第十話『かえんりゅう(火炎竜) その一』‐①
第十話『かえんりゅう(火炎竜) その一』
月日の経つのは早いもの。人間の世界に来て、はや、一年近くになる。一年を日で表わせば千日。つまり、わたしは千回ちかく、人間としてねおきしたことになる。当然、想い出もそれなりに増えてきた。
わたしは回想の世界に身を置いてみる。ここでのできごとが次から次へと想いだされてきた。喜ばれたりほめられたり、ばかりじゃ決してない。かんじゃに食事を配る際、ずっこけそうになって『おみおつけ』をこぼしちゃったり、かと思えば、たっぷりと水がたまった掃除用のばけつをろうかに勢いよく引っくりかえしたり。ささいな失敗をあげればきりがない。そのたびにセレン先生から大目玉をくらう。とはいっても、それは病院に勤めるようになってまだ間がないころ。今もやっているわけじゃ……。
(ないとは断言できないの。ああ、自分が情けない)
前に、お兄ちゃんがいっていた。『君だって人間を水害から守るために、その身体になってここに来たわけじゃないでしょう?』って。もちろん、そう。でも、ふり返ってみると、そういった想い出も多くよみがえってくる。
人は総じて水遊びを好む生きものらしい。空を飛ぶアーガから眼下に目を向ければ、必ずといっていいほど、だれかが川や湖で水とたわむれている。ごくたまぁに、おぼれている人も老若男女問わず、見かける。近くに助けようとする人がいなければ、わたし自身が水の中に飛びこむ。お兄ちゃんと、『妖精にはならない』と約束したあとも、それは変わらなかった。なんていうか身体が本能的に動いてしまう。
(でも、お兄ちゃんにはすぐにばれるんだよなぁ)
今じゃ身体を調べなくとも、外見とか顔の表情ですぐに判るらしい。会ったしゅんかん、
『またですか。しょうがないですねぇ』、みたいな顔でため息をもらす。百発百中。はずれた試しがない。さすがはお兄ちゃん、とあらためて感心する。特になにもいわないため、『あんもく(暗黙)のりょうかい(了解)っていうやつかな』とひとりうなずく。
小さな女の子を助けたこともあった。たまたまアリアに乗って空を飛んでいたわたしは真下の湖から人の気配を感じた。飛びこんだところ、こどもがひとり、も(藻)にからまれて動けなくなっていた。かけつけるのが早かったせいか、意識ははっきりとしている。会話もできた。聞けば、兄の誕生日なので、湖のめずらしい貝をとってきてプレゼントしようとしたらしい。大事を考え、とりあえずは病院でみてもらうことに。幸い、水を少し飲んだだけでほかには異常はなかった。彼女の兄が……病院から連絡を受けたのだと思うけど……心配顔で現われた。妹の無事な姿にほっとしたみたい。おぼれていてもしっかりと手ににぎっていた貝をプレゼントされ、彼は、ありがとう、といって妹をだきしめる。そんなほほ笑ましい二人を、お兄ちゃんと見ながら、『兄妹っていいなぁ』とわたしは思った。
お兄ちゃんと口げんかしたこともある。
おぼれた男の子を助けようとアリアから飛びこんだ際、かたわらに置いていた薬箱に足をぶつけ、川の中へと落としてしまう。中身は全てぶちまけられ、流れてしまった。わたしがそのことに気がついたのは男の子を助けたあと。あわてて病院にもどってことの次第を話した。『すぐには手に入らない薬だ。どうするつもりか』とセレン先生から、こっぴどくしかられた。お兄ちゃんからも、『配達の際は、まずそれを待っているかんじゃさんのことを考えてもらわないと。人によっては取り返しがつかないこともあるんですよ』と、いつになくきびしくいわれた。
『あの子の周りにはだれもいなかったのよ! セレン先生やお兄ちゃんはあの子が死んでもよかったの!」
思わずいい返した。かっとなって口論にもなった。多分、なみだぐんでもいたと思う。
(わたしの気持ちなんか、だれにも判りはしないんだ!)
『お兄ちゃんなんか、大っきらい!』
わたしはそういい捨てて、病院から飛びだした。アリアに乗ってやむくもに飛びまわる。ふと水がこいしくなった。川のほとりにこしをおろして水面をながめた。せせらぎの音に心が落ちつく。
(帰ってあやまろうか。でも、わたしが全部悪いわけじゃないしぃ……)
あれこれなやむわたしの目に、ある光景が映った。
川で仲よく泳いでいた男女二人が、なにやらいさかいを始めた。口げんかのあげく、男性が女性をつきとばす。女性は川に流された。追いかけようと泳ぎだした男の方も、岩に身体をぶつけて流されていく。わたしはすぐさま男性を拾いあげ、女性を助けるように、とうながす。しばらくすると、男性は女性をかかえて岸へとあがってきた。二人の間におたがいを思いやる気持ちが生まれたのだろう。仲直りをしていた。そんな二人を見て、自分にも悪いところはあったのでは、と反省、家路を急いだ。
お兄ちゃんは温かくむかえてくれた。
『さっきはいいすぎました。かんじゃのことばかりを考え、君の心を、君が子どもを助けた行動を軽んじて考えたのは、僕のまちがいです。許してください』と頭をさげた。
『ううん。いいすぎたのは私のほう。ごめんなさい、お兄ちゃん』とわたしもあやまった。よく考えてみれば、飛びおりる前に薬箱を足元から遠のけておけば、あるいは、取っ手部分をたづなにくくりつけておけば、落ちることはなかったはず。一刻も早くこどもを助けなきゃ、ってことで、薬を待つかんじゃやその家族をなおざりにしていたのかもしれない。それがほんの少しの気配りさえもおこたらせ、今回の失敗へとつながった。そのことにやっと思いあたった。
こうしてわたしとお兄ちゃんも仲直りした。
悲しいこともあった。病院に長い間、入院していた重病かんじゃのおばあさん。顔にきざまれているしわとくすんだかみの白さから、かなりのお年だと、ひと目でわかる。お兄ちゃんの話によれば、不治の病で、今、生きていること自体が『きせき』なのだとか。おばあちゃんと話をしてみた。小さいころ、湖でなくしたお人形さんが忘れられないのだという。おばあちゃんの失いかけている『きおく』をたよりに、湖『佐那』へ飛びこんでみた。探しものが人形なため、霊覚を強めてもどの程度感じるかは判らない。それでも探した。陽がかげり、あきらめかけた寸前、それらしきものの足が地の底から飛びだしているのを見つけた。引きあげてみれば、まさしくお人形。異星の服と思われるひらひらの服をまとった、きんぱつの可愛らしい女の子。大急ぎで病院へともどって見せた。おばあちゃんはことのほか喜び、お人形をほおにあてて、なみだを流した。もちろん、わたしにも、『ありがとう』って何度もお礼の言葉をくれた。
でもその翌日、おばあちゃんは死んだ。
『見つけないほうがよかったのかなぁ』とわたしがいうと、お兄ちゃんは、『いいえ。彼女は満足してこの世を去ったんです。ほら、顔をごらんなさい。幸せそうでしょ』と言葉を返した。見れば、お兄ちゃんのいうとおり、楽しい夢でも見ているかのような安らかなねがお。まくらの横にはきれいな姿になったお人形が置かれていた。
(もう心配しなくてもいいよ。彼女はいつまでもそばにいてくれるからね。おばあちゃん)
わたしはそうつぶやいた。
想いだせばきりがない。これらの想い出ひとつひとつがわたしのたからもの。そしてこれからもどんどん増えていく。そう思っていた。いや、そう思いたかった。
でも……、あいつが現われた。まるで終わりの始まりを告げる使者のように。
ある日のこと。岩石研究所のフィルさんが病院へ健康診断を受けにきた。
「たのむ、フローラ。しんだん(診断)が終わるまで、おれのいとこを預かってはくれないか?」
(いとこ? ああ、キヌちゃんか)
わたしはすでに面識がある。
フィルさんはキヌちゃんに、『中央区に住んでいる友だちに会いたい』とせがまれたらしい。それで、いっしょに来たのだという。
(今日はめずらしく配達がないから、つきあってあげるか)
わたしは軽い気持ちで引きうけることにした。
「いいよ、任せて」
そんなやりとりがあって、わたしは、キヌちゃんと遊ぶことになった。
キヌちゃんのかみ(髪)は短めで茶色。目が細くて学校をあがる前のこどもにしては、ちょっとおとなびた顔立ちに見えるかも。黄緑の作務衣を着ている。
「お姉さんお姉さん」
「なに? キヌちゃん」
「ままごとやらない?」
「ままごと? なんなの、それ?」
「ええっ! お姉さん、本気で聞いているの?」
おどろいたような表情でこちらを見ている。『じょうだん。知っているよ』といおうかとも思ったけど、子ども相手とはいえ、知ったかぶりをするのは性にあわない。
(ここは素直にうなずいて、教えをこうとするか)
「うん。判るように説明してくれるとありがたいんだけど」
「本当に知らないんだ……。じゃあ、教えてあげるね。ひとりがお母さん役。ほかはこどもとかお父さんとかの役になって、お食事をするの」
「へぇぇ。楽しみね」
(実際はこども同士の食事ってことになるんだろうけど、一体どんなものを食べるのかなぁ)
「ねぇ。公園でアムちゃんも待っているから、早く行こう!」
(アムちゃん? ええと……、ひょっとしたら、あの子かな。村長さんの孫で、マリアさんとは年がだいぶはなれた妹とかいう。それなら、わたしも会ったことがあるけど)
「あっ、いた。アムちゃぁん!」
キヌちゃんが手をふっている。相手も満面の笑みをうかべて手をふり始めた。
(そう、あの子だ。まちがいない。キヌちゃんの中央区に住んでいる友だちって、マリアさんの妹だったんだ)
わたしたちはアムちゃんのそばへたどりつく。公園内には、野原のような小さい葉の草が生い茂る広場もある。その真ん中あたりに大きな一枚布をしいて座っていた。
アムちゃんのかみも短め。だけど、こちらは前がみが、おでこのあたりでそろっている。色は黒で姉のマリアさんと同じ。くりくりとした目をこちらに向けている。着ている作務衣は明るい黄色。キヌちゃんより二才年下とか。こちらは年相応の可愛らしさを感じる。
「あっ。おかあちゃま、おねえちゃま、おかえりなちゃい」
(そうか。当然、わたしがお母さんになるわけよね)
「はぁい、ただいまぁ。お母さんでちゅよぉ」
(一応、相手にあわせたつもりだけど、これでいいのかな?)
「ちがうでちゅよ、おねえちゃま」
「そうよ、お姉さん」
キヌちゃんもアムちゃんと同じように、わたしを『お姉さん』あつかいしている。
「えっ!」
わたしがおどろいていると、アムちゃんが小声で耳打ちする。
「キヌちゃんが『おかあさん』なんでちゅ。おねえちゃんは『おねえちゃん』なんでちゅよ」
「えっ。でもわたし、あなたたちよりは年上に見えるんだけど」
「『げんじつ(現実)ときょこう(虚構)』には、らくさがあるんでちゅ」
「そ、そうなの?」
(アムちゃん。あなた、本当にこども?)
「二人とも。これから、ままごとの本番、お食事なのよ。私語はつつしんで。あと、気を引きしめるように」
ままごとのはずなのに、なぜか訓示をたれるキヌちゃん。
「えっ。あっ、はい!」
「はいでちゅ!」
(なにかしら。わたしの想像をはるかにこえる、きびしい世界のように思えるんだけど)
「では、お料理を並べますよ。これとこれと。あと、これとこれも」
「おかあちゃま。あれもわすれちゃだめでちゅよ!」
「あっ、ごめん。アムちゃん」
(お母さんにお説教……。アムちゃん。あなたが歩む現実の将来がなんか楽しみ)
「はい。これで配り終わったわ。じゃあ、食べましょうね」
キヌちゃんがおわんを手にしたとたん、アムちゃんがキヌちゃんの指をおはしでたたく。
ちゃきっ!
思わずおわんを落とすキヌちゃん。
「おかあちゃま。おしょくじのまえには、てぬぐいでてをふいてくだちゃい。あと、『いただきまちゅ』をいうのをわすれちゃだめでちゅよ!」
(アムちゃん。あなたって子は……。お母さん役のキヌちゃんですら、おどおどしている。
でも、……ふふっ。はんげきの機会を見つけたぁ!)
「アムちゃん。指をおはしでたたくのも、れいぎにかなっていないと思うんだけど」
「そ、そうよ。アムちゃん」
(あら。キヌちゃんが、『ありがとう』、みたいな顔をしている。ひょっとしたら、無理矢理アムちゃんにお母さん役を押しつけられていたんじゃないかな)
「…………」
(アムちゃんったら、無言でふくれっつらしている。ふふっ。やったぁ。勝ったのよ、ついに)
わたしはひそかにこぶしをにぎりしめ、ほくそ笑んだ。
「こ、これは、きょういくてきしどう(教育的指導)でちゅよ」
(あれっ。今度は苦しまぎれないいわけを始めた。よぉし、それなら)
「でもね、アムちゃん。人をたたいた場合、たたかれた相手がどう思うかで変わってくるんじゃなぁい? キヌちゃんはどう思っているのかなぁ。『教育』って思ってくれれば、アムちゃんのいうとおり。だけどね。『暴力』って思ったとしたら? もうその時点で『教育』じゃない。『暴力』でしかなくなる。
どう? アムちゃん。わたしのいっていること、まちがっているかな?」
「……おねえちゃま」
「なに? アムちゃん」
「せいろん(正論)でちゅ。まけまちた」
(おおっ! 大人顔負けの、なんといういさぎよさ。この子の将来がぜひ、見てみたい!)
わたしは感動して思わずはくしゅをする。つられたように、キヌちゃんやアムちゃんもはくしゅを始めた。
(わたしのまね? ううん。こどもってよく判らないなぁ。かしこいかと思えば、大きい子のまねをやって喜んでいる。わたしには手に負えそうもないや)
「では、いただきます」「いただきます」「いただきまちゅ」
お母さん役のキヌちゃん、わたし、アムちゃんの順で、食事のあいさつをした。
わたしはおはしとおわんを持ち、食べようとした。だけど……。
「キヌちゃん」
「フローラちゃん。お母さんのことをそんないい方をしたらだめでしょ」
わたしはキヌちゃんにお説教を食らう。
「あっ、はい。あのぉ、お、お母さん」
「はい、なんですか?」
にっこりとほほ笑むキヌちゃん。
(うぅん。こっちもなんか手強い)
「おわんの中、なにも入っていないよ」
「入っているじゃない。ごはんもおかずも」
「えっ、どこどこ?」
必死でおわんを見つめる。でも、なにもない。
「おねえちゃま」
ここでアムちゃんのつっこみが始まった。
「さっき、いいまちたでちゅよね。『げんじつときょこう』について」
「じゃあじゃあ」
わたしはアムちゃんにたずねる。
「本当は食べないの?」
「あたりまえでちゅ。『ままごと』はおあそびのいっしゅでちゅよ」
「なあんだ。そうだったの」
ここでやっと、わたしは自分のかんちがいに気がついた。
(もうやってらんない)
「やぁめた。いちぬけた、っと」
わたしはおはしとおわんを放りなげる。
「こらっ、おぎょうぎが悪い!」「はんせいしなちゃい!」
「……ごめんなさい」
わたしはこどもたちにしかられた。
それはとつぜん、起こった。
ぼががぁぁん!
「な、なんなの、あれっ!」
とつぜん、大きな音がしたと思ったら、ものすごくでかいかたまりが上空へとまいあがる。
「こわいでちゅ、おねえちゃまぁ!」
アムちゃんがわたしにだきついてきた。
(ふふふ。さっきとはちがって、まるでこどもみたい。あっ、こどもか)
「お姉ちゃん、こわい!」
(今度はキヌちゃんか。あれっ、でも)
「お母さん。わたしはお母さんのこどもで、お姉ちゃんじゃなかった気がするんだけど)
「おねえちゃま」
「なによ、アムちゃん」
「いま、『ままごと』はちゅうだんしているんでちゅよ。これはげんじつでちゅ」
「あっ、そうなの?」
(そうか。わたしは現実の世界にもどってきたのね)
「でも、お兄ちゃんから聞いたことがあるよ。ああいうガス状のかたまりは、わたしたちの目に届かないだけで、一日に何回もあがっているって」
「そうだけど、あれはちがう!」
キヌちゃんは強くわたしにしがみつく。
「ちがうでちゅ。いつもはどんなにいきおいがつよくても、ここまではとんでこないでちゅよ。それに、あんなにおおきくなんかありまちぇん」
アムちゃんもこわがっている。
(じゃあ、なんなの、あれは!)
わたしも急に不安になってきた。
天空の村。そのはるか下には、惑星ウォーレスの本体をおおいかくすような暗雲が拡がっている。そこから飛来したと思われる大きなかたまり。黒かっ色のガスに包まれたその中からは、まがまがしい光が放たれている。
「なんだ。あれは!」「またガスのかたまりが飛んできたんじゃないの?」
「ちがう! あれはそんな色じゃない!」
「村の上空。しかも、こんなど真ん中まで飛んでくるなんて。ありえない!」
「見ろ、動きがとまったぞ。うかんだままになっている」
「なにか危険な予感が」
集まった村人たちが、上空にうかぶその異様な姿を、けいかい(警戒)のまなざしで見つめている。そんな中、たくさんの小さな光の粒子が、その物体へと引きよせられていく。
「見ろよ、あれを!」「りゅう(竜)だ……。りゅうの姿になっていく……」
まがまがしい物体は光におおわれると、その姿を次第に変えていく。やがて変化が終わり、光が消えたあとには、一体のりゅうが横たわっていた。つきだした口や、つのなど、格好自体は、以前わたしが変化した、すいひりゅう(水飛竜)とそう変わらない。黒かっ色の身体を持つこの生命体は、りゅうの名にふさわしい巨体となって宙にうかんでいる。
「きぃぃう!」
おたけびをあげる。開いた口から、強い光を放つほのお(炎)がはきだされた。
ぶうおおおお!
りゅうがはいたほのおの先。その周辺一帯がことごとく、焼け野原と化す。
「キヌちゃん、アムちゃん。ここは危険よ。病院へ行こう」
わたしはこどもたちを連れてひなんすることにした。
(りゅうは見えるけど、すぐ近くにいるってわけでもない。ここから病院まではそう遠くないから大丈夫のはず)
わたしはそう思っていた。ところが、りゅうが地上へ近づくと、その周りがばくふう(爆風)に見まわれた。また口からは、ほのおとともに強力な熱風もはきだされている。これらによって建物が次々とほうかい(崩壊)していく。
「建物のがれきが宙をまっている……。ま、まずい! こちらへ飛んできた!」
わたしたちはこれらをさけながら移動する。そのため、かなりの時間がかかってしまった。
「お姉ちゃん、病院だよ」「わぁい。助かったでちゅ」
キヌちゃんとアムちゃんが喜んでいる。
「本当。やっとついたね。ふぅ」
キヌちゃんとアムちゃんを無事に病院まで連れてこられたので、わたしはほっとする。
(まさか、こんなことになるとは。でも、こどもたちを守れてよかったぁ)
病院の前では、お兄ちゃんとセレン先生が立っていた。
「先生。あれは!」
お兄ちゃんがさけぶ。
「おそらく、だが、かえんりゅう(火炎竜)の幼体といわれる、黒竜だと思う。もっとも、目にするのはこれが初めてだが」
「先生、かなり手ごわそうですね」
「ふぅむ。実際にこうやって見てみると、やつが一回にはきだす『霊火』の放射範囲は、きわめて限定的なもののようだ。だがそのいりょく(威力)は、幼体といえどもすさまじいものがある。ぐずぐずしているとあっという間に、人間の住む区域全てが焼けつくされかねない」
そう答え、こぶしをにぎりしめるセレン先生のひたいには、うっすらとあせがにじんでいる。
「お兄ちゃぁん!」
「フローラ、無事でよかった。こどもたちを早く病院の中へ」「うん」
病院の中へとかけこんだわたしたちは、ろうかでフィルさんとはちあわせをする。
「おっとっと。なんだ、フローラか。どうしたんだ? そんなにあわてて」
「フィルさんこそ、どこへ行くつもりなの?」
「どこへ、って……。健康しんだん(診断)が終わったから、研究所へ帰るところだよ」
(なにをのんきに)
「フィルさん。今、外に出るのは危険よ。黒竜が現われたの」
「黒竜? まさか、あの伝説の……」
「フィルさん、お願い。このこどもたちといっしょに、ちかごう(地下壕)へひなん(避難)して」
「判った。だが、君はどうする気だ」
「お兄ちゃんのところへ行ってみる。場合によっては、わたしの力が必要になるかもしれないから」
「そうか。くれぐれも気をつけてな」
「お姉さん、ここまで連れてきてくれてありがとう」「ありがとうでちゅ」
「フィルさん、キヌちゃん、アムちゃん。じゃあね」
わたしは、手をふりながら心配そうに見つめるフィルさんやこどもたちを後ろに、病院の外へと飛びだした。
「ままごとかぁ。ねぇ、ミアンはどう思う?」
「ウチもフローラにゃんの行動にはうなずけるものがあるのにゃん」
「というと?」
「おはしやおわんを放りなげたのをこどもたちにおこられたという話なのにゃけれども」
「そうみたいね」
「そもそもフローラにゃんは、なにか食べられると思ってつきあったのにゃよ」
「かんちがいってやつだわん。こどもとのつきあいではよくあることよ」
「ミーにゃん! よくあることじゃすまされないにゃよぉ!」
かあぁぁっ!
「な、なによ、ミアン。急に顔を真っ赤にしたと思ったら、頭から湯気みたいなものを出しちゃって」
「よく聞くのにゃよ、ミーにゃん。なにか食べられると思って遊びにつきあったのに、いざふたを開けたら、そこにはなんにもにゃい。聞いたら、遊びだから、ですまされた。こんなくやしいことが許されていいと思っているのにゃああん!」
「……アタシにおこったってしょうがないでしょ? おこるなら子ども二人にしてほしいわん」
「ウチだったらにゃあ。……ぜいぜいぜい」
「うわっ。息切れするほど、おこっているわん」
「ぜいぜい……。ウチだったらにゃあ、おはしやおわんを放りなげるだけじゃすまないのにゃよぉ!」
「へぇぇ。すまないって、どうするつもりなの?」
「ちゃぶ台をひっくり返すのにゃん。こんなものが食えるかぁっ! ってにゃん」
「それ、どこかで見たことがあるわん。それに、おままごとのところにはちゃぶ台はなかったわん。あと、なにも入っていなかったみたいだから食えないのはあたりまえだわん」
がぁぁん!
「……八方ふさがりというわけにゃん。天はウチを見放したのにゃあ」
「それもどこかで聞いたことがあるわん。ミアン。いいかげんにパクリをやめた方がいいわん」
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『にゃあまん高校 女教師にゃあまん「おとめにゃのに、にゃあまん!」』
「全五話のうち、早くも第三話めにゃ。いってみよう! ……にゃん!」
《
「彼らを助けたいにゃんて、今のあんたらではとうていかなわぬ夢にゃよ。あきらめたほうがいいのにゃん」
「今のぼくたちには……。そう、そうですか。
……ここへ来たのはむだだったというわけですね。判りました。
なぁ、みんなぁ。聞いてのとおりだ。帰ろう。それしかない」
「まぁ、できないなら」「しかたがないわね」
「じゃあ、にゃあまん先生。これで失礼します。おいそがしいところすみませんでした」
ぞろぞろぞろ。ぞろぞろぞろ。ぞろ……ぴたっ。
「待って。『ぱな』君」
「どうしたんだ? 『そに』子君。今回、中間試験がほかの人より悪かったからって気にする必要はない。次をがんばればいいんだ。君ならできるさ」
「『ぱな』くん。そんなことをいいたいんじゃないの。
ねぇ、にゃあまん先生さまぁ。ひとつ聞きたいことがあるのだけど」
「なんなのにゃ? 『そに』子にゃん」
「今、先生さまは『今のあんたら』では無理といったわよね」
「うむ。そうにゃん」
「だったら、『いつものあたしたち』なら?」
「それは」
にやり。
「十二分に可能にゃん!」
「なにぃ! どういうことです? にゃあまん先生」
「『ぱな』君。これがにゃあまん先生さまなの。正しい答えを出してくれるけどね。こちらの『質問』、あるいは、『答えの受けとりかた』次第で、まちがった方へとみちびかされるおそれがあるの。注意して」
「そんなぁ。本当ですか、にゃあまん先生」
「『ぱな』くん。悪いけど、今はわたしにしゃべらせてくれない?」
「えっ。ああ、まぁ、『そに』子君がそういうのであれば」
「ありがとう。
にゃあまん先生さまぁ。もう一つ聞きたいことがあるの」
「なんにゃ?」
「にゃあまん先生さまは、わたしたちが困っている時にはいつでも手を差しのべてくれた。なのに今回はなにも教えてくれない。どうしてなの?」
「『そに』子にゃん自身は、どうしてだと思うのにゃん?」
「考えられるのはひとつだけ。わたしたちにそれを解決できる力がある。そう思っているからじゃない?」
ぱちぱちぱち。
「さすがは『そに』子にゃん。一時的には我を忘れていたみたいなのにゃけれども、だいぶもどってきているとみえるにゃ」
「でも……ああ、でも……、
答えが判らないの。あともう少し、ってとこまできているのに……」
「まぁ、ぶっちゃけていえばにゃ。あんたらがここに来る必要は全然なかったのにゃん」
「ええっ! それは一体?」
「『ぱな』君。あんたらの前には今回の件を解決する全ての札がそろっていたってことにゃ。本来であれば、今ごろあんたらは友だちを助けて、自分の教室で、ばんざぁい! をやっているか、はたまた授業にもどっているか、いずれかの運命にゃった。ところが」
「ところが?」
「その運命を変えたものがあるのにゃ。手元にある札をめくるのをじゃましたものが、にゃ」
「にゃあまん先生。教えてください、それは一体?」
「ほかでもにゃい。あんたらが友を思う熱い心。それがじゃまをしたのにゃん」
「そんなぁ……」
「にゃあまん先生さま。友だちが友だちを心配する気持のどこがいけないっていうの?」
「『そに』子にゃん。また感情的になってしまったのにゃあ。それでは話などとても無理にゃよ。落ちついて落ちついて」
「うっ……。はい、にゃあまん先生さま」
「でも、にゃあまん先生。『そに』子のいうことも判ります。どうして、心配してはいけないんですか?」
「答える前に、ひとつ質問があるのにゃけれども」
「えっ。……なんでしょうか?」
「あんたらが友を助けようとしたその時、最初にやったことはなんなのにゃ?」
「最初にやったこと? そうですねぇ、多分、彼らを一刻も早く助けたい、と思ったはずです。おそらく六人が六人、全員が」
「それからどうしたのにゃん?」
「もちろん、助ける方法を検討しました。その結果、使ったのが、『異空間連結法』です。ぼくたちのいる空間と暗黒魔境をつなぐ異次元連結路を造り、その中に六人全ての霊力を注ぎこんで、こちら側へと引きこむ計画でした。しかし」
「失敗した、というわけにゃん?」
「そのとおりです。一体どうしてなのか……」
「『ぱな』にゃん。とほうにくれているようにゃから教えるがにゃ。あんたらは最初からまちがっていたのにゃん」
「まちがっていた?」
「にゃあまん先生さまぁ。それはどういうことなの?」
「いつものあんたらにゃらば、まず、こう考えたはずにゃよ。
『どうやって助けだすか?』
『それにはどうしたらいいか?』
『自分たちにできることはにゃにか?』
『実行する上で見落としはにゃいのか』
これらををてっていてきに考えたのち、助けたいと思う心をもって行動に移したはずなのにゃ。ところが今回はちがう。なにがなんでも助けたい、と思ってから、その方法を考えてしまった」
「そんなぁ。順番が変わったぐらいで」
「『そに』子にゃん。その『ぐらい』という考えが命取りになったのにゃん。後者の考え方ではにゃ。助けたい、との思いで心がいっぱいになって、かんじんの方法がおろそかになってしまうこともある。今のあんたらがその典型な例ともいえるのにゃ」
「つまり、にゃあまん先生さまがいいたいのは」
「ぼくたちがなにか見落としをしたと。しかもごく簡単なことを」
「そういうことにゃん。友を思う熱い心。それがあんたらの目をくもらせてしまったのにゃ。本来であれば、見えるはずものが見えなくなり、気づくはずのものがを気づかなくしてしまった」
「にゃあまん先生。お願いです。ぼくたちはなにを見落としたんですか? 教えてください」
「教えて、にゃあまん先生さまぁ!」
『にゃあまん先生!』
「……残念にゃがらそれをいうことはできないのにゃよ」
「えっ。それはどうして?」
「いえば、あんたらの友だちを永久に助けられなくなるからにゃ」
「そんなぁ」
「『ぱな』にゃん。あんたらも知っているのにゃろ? あんたらの持つ力に必要にゃのは友を思う熱い心じゃにゃい。えいり(鋭利)な刃物よりもとぎすまされた集中力とれいこく(冷酷)なまでに冷静な判断力。この二つにゃ。ほかにはいらにゃい」
「でも……」
「にゃあまん先生さま。わたしたちは人間なの。いかなる時も冷静に、といわれても無理よ。自分の友だちや家族が危険な目にあっていうのにそんな……できっこない!」
とこ。とこ。とこ。とこ。
『『そに』子にゃん」
ぽん。ぽん。
「(にゃあまん先生さまがわたしの両かたに手を……)
あのぉ、にゃまん先生さま?」
「判る。判るのにゃ。その気持ち。でもにゃ」
ぎろり。
「やれるやれないじゃにゃい。できるできないでもにゃい。
やらなきゃならないのにゃん!
あんたらが本当に友だちを助けたいのにゃら。
その心に、まこと(誠)があるのにゃら」
「にゃあまん先生……」
「にゃあまん先生さまぁ……」
「『ぱな』にゃん。『そに』子にゃん。ほかのみんにゃも聞きにゃさい。
判っているはずにゃよ。あんたらにゃ。あんたらだけがだれよりも安全に、そして確実に、暗黒魔境に落ちこんだ友だちを救うことができるのにゃ。彼らをよく知っているあんたらだけが、にゃ。ほかのだれがやろうと、どんなすぐれた霊力者がやろうとも、あんたら以上にはできにゃい。いや、できにゃいどころか、ぎせいしゃが増えるばかりにゃ。
それでいいのにゃん? 自分たちができにゃいからといって、助けを求めている友だちを前に目をつむったり、ほかの人に任せて、かえって危険な目にあわせたり。それでも本当にいいのにゃん?」
「にゃあまん先生……」
「助けてやりにゃさい。友だちなんにゃろう?
できる。あんたらにゃら。ウチはそう信じている」
「でも、それには」
「いつもの自分たちに早くもどることにゃよ。そうすれば、どうして仲間を失ったのか、どうやれば友だちを救えるのか、その全てを知るはずにゃ」
「やっぱり、教えてはもらえないんですね」
「あたりまえにゃよ、『ぱな』にゃん。赤子にかみそりをもたせるわけにはいかにゃい。相手も自分も傷つけてしまうだけなのにゃから」
「ふふっ。ぼくたちは赤子ですか?」
「答えが目の前にあるっていうのに、それさえも気がつかにゃいようでは、にゃ。
にゃに。ちょっと頭を冷やせばすぐに判ることにゃん。にゃんせ、必要にゃのは霊力に関する初歩的な知識と、あと、『最低学年の生徒が学ぶ算数』を解ける能力だけにゃもん。
あんたらは高校生。それも村で一番優秀な者たちが集まる、かでん高校の生徒にゃ。判らにゃい方がふしぎというものにゃん」
「判りました。必ず」「にゃあまん先生さまのご期待に応えます」
「うむ。用はすんだのにゃら、早く行きにゃさい」
「はい」「ありがとうございました」
「あっ、そうそう。あんたらが失敗した時、星座『キプレス』は学校の上空にあった。ということはにゃ。失った友だちは今、呼吸できる空間にいるはずにゃよ。助けるにゃら今のうち。それを忘れるにゃん」
「判りました! にゃまん先生!」「じゃあ行きます! にゃあまん先生さま!」
がらがらっ。
すたっすたっすたっ。すたっすたっすたっ。すたっすたっすたっ。……。
がらがらっ。
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「おおっと。判っていたのにゃけれども、今回もとちゅうでおしまいにゃん。
かでん高校の学生らが友だちを失った原因はなんにゃのか? 友だちを無事に助けだすことができたのか? 次回、第四話を、じっとがまんの子で待つのにゃよぉ。
どうにゃったミーにゃん、ネイルにゃん。今回はにゃかにゃか……。
にゃにゃにゃんと! にゃんで二体とも苦しみもだえているのにゃん!」
「説教だらけに上から目線。しかもこうまんちき。もうどしようもないわん。血へどが出るわん」
「まさか、これほどひどいとは……。もうお話はやめにしましょうよ。ミアンさん」
「いやにゃん。ここまで来たら最後まで」
ばたっ! ばたっ!
「うわっ! 二体ともぶったおれてしまったのにゃん。
……そんにゃにひどかったのにゃろうか? ウチにはとんと」
「……ミ、ミアン。自分で造ったからだわん。少しはださく(駄作)を聞かされているこっちの身にもなって……」
ばたっ!
「ミ、ミーにゃん!
た、大変にゃあ! ミーにゃん! ネイルにゃん! ミーにゃん! ネイルにゃん!」
じたばた。じたばた。




