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天空の村2・水の妖精  作者: シード
23/33

第八話『半年おくれの歓迎会』‐③

 そして夕方。病院のお手伝いが終わり、わたしはお兄ちゃんを待っていた。

「おそいなぁ、お兄ちゃん」

 なんか変。いつもなら休けい室でお茶を飲みながら待っているのに、今日は、『入っちゃいけない』っていわれた。それで待合室にいたら、もうすっかりあたりは真っ暗。ついている灯りもほんのわずか。そんなうす暗いところで、わたしは、ぼけぇっ、となにをすることもなく、ただいたずらに時をすごしていた。

「お待たせしました」

 お兄ちゃんがやってきた。でも、まだ着がえていない。相変わらず白衣のまま。

「ずいぶんと時間がかかったみたいね。なにかあったの?」

「ごめんなさい。少し手間取ることがありまして。ですが、もう終わりました」

「じゃあ、帰ろうよ」

「その前に休けい室へよっていきませんか? 見せたいものがあるんですよ」

「えっ。まぁ、別にいいけど」

「じゃあ、決まりですね。おいで」

 お兄ちゃんが手を差しだす。わたしはその温かな手に引かれながら、休けい室へと向かう。ろうか(廊下)の灯りもほんのわずか。だから足元が暗くてとても不安。ところが、休けい室の前は明るい。なぜ? と顔を横に向けると、半とうめいな窓からもれている光に照らされているため、と判った。

「あれっ、お兄ちゃん。部屋の中が明るくなっているよ。それに」

 はっきりとは見えないものの、窓に人かげらしきものがちらっ、ちらっ、と映っている。

「……まだだれかいるみたいだけど」

 わたしはドアを開こうとする。でも、開かない。

「お兄ちゃん、これ」「ああ、ごめん」

 とんとん。

 お兄ちゃんがドアをたたいた。

「はぁい」

 中から声が聞こえる。

 がちゃ。

 ドアが少し開く。すきまから人が姿を現わした。

「あれっ、レミナさん。こんな時間になんでここへ?」

 ラミアさんやレミナさんは毎日のようにここへ来るから、いたとしてもふしぎでもなんでもない。でも、今日はもうおそすぎる。

 レミナさんはわたしの疑問に答えることなく、お兄ちゃんに話しかける。

「ネイル、全部終わったよ。みんなも待っているから早くやろう」

 彼女は部屋の外に出てドアを閉めた。

「あっ。フローラちゃんはそっちで。あちきはこっちと」

 わたしは、お兄ちゃんやレミナさんと向かいあう形にさせられた。

「レミナさん。おいそがしいところ、ありがとうございました。

 じゃあ、フローラ。中へお入り」

 二人はそろって手のひらを見せ、わたしに部屋の中へ入るよう、うながしている。

「えっ。お兄ちゃんは?」

「僕も入るよ。フローラのあとから」

「そう……。それじゃあ」


 わたしは、おかしいな? と思いながらもドアをたたいた。

 とんとん。

「どうぞ、お入りください」

「あっ、はい」

(あれっ。マリアさんっぽい声。でもまさか……)

 首をかしげることばかり。とはいっても、立ったままでいるわけにもいかず、いわれたとおり、ドアの向こうに入った。

 と、そのしゅんかん。

 ぱぁん! ぱぁん! ぱぁん!

 大きな音がいくつも聞こえた、と思ったら、いくつもの紙ふぶきがわたしの頭上へとまいおちてくる。

「ええと、これは……」

「フローラ、中央病院へようこそ!」

 ぱちぱちぱち。

 部屋の全員がわたしに向かってはくしゅをしている。

 村長さんとマリアさん、セレン先生とラミアさん、フィルさんとリンダさん。そしてメリナおばあちゃん。お兄ちゃんとレミナさんもあとから入ってきた。

「お兄ちゃん。これは一体……」

 わたしはなにがなんだか分からず、お兄ちゃんの方をふり向く。

「実は僕も初めてこの病院に来た時、こうやってかんげいしてもらったんです。フローラが病院の臨時職員になってから、もう半年以上経ちますよね。なのに、なにもやっていませんでした。それでこんな場を設けることにしたってわけです」

「じゃあ、これって全部わたしのために」

「そういうことです」

 部屋の天井には、紙で造った小さい『輪つなぎ』がたれさがっていたり、お魚さんを書いた絵がつるされていたりする。ドアの上のかべにも、『ようこそ、中央病院へ!』と大きく書かれたパネルがかけられていた。

 そばにいるだれもが、笑顔でかんげいしてくれている。わたしの胸に熱いものがこみあげてきた。

「ありがとう、みんな」

 お礼をしなきゃ、と思っても、わたしにできることっていったら、せいぜい、今やっているみたいに頭をさげるぐらい。

(こんなので喜んでもらえるかなぁ)

 不安ととまどいの中、おばあちゃんが声をかけてきた。

「フローラや。これからもあたしにお薬を届けておくれ」

 そういって手に持った花束をわたしに差しだす。

「これ……、もらってもいいの?」

「家の近くにさいているお花畑からつんできたものだけどね。もし、気にいってくれるのであれば」

「あ、ありがとう、おばあちゃん」

 感動がこみあげてくる。思わずなみだぐんでしまった。


 わたしのかんげい会はこうして幕をあげた。

 テーブルには、ところせまし、と、お料理やお飲みものが並んでいる。

「これって」

(一体だれがこんなにたくさん?)

 わたしのいわんとしたことを察したのだろう。すぐさまレミナさんが反応した。

「もち。ほとんどが、あちきの手料理だよ。気にいってくれるといいんだけどぉ」

「レミナさんはね。料理がおじょうずなんですよ。まぁ、食べてごらん」

 二人にすすめられ、わたしは一口食べてみる。

「うわぁっ、おいしい!」

(レミナさんってこわい人かと思っていたけど、案外、女の子らしい人なんだ)

 わたしのレミナさんを見る目が百八十度変わった。

「なっ、おいしいだろう? レミナの手料理って、あたいもたびたびごちそうになるけど、決して期待を裏切らないんだ」

 ラミアさんはそういって骨つき肉に、がぶっ、とかみつく。

「さすがだな、レミナ。相変わらず味つけは申し分ない」

「さぁさぁ。ほかのみんなもおしゃべりばっかりしないで食事にしよう。

 今日は立ち食いだからね。自由なところで自由に食べてよねぇ」

 レミナさんのかけ声に、『そうだな』『そうですね』といった声が聞こえる。まるで全員が申しあわせたかのように、そろってお皿を手に持ち、お料理を盛り始めた。


「うまいうまい。おおっ、と。これもあるのか。どれどれ」

 手あたり次第、食べまくるラミアさん。

「ラミアのいうとおりだ。味がしっかりと食材になじんでいる」

 ゆっくりと品定めをしながら、選んだ料理を口にするセレン先生。

 二人は、まぁ、いうなれば、お友だち組。以前にもレミナさんの手料理を食べたことがあるらしい。盛っては空に、盛っては空に、を、どの仲間よりもひんぱんにくり返している。使い終わったお皿の積みあげられた高さも、ほかを大きく引きはなしている。

(とはいっても、その大半がラミアさんなんだけどね。うふふっ)


「これは初めて口にするが、なかなか美味びみじゃのう」

 レミナさんのお料理に感心している村長さん。

「本当、おいしいですね」

 上品な口元で、かりっ、と一口食べ、ほおに手をあてているマリアさん。

 こちらは村役場組。もしくは、おじいさんと孫の身内組といってもいい。お皿に盛る量は、毎回少ない。でも、口元はひんぱんに動いている。

「村長さん。口からお肉のたれが」

 そういって、おばあちゃんが口元をふく。

「おお。すまんのう、メリナさん」

(ふふっ。村長さんの顔が真っ赤だぁ。これって、めったに見られない光景じゃないかな)


「あぁら。なかなかおいしいじゃない。これってレミナちゃんの手料理よねぇ。

 どう? フィル。今度、お昼を造りにきてもらいませんこと?」

 もぐもぐ。もぐもぐ。

「リンダ。確かにうまいが、本来、レミナは雨神フーレの使い手だ。水まきにいそがしいから、わざわざ料理のためだけに来てくれることは、まず、ない、といっていいだろうな」

「それもそうね。残念だわぁ。こんなにおいしいのに」

 岩石研究所。略して岩研組も、レミナさんのお料理をお気にめしたみたい。

(でもなぁ。あそこで暮らしているならどんな食べものだって……。

 おおっ、と。これは、いわゆる、『いわないお約束』ってやつ。だまっていよぉ)


 お料理とおしゃべり。この二つを、だれもが楽しんでいた。


「レミナさん。みんな喜んでいるみたいです。ほっとしましたよ」

 お兄ちゃんはそういいながら、飲みものを口にしている。

「そうだね。急に用意した割には、なかなかいいかんげい会になったと思うよ。

 ねぇ、フローラちゃん」

「うん。でも、わたしのためにかんげい会を開いてもらえるとは思わなかったなぁ」

「あれぇっ。ひょっとしてフローラちゃんはこういうの苦手だったぁ?」

 不安そうにわたしの顔をのぞくレミナさん。

「ううん。ちがうちがう。うれしい、って意味で、なの」

 あわてて手と頭を横にふる。レミナさんはわたしの言葉に、ほっとした表情を見せた。

「よかったぁ。ないしょで始めたから、『だめだよ、こんなの』っていわれたら、どうしようかと思ってさ。気が気じゃなかったんだ」

「そんなことないって。ふふっ」

 こちらはしゅさいしゃ組。やってよかったと喜びあう。

(思えば湖の中はいつもにぎやかだったなぁ)

 みんなの笑顔に囲まれる中、わたしはいつしか、きょうしゅう(郷愁)にふけっていた。

「どうしたの? フローラちゃん。なんかぼやぁっとした感じだけどさ」

「えっ。な、なんでもないよ」


 でも……とわたしは思う。水の妖精に比べて、村人の数はなんと少ないことか。ここに集まってくれた人の数はさらに少ない。それだけに、ひとりひとりの思いがはっきりと判る。それだけに愛おしさがよけいにこみあげてくる。だから、大切にしたい、だから、守りたい。目の前にいる人たちを。この人たちが生まれた村の大地を。今、わたしが暮らしているこの世界を。

 そう願うわたしがいた。


「どうやら、盛りあがっているみたいだね」

 おばあちゃんが両手を後ろに組んでやってきた。今日は、作務衣の上にそでなしの羽織、という装いで村長さんと同じ格好。だけど、羽織の色はちがう。村長さんのは砂色。それに引きかえ、おばあちゃんは紅色。女性を強調した色、とわたしの目には映った。

「フローラ。実をいいますと、最初にかんげい会をやろうって提案してくださったのは、メリナおばあちゃんなんですよ」

「えっ、おばあちゃんが」

(わたしはてっきり、お兄ちゃんかと思っていたんだけど……)

「この前会った時、少しさみしげな様子だったからね。ネイルさんに聞いたら、かんげい会もまだだっていう話じゃないか。それなら、ってことで持ちかけてみたんだけど、めいわくじゃなかったかね?」

「ううん。逆だよ。そんなに気づかってくれるなんて。ありがとう、おばあちゃん」

「よかった。開いたかいがあったよ」

 おばあちゃんとの会話がはずむ中、レミナさんのあわてたような声が聞こえてきた。

「ほら、見て。料理が少なくなってきちゃった。あちきたちも早く食べなきゃ」

「そんなにあせらなくたってまだまだ……えっ!

 あ、あんなに……あったのに……」

 あ然と立ちつくすお兄ちゃんの視線にわたしもあわせてみる。

「うわぁ、本当に少なくなっている」

 見たところ、全てのお料理がすでに半分以下の量。にもかかわらず、人の行き来がとまらない。早い者勝ちの様相をてい(呈)してきた。

「レミナさんのいうとおりですね。さぁ、フローラも」「うん」

 お兄ちゃんとわたしもおくればせながら、お料理のそばにいく。

「じゃあ、これに好きなものを乗せなさい」

 おばあちゃんからお皿が手わたされた。

(さぁて。どれにしようかな、っと)

 わたしたちはお料理を選び始めた。


 今日は立食でのかんげい会。お料理の皿を手にしながらも、集まってくれたみんなの間をまわって、おしゃべりを楽しんでいた。

「なぁ、ネイル」

 ラミアさんが少し不満げな顔をしている。

「はい、なんでしょう?」

 お兄ちゃんはにこやかな顔でむかえうつ。

「あたいもさ。ここのかざりつけを手伝ったんだぞ」

「そうですね。とても感謝しています」

「なのに、なんでしゅさいしゃ組が、お前とフローラ、それにレミナだけなんだよ。

 あたいもそっち側の人間だと思うけどな」

「お気持ちは判りますが……。かんげい会を開くにあたっては、多かれ少なかれ、ここにいる全員が関わりあっているんですよ。それをいうと、全員がしゅさいしゃということになってしまうわけでして。いくらなんでもそれはどうかと」

「だったら、お前とフローラだけでいいじゃないか。なんでレミナまで」

(ああ、それでぇ)

「ラミアさん。レミナさんにはかんげい会の総指揮を引きうけてもらいました。立派なしゅさいしゃ組の人間ですよ。大体、ラミアさんが手伝ってくれたのだって元を正せば、レミナさんにたのまれたから、ですよね? ちがいますか?」

「……そうだけどな」

 ラミアさんがすねているようにも見える。

「ははぁん。判ったよ、ラミアさん」

「なにが、だよ、レミナ」

「自分もネイルの横に立ちたかったんだ。そうだよね、ラミアさん」

 レミナさんは人さし指を、びしっ、とラミアさんへ向けた。

「そ、そんなんじゃあ……。

 レミナ。お前なぁ、人さし指を人に向けるのは」

「そうだな、だめだ」

「なんだ、セレン。人が話をしている最中に割りこんできやがって」

「ラミア。君のひがんでいる姿があまりにも痛ましくてな。他人のふりをしているつもりだったが、親友として見るにたえない。そこで泣く泣く声をかけたというわけだ」

「えらそうなことをいいやがって。お前はなにもやっていないからそんなことをいうんだ」

「なにもやっていない? ふっ。おろかなことを。これだからぼんじん(凡人)は」

 やれやれ、といった様子で両手のひらを見せるセレン先生。

「ほぉ。では聞くけどな。お前がなにをしたと?」

「一目りょう然。ラミア、ここをどこだと思っている。病院の休けい室だ。それを提供している以上、『関係者ではない』とはいえないと思うが?」

「うっ……。だ、だけどよ。ここは村の公共しせつで、お前個人のものじゃないだろう。だったら」

「我は、この病院では院長の役職にある。村議会の承認を経て、そこにおられる村長殿から任を受けた。すなわち、この病院は村議会並びに我の管理下にある。その我らが許可したからこそ、このかんげい会を実現できたと、そうは思わないのか?」

「そ、それはそうかもしれないけど……」

 ラミアさんが、たじたじとなっている。

「かも、ではない。事実だ。実際、我こそがレミナとともに、ネイルの横に立つ資格があるのだ。それをあえて口に出さないのは、れいぎを失すると思ってのこと。ならば、君も我と同様、ここはがまんすべきだと思うが?」

「おれの方からもいわせてもらうぞ、ラミア」

 フィルさんもこの口げんかに参戦する。

「知らないみたいだから教えてやるが、かんげい会にかかる費用の大半は、おれたちが負担をしている。単なる『お客さま』とはちがうぞ」

「お前たちが……。まだそんなにもうかってもいないくせに、どうして?」

「火事の際、フローラには世話になったからな。確かに金はあまりないが、だからといって、恩を忘れるほどの『おろかもの』ではないつもりだ」

(フィルさん……)

 なにより、うれしいひとことだった。

 リンダさんもあいづちをうつ。

「そのとおりよ。判った? ラミアちゃん。さらにいうなら、ここで使われている食器は全て、あたくしが用意してさしあげたもの。お料理も何品かお造りしましたし、盛りつけだって手伝っておりますのよ」

「あたしもほんの少しばかりだが、手料理を造っていてね。今、そなたが口にしているのが、それさね」

 おばあちゃんも口を出す。みんなの協力があればこそのかんげい会、とうれしく思った。

「それでか。がちゃがちゃと台所がやけにうるさい、とは思っていたけどな」

「ラミアさん。お聴きになられたように、ラミアさんばかりじゃなく、ここにいるみんなが、かんげい会を開く手助けをしてくれたんです。そのため、しゅさいしゃ組はごくかぎられた人間だけにさせて頂くことにしました。ご不満はあるかもしれませんが、どうかご理解くださるようお願いします」

「……判ったよ、ネイル」

 ラミアさんは観念したようにお料理を食べ始める。

(一応、納得してくれたみたいね)

 そう思って彼女の元をはなれた。すぐ向こう側にはフィルさんとリンダさんの姿が。二人に声をかけようとする寸前、後ろから、ぽつり、と声が聞こえた。

「ここの天井をかざりつけしたのは、あたいなんだけどなぁ……」

 思わずふり返る。つぶやいた言葉と彼女のせなか。どちらも、とてもさみしそう。

(ごめんね、ラミアさん)


「今日はフローラのためにおこしいただき、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします」

「お願いします」

 お兄ちゃんとわたしが最後にあいさつして、このかんげい会は幕を閉じた。

「じゃあな」

 手をあげて帰ろうとするラミアさんを、

「待った!」とレミナさんがとめた。

「なんだよ、レミナ。もうお開きになったんだろう。あたいも早く帰りたいんだよ」

「えへへ」

「うす気味悪いやつだなぁ、にたにた笑いやがって。一体どういうつもりだ」

「あのね、ラミアさん。ちょっとお耳を」

 レミナさんがラミアさんの耳元に口をよせ、さも、大事な内容であるかのごとく、小声で話しかける。

「なんだよ……」

 ラミアさんも思わず小声になる。

(これくらいの声なら十分聞こえる)

 わたしの耳にもレミナさんの声が届く。

「あとかたづけが残っているの。手伝って。うふん」

「て、てめぇ」

 ラミアさんは、レミナさんからはなれるやいなや大声をあげた。

「ふざけやがって。さっきまで人をのけ者あつかいしたくせに。今になってなんだ!」

「ええっ。じゃあ、手伝ってくれないのぉ? あちきとネイルとフローラの三人だけでやれ、っていうつもりぃ?」

「だぁかぁらぁ」

(そう。いくらなんでも無理だよね)

「……ちぇっ、しょうがないな。判った。つきあってやるよ」

(えっ。いいの? 本当に?)

 半信半疑のわたしに引きかえ、レミナさんはラミアさんの言葉をまっすぐに受けとめている。

「うわぁい! これだから、ラミアさんは好きなんだぁ!」

 ぶちゅぅ。

「こらっ。いきなり人にしがみついて、ほおに口づけ、なんてするんじゃない!」

「うふん。照れないでよ。あちきとラミアさんの仲じゃない」

「こらぁ。はなせ! はなしやがれ!」

 ラミアさんはレミナさんにからみつかれて、あたふたしている。


 一方、帰宅組がわたしたちに別れを告げて、ぞろぞろと部屋の外へと出ていく。

「ネイル。また明日」

 セレン先生がそういえば、おばあちゃんも、

「今日はよいかんげい会であった。では、これにて」といい、村長さんも、

「また近いうちに顔を見せにくるからのう」といって立ちさる。つづいてマリアさんも、

「今日は楽しかったです。それではみなさん。先に失礼します」と頭をさげ、フィルさんも、

「ネイル、じゃあな。たまにはおれのところへ遊びに来いよ」とさそいの声を。リンダさんも、「そうね。フローラちゃんもぜひいらっしゃい」との言葉をそえて、この場から消えていった。


 今、聞こえるのはラミアさんとレミナさんのさわぎ声ぐらい。部屋の中は先ほどとはうってかわって静かになった。

「お兄ちゃん。かんげい会が終わっちゃったね……」

「どうしました? フローラ」

「わたしがいた湖の中っていつもお祭り状態なの。日が暮れてからは少し静かになるけどね。それでも、こんなにさみしくはならないな」

「フローラ……。ひょっとして帰りたいですか?」

「ううん。せっかくこの世界に来たんだし、まだその気はないよ。でもね。こんな風に静かになると、やっぱり、湖の中がこいしく思えてしまう時もあるの」

「フローラ。まだここでの生活は始まったばかりですよ。いつか帰らなければならない日が来るかもしれません。ですが、それまでは、ひとつでも多くの楽しい想い出を造っていってください」

「うん。ありがとう、お兄ちゃん」


 ラミアさんが残ってくれたおかげで、かんげい会のあとかたづけは割と早くすんだ。

「さてと。これで終わったな。じゃあ、あたいは……。

 あれっ。レミナはどこへ行ったんだ?」

「そういえば、さっき、台所の方へ行ったような」

 わたしが後ろをふり向いたとたん、レミナさんの声が聞こえた。

「じゃじゃじゃぁぁん!」

 レミナさんが台所用の台車に、『あるもの』を乗せて運んできた。

「おっ、これは!」

 ラミアさんは思わず『あるもの』に目をこらす。

「えへへ。このケーキは残しておいたんだ。四人だけになったら食べようと思ってね」

「そうか。それであたいに、『あとかたづけを手伝え』っていったんだな」

「ちがうよ。そういったのは、本当に人手がほしかったからなの」

「お前なぁ。うそでもいいからそういえよ。そうすりゃあ、こっちだって気分がいいのにさ」

「まぁ、いいじゃない。四人いっしょに食べようって思ったのも事実なんだから。

 みんな、まだおなかの中に入るよね?」

「あたりまえだろ。甘いものは別腹だしな」

「ラミアさん。本当は別腹なんてありません。ただ甘いものが好きな人にとっては、食欲がしげきされて胃のすきまが拡がる、というのはあるみたいですね。もちろん、僕も食べられます」

 知っている。お兄ちゃんも、甘いものには目がない。

「わたしも。さっきは人が多くて少しきんちょうしちゃったみたい。えんりょして食べていた気がするの」

(もちろん、わたしもお兄ちゃんと同じで甘いもの好きだから、おなかいっぱい、ではあっても食べようとするにちがいないけどね)

「あちきはその点、少なめに食べていたからね。よゆうだよ」

「そりゃそうだろう。これを造った本人だからな。食べるのをおさえていたってわけだ」

 本当にぬかりのないやつだな、とあきれ顔のラミアさん。

「そういうこと。このケーキ。かなり高い食材を使って手のこんだものに仕あげているから、きっとおいしいと思うんだ。さぁ、早く食べよう」

「そりゃあ、楽しみだなぁ」

 ラミアさんは早くも舌なめずりを始める。レミナさんはケーキを大ぶりに切ると、人数分の小皿に盛りつけた。

「よっしゃあ。この方が見栄えがいいね。

 じゃあ、あらためて。フローラちゃんの、ここでの生活を祝って!」

「いっただきまぁす!」

 レミナさんのかけ声にあわせて全員がハモった。

 わたしはマリアさんやリンダさんの食べ方を想いだし、上品に一口食べてみる。

「お、おいし……すぎる!」

(ほっぺたが落ちそう、っていうらしいけど、まさにそのとおり)

 わたしの顔から思わず笑みがこぼれる。

(ありがとう、みんな)

 いつまでも心に残る。そう思えるぐらいの楽しいひとときを、わたしはすごした。


「ぷんぷん! ぷんぷん!」

「ネイルさん。なんか知らないけど、ミアンがおこっているわん」

「本当ですね、ミーナさん。お話が終わったとたん、ふきげんになってしまいましたよ」

「このまま、っていうのもなんだし、ネイルさん、ちょっと理由を聞いてみてよ」

「ええっ。僕がですか? ここはやっぱりつきあいが長いミーナさんの方が」

「ネイルさんはミアンのご主人さまでしょ? だったら」

「ちがいますよ。僕とミアンさんは親友同士です。

 ……とはいっても、ミーナさんにはとてもおよびませんが」

「えへん! まぁ、そりゃそうだわん」

「ということで、ぜひ、お願いします」

「判ったわん。アタシに任せなさい!

 ……というわけで、ミアン、なにをそんなにおこっているの?」

「ウチがどこにもいないのにゃん」

「はて? ミアンはここにいるじゃない。本当、どうしちゃったの?」

「ちがう。ここじゃにゃくて」

 どしん。どしん。どしん。

「ミアンさん。いたずらに床を足でふみつけるのはやめましょうね。底がぬけた場合、修理費がかさんで、夕食が食べられなくなるかもしれませんから」

 ぴたっ。

「あっ。やめたわん。さすがに、『夕食なしはつらい』と理性が働いたみたいだわん。

 ねぇ、ミアン。本当にどうしちゃったの?」

「どうしちゃったじゃにゃい!

 にゃあ、ネイルにゃん。かんげい会でおいしいものを食べているのにゃろう?」

「ええ、まぁ」

「にゃのに、にゃんでウチがいないのにゃん。呼ばれればにゃにをおいても真っ先にかけつけるというにぃ ぷんぷん!」

「といわれましても。このころ、僕はまだミアンさんと会っていないんですよ。呼びようがないじゃありませんか」

「ぷん……うぐっ」

「あっ。おこるの、やめたわん」

「ぐすん。そうにゃった。会っていなかったのにゃあ。ぐすん」

「今度はなみだぐんでいるわん。多感なお年ごろなのかな?」

「ぐすん。

 さよにゃら、えびふらいの大盛にゃん。

 さよにゃら、よもぎだんごの大盛にゃん。ぐすん」

「あのぉ、ミアンさん。今でも覚えているんですが」

「ぐすん。にゃにを?」

「どちらの大盛も出ていませんでしたよ。だから、なげく必要なんか、これっぽっちもありません」

「にゃ、にゃんと!」

 きらきらきらきらきらぁん!

「うわっ! とつぜんミアンが満面の笑顔になったわん。しかも神々しいまでの光を放っているわん」

「にゃあんだ。おこったりかなしんだりして損したにゃあ。にゃははは!」

「今、泣いていたねこがもう笑っているわん。んもう、これだからねこは気まぐれな生きものっていわれるのよぉ」

「にゃははは! おとめにゃのに、にゃあまん! にゃははは!」

「ミアンさん。ここでそれを持ちだす必要はないと思うんですが。

 大体なんなんです? その勝ちほこったような笑い方は?」

「アタシもないと思うわん。っていうか、ミアンったら少しうかれすぎだわん」

 びしっ!

「おとめにゃのに、にゃあまん!」

「だから……。だめだわん。だれのいうことも聞いていないわん」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「お待ちどうにゃまの絶好調。にゃあまんのみりょくを余すところなく伝える待望の第四だん! ミーにゃん公認、『ミーにゃん帝国の野望・ぱあと2 副題「真実を求めて・ばーじょんB」』があなたの心を、どきゅん、とうつにゃん!」

「ちがうとは判っていますが、一応聞きますね。公認したんですか? ミーナさん」

「ちがうって判っているとは思うけど、もう一度いうわん。んなわけないわん。

 ……にしても、お題がどんどんどんどん長くなっていくわん」

「長くにゃっても、おもしろさは変わらず。始まり始まりぃ、にゃん!」

「おもしろさが変わらないって、ことは、そんなにおもしろくないってことね」

 ぐさっ!

「うっ……。ミーにゃん、それをいってはいけないのにゃよぉ……。

 あっ、いうのを忘れていたのにゃけれども。物語的には最初からじゃにゃくて、ウチが笑いながら出てきたところからにするのにゃん。ううっ……」

「苦しがっているのに、わざわざ説明してくれるなんてりちぎだわん。お疲れさま」


「にゃはははっ」

「だれなのぎゃあ? きさまはぁ!」

「えたいのしれないやつだわん。名前を名乗りなさい! ここはアタシの帝国。それを無断で入りこむなんて。許せないわん」

「ウチはにゃ」

 ひらり!

「あっ。青いマントをひるがえしたのぎゃ」

「あっ。見て。手によもぎだんごをにぎっているわん」

「まさか……ぎゃ」

「もしや……だわん」

「にゃはははっ。どうやら気がついたみたいなのにゃん」

 がじっ。ぶずぶずぶずぶずぶず。


 ぴきぃん!

「おおっ! 高くかかげた『くし』が八千三百八十八万とんで一色の変化を見せているのぎゃ」

「副題「真実を求めて・ばーじょんA」の五倍ぐらいあるなんて……。

 これはいよいよ、来るべきものが来たって感じだわん!」

「いくにゃよぉ! それぇっ! 『にゃあまん』!」

 ぴにゃんにゃんにゃんにゃん!

「うわっ! すごい光だぎゃあ!」

「まぶしすぎるわぁん!」


「満を持して、正義の味方『にゃあまん』、ただいま参上にゃん!」


「おとめにゃのに、にゃあまん!」

 ずんぐりむっくり。

「な、なんなのぎゃ! この濃くて緑っぽい身体は!」

「うぅぅむ。全体像としては後ろ足でだけで立っている『ねこ』だわん。もっとも身体は、よもぎだんごのまんまるをくっつけて造られているだけみたいよ」

「ミーにゃん女王さま。感心している場合じゃないのぎゃん」

「といってもねぇ。こんなキャラ相手にどうするっていうの?」


「にゃははは。とまどっているようなのにゃけれども。おどろくのはまだ早いのにゃよ」

「ぎゃんと!」

「それは一体どういうことなの?」

「ウチはこの先、にゃんと九百九十九種類もの変化へんげができるのにゃん!」

「ぎゃ、ぎゃんと!」

「九百九十九種類も、なんて……。

 もうだめだわん。アタシたちの野望もこれまでだわん」

 がくり。

「ああっ! ミーにゃん女王さま。がっかりするのはまだ早すぎるのぎゃ。今の話だって、ただの出まかせ、ってこともないとはいえないのぎゃん」

「……そう、そうだわん」

 すくっ。

「ジュリアン四世のいうとおりだわん。でまかせ、でたらめにちがいないわん!」

「おおっ! 女王さまが立ちあがったのぎゃ。

(……にしても、また三世から四世へと名前が変わっているのぎゃ。やれやれ)」

「こらぁっ! ジュリアン四世!

 ぶつぶつとつぶやいているひまがあったら、あのだんごになにかいい返しなさい!」

「ふぅ。……判ったぎゃあ」

 くるっ。

「やい、にゃあまん。きさまのいうことが真実というのぎゃら、なにかしょうこでも見せたらどうなのぎゃん」

「望むところにゃ。これが変化のひとつ。とくと見るがいいのにゃん。それぇっ!

『巨大にゃあまん』!」

 ぱにゃんにゃんにゃんにゃん!

「うわっ! 最初よりもさらにすごい光だぎゃあ!」

「ああっ! 目をつむっていてもつぶれてしまいそうなまぶしさだわん!」


「ふぅ。やっと光が収まったみたいだわん」

「ミーにゃん女王さま。ほっとしている場合じゃないぎゃん」

「えっ!」

 ぐぐぐぐっ!

「あああっ! す、すごいわん!

 今でも、ものすごく大きいのに、さらに大きくなっていくわん!」

「て、天井がぶつかってぇ……ぎゃあああ!」

 ぼっがああん!

 ぐらぐらぐらぐら! ぐらぐらぐら!

「ジュ、ジュリアン四世! ゆ、ゆれているわん!」

「ど、どこまで大きくなっていくのぎゃあああ!」

 ばらばらばら。ばらばらばら。

 どがっ!

「うぎゃあああ!」

「がれきが……ジュリアン四世の頭に落ちてしまったわん!」

 どがどがどがん! どがどがどがん!

 ばががががぁぁん!

「きゃああ!」


「ミーにゃんミーにゃんj

「ううっ……。ああ、ミアンが呼んでいたのね。……あれっ? アタシ、生きているわん。

 てっきり、かべ石にぶつかったものとばかり」

「ウチがその前に、さくっ、と拾いあげたのにゃん」

「そうかぁ。ありがとう、ミアン」

「なのにゃけれども」

「うん。どうしたの?」

「これがミーにゃんの頭から落ちたのにゃん。こわれてしまったみたいにゃよ」

「かんむり、だわん。でもいいの。なんかこれをかぶせられてから、ジュリアン四世に操られっぱなしだったような気がするから。こわれたことで自分を取りもどせたみたい。返ってよかったわん」

「そうか。ミーにゃんがいらないにゃら、とっておく必要もないのにゃん」

 ぽいっ。

「そういえば、ジュリアン四世は?」

「がれきの下にゃ。ジュリアンの野望はこれで幕となったのにゃ」

「アタシの野望じゃなかったってわけか……。

 ミアン。アタシ、そろそろ夕方だから帰るね」

「ウチがイオラの森まで送るのにゃよ」

「えっ! その大きさで?」

「うんにゃ。あっという間につくのにゃよ」

「そう……。じゃあ、たのむわん」

「ミーにゃんをこのまま手に乗せて出発にゃん。行くにゃよぉ!」

 ごごごご。ごごごご。

 ごおおぉぉっ! 

「うわぁい! 飛んでる飛んでるぅ!」

「ミーにゃん。指でもなんでもいいから、落ちないようにしっかりとしがみついているのにゃよぉ」

「判っているわん。そんなへまはしないわん」

 ごおおぉぉっ! 


「かくしてミーにゃん帝国はほろびたのにゃった……。

 にゃんにゃんにゃん。どうにゃった?」

「気がついたら、ミアンに助けられていた……。これもりっぱなヒロインだわん。

 まぁ、悪くないオチだったわん」

「あと、ネイルにゃん。いうまでもにゃいが、このお話でも」

「僕は出ていない。判っていますよ。しくしく」


「ねぇ、ミアン」

「なんにゃ? ミーにゃん」

「今回は大きくなって、はくりょくもずいぶんと増したわん。だけど、まだ変化は九百九十八種類もあるのよね」

「そうにゃよ」

「だったら」

「だめですよ、ミーナさん、ミアンさん」

「にゃにが? ネイルにゃん」「なにが、よ、ネイルさん」

「お話として楽なのでつづけたい。そう思う気持ちは痛いほど判ります。でもね。引き際もかんじんですよ。ここまでにしませんか?」

「ミーにゃん、どうする? 『三段ろけっとにゃあまん』や、『三身合体にゃあまん』も用意していたのにゃけれども」

「ミアン。ネイルさんのいうことも一理あるわん。このへんでお開きにしよう」

「でもにゃ。あと一回だけ。あと一回だけにゃから。

 にゃあ、お願いにゃよ、ミーにゃん、ネイルにゃん」

「うぅん。どうする? ネイルさん」

「ミアンさんがそこまでいうなら。じゃあ、この次で終わりですよ。

 ミーナさんもそれでいいですね」

「もちろん、だわん」

「やったにゃあ!」

「ミアン、よかったね。でもさ。今度はどんな話にするつもりなの? やっぱり、『三段ろけっとにゃあまん』とか?」

「いいや、ちがうのにゃよ。これで『にゃあまん』も語り納め。にゃらもっと、にゃんにゃんにゃんなお話で終わりにするのにゃん」

「なんです? そのにゃんにゃんにゃんって?」

「アタシにもさっぱり判らないわん」

「ずばり! 最終のお題発表にゃん!」


『にゃあまん高校 女教師にゃあまん「おとめにゃのに、にゃあまん!」』


「これで決まりにゃあ!」

「な、なんですって!」「な、なんと! だわん!」

「なんて、ざんしん(斬新)なお題を……。勝負に出た、ってとこですか?」

「ネイルさん。感心している場合じゃないわん。

 決まりにゃあ、って……。お題だけで三回も、『にゃあまん』が出てきたわん。しかも女教師。このお話って大丈夫なの? お話禁止、にでもなるような、あぶないやつだったら大変だわん」

「あっ。それなら大丈夫ですよ、ミーナさん。心配なさる必要なんて、これっぽっちもありません」

「ネイルさん。そういいきる『こんきょ』は?」

「ミアンさんのお話ですから。『あぶない』の『あ』の字にもならないと思います」

「そりゃそうだわん。つい、うっかりしていたわん」

「ねっ。はははっ」「あはははっ、だわん」

「にゃはははっ」

 ほのぼの。ほのぼの。ほのぼの。ほのぼの。ほのぼの。ほのぼの。…………。


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