第九話『消えゆく力』‐②
わたしは霊覚交信を使う。
「沼の妖精さん。聞こえているなら返事をして。お願い」
とつじょ、周りが光におおわれる。
「われ、沼の妖精。お前、たれか?」
(やったぁ! この前と同じだ。答えが返ってきたぁ)
勢いこんで言葉を返す。
「わたしはフローラ。水の妖精よ。おりいって頼みがあるの」
「……確認した。お前、水の妖精。して、なに用か?」
「ここにね。人が閉じこめられているの。だから、助けてあげたくて。
ねぇ、妖精さん。だめかなぁ。できれば協力してほしいんだけど」
「かまわない。やってやる。でも、力、必要」
「わたしの身体と一つになって。霊力を与えてあげる」
「判った。始めろ」「うん」
光が消える。ここは深い水の中。たちまちあたりは元の暗さに。でもすぐに明るさをとりもどす。明るさの中心は、もちろん、わたし。わたし自身が放つ光だ。
流れ星から力をえたとはいっても、なぜ、こんなことまでできるのか、はっきりと判っているわけじゃない。ただいえるのは、そこに助けたい者がいる、守りたいものがある、その思いがわたしを動かしている。それだけ判ればそれでいい。
沼の妖精も水の妖精の集合体。小さな妖精たちが、わたしの光に吸いこまれるかのごとく、次から次へと飛びこみ、同化する。
「力がたぎってきた。これならやれる!」
わたしは水の身体を不定形な姿へと変えた。からまっている水草の下にもぐりこみ、こどもの身体を包みこむ。
「すぐに解放してあげるね」
わたしは身体の水に二つの異なる力を与える。内側は人の身体を保護する守りの力を。外側は障害物をこわして飛びだす攻めの力を。
(水流の力はだてじゃない!)
びゅびゅびゅびゅびゅ!
高速回転を行う。うず状の姿となってこどもにからみついていた水草を全て断ちきると、その勢いでのぼりつづけ、あっという間にどろ底から飛びだした。
ずぶずぶずぶん!
どろ底から沼の水面までは、ほんのわずか。わたしは沼からも飛びだしていた。おばあちゃんから見れば、沼にいきなり水柱が立った、みたいに思えたはずだ。
「ふぅ。無事にこどもを助けだせたな。よかったよかった。
沼の妖精さん、本当にありがとう」
「いや。こっちも、力、もらった。ありがとう」
とっぱした勢いが強かったせいか、くぼみの上はまだぽっかりと穴が開いた状態。わたしの身体からはなれた水の妖精たちが、穴をとおって次々とすみかに引きかえす。妖精たちがいなくなるにつれ、水柱はさがっていく。水の妖精たちが全て帰ったあと、くぼみに開いた穴はじょじょにどろでおおわれ、再び見えなくなってしまった。
こどもは、といえば、平らになった水面に、ぷかぷか、とあおむけにうかんでいる。
「さぁ、帰ろう。あなたの命は、きっと、お兄ちゃんが助けてくれる」
声をかけるも、こどもはぐったりとしたまま身動きひとつしない。
わたしはこどもを包みこむと、岸まで泳いだ。沼からあがったわたしは水の身体を、不定形なさまから人の形へと固定化する。もちろん、両手でこどもをだきかかえて。
「フローラや」「フローラ」
出むかえてくれたのは、もちろん、おばあちゃん。つづいてお兄ちゃんも現われた。
「おばあちゃん。この子でしょう?」
わたしは助けたこどもを見せる。
「おお。この子だよ。まちがいない。フローラ、でかした。よくぞ連れて帰ってきてくれた」
「お兄ちゃんも来ていたんだ」
「アーガから聞いてすぐにやってきたんです。フローラ、ご苦労さまでした」
「水の妖精だもの。これくらい、簡単だよ。はい、お兄ちゃん」
こどもを手わたしたあと、わたしは周りを、ぐるっ、と見まわした。
(ほかの村人は、と……うん、だれもいないや。おばあちゃんのおかげだ。よかったぁ)
沼へ入る前にわたしがおばあちゃんにたのんだこと。それは『人ばらい』だった。
(だって水の身体とはいえ、『はだか』だもん。それに着こむところも、お兄ちゃんとおばあちゃん以外には見られたくない)
衣服に水の身体を収めると、わたしは人の姿にもどった。
お兄ちゃんは呪術によるしんさつを始める。目をつむり、こどもの身体に両手を乗せた。
「命の欠片はまだ残っているようです。ですが、生きているというには、ほど遠い」
しんさつはなおもつづく。
「呼吸はすでにとまっています。死後こうちょく(硬直)は……それほど進んではいません。
状態ははあく(把握)しました。これから人体の修復にとりかかります」
お兄ちゃんがもくしょう(黙唱)を始めるやいなや、両手から白い光が神経や血管にそうように流れだす。ややあって、だらぁん、と開いたこどもの口から、飲みこんだと思われる『どろまじりの水』が、ぼこぼこっ、と一気にはきだされた。
(かわいそうに。苦しかったろうなぁ)
きんちょうしているせいか長く感じられた。だけど時間にすればほんのわずかだったにちがいない。やがて、身体全体に光が拡がったと思われるころ、お兄ちゃんは、もくしょうをやめ、ふれていた手をあげた。白い光の輝きが、ぼぉっと弱まり、そして……消える。
お兄ちゃんは目を開いた。
「無呼吸だったことからくる脳障害、および器官などの身体機能の異常、それら全てを修復しました。なお、体内にたまっていた沼の水は、大半がすでに流れでていますが、ちりょう結果を見きわめるため、残りは自力ではいてもらうことにしました。ご了解ください。
……では、これからそせい(蘇生)を始めます」
お兄ちゃんは再び、こどもの身体に両手を乗せ、もくしょうを始めた。
こどもの身体にふれているお兄ちゃんの両手から、今度はあお(碧)い光がほとばしる。こどもの身体全体が、たちまちその光におおわれた。
「お兄ちゃん……」
もくしょうを終えたお兄ちゃんが、わたしに声をかける。
「心配はいりません。ほら、ごらんなさい」
あおい光が消えるにつれ、こどもの顔色がはっきりと見えてくる。つい先ほどまで血の気が引いた顔だった。それが今では、ほおに赤みすらさしている。
「ごほっ、ごほっ」
とつぜん目をさまし、下半身を起こした。お兄ちゃんはせなかをさすって、水をはきだす手伝いをしている。
「はぁ、はぁ、はぁ」
息づかいが聞こえる。しゃべろうとしてはいるものの、声をうまく出せないみたい。
「大丈夫。あせらないで」
こどもはお兄ちゃんの言葉に、こくり、とうなずく。どうやら、全部はき終えたらしい。見習い呪医の手が再びこどもの身体へとのびる。
「異常は……みられません。ですが、念のため、病院へ運びましょう。……アリア!」
「くぉーっ! くぉーっ!(判った。セレンにはんそう(搬送)をこう(乞う)」
いくらも経たないうちに救急隊のアーガがとうちゃく(到着)。こどもを乗せると、すぐさま病院へと飛んでいった。
「お兄ちゃん。どうしてアリアで運ばないの?」
「一刻を争う、という事態ではなくなりましたしね。それに今見たとおり、救急隊のアーガって、はんそう用のしんだい(寝台)を装備しているんです。あれでかんじゃをねかせた状態のまま運ぶことができます。あのアーガにしても、人命救助用にと、ラミアさんが特別にしつけ(躾)てあるそうですよ。おかげで、飛行速度が速い割には身体をゆらさず、しかも静かに飛ぶことができます。かんじゃに負担をかけずにすばやく病院まで運ぶ、という救急医りょうの理念にかなう、はんそう手段なんです」
「なるほどね」
わたしのかたわらにも熱心にお兄ちゃんの話に耳をかたむけている人がひとり。ふり向いて声をかけた。
「おばあちゃん、よかったね」
「フローラや」
おばあちゃんは感きわまったかのように、わたしの手を強くにぎりしめた。
「そなたのおかげだ。これ、このとおり」
頭をさげた彼女の目から、なみだがしたたりおちる。わたしは正直、こういうことにはなれていない。
「おばあちゃん。わたしは当然のことをしたまで……うっ!」
困りながらも言葉を返そうと努めるさなか、とつぜん、くらくらっ、とめまいを感じた。
「フローラや、どうした!」「フローラぁっ!」
(おばあちゃん……。お兄ちゃん……)
意識が遠のく中、二人のさけび声が子守歌へと変わっていった。
「はっ!」
わたしはめざめた。天井が見える。もう見なれたながめ。
「わたしは一体……」
「おや、気がついたみたいですね」
わたしは、上半身を起こし、声のする方をふり向く。そこには、ちゃぶ台の後ろで手をふるお兄ちゃんの姿が。心なしか、ほっとしたように見える。
「お兄ちゃん。わたしは……」
身体はこれといっておかしいところはなさそう。わたしは起きあがるとちゃぶ台へと向かい、お兄ちゃんと向かいあわせに座る。
「フローラ、君は」
お兄ちゃんはわたしになにが起きたのか、教えてくれた。
「そうか。わたしはまた気を失ったんだ……。
お兄ちゃんがそばにいてくれてよかったぁ。 ありがとう、お兄ちゃん」
「どういたしまして。可愛い妹のためと思えばこれぐらいは」
ちょっとおどけた調子でそう返事をしたあと、すぐ真顔になって、
「それでどうです? 体の具合は?」とたずねてきた。
お兄ちゃんにいわれて身体を動かしてみる。ちょっと疲れた感がある以外は、特にどうということはない。
「なんともないみたいよ」
「霊体の状態を確認したいけど、いいですか?」
「かまわないよ」「じゃあ」
お兄ちゃんはわたしのひたいやうでなど、身体の数か所に手をふれる。
「お兄ちゃんは毎朝、こうやってわたしの霊体を確認しているよね」
「フローラ。君にはいつまでも僕のそばにいてほしい。でもそれには、君が霊体として常に安定した状態である必要があります。それでやっているわけです。まぁ、がまんしてください」
「がまんなんかしていないよ。だって、わたしのためにやってくれているんだから」
「そういってもらえるとうれしいですね。
……さてと。終わりました。さぁ、お茶でもどうぞ」
「ありがとう」
わたしはお茶をすする。ちょっとほろ苦い。だけど、ねむけざましにはちょうどいい。
(それにしても、お兄ちゃんの様子が変だ)
考えこんでいるみたい。うでを組んで目をつむっている。不意に目を開いてわたしを見つめた。てっきり話しかけてくるものとばかり思っていた。お兄ちゃんも口を開きかける。だけど、すぐに思いなおしたらしい。口を閉じると、またうでを組んで目をつむってしまった。このくり返しをつづけている。
(一体どうしたのかな?)
「お兄ちゃん」
さらにつづけようとしたわたしの言葉を、お兄ちゃんは手をあげてとめた。
「フローラ。君の身体について判ったことがあります」
ゆっくりと開いた目でわたしを見つめている。言葉のつづきを口にするのが、いかにもつらそう。
「なにか異常なことでも?」
急にわたしは不安になってきた。でもお兄ちゃんは、わたしの問いには答えてくれず、代わりに、『霊体』についての話を始めた。
「フローラ。ここ『天空の村』は、精霊や妖精などが数多くすむ、霊力に満ちた島です」
「それは知っているよ。だってわたしもそうだから」
「そうでしたね」
お兄ちゃんはちょっとほほ笑んだ。
「本来、霊体は存在するだけで霊力が自然放出されますし、なんらかの行動を起こせば、それに見あう霊力を失います。ですが霊力は、霊体がその個体を保つ上で必要不可欠なもの。失われつづければしょうめつ(消滅)までの時間も短くなる。じゅみょう(寿命)がつきる、という事態におちいるわけです」
「でも数千年、あるいは数万年も生きる霊体もいるよ。たとえば、森や木の精霊とか」
「そのとおりです。霊体は霊力を失うと、この村に満ちている霊力を自分の身体へと取りこんで回復を図ろうとします。これは無意識に動く霊体特有の能力だとか。この能力によって村にすむ霊体たちも、常に安定した霊力を保つことができるんです。ところが君は」
「ちがうの?」
「回復していません。失う一方なんです」
「でも、どうして?」
「これから話すのは、あくまで僕の推測でしかありませんが……、おそらく君の場合、この回復能力が働くのは、本来の姿である『水の妖精』という霊体に対してではないかと思われます。人間としての霊体はしょうもう(消耗)していても、水の妖精としては十分すぎる霊力を持っているわけですから、この力が動く理由はさらさらない、ということではないかと」
「……やっぱりわたしは、見かけは人の姿でも、本当は小さな水の妖精ってことなのね」
「そういうこと……なのかもしれません。さっきもいったように、これはあくまでも僕の推測です。事実とちがうことも当然ありえます」
「お兄ちゃん。仮にそれが本当だとしたら、わたしはどうすればいいの?」
「前回は水飛竜、今回は水柱となったせいでしょう、かなりの霊力を失いました。今の君の霊力は最初にあったころのおよそ半分以下です」
「そんなに……」
「ですが逆にいえば、水の妖精の力を使わない、つまり、ふつうの人間として生活しているかぎり、その身体を保つことはできる、と考えていいと思います。フローラが人間として生きるために必要な霊力は、まだまだ十分あるはずです。だから、それほど悲観的になる必要はありません」
「ふつうの人間……か。でもその場合、困っている人がいても、水の妖精としての力で助けちゃだめってことよね。そうなんでしょう?」
「水の妖精が使う力は、人間には使えません。人間なのだから人間としてできるはんいで最善をつくす。それでいいと思います。君だって人間を水害から守るために、その身体になってここに来たわけじゃないでしょう?」
「それはそうだけど……。でも難しいな。そんな風に割りきれるかどうか……」
「僕は君に、『こうしなさい』と強要するつもりはありません。君自身が決めてください。
ただ、これだけは覚えていてほしい。君が水の妖精としての力を使えば使うほど、人間としてすごせる時間も少なくなる。水の妖精にもどる日が近くなる。僕の推測が正しいとすれば、まちがいなくそうなるでしょう。それだけは確かなことだといえます」
「お兄ちゃん。お兄ちゃんはどう思う? わたしは人間のままでいいの? それとも、水の妖精にもどった方がいい?」
「フローラ……」
お兄ちゃんはわたしをじっと見つめている。
「君と暮らしていたい。できることならいつまでも。それが僕のいつわらざる心」
(お兄ちゃん……)
「君の力を知っている人の数は少ない。なにかことが起きたとしても、水の妖精にならなくたってだれも非難はしません。知っている人には僕から説明します。絶対に、いやな思いはさせません。思いなやむ君自身の心にはこう答えなさい。水の妖精にならないのは自分のためじゃなくて僕のため。僕がだめだ、といったから、だと。力を使わないことが罪というなら、その罪は僕が全て被ります。
僕は君を……失いたくない!」
目の前にあるお兄ちゃんの顔には、悲しみのかげが映っている。
わたしは思わず、お兄ちゃんのそばによってだきついた。
「ありがとう、お兄ちゃん。わたしもいっしょにいたい!」
「フローラ。もう水の妖精の力は使わないでください。ずっとぼくのそばにいてください」
「……うん」
男女がたがいを求めあう。いっしょにいたいと願っている。ならば、これはもう。
(『こい(恋)』、と呼んでもいいよね。お兄ちゃん)
わたしとお兄ちゃんは……いつしか、くちびるを重ねていた。
(この先、どうなるか判らない。ただ、お兄ちゃんを悲しませることだけはしたくはない)
切ない思いがこみあげ、なみだが知らぬ間にほおを伝う。わたしはいのりをささげる。村がいつまでも平和で、わたしとお兄ちゃんがこのまま楽しく暮らせることを。ただそれだけを願っていた。
「ネイルにゃん。フローラにゃんはまた、たおれてしまったのにゃ。身体でも悪いのにゃろうか? それとも貧血気味? まぁ、お大事に、といいたいのにゃん」
「ミアン、話をちゃんと聞いていた? フローラはね。自分の霊力を一気に失っちゃったの。しかも、よ。回復する手立てもないとくる。あれじゃあ、たおれてもあたりまえだわん」
「そんにゃ時こその、よもぎだんごにゃあ!」
「へぇぇ。で? よもぎだんごがなんなの?」
「ミーにゃん。そんにゃに冷やかなまなざしでウチを見ないでほしいのにゃん。にゃんかけいべつされているようで、心が痛むのにゃん」
むかっ!
「だぁかぁらぁ。よもぎだんごがどうしたっていうの? よもぎだんごがなにかしてくれるとでもいうの? ミアン。ほら、ちゃんと説明しなさいよぉ。ぷんぷん!」
「まぁまぁ。ミーにゃん、落ちついて落ちついて。つばをとばしにゃがら、さも自分はこうふんしています、みたいな口調でしゃべられても困るのにゃよ。
一体どうしたのにゃん? 親友同士とはいえ、ウチにはミーにゃんの気持ちがいまひとつ判らないのにゃん。まぁ、心理学の知識でもあれば別なのにゃろうけれども」
「心理学なんてどうでもいいわん。アタシは、どうしてよもぎだんごがこういう時に役立つのか、それを知りたいだけだわん」
「にゃんと!」
きょとん?
「よもぎだんごが役に立つ? はて?
ミーにゃん。ウチはそんにゃこと、いつしゃべったのにゃん?」
「えっ。……だって、ほら。『そんな時こその、よもぎだんごにゃあ!』って」
「いや、ミーにゃんと話を始める前から、『どうやったら、にゃあまんと今回の話とをからみあわせられるのにゃろう?』と、そればかりを考えていたのにゃん。にゃもんで、ミーにゃんが話を終わったとたん、思わず口から出てしまった、というわけにゃん」
「よけいなことを考えなくてもいいわん。それよりフローラが心配だわん。
ねぇ、ミアンもそう思うでしょ?」
「にゃからそんにゃ時こその」
「もういいわん!」
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「あい言葉をいくにゃよぉっ! おとめにゃのに」
「にゃあまん!」
「こらっ! ミアン。冒頭からいきなり変なことをしゃべらせるんじゃないわん!」
「と、おこりにゃがらも、判ったわん、といってやってくれる。
ミーにゃんはやさしい親友にゃん」
「うっ……。と、とつぜん、そんなことをいわれても困るわん。はずかしくて穴があったら入りたいわん」
「ミーにゃんがはずかしがり屋の一面を見せている今こそ、の第二話にゃん。
始まり始まりぃ……にゃん!」
《
「ここは体育館にゃ。三十人いるあんたたち生徒を十人ずつに分け、やることをしっかりとおぼえさせる目的で来ているのにゃん。みんにゃあ、かくごするにゃよぉ」
「先生。おぼえるってどうすればいいの?」
「にゃかにゃかいい質問じゃにゃいか。学級委員のミーにゃん」
「すっかり忘れていたわん。アタシは学級委員だったわん」
「では手順を説明するのにゃん。
1.みんにゃ、最初は直立の状態ににゃって、むねの上に両手で×字を造るのにゃん。
2.ウチが、『おとめにゃのに』と声を張りあげるのにゃん。
3.左、真ん中、右、で、それぞれのポーズを決めるのにゃん。
4.ポーズが決まったら、合図に、『にゃあまん!』とさけぶのにゃん。
もちろん、左、真ん中、右の、どの生徒も同時にゃ。
以上、1から4を三回くり返して、成功、となるのにゃん」
「そんなに難しくもなさそう……。
あっ、でも、3のポーズってどんな風にやるの?」
「にゃかにゃかいい質問をするじゃにゃいか」
「先生ったら、そればかりだわん」
「まずは、生徒三十人はウチと向かいあう形になるのにゃ。ウチが、『おとめにゃのに』とさけんだしゅんかん、十人ずつが組になって以下のポーズを決めることににゃる。
最初はウチから見て右側にいる生徒たちの説明にゃ。
自分の右手にこぶしを造って、それが『あご』近くににゃるよう、右うでを固定するのにゃん。右足はひざを折り曲げるような感じ。左うでと左足はななめ下のばした感じで固定するのにゃん
次はウチから見て左側にいる生徒たちの説明にゃ。
自分の左手にこぶしを造って、それが『あご』近くににゃるよう、左うでを固定するのにゃん。左足はひざを折り曲げるような感じ。右うでと右足はななめ下にのばした感じで固定するのにゃん。
最後は真ん中にいる生徒たちの説明にゃ。
これは意外と簡単。両うでを上にまっすぐのばして、『ふんばった』、みたいな感じで、またを少し開けばいいのにゃん。
以上にゃ。にゃにか質問はあるのにゃん?」
「先生。顔はどっちを向けばいいのか判らないわん」
「にゃかにゃかいい質問にゃよ、ミーにゃん」
「また始まったわん。やれやれ、だわん」
「もちろん、まっすぐにゃよ。×字で組んだ時からポーズが終わるまで、にこやかな顔で正面を見る。それでこそ、『くろうと』と呼べるのにゃん」
「別に、『くろうと』になる気はないわん。まぁ、熱血先生のいうことでもあるし、やれといわれればやるわん」
「ウチは熱血先生じゃにゃい。にゃあまん先生なのにゃん」
「どっちでもいいわん」
「どっちでもよくないのにゃん。ここははっきりとさせておかにゃいとにゃ。ウチのめいよ(名誉)というか、ほこり(誇り)がかかっているのにゃん」
「そんなアホなぁ……」
「アホじゃにゃい。ウチはいたってまじめにゃん。
さぁ、ミーにゃん、どっちを選ぶのにゃ? 熱血先生か? それとも、にゃあまん先生か? いっておくがにゃ、ことと次第によってはこれまでの関係もぷつりと」
「わ、判ったわん。うっかりすると、話の外にまで被害がおよびそうだから、ここまでにしておくわん。
先生、あなたはにゃあまん先生だわん」
「うむ。ウチは満足にゃん」
「ふぅ……。さぁ、やるなら早く始めよう、だわん」
「にゃら、みんにゃあ、いくにゃおぉぅ! それぇっ!」
「おとめにゃのに」「にゃあまん!」「おとめにゃのに」「にゃあまん!」
「おとめにゃのに」「にゃあまん!」「おとめにゃのに」「にゃあまん!」
「おとめにゃのに」「にゃあまん!」「おとめにゃのに」「にゃあまん!」
「おとめにゃのに」「にゃあまん!」「おとめにゃのに」「にゃあまん!」
…………。
…………。
「ううむ……。あっ、もうこんにゃ時間かぁ。
にゃかにゃかうまくいかないものなのにゃあ。みんにゃ、まじめにやってくれているっていうのに……。今ひとつそろわないのにゃん。あれなのにゃろうか。ウチがねこ人間にゃもんだから、ウチの指示ではまとまりにくいのにゃろうか?」
「そんなことないわん。アタシだって妖精人間だもの」
「妖精人間。ええと、『精』を『かい(怪)』に変えたのにゃら……、
にゃんと! 妖かい人間にゃ。おおっ。こわいにゃあ」
びくびくびくっ。びくびくびくっ。
「こらっ。教師が生徒にふるえてどうする! っていいたいわん」
「ちなみにミーにゃん。はね(翅)はどうしたのにゃん?」
「せなかに閉じてあるわん。作務衣が着れないしね」
「ミーにゃんはいいにゃあ。見た目でも、ふつうの女学生とちぃとも変わらにゃいもの。
それに引きかえウチは、せの高さが人並みあるところをのぞけば、作務衣を着て後ろ足二つだけで立っているただのねこ。思わずため息をついてしまうにゃあ」
はぁうぅ。
「そんなぐちばかりこぼして。先生らしくないわん。 ……にしてもね。いくら練習してもこれがせいいっぱいだわん。もうそろそろやめにしない?」
「確かに。これ以上やっても、どれだけうまくにゃるかは、はなはだ……」
ぴくん。
「どうしたの? 先生。急にだまりこんじゃって」
「これは……まずいにゃあ」
ささっ。
「あっ。それは伝説のにゃあまん星座板」
「ええと、今日は……。うむ。これでよし、と。
あと時刻は……、うむ。ここでよし、と。まぁ、こんなもんじゃにゃいか」
「先生、一体なにをやっているの? さっぱり判らないわん」
「学級委員のミーにゃん。これを見にゃさい」
「これは……、今、アタシたちのちょうど頭上に、星座キプレスがあるのね」
「そうにゃ。残念にゃことに、星座アンラギアは遠ざかってしまっているのにゃけれども、キプロスのおかげでにゃんとかなりそうにゃん」
「なりそうって……。先生、これにどんな意味が?」
「ミーにゃん。それを教えてくれる人が来るかもしれにゃい。ただ本当に来た場合、ちと、めんどうなことになるのにゃけれども……。
まぁ、ウチとしては、『来ないように』と願うだけにゃん」
「はぁ?」
がらがらっ。
「にゃ、にゃあまん先生君!」
「おや、頭のはげたおじさんにゃ」
「本当だわん」
「ちがいます。よぉく相手を見なさい」
「といわれてもにゃ……。ああっ! だれかと思ったら、校長と教頭をけんむ(兼務)している、にゃあまん7(なな)学校長じゃにゃいか。としがいもなくあわてているみたいなのにゃけれども、一体どうしたのにゃん?」
「今日、定年退職とか? だったら、ばんざぁい、してあげるわん」
「あいにくと花束は用意していないのにゃん。ごめんにゃ」
「ちがいます。
かでん高校から十人ばかり学生が血相を変えてやってきました。職員室で、『にゃあまん先生を早く出せ』といって、一歩も動こうとしないんです」
「やっぱり。来ると思ったのにゃん」
「先生君。なにか心あたりでも?」
「実はにゃ」
がらがらがらっ。どどどどどどっ。
「にゃあまん先生!」「にゃあまん先生さまぁ!」「おとめにゃのに、にゃあまん!」
「肉まんよりもにゃあまん!」
「き、君たち。教室の中まで入ってきてはいけない!」
「ええい! にゃあまん7学校長。あなたじゃ、らちがあかないから来たんです」
「そうよ。ちょっとはおだまりなさい」
「き、君たち。学生の分際で許さん。こうなれば保護者委員会にうったえて」
「まぁ、待ちにゃさい、にゃあまん7学校長。そう熱くにゃっては話しあいどころじゃなくなるじゃにゃいか」
「それは……そのとおりですが……」
「どうにゃん? ここはひとつ、ウチに任せてはもらえないにゃろうか?」
ほっ。
「そうですか。そういってもらえると助かります。
では、わたしは仕事にもどらせていただきますが、かまいませんか?」
「うんにゃ。どうもおさがわせしましたのにゃん」
「いえいえ。それじゃあ、あとはよろしく」
すたすたすた。がらがらっ。すたすた。がらがらっ
「ふぅ。大ごとにならなくてよかったのにゃん」
くるっ。
「にゃあ、かでん高校のみんにゃ。こういう強引なやり方はだめにゃよ。人さまのめいわくににゃるようなことはつつしむもの。判ったにゃ、『ぱな』にゃん」
「はぁ」
「それからこれだけはいっておくのにゃ。にゃあまんは、『肉まんよりも』、かもしれにゃいが、『あんまん』にはほど遠い。むやみやたらと、ひかくをするのはいけにゃいことなのにゃよ」
「す、すみません。だけど、どうしても」
「とはいってもにゃ。君たちはまだこども。どんどん失敗をしにゃさい。おとなににゃったら、それ相応の責任というものをとらされてしまう。失敗を許されるはんいがせまくなってくるのにゃ。にゃから、今のうち失敗して、なにが自分にとって正しいか、あやまりにゃのかを身体で体験しておくのにゃ。頭でしか理解できていないことと、実際にその身で知ったこととでは、うんでいの差があるのにゃから。
ぶふふっ。どうにゃ? 『ぱな』にゃん。ウチもたまには、まともにゃことをいうにゃろう?」
「ええと……。今はそんなことをいっている場合じゃ」
「判っているのにゃ」
「判っているとは?」
「今から三十分ぐらい前のことにゃ。君たちの学校から二人の学生の命が消えた。そうにゃろう?」
「ど、どうしてそれを!」
「ひとりは三年A組の『ひた』にゃん。もうひとりは二年B組の『とう』子にゃん。
どうにゃ? 図星にゃろう?」
「そこまで! それじゃあ、ぼくたちが来た理由も」
「いいや、『ぱな』にゃん。それは判らないのにゃん。
君も知ってのとおり、大勢の集団がいるところには、にゃ。おのずと霊力バランスが生まれる。霊力の二つの種類、いん(陰)とよう(陽)が、うまぁくつりあうよう、できているのにゃん。もちろん、どの学校も。ところが、にゃ。あんたたちの学校で先ほど、このてんびんが大きくかたむいたのにゃん。ウチだって霊力者のはしくれ。こんなことも判らにゃいようであれば、おろかもののそしりをまぬがれることはできにゃい。知っていてあたりまえなのにゃよ。ただ感知したというにすぎないのにゃから」
「そうでしたか……」
「くわしい事情は君たちから直接聞きたいものにゃ。教えてはもらえないにゃろうか?」
「もちろん。そのために来ました。実はぼくらの友だち二人、『ふつ』君と『にほ』さんが暗黒大王ゾアの手にかかって、暗黒魔境に落ちてしまったのです」
「にゃ、にゃんと! それは一大事にゃ」
「それで、ぼくたち六人が協力しあって救出することにしたんです。ご存じのとおり、暗黒魔境からこちらの世界へ引きもどすには強力な霊力が必要です。でも、ここにいる友の力なら、五人もいれば十分。それで安全も考え、六人で助けだすことにしたんです」
「ところが、失敗した。……にゃろう?」
「そうです。助けるどころか逆に、二人が暗黒魔境に吸いこまれてしまって……。
もうなにがなんだか。どうしてこんなことになってしまったのかさっぱり判らなくて、それで」
「がん首そろえてここに来たっていうわけにゃん。にゃあるほど」
「にゃあまん先生。ぼくたちのどこがいけなかったのですか? 彼らを助けだすためにはどうすればいいのでしょうか?」
「それは今も判らにゃいのにゃん?」
「はい。全然」
「そうにゃのか……。では、あきらめることにゃん」
「そ、そんなぁ」
》
「おおっと、今回はここまでにゃん。
どうして助けを求めにきた学生らに、『あきらめることにゃん』との非常な答えを返したのか? その言葉が意味するにゃあまん先生の真意とは? なぞは深まるばかりにゃん。どきどきわくわくのこの展開。つづきは次回までのお楽しみにゃあ。
どうにゃ? ミーにゃん、ネイルにゃん。おもしろかったにゃろう?」
ぶんぶん! ぶんぶん!
「あれっ。二体そろって顔を横にふっているのにゃ。しかも見たところ、かなりごきめんななめな様子なのにゃけれども。
あのぉ。ウチの話、あんまりおもしろくなかったのにゃ?」
ぶんぶんぶん! ぶんぶんぶん!
「かなり大きく顔を横にふっているのにゃん。
ひょっとして、全然おもしろくにゃかったとか?」
こくこくこく。こくこくこく。
「盛んにうなずいているのにゃ。でも、困ったにゃあ、お話はあと三回分あるのにゃよぉ。
にゃあ、一体どこがいけなかったのにゃん?」
「ねぇ、ミアン」
「おっ。やっと口を聞いてくれたのにゃん。ばんにゃあい。ばんにゃあい」
「ばんざい、なんかしなくてもいいから。ねぇ、ミアン。本当に判らない?」
「うんにゃ」
「簡単にいえばね。説教だらけのお話になりそうだから。あと、にゃあまん先生が、むやみにえらそうだから。特に、上から目線、みたいないい方。あれって最低だわん」
「学生時代から、ですが、僕もアホなので、よけいにそう思います。
どうです? ミアンさん。この際、すっぱりとやめてしまったら?」
「それがいいわん。アタシも妖精。どの霊体よりも身勝手でわがままな性分なの。こんな話をいつまでも聞いているなんて、たえられないわん」
「(困ったにゃあ。こんなに不評だとは思わなかったのにゃん)
にゃあ、ミーにゃん、ネイルにゃん。ウチだって、どちらかといえばアホにゃん。いや、絶対アホにゃん。ぐすん。なのにゃけれども……ぐすん……生まれて一度ぐらいは、『説教をたれる頭のよい先生さま』をまねしてみたかったのにゃ。ただそれだけなのにゃよ。ぐすん。にゃあ、せっかく考えたのにゃし、がまんして聞いてはもらえないにゃろうか? ぐすん」
「だめだわん、っていいたいところだけど……、なみだぐんでそこまでいわれちゃあね」
「まぁ、仕方がないですか。ミアンさんにたのまれて、あと一回だけ、に応じた以上、こちらにも責任はありますし」
「そうね。かんだい(寛大)な心をもって許してあげるわん」
「ぐすん。本当にゃん? 話をしている最中に、『やっぱり気にいらにゃい』ってんで、どなってやめさせたり、あるいは、うらぎり者呼ばわりしたり、にゃんてことは絶対にしにゃいと約束してくれるのにゃん?」
「うん。しないように努力するわん」「ミアンさん。僕も努力はします」
「『しにゃいように努力する』、のと、『絶対にしにゃい』とでは、天と地ほどの差があるのにゃけれども……。まぁ、一応のりょうかい(了解)をえられたみたいにゃし。ありがとうにゃ、ネイルにゃん、ミーにゃん」
「なんのなんの。アタシとミアンは親友同士。どういたしまして、だわん」
「僕とミアンさんも親友同士。お礼にはおよびませんよ」
「かさねがさね、ありがとうにゃん。
……ってなわけで、にゃまん高校は、第三話へ、とつにゅうにゃあ!
にゃはははっ」
「見てよ、ネイルさん。今泣いていた『ねこ』がもう笑っているわん」
「ミーナさん。ミアンさんは『ねこ』なんですから仕方がありませんよ。
ほら、よくいうでしょ? 『のど元すぎれば熱さ忘れる』って」
「ネイルにゃん。そんなこともないにゃよ。ウチもミーにゃんも熱いものは苦手にゃし。 結構あとあとまで残るものにゃ。にゃあ、ミーにゃん」
「あのね、ミアン。そういう意味でいってるんじゃないわん」
「にしても、ウチはねこにゃからいいとして、花の妖精が『ねこ舌』にゃんて。ぶふふっ。花の妖精が『ねこ舌』にゃんて。ぶふふっ」
「ほら、そこ。つまんないとこで一体笑っているんじゃないわん!
あと、くり返し笑いもやめてほしいわん!」




