第九話『消えゆく力』‐①
第九話『消えゆく力』
わたしは週に一度、おばあちゃんのうちへお薬を届けに行く。おばあちゃんはいつも、お茶の準備をして待っていてくれる。だからつい、わたしは長居をしてしまうことになる。おかげで……といったらおばあちゃんに悪いけど……この前も危うく午前中の配達が間にあわなくなるところだった。
(おばあちゃんとおしゃべりもしたいしなぁ、一体どうしたら……。
そうだ。おばあちゃんへの配達は一番最後にやろう。そうすれば、余った時間をおばあちゃんとのんびりすごすことができる。よぉし。これからはそうしよう!)
いいことなのか悪いことなのか。人間の世界に来てからこんな知恵が、いとも簡単に出るようになっていた。
とまぁそんな感じで、わたしは午前中の配達を全て終えてからおばあちゃんのところへ向かうようになる。この日もほかの配達は全部すませた。
「さてと。それじゃあ……」
「くぉーっ!(急ぐぞ!)」
「えっ!」
「くぉーっ(おばあちゃんへ会いに行くんだろう?)」
「アリア……」
心やさしいアリア。数いるアーガの中でも愛想がいい方、とは決していえない。だけど、乗り手であるわたしをいつも気づかってくれる。彼と出会えたことを、彼の乗り手になれたことを、わたしはうれしく思っている。
アリアは一気に加速し、あっという間にたどりつく。いつものように庭先へおりると、おばあちゃんが笑顔で出むかえてくれた。
「おはよう、おばあちゃん。はい、これがお薬だよ」
「おはようさん。いつもすまないねぇ」
わたしはおばあちゃんとともに家の中へ入った。今では台所のお手伝いなんかもするから、なにがどこにあるのか大体判る。今日はまだ洗いものが残っていた。いっしょに片づけたあとは、お茶を楽しもうと準備を始める。
「お茶菓子はぁ……と。これこれ。これにしよう。
フローラや。『きゅうす』に茶葉を入れて、お湯を注いでおくれ」
「おばあちゃん。今、やっているよ」
したくが終わると、それらをおぼんに乗せて居間へと運んだ。ちゃぶ台の真ん中あたりに置いて、向かいあう形でこしをおろせば、お茶の時間の始まり始まり。
「フローラがいると助かるよ。はい、お茶」
「ありがとう、おばあちゃん」
わたしはおばあちゃんとのおしゃべりを楽しみつつ、自分でも知らぬ間に出していた手でお茶を飲み、お茶菓子をつまんでいた。
(まぁ、おしゃべりっていうのはこういうものだよね。気がついてみたら、おなかいっぱい、なんてことはしょっちゅうだもの)
おばあちゃんが目を細めて窓の外をながめている。
「フローラや。今日はおだやかな陽ざしで暖かい。どうだね。これから、少し散歩に行く気はないかえ?」
「うん。行こう」
玄関のとじまりを確認してから外へ出た。おばあちゃんは身体をゆらして、たよりなげに歩いている。聞けば最近、足こしが少し弱っているとのこと。わたしはささえようと、うでをからませながらよりそった。
「ねぇ、おばあちゃん。どうして、農業区に住んでいるの?」
「どうしてだろうね。あたしにもよく判らないんだよ。本来、この村で人が住む場所っていったら、中央区か住居区なんだろうけどさ」
おばあちゃんは立ちどまると、周囲に拡がる田畑をひとつひとつ確認するかのように、ゆっくりと顔を動かし始めた。
「やっぱり、好きだからだろうね。土や草花のにおいが。それに、雨神フーレが降らす雨のたまる湖や池や沼。あたしたちが耕している田畑。これらの風景を見ているとね。なぜか心が和むんだよ」
「ここには、おばあちゃんのうち以外にもなんげんか建っているみたいね」
「みんな心は同じだよ。ここが好きだからいる。それだけのことさね」
「おばあちゃんたちにとってここは、働く場所であると同時に、いこいの場でもあるってわけか。ずうっと住んでいたいって思うのも判るなぁ」
「あたしはね。ここを『ついのすみか(終の棲家)』と決めている。往生する際は、この景色を目に焼きつけながら、い(逝)きたいと思っているよ」
「おばあちゃん……」
「おや、心配をかけるようなことをいってしまったね。じょうだん(冗談)よ。じょうだん。まだいく気など、これっぽっちもありゃせん」
「そうだよ。おばあちゃんは、まだまだ若いんだから」
「おや、うれしいことをいってくれるじゃないか。ありがとうよ、フローラ」
おばあちゃんのいうとおり、そよふく風に乗って草花のにおいがただよってくる。のどかな陽ざしと目の前に拡がる田園風景。この二つが知らず知らずのうちにねむけをさそう。
「なんか、のんびりとしているね。平和だなぁ」
歩いているにもかかわらず、わたしは、うつらうつら、としてくる。
「あぁあぁあっ」
思わず大きなあくびが出てしまう。ねぼけまなこをこすったりもする。そんなわたしの目をさますためか、おばあちゃんがこんな話を始めた。
「フローラや。ここはね。一見、平和そうに見えても、実は死の危険ととなりあわせ、みたいな一面もあるんだよ」
「えっ!」
(こんなおだやかな気持ちになれる場所に危険なんてあるはずが……)
「おばあちゃん、うそでしょう?」
「うそなもんかね。実は、この少し先に底なし沼がある」
「底なし沼って?」
「それほどみずかさ(水嵩)は深くないのだけどね。どろ底がとてもやわらかいのさ。岸の近くはともかく、うっかり中まで入ると大変なことになる。足を取られて、ずぶずぶともぐってしまうんだよ。小さいこどもがそうなったら、自力でなんてとてもぬけだせやしない。どろにうもれたまま、おぼれ死ぬのが目に見えている」
「こわっ……。そんなところがあるなんて」
「それだけじゃない。どろ底には、ところどころに深いくぼみもある。文字どおり、『底なし』と思えるぐらいの深さがある水たまりがね。まるで落とし穴みたいにさ。そこに落ちたら最後、大人でもにげだせなくなる。ぬけだそうとしても『も(藻)』や水草にからまれて身動きがとれなくなり、そのまま命を落とす。実際、過去にも何件かあるんだ。そんなことが。
あそこはね。いけにえが来るのを待っている。そんな沼なんだよ」
「そうなんだ……。でも、あの沼ができてからずいぶんと経つんでしょう? 仮に落ちたとしても、なにか助けだす方法があるんじゃないの?」
にっこりとほほ笑んで、実は、といいだすのをわたしは待っていた。でも、おばあちゃんは目をつむって頭を横にふるだけ。
「身体の一部が少しでもどろ底の上に残っている。そんな早い段階で見つかった場合はともかく、それ以外はまず無理だろうね。
どろにうまる。くぼみに落ちる。いずれの場合でも助けることなどできなくなる。いや、助けるどころか、それがどこなのか見当すらつかなくなるありさまなのさ。探すのに時間をかけられないっていうのもある。成果があがるどころか、新たなぎせい(犠牲)者を増やす恐れの方が多分にあるからね。実際のところ、助けだせたとしたら『きせき』といっていい」
「それじゃあ、落ちてしまったら」
「救助なんかあてにしないで、一刻も早く沼から脱出することさね。『それ以外、助かる道はない』ってかくごするしかないよ。もちろん、落ちたと判れば、あたしらもそれなりに最善はつくす。だけど、限度ってものがあるからね。『どうやっても、見つからない』となった場合、あたしたちにできることはもうなにもない。遺体を回収することすら、ままならないんだよ」
わたしはいつの間にか、おばあちゃんの話に引きこまれていた。気がついたら、ねむけはとうにさめている。
わたしは水の妖精。だから、『おぼれる』という状態がイマイチよく判らない。でも、人にとって底なし沼が『危険な場所』ということだけは判った。
(とはいっても、服を着たまま泳いだ時にはそうなりかけた……ような気がする。でも、水の妖精がおぼれたなんて……今、考えても赤面しちゃう。はずかしいったらありゃしない。お兄ちゃん以外はだれにも話せないなぁ)
「おや、フローラ。あれは何事かね?」
「本当になんだろう。やたら、人が集まっているけど」
「行ってみるかい?」「もちろん」
おばあちゃんもわたしも好奇心は人一倍あるみたい。ついさっきまで、おぼつかない足取りだったおばあちゃんが、この時ばかりは、せすじをぴぃんとおっ立て、急ぎ足で向かっている。もちろん、わたしも負けじとばかり、並んで歩いている。
(おばあちゃん……。大丈夫。あなたは長生きできると思うよ)
「あっ、おばばさま!」「おばあさん!」
人だかりの中、村人の何人かがわたしたちの方へ走ってくる。
「おや、ゲンさん。血相を変えてどうした?」
(どうやら知りあいみたいね)
「こ、こどもが、底なし沼に落ちよった!」
「ええっ!」「なんとな!」
わたしとおばあちゃんは顔を見あわせる。早く行かなきゃ、とばかりに、さらに足を速めて現場へ向かう。
「はぁはぁはぁ。おばあちゃん。足こし、本当に弱いの? はぁはぁはぁ」
「はぁはぁはぁ。これは多分、火事場の、はぁはぁはぁ」
(火事場の……なに?)
はたから見ると、にたものどうし、としか思われない歩きっぷりだったにちがいない。
現地についたものの、はぁはぁはぁ、と二人そろって息切れ状態。それでも、好奇心というやつ、人を立ちなおらせる力が強いとみえる。思ったよりも早く質問できるまでに回復した。
「だが、ゲンさん。一体どうして?」
「つい、先日だ。森林区から入ってきたけもの(獣)がここ農業区でおぼれ死んだことは、おばばさまも知っているだろう?」
森林区。人間の住む区域をのぞく村の全てを、人はこう呼ぶ。
「ああ、そんなことがあったね。それがどうしたというんだい?」
「その時、底なし沼の周りを囲っていた木柵の一部がこわされたんだ」
「じゃあ、こどもはそこから中へ入ったと」
「いっしょに入ったこどもたちの話からすると、そういうことらしい。すくいあみで魚をとろうとしているうちに、どろ底にはまって、あっという間にしず(沈)んだそうだ」
「それで、探してはみたのかえ?」
「何人かでロープを身体に巻きつけて、あたり一帯を探ったんだけどよ。かなり深くまでもぐったみたいで、なに一つ探しだせないありさまなんだ」
「そうかい。も少し早ければ、手の打ちようもあったのだろうけどね」
おばあちゃんと村人たちはだまりこんでしまった。
向こう側から、こちらにいる村人たちを呼ぶ声が聞こえる。
「おおい、ゲンさんたちぃ。ちょっと来てくれぇ」
「判った。今、行くから。……じゃあ、おばばさま。またあとでな」
彼はそういうと、いっしょに来た村人とともに声のする方へと走っていった。
「底なし沼だからね。仕方がないんだよ」
おばあちゃんはため息をつく。
「ねぇ。おばあちゃん」
「うん? フローラ、なんだね?」
「大丈夫だよ、おばあちゃん。わたしがやる」
「そなたが?」
「前にいったよね、おばあちゃん。わたしは水の妖精よ」
「だが今も話にあったように、すでにどろ底か、くぼみの中だ。それでも助けられるというのかえ?」
「わたしには強い霊覚があるの。そのこどもに、ほんのわずかでも命の欠片が残っているかぎり、探しだすことはできるはずだよ。それに、水がそこにあるなら、わたしの力でなんとでもなる。おばあちゃん、行かせてよ」
「そうか。ではたのむとしよう。だがフローラや。くれぐれも無理をしてはいけないよ」
「うん、任せて。それで、おばあちゃんにたのみたいことがあるんだけど」
「なにかね?」
「多分、こどもは重体だと思う。お兄ちゃんは今、この一帯を往診にまわっているから、アーガの霊覚交信を使ってここに呼んでほしいの」
アーガは村のどこにでもいる。一匹に伝言をたのめば、霊覚交信を使って特定のアーガ、もしくは全てのアーガへ、それを伝えてもらうことができる。のら(野良)以外のアーガは使い手のラミアさんによって、セレン先生やお兄ちゃんが判るよう、教えこまれている。村人になにかあった場合、すぐにかけつけられるようにするためだ。だから、おばあちゃんがアーガに伝言をたのめば、お兄ちゃんがどこにいようと、近くにいるアーガがそれを伝えてくれるはず。
「判った。さっそく、やってみよう」
「それとね」
もうひとつ、個人的なたのみがあった。
「ふんふん。ああ、そうだね。判った。それも引きうけよう」
「ありがとう。じゃあ、おばあちゃん。行って来まぁす!」
おばあちゃん以外、だれもこちらを見ていない。わたしはさっそく水の身体に変化。衣服からぬけだすと、沼の中へと飛びこんだ。
妖精にもどったわたしは、沼の中をはうように泳ぐ。
「落ちたのは……ここらあたりだっていってたな。この沼は深くないし、水の流れもほとんどない。ということは、うまっているならこの近くってことよね」
わたしは霊覚をどろ底の方に集中してみる。
「……あそこだ。あそこに人の命を感じる」
見た目にはちっちゃな水草が、ぽつりぽつり、と生えているだけ。ほかにはなにもない。でも、わたしは自分の霊覚を信じて泳いでいく。
「ここだな。下には……、うん。深い水の気配がある。きっと、おばあちゃんがいっていた、くぼみがあるのにちがいない」
(それっ!)
わたしは、女の子がいる、と確信したどろ底へ頭からつっこんだ。
ずぶずぶずぶん!
「やったぁ! やっぱりここだったんだぁ」
表面はほかと同様、どろでおおわれていた。だけど、層はうすく、ちょっともぐっただけで、もう水の中。ぽっかりと大きな穴になっていて、水がたっぷりとたまっていた。
「おばあちゃんのいうとおりだ。すごい。一体、どれくらいの深さがあるんだろう」
わたしは水底深くおりていく。
「きれい。どろ底の上とはくらべものにならないくらい」
人では暗くてこの光景を目にすることはできないにちがいない。でも、わたしは水の妖精。はっきりと見えている。周囲のどろかべから、水草や『も』がつきだしているのも判った。
「人の気配を感じる。近づいているのはまちがいない。でもどこに…………あっ!
見つけたぁ! あそこだぁ!」
こどもというには、少し大きめな女の子。
(だから、ここまで入っちゃったんだな)
水草にからまれた状態で、身動きひとつしていない。
(せっかくさずかった命じゃない。死んじゃだめぇ!)
「フローラは無事、女の子を助けられるか? で、今回はおしまいってわけね。
ねぇ、ミアン。どうだと思う?」
「助かるんじゃにゃいの。それぐらい。なんたって水の妖精にゃもん」
「そう思うけど……、ちょっと今回のお題が気になるわん」
「大丈夫にゃよ。にゃんせ、水の妖精にゃもん」
「なんかさっきから、つきはなしたような『ものいい』だけど……、
どうしたの? ミアン」
「どうしたもこうしたもないにゃん!」
「あっ。おこった感じで、ネイルさんの方へ向かっていったわん」
「ネイルにゃん。あんたはまちがっているのにゃよ!」
びしっ!
「ずいぶん器用ですね。ミアンさん。右前足をこちらに向けて三本足だけで立つなんて」
「にゃあに。それほどのことでも……。ごほん!
ネイルにゃん。そんなあまい言葉でウチをまどわそうとしてもだめにゃんよ」
「一体どうしたんですか? さっきからつっかかってばかりですが」
「ふぅ。いわにゃければ判らにゃいなら教えてやるのにゃけれども」
「はぁ。どうぞよろしくお願いします」
「まずひとつめにゃ。ウチは、お茶菓子もお茶も飲んでいないのにゃん」
「えっ。お忘れですか? ここに来てから飲みましたよ、確か。
すっかりたいらげているところをこの目で確認しています」
「うん。それはネイルさんのいうとおりだわん」
「にゃんと! ウチはおぼえがにゃい……こともにゃい。そういわれればそんな気もしてくるのにゃん」
「ねこですからね。食べてしまえばおしまい。おぼえていなくても罪はありません」
「そういってくれるとウチも助かるのにゃ。いやあ、さすがはネイルにゃん。あらためてほれぼれと……。いや、まだ早いにゃん」
「どうしたんです?」
「二つ目を、ころっ、と忘れるところにゃった。
やい、ネイルにゃん。お茶菓子は、なにとなにを出したのにゃん?
それににゃ。はざわりとか、かみごこちとか、あと、口に入ったしゅんかんのしょうげきとか、食べているさなかのいろいろなびょう写もおろそかになっているのにゃん。これはお茶菓子に対する『ぼうとく』といってもいい。許せないことにゃよ」
「ミアンさん。よぉく聞いてくださいね。
にゃあまんみたいに、よもぎだんごが変化の『かぎ』になるなら、そりゃあ、びょう写のひとつもしますよ。ですが、残念ながらお茶菓子にはお話を左右するほどの力はありません。だから、食べた、ぐらいの感じで終わっているんです」
「そ、そんにゃにお茶菓子は地位が低いのにゃん?」
「大体、食べたのはフローラであって僕じゃありません。目の前で見たわけでもありません。びょう写自体が不可能ですよ」
「でも、ネイルさん。想像というか、うそっこでもいいんじゃない?
ミアンもそれで納得するし」
「なるほど。でもねぇ……。
ミアンさん。本当にそれでいいんですか? それこそ、お茶菓子を『ぼうとく』したことになりませんか?」
「うぐぐっ……。判ったにゃん。今回はウチの完敗にゃん」
「あ、ありえないことが起こったわん!
ミ、ミアンが食べもののことで初めて負けたわん!」
「にゃけれども、どうか」
「どうか? なんです? ミアンさん」
「食べたお茶菓子が、よもぎだんごではなかったことをいのるだけにゃん。
にゃんせ、おとめ」
「ミアン。これ以上、なにもいわなくてもいいわん」
「僕も同じ意見です。なにをいいたいのか、すぐに判りました。
ということで、この話はおしまいにしましょう」
「無条件で賛成だわん」
「待て。待つのにゃん。ウチはまだいい足りにゃいことが」
「おしまい、です」「おしまい、だわん」
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「おとめにゃのに、にゃあまん!」
「なによ、ミアン。やぶからぼうに」
「今のを冒頭でいうだけでにゃ。ここでの責任はまっとうされた気がするのにゃん」
「ほぉ、だわん」
「にゃからお休みぃ。あとはミーにゃんに任せるのにゃよぉ」
すぅぅっ。すぅぅっ。すぅぅっ。
「こらぁっ! ねこ(寝子)っている場合じゃないわん!
ミアン。例の『にゃあまん高校』はどうなったの!」
「……うるさいにゃあ、ミーにゃんも。あんなの、そんなに聞きたいのにゃん?」
むかっ!
「なにいってんのよ。ミアンでしょ? ミアンがあと一回だけっていうから、アタシもネイルさんも折れたんだわん」
「そりゃあ大変にゃ。早く病院へ行ってみてもらわにゃいと」
「なんか、かんちがいしているわん。別に骨が折れたわけじゃないわん」
「じゃあ、にゃにが?」
「にゃにがって……。まぁ、こちらの主張を断念したというか、ミアンのいうとおりにしたというか、そんなところだわん」
すぅぅっ。すぅぅっ。すぅぅっ。
「こらぁっ! だから、ねるなぁ、っていってんでしょうがぁ!」
「起きがけにつまらにゃい話をしたから、そりゃねむけがもどっても当然にゃよぉ。
ふわああぁぁんにゃ、と」
「大きな口のあくびだわん。……それで? 本当にどうするのよ?」
「ウチがいいだしっぺにゃもの。当然、やるにゃん。……ってにゃわけで」
「うん?」
『にゃあまん高校 女教師にゃあまん「おとめにゃのに、にゃあまん!」』
「全五話のうちの第一話にゃ。いってみよう! ……にゃん!」
「やれやれ。やっと始まったわん」
《
「さぁ、みんにゃあ! 質実剛健勤勉努力。にゃにをいっているのか自分でもよく判らにゃい。判らにゃいからめざすという感じで、今日は、画期的な試みをやってみようと思いついた次第にゃん」
「先生ぇ」
「はい。そこの手をあげた生徒、いや、学級委員、いや、ミーにゃん。にゃにか質問でもあるのにゃん?」
「その画期的な試みって、だれがやるのか聞きたいわん」
「いい質問じゃにゃいか。まぁ、一口でいうにゃらば、ずばり、あんたらにゃよ」
「ええっ! アタシたちがぁ。いやだなぁ。なんかびんぼうくじを引いたみたいで」
「いつの時代もにゃ。新しいものを生みだし、発見するのは若者と決まっているのにゃん。とうが立ったウチらの出る幕はとっくに終わっているのにゃん」
「まぁ、そうかもね」
「そうかもね? にゃんてことをいうのにゃ、ミーにゃん。ウチを、いや、ねこをぐろうする気なのにゃん? もしそうにゃら、ウチにもかくごがあるのにゃよ」
「ちょ、ちょっと待つんだわん。そんなけんかごしにならないでほしいわん。
大体、元はといえばミアンが」
「ウチは今、『先生』にゃん! あっ。でも、『にゃあまん』もありにゃよ」
「めんどくさ……。もう、なんでもいいわん。
先生。それで? アタシたちはなにをすればいいの?」
「おっ。思いのほか、やる気ににゃっているじゃにゃいか。感心感心」
「やむをえなく、だわん。やらないと、あとでごねてうるさいだけだしね」
「にゃるほど。やっと、目の前にいる三十人の生徒がみんなやる気が出た、というわけにゃん」
「あっ。三十人もいたんだ。初めて知ったわん」
「いやあ、ウチの説得もなかなかにゃもの。自分では全く気がつかないのにゃけれども、ひょっとすると、すでに『べてらん教師』としての域に達しているのかもしれにゃい」
「うぬぼれもいいかげんにしてほしいわん。なんかむかつくわん」
「そんにゃミーにゃんにお薬ひとつ。すぐに身も心も軽やかに」
「先生はいつから薬屋の手先になったの? っていいたいわん」
「ごめんにゃ、ミーにゃん。家庭の事情ってやつにゃよ。公衆、いや、生徒の前で、いうべき話ではないのにゃ」
「まぁ、いいわん。それじゃあ、さっきの話にもどるけど、アタシたちはなにをすればいいの?」
「よくぞ聞いてくれましたにゃん。にゃら発表するにゃよ。みんにゃあ、心を落ちつかせて聞くのにゃよぉ」
「早くいうがいいわん」
「じゃじゃじゃじゃああん!
ミーにゃん。今回の画期的な試み。それは……。
ずばり! 『にゃあまんの決めポーズをみんなでやろう!』、なのにゃん!」
「ええと、にゃあまん先生? にゃあまん先生は音楽の教師よねぇ?」
「えっ、そうにゃん?
てっきり遊びを知らにゃい学生に、本当の遊びがなんたるかを教える教師だとばかり」
「そんな高校教師はいないわん」
「ここにいるのにゃん。まぁ、にゃんでもいいにゃよ。遊びでも音楽でも。やることは同じにゃもん」
「どうしてよ?」
「集団としてなにかをやることをめざす、という点では変わらにゃいもん。
さぁ。四の五のいわず、始めるにゃよぉ!」
》
「ってにゃことで、次回はいよいよ、決めポーズの公開にゃあん!」
「ちょっと、っていうか、かなり強引な進め方だわん」
「そりゃそうにゃよ。にゃんせ、『おとめにゃのに、にゃあまん』、にゃもん。多少のわがままは大目にみてほしいのにゃん」
「さっぱり判らないりくつだわん。まぁ、考えたのがミアンだから、かまわないっていえば、かまわないわん。
でも、なんとなくつまらない展開になりそう。どんなことをやるのか知らないけど、とどのつまり、決めポーズをみんなでやっておしまい、じゃないの?」
「そういうことにゃん。……ただし」
「うん? なんかあるの?」
「宿敵かでん高校とのからみ。にゃあまんの必殺技さくれつ。にゃんかもある。
ミーにゃん。大あくびをしている場合じゃないのにゃよぉ!」
「ふわ……。
ちょっとミアン。あくびがとまってしまったわん。一体どうしてくれるのよぉ」
「大丈夫にゃよ、ミーにゃん。あれを見にゃさい」
「あれって……、ネイルさん?」
「ふわああぁぁい!
……どうしたんです? ミーナさんもミアンさんもこっちなんか見つめて」
「ほら。ネイルにゃんがミーにゃんの代わりに」
「なるかぁぁ! だわん!」




