、セレン先生の『たて』が立ちふさがる。
ががぁぁん!
見事、霊火のほのおを食いとめた。しょうげき(衝撃)波の光が散乱するも、わたしたちには、けがひとつない。
「すっごぉい!」
わたしを思わず手をたたいた。見かけよりだいぶ強力みたい。セレン先生を見ているうちに、ふと、あることに気がつく。
「ねぇ。あれって霊装具よね。セレン先生は光る糸で操らないの?」
「光る糸? ああ、霊操糸のことか。それを使うのは見習いだけだ。霊装具を確実に操れるからな。だが」
セレン先生は再びまゆを動かす。
「我には、いや、『正規の呪医』には必要ない!」
びぃぃぃぃっ!
「思うだけで操れる。もちろん、一体だけではない。呪術師の力量次第で何体でも!」
びぃぃぃぃっ!
「動かすことが可能だ!」
びぃぃぃぃっ!
『こうげき(攻撃)』を防いだあとは『はんげき(反撃)』、とばかりに光線波が連続して放たれ、黒竜の顔面をねらいうちした。
ずががぁぁん!
「やったぁ!」
一発が命中。黒竜の頭がのけ反るさまをまのあたりにする。
「出でよ、じゅうそうれい(獣爪霊)!」
いつの間にか、お兄ちゃんは黒竜のせなかに立っていた。呪の言葉とともに、いつか見た霊装具が現われる。
ぐさっ! ぐさっ!
けものような前足のつめ(爪)を黒竜の頭としっぽに食いこませた。
「光刃伝達!」
お兄ちゃんの指十本から同時に、まぶしい光が霊操糸を伝って霊装具の前足へと注がれていく。みるみる間につめが強く輝きだした。
「お兄ちゃんは一体なにを?」
わたしのつぶやきを耳にしたのだろう。セレン先生が声をかけてきた。
「霊波の中でもっとも強い力、『光刃』を黒竜の体内へと流しこんでいる。うまくいけば、やつは切りきざまれてふっ飛ぶ」
「それって……終わりってこと?」
「そうだ」
セレン先生の目がほほ笑んでいる。わたしもほほ笑みかえした。
「やったぁ。お兄ちゃん、がんばれぇ!」
わたしは手をふって応援する。
「きぃぃうぅ!」
黒竜はうなり声をあげてもがこうとするも、頭としっぽを霊装具でおさえられているため、身体はほとんど動かない。身体のすみずみに、光のすじ(筋)がうかびあがってくるのが判った。それと同時に、身体全体がふくらんでくるのも。
(いよいよかも)
わたしは黒竜の最後を見届けようと、成りゆきをじっと見つめる。ところが思いがけない事態が起きてしまう。
ずばぁぁん!
光のすじから、いきなり霊火がふきだされた。
「お兄ちゃん!」
足元からもふきだし、お兄ちゃんは霊火のほのおに包まれる。力がとぎれたせいか、たちまち霊操糸の光が消える、と同時に、霊装具も姿を消した。
ぐわん。
身体が燃えたまま、お兄ちゃんは気を失ったような姿で、黒竜のせなかから地面に向かって落ちていく。とつぜんのできごとに、わたしは、ただただあ然とするのみ。
「ネイル! 今行くぅ!」
「はっ!」
セレン先生の声を聞いて我に返った。見れば、ミレイはすでに降下のさなか。
「ネイル!」「ネイル! 死ぬなぁ!」
セレン先生につづいて、ラミアさんのさけび声が聞こえてくる。『死ぬなぁ』の言葉が深くこのむねにつきささる。
「お兄ちゃん……。死んじゃだめぇ!」
思わずなみだが。わたしもすぐさまアリアであとにつづいた。
「うわぁんにゃ! うわぁんにゃ! ネイルにゃんが、ネイルにゃんがぁ!」
「死んでしまったわん! 死んでしまったわぁん! うえぇん! うえぇん!」
「…………」
「うわぁんにゃ! ネイルにゃあああん! うわぁんにゃ!」
ちらっちらっ。
「うえぇん! ネイルさあああん! うえぇん!」
ちらっちらっ。
「…………」
「……こらっ! ネイルにゃん。その態度は一体なんなのにゃん!」
「本当本当! こんなにが泣きまくっているっていうのに。
これじゃあ、まるでアタシたちがアホみたいに見えてしまうわん!」
「アホ……ですか。それじゃあ、やりますか」
ぱぱんがぱん!
「♪ 僕がアホならミアンさんもアホです。同じアホならおどらにゃそんそん。
ミーにゃん音頭で、どどんがどん! ♪」
『♪ あっそぉれぇ、そぉれぇっ! ♪』
「♪ ウチがアホにゃらミーにゃんもアホにゃん。同じアホにゃらおどらにゃそんそん。
ミーにゃん音頭で、どどんがどん! ♪」
『♪ あっそぉれぇ、そぉれぇっ! ♪』
「♪ アタシがアホならネイルさんもアホだわん。同じアホならおどらにゃそんそん。
ミーにゃん音頭で、どどんがどん! ♪」
『♪ あっそぉれぇ、そぉれぇっ! ♪』
ぱぱんがぱん!
「歌も合いの手も、きれいに決まりましたね!」
「ばっちし決まったにゃん!」「最高に決まったわん!」
ぱちぱちぱち。
「ところで、と。ウチらはにゃんでパクリまくりのミーにゃん音頭にゃんて始めたのにゃろう?」
「ミアン。自分で造っておいて、パクリまくりって認めないでほしいわん」
「ミーにゃん。これを造ったのはウチじゃにゃくて、第三世代後のウチにゃよ。それにゃら、にゃんで知っているのにゃん? と聞かれても困るのにゃけれども……。
まぁ、それはいいとしてにゃん。……あっ! そうにゃ、ネイルにゃんが!」
「あっ! そうそう ネイルさんが」
「生きていますよ。大体、このお話は過去に起きた、ようするに、想い出話です。しかも、お二体の目の前で、ずうっと今までしゃべりつづけているじゃありませんか。なのに、いきなり、死んだぁって。しかも、うそ泣きまでして。だれが聞いても、ばればれですよ。それなら、つきあう義理もないってことで、だまっていたんです。
お二体さん。どうしてそんなうそを?」
「決まっているじゃにゃいか。お話を盛りあげるためにゃん」
「そうだわん。イマイチ盛りあがりに欠けるお話をなんとかするには、手段を選んでいるひまはないわん」
「これはこれは。そんなに、このお話を気づかってくれていたとは。
大変、失礼なことをいいました。申しわけありません」
「うんにゃ。ウチらの努力が判ればいいのにゃん」「うん。判ればいいわん」
「にしてもにゃ。あんな目にあっているネイルにゃんが、にゃんで、のほほん、としているのにゃ」
「そうよそうよ。はっきりと納得のいく説明をしてほしいわん」
「ミアンさん、ミーナさん。今もいいましたとおり、これは僕の想い出。昔話ですよ。ぼくがここにいるってことは、とりもなおさず、だれかに助けられたから、に決まっているじゃありませんか」
「にゃあるほど。でもにゃ。だれに助けられたのにゃん?」
「あの時、僕の周りにだれとだれがいましたか? それを考えれば、別に答えなくても判ると思うんですが?」
「判ったのにゃん。ずばり、フローラにゃんにゃ。フローラにゃんの愛が『きせき』を生んだのにゃあ」
「あっ、それもいいですね。特に、『愛』というところが気にいりました。
さすがはミアンさん。どうでしょう? この際、思いきって話の内容を変えちゃいましょうか?」
「こらこら。アタシはちがうと思うわん。ここはうらをかいて、やっぱりネイルさんが自力で回復させたんじゃないかな」
「まぁ、それも悪くはありませんが……。ミアンさんの考えほどでは……」
「ネイルさん。ひょっとして、もう話の内容を変える気まんまんじゃないの?
もっと冷静になって考えたほうがいいわん」
「待て待て、ミーにゃん。今までどこにも出ていにゃかった者がとつぜん現われるってことも、ひょっとすると、起こりえるのかもしれないにゃん」
「というと? ミアンはだれだと思うの?」
「もちろん、ウチとミーにゃんにゃよ。最後の最後に、にゃあんのみゃくらくもにゃく、さぁぁっと、『すいせい』のごとく現われてにゃ。ネイルにゃんを助け、黒竜をたおして、めでたしめでたし、で終わるのにゃん」
「うん。それがいいわん」
「いいですねぇ。僕もそう思います。どうです? この際、黒竜との直接対決は、『にゃあまん』にやらせてみたら?」
「にゃ、にゃんと! にゃんとすぐれた考えにゃん。もうこれで決まりにゃん」
「ちょっと、にゃあまんはねぇ……。
でもまぁ、ミアンがそういうなら、アタシもいいわん」
「にゃら、正義の味方は、ウチとミーにゃんとにゃあまんにゃ。
ウチは、にゃあまんもやらなければならにゃいから、おおいそがしになるのにゃん」
「ミアン、大丈夫なの?」「うんにゃ。大丈夫にゃんよ」
「ずばり、『にゃあまん対黒竜』。
以降の話は、この内容に変更することで決まりましたね」
「決まったにゃん!」「決まったわん!」
ぱちぱちぱち。
どがどがどが!
「それで決まっては困る!」
「また出たにゃ。しんしゅつきぼつ(神出鬼没)の院長、セレンにゃんにゃ」
「どうしてセレンさんが困るの? さっぱり判らないわん」
「我の出番がなくなる。それはまずい。せっかく、せっかく出たというのに……くくっ」
「にゃあ、ミーにゃん。にゃんか悲痛なうったえ、みたいに聞こえるのにゃけれども」
「先生……。前にもいったと思うんですが、部屋に入るなら、げんかんでくつをぬいでからにしてください。そうじするのは僕なんですよ」
「ねぇ、ミアン。こっちも悲痛なうったえ、みたいに聞こえるわん」
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『にゃあまん高校 女教師にゃあまん「おとめにゃのに、にゃあまん!」』
「友だちを失った原因はにゃに? 答えをあかす第四話。いってみよう……にゃん!」
《
「ろうかをかけてはいけにゃい……。あぁあ。行ってしまったあとにゃった」
「先生」
「うん? なんにゃ? ミーにゃん」
「先生は、『ぱな』君たちが友を思うばかりにまちがったことをしたといったわん」
「そのとおりにゃん」
「アタシは、『ふつ』君も『にほ』さんも知らないわん。でも、『ぱな』君たちがなにをまちがったのか、さっぱり判らないわん」
「ミーにゃんも同じにゃよ。ただミーにゃんが心配しているのは、『ふつ』君や『にほ』さんじゃにゃい。助けようとしている『ぱな』君たちの方にゃ。彼らとは友だちなのにゃろう?」
「うん」
「それでにゃよ。やっぱり、友を思う熱い思いに目がくらんでしまったのにゃん」
「そうかなぁ。でも、どこがまちがっているの?」
「ミーにゃんは今回の救出に直接かかわりあっているわけじゃにゃいから、話しても大丈夫にゃろう。ちょいとお待ちにゃさい」
すたすたすたっ。
ごろごろごろごろ。
「お待ちどうさまにゃん」
「道具置き場からなにを持ってきたかと思えば……、
やっぱり黒板だわん。でも、なんに使うの?」
「もちろん、なにがまちがっているか説明するためにゃよ」
「へぇ。教えて教えて」
「まずは、と、にゃん」
4+ 2 =6
「なにこれ? 足し算?」
「そうにゃよ。生きものの持つ霊力は個々にちがうから、簡単な計算で、ってわけにはいかないのにゃけれども。理解するのには役立つと思って、とりあえず式で現わしてみたのにゃん」
「ふぅぅん。それで? この式にどんな意味があるの?」
「それはひとまずおいといて、にゃ。今回、友だち二人を助けるために必要だった力は五人分にゃ。つまり、『>=5』にゃらば、条件にかなうのにゃん」
「それはそうだわん」
「『ぱな』君が集めた人間は全部で六人。とにゃれば」
6 >= 5
「どうにゃ? 条件には十分かなっているはずにゃん」
「そうね。アタシもそう思うわん」
「ところがちがったのにゃ。『ぱな』君の頭では、黒板に書いた最初の式どおりの力をえられるはずにゃった。ところが彼が実際にえた力は」
4+(-2)=2
「そして……この結果をさっき書いた等号不等号式にあてはめてみると、にゃ」
2 >= 5
「ま、まちがっているわん!」
「そう。まちがっているのにゃん」
2 < 5
「実際にはこうなってしまったのにゃん。五人分の力すらなかったわけにゃよ。手にした力の量を誤解してしまったばかりに、また二人のぎせいしゃを出してしまった、というわけにゃん」
「でも、どうして『(-2)』に……。ああっ! そうかぁ。『陰』と『陽』だわん!」
「やっと判ったみたいにゃん。彼らがここに来た最初にもしゃべったと思うのにゃけれども、霊力には二つの種類があるのにゃ、陰の力はいうにゃればマイナス。陽の力はプラスにゃん。それぞれの力だけをあわせて使うのにゃら、黒板に書いた最初の式も成り立つ。ところがにゃ。陰と陽をあわせて使うと、力の相殺を起こし、逆に少なくなってしまうのにゃん」
「確かに聞いてみれば、霊力の初歩的な知識だからだれもが知っているし、足し算も簡単そのものだわん」
「ウチが『赤子にかみそりを持たせるわけにはいかにゃい』といった言葉。あれは、おおげさ?、それとも、まちがっている? ミーにゃんはどう思うのにゃん?」
「ううん。どちらでもないわん。正解よ。『ぱな』君たちの力は、集中力と判断力がともにきわめた状態の時でしか正常に働かない。こんな簡単な答えも出せないほどのこうふん状態にあるとすれば、絶対に使っちゃいけないわん。不幸な、いや、恐ろしい結果をまねくだけだわん」
「うんにゃ。判ってくれて、なによりにゃん」
「……ねぇ、先生」
「なんにゃ? ミーにゃん」
「『ぱな』君たちはうまくいくのかなぁ?」
「さぁ?」
「さぁ、って……」
「ミーにゃん。前にもいったにゃろう? ねこはにゃ。未来を予測することはできるかもしれにゃい。にゃけど、知ることはできないのにゃよ」
「そうだけど……」
「でもにゃ。未来を信じることはできる。少にゃくとも信じられるだけの種はまいたつもりにゃ。あとは彼ら彼女らに任せるのにゃん。ウチらはただ、うまくかりとることができるよう、いのるのみにゃん」
「そうよねぇ」
「さぁ! こっちは決めポーズのつづきにゃあ!」
「ええっ! まだやるのぉ!」
「ウチは信じている。必ずできると」
「アタシには信じられないわん……。確かに、みんな熱意だけはあるみたいなんだけど」
「にゃにかひとつが足りにゃい。そういいたいのにゃろう?」
「そうなの。それがなんだか判らなくて……、本当、困ったわん」
「確かににゃあ。困ったものにゃん」
ふぅ。ふぅ。
『ふぅ』
「こらぁっ! 全員そろって、ため息なんかつくにゃあ!」
がらがらがらっ。
「大変です! にゃあまん先生!」
がらがらがらっ。
「どうしたのにゃ? そんにゃにあわてて。かでん高校の女教師マリアにゃん」
「うちの生徒たちが暗黒魔境の友だちを救おうとしたんです。ところが」
「……失敗したのにゃん?」
「いいえ。それは成功しました」
ほっ。
「それはよかったにゃん」
「それがあまりよくないんです」
「どうしてにゃ?」
「助かったのはいいんですけど……。
それでうかれすぎて、私の授業を全然聞いてくれません。これじゃあ、困ります。なんとかしてくださいませんか?」
「にゃんでウチが?」
「聞けば、にゃあまん先生の助言により、助けだせたのだとか。だったら、そのせいで被害をこうむっている私にも愛の手をいただけやしないかと」
「『愛』といえば、最近、ネイルにゃんとは?」
「それがあんまり。会う機会もなかなか……って、そんなことはどうでもいいんです。いや、どうでもよくないですけど、今はいいんです。それより、早く助けてください」
「やれやれ。しょうがにゃい。ほかの高校とはいえ、助けを求めにきた者をみすみす見殺しにはできにゃい。となればにゃ」
ひゅぅっ。ひらり。
「あっ。にゃあまん先生のせなかに黄色いマントが!」
「手にはよもぎだんごをにぎっているわん!」
「まさか……、にゃあまん先生が」
「にゃはははっ。今、時は来たり、にゃん!」」
がじっ。ぶずぶずぶずぶずぶず。
「ああっ! ミーナさん、見てください。
にゃあまん先生がだんご全部を口の中に入れてしまいましたよ」
「なんていうあざやかな手つき、いや、口つき。もうまちがいないわん」
「それにしても、なんと見事な食いっぷりでしょう。見ていておそろしいぐらいです」
ぶるぶるぶる。ぶるぶるぶる。
「ふるえているにゃ。
どうやらウチの正体がおぼろげながらつかめたとみえる。にゃらば!」
ぴきぃん!
「おおっ! 高くかかげた『くし』が千六百七十七万とんで一色の変化を見せていますよ!」
「これはいよいよ、来るべきものが来たって感じだわん!」
「いくにゃよぉ! それぇっ! 『にゃあまん』!」
ぴにゃんにゃんにゃんにゃん!
「うわっ! すごい光ですよぉ!」
「まぶしすぎるわぁん!」
「満を持して、よもぎだんごの化身、正義と愛の戦士『にゃあまん』、ただいま参上にゃん!」
みっし。みっし。
「おとめにゃのに、にゃあまん!」
ずんぐりむっくり。どぉんどぉん! ずんぐりむっくり。どぉんどぉん!
「にゃんと! 音楽教師にゃから、身体を表わす音も、にゃかにゃか音楽っぽいにゃん」
「それって関係ないと思うわん」
「にゃあまん先生が、よもぎだんご、いえ、『にゃあまん』だったなんて……」
「まさに、うらのうらをかかれたって感じだわん」
「うらのうら? なるほど。ミーナさんは『おもて』っていいたいんですね」
「ぴぃんぽぉん! だわん!」
「マリアにゃん。おしゃべりをしているひまがあったら、早くウチのうでの中に」
「えっ。あっ、はい。……うわぁっ。なんかぷよぷよ。一体どこを持ったら」
「出発にゃあ!」
ずぼぼぼぉっ!
「待ってよぉ。アタシたちはどうなるわぁん?」
「帰ってくるまで自習にゃ。しっかりと決めポーズを完成させるのにゃよぉ!」
「そんなぁ! 無茶だわぁん!」
ずぼぼぼぉっ!
》
「かでん高校の学生たちを元にもどすことができるのにゃろうか? 決めポーズはうまく決まるのにゃろうか? いよいよおおづめ。第五話にて最終話。血わき肉おどる最後を見のがすにゃん!
どうにゃった? 今回のお話は?」
「今回は説教じみたことがなくて、『大変よくできました』、だわん。
でもぉ、ミアンのいうとおり、簡単な最低学年の算数以外のなにものでもなかったわん。
これってどうなのかなぁ?」
「ねこあたまで一生けんめい考えたのにゃん。温かい目で、それでいいにゃよ、っていってもらいたいものにゃん。
……おや、セレンにゃんはどうしたのにゃん? 姿が見えないのにゃけれども」
「先生なら話のとちゅうで帰りましたよ。『聞くにたえない』とかいって」
「にゃんと! ウチの話のどこがいけないというのにゃん?」
「全部だそうです」
「全部にゃと?」
「高校生なのに簡単な足し算や引き算がができない? とか、よもぎだんごが戦士? とか、だれが聞いてもおかしい、道理に合わない、ってことで、これ以上、つきあいきれなかったそうです」
「そうかぁ。ウチなりに精いっぱい考えたのににゃあ……。ぐすっ」
「ミアン。そんなにしょげることはないわん。人それぞれよ。少なくとも、アタシはよかったと思っているわん」
「僕も、ですよ。ミアンさん。去る者は追わず。気にする必要はありません」
「ぐすっ。ミーにゃん、ネイルにゃん。ありがとうにゃ。ウチはあんたらに会えてよかった、とつくづく思うのにゃん」
「ほら、ミアン。これでなみだをふいて」
ふきふき。ふきふき。
「でもよかったですよ、今回は。なんせ、長々と僕たちを苦しめた、あの、説教がないんですから」
「そうね。ほっとしたわん」
「お姉ちゃんも特別参加できましたしね。ミアンさん、ありがとうございます。僕の話ではもう、お姉ちゃんの出番がないので、どうしようかなぁ、ってなやんでいたんです。おかげで助かりましたよ」
「いやいや。ウチもミーにゃんも、マリアにゃんには、お世話になっているしにゃ。ほんのお礼の気持ちにゃよ」
「アタシもその点はよかったと思っているわん」
「今日は久しぶりに、みんにゃ笑顔になったにゃあ」
「本当本当。久しぶりだわん」
「よかったですねぇ」
「にゃははは」
「あっははは」
「はははは」
「はははは……。あっ、そうだ……」
「ネイルにゃん。一体どうしたのにゃん? 急に暗い顔をして」
「せっかく、みんなが笑顔になったのにすみません。ミアンさん。これからしゃべることに気を悪くしないでくださいね」
「はて? なんなのにゃ? 一体」
「大変、申しわけありません。僕のほうの話は今までどおりとさせてください」
「にゃんと!」
「いやあ、先生が帰りがけにね。
『ネイル。君は見習い呪医のまま、首になってもよいのか?』
とまぁ、そんなことをおっしゃられまして。内容の変更ができなくなってしまったんですよ。ミアンさん。どうか、お許しを」
「にゃ、にゃんと! それにゃらウチとミーにゃんの出番は? にゃあまんの出番は?」
おたおた。おたおた。
「……すみません。ミアンさん、ミーナさん。つつしんでおわびします」
「そんにゃあ……」
がっくり。
「よしよし。ねこの一生にも山あり谷ありだわん。アタシがなぐさめてあげるわん」
「ぐすん……う、う、うわぁんにゃ! ミーにゃああん! うわぁんにゃ!」
「おぉぉ、よしよし。……ぐすん。……うえぇん! ミアァァン! うえぇん!」
「二体でだきあって……。今度は本当に泣いていますね。
ミアンさん、ミーナさん。いらぬ期待をさせて、本当に申しわけありませんでした」
ぺこり。




