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天空の村2・水の妖精  作者: シード
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第八話『半年おくれの歓迎会』‐①

 第八話『半年おくれのかんげい会』


 マリアさんの話によれば……天空の村に住むほとんどの村人が、天外まきょう(魔境)、および、ほかの星から流れついた移民だとか。そんなわけで、時間や日数の考え方も移民が使っていたものを参考に、この村にあうよう置きかえたとのこと。一日は三十六時間を基準に、一分は九十秒。一時間は九十分としている。また、一週間は十日。一か月は十週間。一年は十か月と定めている。つまり、一年はきっかり、千日となる。


 今日もアリアに乗ってお薬の配達にいそしんでいた。かばんの中身が空になったのを確認後、『さぁ、お兄ちゃんを拾って帰ろう』と飛んでいるさなか、ふと、こんなことが頭をよぎった。

(わたしって、病院のお手伝いを始めてから今日まで、いつ、どこで、なにをやっていたんだっけ?)

 思えばこれがきっかけ。日数の知識を元に手のひらを拡げて、一、二、三、と指を折って月を数えてみる。そしたら片手じゃすまなかった。『五か月以上、つまり、半年以上がすぎている』、ことを初めて知る。指を折るにつれて、『この月はこれをやったし、あの月はあれをやった』、などの記憶が、今までのような、ばくぜん、とではなく、明確な形で想いだされてくる。おそらく、数字という、ほかのものとくらべられる具体的な値の元に、自分の後ろ姿をふり返ったせい、とひとりうなずく。

(思えばいろいろなことがあったなぁ)

 しばしの間、想い出にひたっていた。


 ふと気がつけば、『フーレの森』の上空を飛んでいた。

「ま、まずい! 行きすぎちゃった!」

 眼下に何頭か雨神フーレが休んでいる。引きかえそうとしたところ、フーレたちの真ん中で、ぽつんと人の姿を見つけた。

「あっ、あれはレミナさん」

 わたしはさっそく急降下し、フーレたちの後ろへアリアをおろす。本来であればこの森へおりるには、使い手であるレミナさんの許可が必要。でも、彼女は中央病院の休けい室によく顔を出す常連。セレン先生やラミアさんの親友であり、お兄ちゃんの友だちでもある。当然、わたしとも面識があるため、特に断らなくても入れてもらえる。

(いわゆる特別たいぐう(待遇)、ってやつかな)

 そう考えたら、なかなか気分がよかった。


 大きな岩の手前に彼女のせなかが見える。

「レミナさぁん!」

 声をかけながら走りよる。どうやら、彼女も気がついたみたい。後ろをふり返ると、わたしを見つめた。でも、言葉ひとつ返してくれない。しっ、と人さし指を立てると、また大岩の方へと顔をもどした。

「なにかあったの?」

 わたしはレミナさんの横に立つと、そっと小声で話しかけてみる。

「フローラ。もうちょっと後ろへさがって。今、精神を集中させているの。だから、じゃましちゃだめだよ」

 彼女は目をつむったまま、そう話しかけてきた。

「あっ、はい」

 いつになくまじめな顔で話すレミナさんのきはくに飲まれた。わたしは自分でも知らぬ間に後ずさり。居並ぶフーレのそばに立つ。

「ええと……、ここで見てもいい?」

「けるるる(どうぞどうぞ。大かんげいよ)」

「けるるる(こっちこっち)」

「けるるる(ええっ。こっちに来てよぉ)」

 わたしはアーガと同様、フーレの音声もそのまま聞きとれる。どのフーレも気さくな感じで声をかけてくる。

「それじゃあ、おじゃましまぁす」

 フーレたちにさそわれるがまま、間に入った。

「これからなにが始まるの?」

「けるるる(ひめの力じまん。結構はくりょくがあるの)」

「へぇぇ」

 フーレたちといっしょにだまってながめることにした。人の来るのがめずらしいのか、飛んでいたフーレも、ぞくぞくとこちらにおりてくる。あっという間にわたしの周りは、フーレでごった返した。

(自分がフーレになったみたい。なんだかふしぎな気分)

 雨神フーレ。実体波をまとう霊翼竜で、二枚のつばさ、四つ足、それにしっぽがある。これだけ聞くと、アーガと同じじゃないかと思えるかもしれない。でも全然ちがう。青い身体で頭には、ぎざぎざのトサカ。目は真ん丸で口の部分はずんぐり。おなかがたるんだ状態なのは、は、水まきが終わったあとだからにちがいない。霊水をたっぷりと飲みこんでいる時は、ぱんぱんにふくらんでいるから。あと長時間の、水平及び垂直姿勢による飛行ができるとのこと。地面を歩くことが苦手で、使い手や補佐を乗せるか水を飲む時以外、四つ足をおろすことは、めったにない、のだそうだ。

(だけど……、わたしのおなかはたるんでなんかいないからねっ! お兄ちゃん!)

 そばにいないのに、心の中でそうさけんでいるわたしがいた。


 なごやかなふんいきはたちまち一変した。

「ええい!」

 気あいとともに、レミナさんの身体から黄色い霊波がほとばしる。

 びしゅぅ! びしゅぅ! びしゅぅ! ……。

 霊波の鳴動があたりにひびく中、彼女は大岩を、こともなげに、ぐいっ、と持ちあげる。

「そんな! あんな小さい身体で!」

 わたしのおどろきはとまらない。レミナさんは身体をひねると、大岩をまるで小石でもあつかうかのように上空高く投げとばした。

 どおぉぉ!

「けるるる!(すごいすごい!)」

「けるるる!(さすがはひめ!)」

「けるるる!(ディルド、ばんざぁい!)」

 フーレたちは、やんややんやの大さわぎ。

 風のていこうを受けながらも、大岩はどんどんあがっていく。あっという間に、その姿は見えなくなった。

(でも、いつかは)

 わたしが思ったとおり、しばらくすると、大岩がものすごい勢いでおちてきた。頭上へとせまりくる中、レミナさんまるでそれを受けとめるかのように、両うでを空へとのばす。

(あ、危ない! いくらなんでもあれじゃあ)

 わたしがそう思ったしゅんかん。

「はぁっ!」

 とてつもなく強力な光を放つ黄色い霊波。それが、レミナさんの気あいとともに、上空へと立ちのぼる。

 ずばばばぁん!

 大岩はあがってきた霊波をまともに受け、こっぱみじんにうちくだかれた。岩の欠片が上空へ、あるいは周囲へと飛散していく。

 ばらばらばら! ばらばらばら!

(うわぁっ! 来たぁ!)

「くぉーっ!(危ない!)」

 アリアは大急ぎ、みたいな感じで真っ先ににげだす。

(あれっ。ええと……、ねぇ、わたしは?)

「けるるる!(ひめ! やりすぎよ!)」

「けるるる!(ちょっとちょっと早くぅ。もたもたしていると、ぶつかっちゃうわよぉ!)」

 フーレたちもつばさをばたばたさせて、われ先にと、飛びあがる。

 大小さまざまな大きさの欠片が、まるで雨のように降りそそぐ。れいよくりゅうたちは、あわててでもいるようにやたらつばさをはためかせ、いっせいにその場から遠ざかる。ひとり取りのこされたわたしは、ほかにどうしようもないので、走ってにげることにした。ところが。

「な、なぜ! どうして、わたしを追ってくるの!」

 意志など持たないはずの岩の欠片が、しつようにせまってくる。もちろん、にげた。けんめいに。それでもなお、せまってくる。足がつかれてきた。こわいいもの見たさ、ではないものの、後ろをふり返ってみる。すぐにさとった。いくら走ろうとも、わたしに届くのはもう時間の問題と。

「助けてぇ!」

 力のかぎり、という表現がぴったりあうさけび声をあげてみた。でも、おいそれと都合よく助けが現われるはずもない。

(だ、だめだ。ぶつかるぅ!)

 そうかくごしたわたしの目に意外なものが。岩の欠片よりも遠くだけど、すさまじい速さでせまってくる『せん光』ひとつ。

 しゅわぁん!

「うわっ!」

 ふわっ、とあおむけにうきあがった、と思ったら、頭の向いている方へ、身体が勝手に移動している。

「えっ、あれは?」

 目の前になんらかの気配を感じる。目をこらすとともに霊覚を気配一点に集中させた。

「大丈夫ですか、フローラ」

「お、お兄ちゃん!」

 光の中に、ぼやっと映るひとかげ。霊覚をとおして心に伝わるなじみの声。それはまさしくお兄ちゃん。

「お兄ちゃんがどうして?」

「間にあってよかった。今は実体から分離して、霊体として動いています。さぁ、アリアの元へ行きますよ」

「実体から分離……。でもそれって危険なはずじゃあ」

 実体が無防備になるのはもちろんのこと、霊力を使いすぎれば、実体にもどれなくなるおそれもある。よほどのことがないかぎり、使ってはならない手段、とセレン先生から聞いたことがある。それなのに。

「可愛い妹のためならば、です」

 お兄ちゃんはこともなげにいう。

「お兄ちゃん……」

 言葉がつづかない。お兄ちゃんの気持ちがただただうれしい。

 ぐぃぃん!

 わたしの身体は水平状態から、上へ上とあがっていく。ある程度の高さまでくると、今度はゆっくりとまわりながら、下へ下へとおりていく。眼下にはアリアのせなかが。アリアのせなかにはお兄ちゃんの身体が。

 すぅぅっ。

 せん光が実体の中へ吸いこまれるように消えていく。気がつけば、わたしはお兄ちゃんの両うでの中にいた。


 ひゅぅぅっ! ひゅぅぅっ!

「あっ、危ない!」

 大きな欠片がこちらへ飛来してくる。

 ばがぁん! ばがぁん!

「……あ、あれっ?」

 わたしたちには届かなかった。ぶつかるちょっと手前で、紅い霊波にはばまれた。

「フローラ、心配しなくても大丈夫です。アリアの霊波を呪力で強化し、シールドとして張りめぐらせています。なにもこわがる必要はありません」

「お兄ちゃん……。ありがとう、お兄ちゃん」

 わたしの全身から力がぬけた。

(お兄ちゃんもアリアもいる。わたしはもう安全だ)

 お兄ちゃんの温もりを感じながら、そう思った。

「フローラ。けがはありませんか?」

 わたしを心配そうな顔で見つめている。

「ううん。大丈夫よ、わたし……うわぁっ!」

「よかったぁ……」

 お兄ちゃんはわたしを、ぎゅぅっ、と強くだきしめる。そのあと、アリアのせなかの上に立っているのにもかかわらず、わたしを持ちあげて、『あはははっ』と笑いながら、くるくるとまわった。

「お、お兄ちゃん! 危ないってばぁ!」

「フローラぁ……」

 わたしの言葉が聞こえていないみたい。再び、ぎゅぅっ、とだきしめる。ややあって、うでの力を弱め、互いの顔を見られるまでに身体をはなした。見れば、お兄ちゃんの目がちょっとうるんでいる。

(喜んでいるのに泣くなんて。……どうして?)

 危機に直面して友の命が消えたとなれば、水の妖精だってなみだを流す。あたりまえだ。もう会えないのだから。今までのようにおしゃべりをすることも遊ぶこともできないのだから。だけど……、乗りこえた時は、みんなで喜ぶ。なみだなんて流さない。それはそう。だって助かったんだもの。なのに、どうして……。

 わたしなりに考えてみた。真っ先に思いうかぶのは、死というものに対する考え方。

 水の妖精は常に危険ととなりあわせ。ささいなことで命を落とす霊体だ。だから、『死はいつでも訪れる』との意識のもと、みんな、その日その日を暮らしている。それに引きかえ、人間はどうだろう。わたしがマリアさんから聞いた話によれば、天空の村に住む村人は、不幸にして病にたおれる以外は、ほぼ寿命がつきるまで長生きできるという。となれば、死は最後の最後に訪れるもの、としか意識していないとも考えられる。少なくとも若いうちはこない、と。だから、気にすることはない、と。自分に対してもほかの人に対しても。そんな中でとつぜん、親しい人が死ぬかもしれない、っていう事態に追いこまれたとしたら……、心に受けるしょうげきは、水の妖精の比ではないような気がする。この落差が受けとめ方のちがいを生んでいる。そう思えてならない。

 お兄ちゃんは、最悪の場合、わたしが死ぬ。そう思っていた。わたしを失う。そう思っていた。それがこわかった。それががまんできなかった。だから、助けられたとほっとしたとたん、喜びの感情が悲しみと同じかそれ以上の高ぶりを見せた。その結果、わたしたちとはちがい、なみだへともつながったのじゃないだろうか。

 でもわたしには、それがお兄ちゃんのなみだをさそった最大の要因とは思えなかった。じゃあ、なにかと問われれば、答えとしては次の二つがあげられる。

『お兄ちゃんの心の中で、わたしが大きな存在になっていたから』

『そばにいてほしい、いっしょに暮らしたい、と願っていたから』

 これらが一番の理由だと思う。いや、思いたい。

(だって……、そうならうれしいもの)


 とはいっても、『ちょっとこれは』とひいてしまう。

「よかったぁ……本当に。うっうっ」

 くずれおちるように、お兄ちゃんはわたしをだきしめたまま、ひざをつく。おえつの声、らしきものも聞こえてくる。

(わたしのことを思うあまり、っていうのは、判らないでもないけど、ここまでやるかなぁ)

 水の妖精であるわたしの目から見ると、どう考えても理解に苦しむ姿だ。

「お兄ちゃんったらぁ。大げさだよぉ」

 思いきっていってみた。そしたら。

「うっうっ……。できあいしている妹……なんですよ。これでも……足りないくらいです」

「はうっ」

(できあいしているって……。お兄ちゃん。ふつう、自分ではいわないよ)

 いっしょに暮らしているうちに、こうしたお兄ちゃんの性格や言動がだんだんと判ってきた。やたらと愛をうったえるところなんかも。

 飛んできた岩におびえていたことなど、すっかり忘れた。半ばあきれた感じでお兄ちゃんを見つめるも、『そこまでわたしを心配してくれるなんて』、と正直、うれしかった。

(お兄ちゃんのうでの中にいた時、感じた温もり。あれこそが、『愛』なんじゃないかな)

 いいことなのか、悪いことなのか。なんだか自分がお兄ちゃん色に染められていくような気がした。


 お兄ちゃんから、わたしを助けるまでのいきさつを聞かされた。それによると、出かける前に決めたとおり、住居区での往診が終わったお兄ちゃんはアタシを待っていたらしい。ところが、霊覚をとおしてわたしの助けを求める声が心に届いた。やもたてもたまらず霊力を使って空にうかんだところ、にげてきたアリアと合流。実体をアリアに残すと、霊体となって飛んできた、のだそうだ。

(気持ちはとてもうれしいし、ありがたいとも思う。けど……。

 無茶なことするなぁ。お兄ちゃんも)

 今後もわたしになにかあれば、お兄ちゃんは自分の命もかえりみず、行動を起こすのにちがいない。お兄ちゃんに危険なまねはさせたくない。でもそれにはどうしたら? 方法は、ただひとつ。わたし自身がもっと自分を大切にすること。それしかないと、きもにめいじた。


 岩の欠片が降ってこなくなる。フーレたちはもうもどっている。わたしとお兄ちゃんもレミナさんの元へと向かう。

「フローラが危ない目にあったんです。文句の一つもいわないと」

「わたしも。『お兄ちゃんがわたしを助けるために危険を冒したんだ』っていいたいの」

『それなら』『ほかにも』とおしゃべりをしながら、すぐそばにたどりつく。

「レミナさん。どうしてあんなまねを」

 わたしが声をかけると、後ろ姿を見せていたレミナさんがふり返った。親指をおっ立て、にっこりとほほ笑む。と、その時。

 ひゅううぅっ! ごつん!

 両手じゃなきゃ持てないくらいの大きさはある岩の断片。それがなんと今ごろになって彼女の頭上に。

 ばたん!

 わたしより小さい身体が、頭から血をふきだしながらたおれた。

「お兄ちゃん、大変!」「みたいですね」

 わたしたちはあわててかけよる。

「レミナさん、レミナさん」

 お兄ちゃんがきんきゅうのちりょうをほどこす中、わたしは彼女の手をにぎり、声をかけつづけた。

(んもう! 世話の焼けるぅ。これじゃあ、マリエさんとたいして変わらないよぉ!)


「にゃあ、ネイルにゃん」

「なんでしょう? ミアンさん」

「ミーにゃんの緑色の光弾とネイルにゃんの青白いせん光。一体どちらが速いのにゃん?」

「さぁ。競争したことがないので判りませんが、素人考えでは、やっぱりミーナさんの方かと」

「えへん。あたりまえだわん。天空の村で緑色の光弾以上に速いものはないわん」

「まぁ、ミーナさん自身もそういってますし。それで決まりなんじゃないですか?

 大体、僕の場合、実体からはなれているとはいっても、帰る場所ぐらいは確保しなければなりませんからね。最低限のつながりが、実体と霊体の間に、ごてごてとくっついているんですよ。おそくなるのも無理はありません」

「ごてごとくっついている? いまいちよく判らないのにゃけれども」

「うぅぅん。じゃあ、どういえば……。あっ、そうだ!

 ミアンさん、えびふらいですよ」

「にゃ、にゃんと! えびふらいにゃと! どこにゃ? どこにあるのにゃん?」

「だから、ミーナさんがお肉たっぷり、衣あっさりの特上級えびふらいなんですよ」

「にゃんと! ミーにゃんが特上級にゃと!」

 きらぁん! たらありぃ。

「ちょっと、ネイルさん。変なことをいうもんじゃないわん。ほら。ミアンのアタシを見つめる目。なんかおかしいわん。あれはえものをねらう目よ。それがしょうこに、よだれをたらして、はぁはぁはぁ、いっているわん」

「ところが、一方、僕は、ですよ」

「うわっ。アタシの話を『しかと』したわん」

「本体のえびの肉はほんのわずか。にもかかわらず、粉をたっぷりとまぶして大きく見せている。もちろん、粉自体にも味がついているから、おいしいことはおいしいんですが。

 さてと。ミアンさんは、僕とミーナさん、どちらのえびふらいを選びますか?」

「そんなの決まっているのにゃあ!」

 たったったったっ。

 ぱくっ。

「ミーにゃんにゃあ! ……ぐわがっ!」

「す、すごい! 閉じたミアンさんの口をミーナさんがこじあけた!」

「ふん。このくらい、たいしたことないわん。

 それはそうと。ミアン、アタシを食べるんじゃないわん!」

「ふにゃあああ。ミーにゃんは特上どころか、えびふらいの『え』ほどの香りも味もしないのにゃん」

「あったりまえだわん!」

「ミアンさん、たとえ話ですよ」

「にゃあんだ……」

 がっくり。

「いや、まだまだにゃ。希望はまだあるのにゃん。

 ネイルにゃん。つかぬことを聞くのにゃけれども、今晩の食事はなんなのにゃ?」

「野菜の盛りあわせ。ふりかける『そぉぉす』に気をつかいました。おいしいですよ」

「ふにゃああ!」

 ばたん!

 くるくるくる。

「あっ。目をまわしているわん。気を失っちゃたみたいね」

「こんなに喜んでいただけるとは……」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「最終回の『その二』の始まり始まりぃ、にゃん!」

「アタシの悪党っぷり板について、ますますさえわたっている『その二』。ただいま、絶好調だわん!」

「ミーにゃん。いつになく張りきっているじゃにゃいか」

「そりゃそうだわん。ここと最後を、ぺらっぺらっとしゃべるだけで、あとはミアンのせなかで、ごろごろと遊んでいればいいんだもの。こんな楽な」

「おおっ、とミーにゃん。うかつな発言はつつしむのにゃよ。人に聞かれでもしたらどうするつもりにゃん?」

「大丈夫だわん。ねぇ、ネイルさん。なにも聞こえてないよねぇ」

「はい」

「ほら、ミアン。『はい』っていったわん。これで大丈夫だわん」

「ミーにゃん。すぐに受け答えができるってことは、聞いていたってことにゃよ」

「はい。しかとこの耳で受けたまわりました」

「そんなぁ、だわん」


「……ぶふふっ。ぶはははっ。ぶわっはははは!」

「ぎゃ、ぎゃんだ? よろめかなくなったと思ったら、うつむいたまま急に大笑いしだしたのぎゃ。きさま、気でも狂ったのぎゃん?」

「ぶふっ。……大変申しわけにゃいが、ひとつ、いい忘れていたことがあるのにゃよ」

「なに? それはなんぎゃ?」

「にゃあまんにはにゃ。敵からけがや痛みをこうむった場合、無意識のうちにそれを、与えた相手へ移す能力があるのにゃん」

「ぎゃ、ぎゃんと! それはつまり……」

「こういうことにゃん!」

「顔をあげたぎゃ……。にやり、と笑っている……。

 きさま、一体なにを……ぎゃああぁぁっ!」

 ぼすっ! ぼすっ! ぼすっ!

「うぎゃっ! うぎゃっ! うぎゃっ!」

「あっ! ジュリアンのおなかにも真っ黒い穴が次々と!」

「にゃにも足さにゃい。にゃにも引かにゃい。ただそのままを移すのにゃん」

 ぼすっ! ぼすっ! ぼすっ! ぼすっ! ぼすっ! …………。

「うぎゃっ! うぎゃっ! うぎゃっ! うぎゃっ! うぎゃっ! ……」

「ジュ、ジュリアン! ううっ、にゃあまん、よくも……。

 ああっ! にゃあまんにできた黒い穴が次々と消えていくわん!」

「……そしてにゃ。移すと同時に、こちらのけがは消えてなくなるのにゃん。

 どうにゃ? にゃあまんには勝てないにゃろう?」

「うぎゃっ……まだまだぎゃ。このくらいの傷でやられるわじではないのぎゃん!

『またい(魔体)急速復元』!」

 ばしゅぅっ!

「うわっ! あっという間にジュリアンの身体が、きれいきれいにもどったわん!」

「はぁはぁはぁ。どうにゃ? にゃあまん。おどろいたのぎゃん。はぁはぁはぁ」

「さすがは『まねこ』、といいたいところなのにゃけれども」

「はぁはぁはぁ。な、なんぎゃ? はぁはぁはぁ」

「その呼吸の乱れ、息づかい。もはや戦うことにゃど、とうていできるはずもにゃい。すでに身体はたおれる寸前とみた。にゃあ、いいかげんに降参したらどうにゃん?」

「う、うるさいぎゃ。こうなれば最後の手段、自爆弾じばくだんできさまもろとも」

「ちょ、ちょっと待つんだわん。ジュリアン。そんなことをしたら、アタシまでまきぞえをくっちゃうわん」

「がまんするぎゃ」

「無理いうんじゃないわん。できっこないわん」

「女王さま。ちょっとわがままがすぎるぎゃ。そういえば最初から」

「なにを想いだして、うんうん、とうなずいているのよ。もっと女王さまを大事にしなくちゃだめじゃない」

「大事にされたいのぎゃら、大事にされたいだけのふるまいをふだん行なうのが、あたりまえと思うのぎゃけれども」

「うっ、うるさいわん。それでも、ジュリアンはアタシの補佐なの?」

「好きでなったわけじゃないのぎゃん。こちらにもいろいろと」

「いろいろ、ってなんなのよ!」

「ええい! 少しはだまっていろぎゃ! それっ!」

 ぴこんぴこんぴこんぴこんぴこん。

「ああっ!」

 よろよろ。

「と、とつぜん、めまいが!

 うっうう……。一体アタシはなにを……やって……」

 ふらふら。ふらふら。

「ミ、ミーにゃん!」

「……ああ、ミアン」

 ばたん!

「ミーにゃん!

 ジュリアン、ミーにゃんに一体なにをしたのにゃ?」

「それはこっちの台詞だぎゃあ。にゃあまん。『みもぐら』への『えづけ』は全てお前が」

「そういうことにゃん。ジュリアン。あんたの野望は終わりにゃん。観念するのにゃ」

「そうはいかないぎゃ。これをよく見るのぎゃあ」

 ぴこんぴこんぴこんぴこんぴこん。

「あっ。ミーにゃんの頭の上に乗っている女王のかんむりが、光っているのにゃ」

「ふふふっ。これで女王を操っていたのぎゃあ」

「操っていた? どういうことにゃん?」

「ふふふっ。わじが『まねこじゅう』を使うだけの白黒ぶちねこだと思っていたのなら、大まちがいぎゃ」

「するとあんたは」

「生きものを操る装置を生みだせるまほう使い、いや、まほうねこぎゃ」

「にゃんと! あんた自身が『まねこ』、にゃったとは……」

「ふふふっ。このかんむりによって女王はわじの思うがままぎゃ。女王の力を利用すれば、天空の村など、あっという間に帝国の支配下。もちろん、そうなったあかつきには、女王など、じゃまな存在。力をしぼるだけしぼりとって、あとは、ぽい、と捨てるだけぎゃあ。ぎゃはははは」

「おのれぇ、ジュリアン。にゃんってひどいことを」

 わなわなわなわな。

「そればかりではないぎゃよ。このかんむりはぎゃ。ぎゃんと、時限ばくだんにもなっているのぎゃあ」

「にゃ、にゃんと!」

「女王がうらぎった場合を考えてのことぎゃ。ぎゃが、もういい。これで死んでもらうぎゃあ」

 ささっ。

「そ、その緑色の箱はなんにゃ? なにをするつもりにゃん?」

「この上にある赤いボタンをぷちっとおすだけだぎゃ。たったそれだけでお前の大好きな女王の命は、ばっがぁぁん! あとかたもなくなるのぎゃあ。ぎゃははは」

「おのれぇ、ジュリアン、そうはさせないにゃよぉ!」

 ぐわん。

「曲げた両うでを高くかかげて一体なにを……。

 ぎゃ! やつのおなかが目いっぱい光りだしたのぎゃん!」

「いくにゃよぉ! それぇっ! 『九千九百九十九万とんで一色光線』にゃあ!」

 びぃびぃびぃびぃびぃびぃ……。

「ふん。そんなゆっくり。簡単によけられるのぎゃん」

 ささっ。

「これでよし、と。……にしてもすごいぎゃ。あんなたくさんの色。とても絵になんか表わせないのぎゃん。でもどうして、『九千九百九十九万』なのぎゃろう?」

「いうまでもにゃい。あと一歩なのに届かにゃい、という『やるせなさ』『せつなさ』がこめられているのにゃん」

「それじゃあ、『とんで一色』、は?」

「決まっているじゃにゃいか。こんなもんでいいにゃろう、と簡単にはあきらめきれない『わりきれなさ』を表わしているのにゃん」

「もっともらしいことをいっているのぎゃん。でも、『やるせなさ』、『せつなさ』、それに、『わりきれなさ』、かぁ。なんか気の重くなる光線だぎゃ」

「にゃるほど。にゃらこれは、『気の重くなる光線』に決定にゃん!」

「いいのぎゃん? そんな名前で?」

「ウチが決めるのにゃから、いいのにゃん」

 ぼっがぁぁん!

「おおっ! 今ので横かべにぽっかりと穴が。かなり大きな穴ぎゃん。おそい割に、こわす力はかなりのものだったぎゃ。

 ふぅ。……やっぱり、気の重くなる光線だけに、帝国も気が重くなったのぎゃろうか」

 ぐらぐらぐら。ぐらぐらぐら。

「うわっ!

 ため息をついているどころじゃないのぎゃ。帝国全体が……ゆれているのぎゃん!」


「さてさて。最終回の『その二』は無事終了。次回は『その三』の話にゃん」

「アタシが『めまい』でたおれてしまったわん! アタシ、どうなる?」

「あのぉ、ミアンさん。『その三』もやるんですかぁ?」

「ここで終わったら文句が山のように来るのにゃん。ネイルにゃん。がまんしにゃさい」

「アタシは大助かりだけどね」」

「ミーナさん……。正直すぎます」


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