第七話『岩石研究所』‐③
わたしはうつぶせでもがいているフィルさんの前にしゃがんだ。顔にはくやしそうな表情がうかんでいて、目からこぼれたなみだがほおを伝っている。
「フィルさん。どうしても、あの火を消したいの?」
「フローラ……。
ああ、消したい。この命に代えても。おれの、いや、村の未来のためにも」
(まっすぐな心でわたしを見つめている。この言葉にうそはない)
それだけ判ればそれでいい。
「そう……。だったら、わたしが消してあげる」
「えっ!」
フィルさんはおどろいた表情でわたしの顔を見つめた。
心は決まっている。
(かなえられない願いならともかく、かなえられる願いなら。ましてや、それがたくさんの人に幸あれ、と思う心から生まれた願いなら)
「フローラ、お前……」「フローラちゃん?」「一体、どうするつもりなんですか?」
ラミアさん、リンダさん、そしてマリアさんが、けげんな顔でわたしに声をかけている。
「フィルさん。わたしは『水の妖精』だよ。それで『いど』はどこにあるの?」
「えっ。ああ、裏庭のおくにあるが……」
「判った。あとは任せて」
ことは一刻を争う。わたしは走り始めた。
裏庭は雑草でうめつくされていた。緑色のものもあれば、白っぽいものも。かたそうなものもあれば、やわらかそうなものも。ちっちゃなものもあれば、太ももまでの高さがある大きなものまで。いさかか雑然としたありさま。それでも、視界に現われた『いど』へとつづく、とおり道は、かりこまれてしっかりと確保されていたため、そのまま走りつづけた。
「ふぅ。ここかぁ」
足がとまったのは丸い『いど』のすぐわき。赤っぽい石を積みあげて造られていた。ふたの代わりをしている木の板をどけてのぞくと、水面に映るわたしの姿が。
(地下水の量は十分あるな。よぉし、これなら)
わたしは知っている。人間の姿となった今でも、『水の妖精』としての力が使えることを。心に念じた。『元の姿にもどれ』と。わたしは、たちまち水の身体へと変化する。
(よかった。霊体シールドのおかげで服がぬれない)
わたしは衣服をするりとぬけ、『いど』の中へと飛びこんだ。
ざぶん!
おく深くたまっている水にも、水の妖精たちはすんでいる。
「お願い。研究所の火を消したいの。力を貸して」
わたしは願いの言葉を、霊波に乗せて解きはなつ。すると、とつぜん、わたしの周りが光でおおわれ、心に言葉が届いた。
「だれなの、あなたは」
(言葉を返してくれた!)
「わたしは水の妖精フローラ。あなたは」
勢いこんでしゃべった。
「あたしは『いど』の妖精。ここにためられた地下水に棲む『水の妖精』たちの集合体。彼ら彼女らから生まれた一つの意志なの」
霊覚交信が始まった。わたしは光の中におぼろげながらうかびあがる、ひらひらの服をまとった女の子のような姿を認めた。
(あれが『いど』の妖精かも。うぅん。光がじゃまでよく見えないなぁ)
「だけど、おどろいたわ。地下水や雨水以外から水の妖精が入ってくるなんて。しかも、単体でそれだけの力を持っている。まのあたりにしてなきゃ、とても信じられないことよ」
彼女はどうして? と聞きたい様子。わたしもいろいろとおしゃべりをしたい。でも。
「ごめんなさい。今はそれを話しあっている時間がないの。お願い、わたしに」
「判っているわ。さっき、あなたが放った言葉は、ちゃんと心に受けとめたもの。
フローラ。あたしたちは水の妖精どうし。だから協力してあげたいのはやまやまだけど、それには強力な霊力が必要になる。とてもそんな力は」
「大丈夫。わたしと一体になるだけでその力は得られるから」
「本当に? 判ったわ。それなら」
会話が終わると同時に周りの光が、ぱっ、と消えてしまった。わたしは霊体シールドの力を弱める。すると、今度はわたし自身の身体が光を放ち始めた。水の妖精たちはわたしの光にさそわれたかのごとく、地下水とともに身体の中へと取りこまれていく。そして……、
今、水の身体は新たなる変化をとげた。
「しゃああうっ!」
わたしの脳裏に、自分の姿が映しだされる。
太くて長い『水の身体』。とくちょうはといえば、長くつきでた『鼻と口』。左右の鼻穴近くに生やした二本の『ひげ』。開けた口からのぞける『牙』。頭の左右からのびた二本の『角』。それに、鋭い『かぎ爪』の指四本を持つ『前足』と『後ろ足』がそれぞれ二つ。『たてがみ』らしきものも目につく。顔の周りや、頭から尾っぽにかけてせなかの線にそう形で生えている。
(すいひりゅう(水飛竜)だ。わたしはりゅうじん(竜神)の一種、水の神とあがめられている、すいひりゅうになったんだ)
「いっしょに行くわ」
『「いど」の妖精』の意志。その一部もまた、わたし、いや、すいひりゅうの身体に取りこまれていた。彼女は地下水を次々と送りこんでくれる。どんどん力が増していく。水の量に比例して身体自体はさほど大きくはない。だけど、山小屋ひとつの火を消すぐらいであれば、これでもう十分なはず。
(よぉし、始めよう!)
『いど』を飛びだすと、わたしは火が回っている研究所へとまっしぐらにつき進む。竜の身体をいくつもに分け、研究所の内と外から一気に消火を試みる。
(フィルさん。ごめんなさい。ドアも窓もこわしちゃうね)
ぱがぁぁん! ぱりぃぃん!
すさまじいごう音とともに、研究所内部へと一気になだれこむ。
ずばばぁぁん!
『いど』の妖精は、たっぷりと地下水を与えてくれた。おかげで、全てのりゅう(竜)の口から大量の水をはきだすことができ、あっという間に消火は完了。燃えあがっていた大岩の消火も、このころにはとっくに終わっていた。
りゅうを一つにもどすと、『いど』の上空へと引きかえす。わたしは自分の中にいる『いど』の妖精にお礼の言葉をかけた。
「助けてくれてありがとう」
「とんでもない。あたしの『水の妖精』たちも霊力をもらって喜んでいるわ。こちらこそ、ありがとう」
わたしたち、いや、すいひりゅうは、その目を研究所へと向ける。
「どうやら、終わったみたいね。それじゃあ」「うん。さよなら」
『いど』の妖精にわたしは別れを告げた。
ばしゃぁん!
すいひりゅうの形がくずれ、ただの水のかたまりとなる。彼女は『いど』の中へと帰り、わたしは『いど』の外へとおりる。落ちている衣服にもぐりこむと、水の身体から人間の姿へともどった。
「フローラ、ありがとう」とフィルさんが、「フローラちゃん、助かったわ」とリンダさんが、
「やったな、フローラ」とラミアさんが、「やりましたね、フローラさん」とマリアさんが、わたしに向かって走ってくる。
「みんなぁ!」
わたしも声をあげながら走る。
(みんな、満面の笑顔になった。よかったなぁ)
わたしたちは火事の元となった大岩へと行ってみる。フィルさんはわきに置かれた恵力発生装置の示す数値を確認したり、大岩にそっと手をふれたり、などをくり返した。
「ふぅ。よかった。表面がこげついて黒ずんではいるが正常に作動している。大岩も真っ黒だがこちらも正常に恵力を供給している。どちらも内部の損傷までには至らなかったみたいだ」
「だけど、フィル。研究所の方はどうなのかしら。火も消えたみたいだし、中へ入ってみましょうよ」
「そうだな」
リンダさんにうながされ、わたしたちは再び研究所内に足をふみいれた。フィルさんは『これは大丈夫かな?』とたんねんにあたりを見まわしている。
「ふぅぅむ。ずいぶんとこげたところもあるが、骨組みの部分はしっかりとしているようだ。これなら業務に支障をきたすことなく、修理を行なえるだろう。やれやれ、だ」
フィルさんはわたしをふり返り、あくしゅをする。
「ありがとう、フローラ。君のおかげでおれの研究所は無事だった」
そういうと、彼は深く頭をさげた。
「お礼なんかいいよ。『夢』や『未来』はだれにとっても必要なもの。それらが消えるのをなにもしないで、だまって見つめているなんてできなかった。ただそれだけなの」
周りを見まわしながら、わたしはそう答えた。
わたしたちは帰ることになった。だけど、研究所は内外ともに水でびっしょり。
「フィルさん。本当に手伝わなくてもいいの?」
「はははっ。フローラ、気にしてくれてありがとう。だが、これはこちらでなんとかするよ。次に君がここへ来る時には、元どおりか、もっとよくなっていると思う」
「そうよ。あたくしもそうだけど、この工業区では、なにかあった場合、みんなが協力してことにあたるって決めてあるの。だから、きっと大丈夫」
(フィルさんとリンダさんは、まだまだやる気十分みたい。これなら大丈夫よね)
「早くそうなるといいね。わたしもいのっているから」
心からの言葉を二人に返した。
わたしのかたわらではラミアさんが親友に声をかけている。
「おい、マリア。村役場へもどるんだろう? だったら、あたいが送ってやるよ」
「ありがとうございます、ラミアさん。では、よろしくお願いします」
「じゃあな、フィル」
ラミアさんはそういって手をあげた。マリアさんも、
「さよなら、フィルさん、リンダさん」って声をかけたあと、姿勢を正して頭をさげた。
「また会いに来るから」と大きく手をふったのは、もちろん、わたし。
(今度来るときはどうなっているかな。楽しみ楽しみ)
「ああ、またな」「また来なさいね」
二人に見送られながら、ラミアさんとマリアさんはミレイに、わたしは、もちろん、アリアに、それぞれ乗りこむ。
「行くぞ、フローラ!」「うん!」
ミレイが、つづいてアリアが、大空へとまいあがる。見おろすと、フィルさんたちの手をふる姿が目に入った。わたしたちも手をふり、それに応える。二人をあとに、わたしたちはその場をはなれた。
「一時は、研究所が全焼するんじゃないかって思いましたよ」
ふぅ、とため息をつくマリアさん。
「はははっ。それはあたいもさ。あの程度ですんだのは、フローラがいてくれたおかげだ」
ラミアさんはわたしの方をふり向く。
「フィルもいっていたが、あたいとあいつは親友同士だ。だからあたいからもお礼をいうよ。ありがとう、フローラ」
マリアさんもわたしに声をかける。
「私からもお礼をいわせてください。フローラさん、ありがとうございました」
二人はそろってわたしに頭をさげた。
「そんなぁ。気にしないで。わたしもラミアさんたちには、いろいろとお世話になっているし」
(本当、ひがいが少なくてよかったな)
わたしはあの火事を想いだし、いまさらのようにほっとしている。そのせいか、目がうつらうつらとし始めた。
(あれっ。わたし、なんだかすごくつかれているみたい)
「どうした、フローラ!」「フローラさん!」
わたしはうすれゆく意識の中、ラミアさんとマリアさんのさけび声を聞いたような気が。空に放りだされ、地へと落ちていく。そんな自分も感じていた。
はっ!
わたしは起きあがる。
「ここは……」
「おや、めざめたようですね。ねむりひめさま」
「お兄ちゃん!」
わたしはお兄ちゃんの、ううん、わたしとお兄ちゃんのおうちにもどっていた。
「わたし、どうしたのかな。岩石研究所に行っていたような気がするんだけど……」
「フローラ。ラミアさんもそういっていましたよ」
「ラミアさん? ラミアさんが来たの?」
「そうです。ドアをたたく音が聞こえたので開けたら、ラミアさんがフローラをかついでいるじゃないですか。びっくりしましたよ。一体、何事が起きたんだろうと思って」
「わたしをかついで? ええと……。あれっ。岩石研究所から帰るとちゅうまでは、うっすらと思いだせるんだけどぉ……。あとがだめぇ。わたしの身に一体なにが起きたのかなぁ」
とまどっているわたしの顔をお兄ちゃんは、『大丈夫ですか』、と心配そうにのぞきこむ。
「ラミアさんの説明によれば、フローラはアリアから落ちたのだそうです」
「えっ。アリアからわたしが? なんでまた!」
わたしは思わず声を張りあげた。おそらく目も丸くしていたにちがいない。『ほら、落ちついて』とばかり、お兄ちゃんはわたしのかたに、そっと手を置く。
「原因はラミアさんも知らないみたいでした。話を聞いて判ったことといえば、ミレイから、霊波をまとって飛びおりたラミアさんが、落ちていくフローラをだきとめたことと、先回りしてその下で待っていたアリアのせなかへ、無事におりることができたぐらいです」
「そんなことがあったんだ。わたし、全然きおくに……あっ、待って」
「フローラ、どうかしましたか?」
「想いだしたの。そうだ。確かあの時、急にねむけがおそってきて、それで」
「そのまま、ねむっちゃったと」「そうみたい」
「空を飛んでいる最中にいねむりするなんて……、たいしたもんですね、僕の妹は」
お兄ちゃんはそういって、わたしの頭をなでた。
「ちがうの、お兄ちゃん。これにはわけが」
「知っていますよ。ラミアさんが話してくれました。
『フローラのやつ、研究所の火事を「水の妖精」の力を使って消しとめたんだぞ』って、まるで自分の手がらみたいにふいちょうしていましたね」
「なぁんだ、知っていたんだ。できれば、わたしから話したかったな」
「でも、すばらしい。よくやってくれました。僕も兄として鼻が高いですよ」
「えへへ。お兄ちゃんがそういってくれるなら、やったかいがあったかも」
「もちろんですよ。みんなほめてくれたでしょ?」
「うん。特にフィルさんは感謝していた」
「あの研究所の持ち主ですからね。当然といえば当然です」
「あの時、わたしはかなりの霊力を使ったはずなの。それでじゃないかな」
「僕もそうだと思います。霊力を一気に消費したわけですから、身体にも相当な負荷がかかった、とみるべきでしょう。回復のため、身体がねむけにさそわれたとしても、無理からぬことですよ」
「いきなり、だったから。よけいに、かもね」
「それで今、身体の具合は? なにか異常な感じとかは、ありますか?」
お兄ちゃんは、そういいながら、さするようにわたしの全身にわたって手をふれる。しょくしん(触診)とかいうものらしい。霊体反応が正常かどうかを確かめている。ふつうは手をかざすだけで判るとのこと。だけど、より正確さを求める場合にはこの手段を用いるという。
「ううん。なんにも。快調そのもの。きっと、ねむったからよ。つかれが取れたんだと思うな」
「……ですが、それにしては」
わたしの身体から手をはなしたお兄ちゃんは、なにやら思いめぐらしているような仕草を見せる。
「どうしたの、お兄ちゃん。むつかしい顔なんかして」
「いや……、考えすぎ、ってこともあります。フローラは調子がもどっているんですよね。だったら、それでかまいません」
そういったあと、お兄ちゃんにわたしの好きな笑顔がもどった。
「さてと。日が暮れました。今日、フローラはお昼を食べていませんよね」
くぅぅっ。
(あれっ。おなかの虫が鳴っている)
「お兄ちゃん。わたし、ずいぶんとおなかがすいているみたいなの」
「はははっ。そうらしいですね。僕にも聞こえました。それじゃあ、大至急、夕食の支度をしますか」
お兄ちゃんは笑いながら立ちあがる。
「あっ、もう夜なんだ」
立ちあがって窓から外を見る。満天の星空がわたしの目に映る。
(こんなにも時間が経っていただなんて)
お兄ちゃんは前かけをつけると、夕食のしたくに取りかかる。
「あぁぁあっ、と」
わたしは大きなあくびをする。
(さぁてと。ねむけざましに、お兄ちゃんの手伝いでもしようかな)
台所に足を運ぶと、声をかけた。
「お兄ちゃん。わたしになにかできることってないかな?」
「じゃあ、それを洗っておいてくれませんか?」
「はぁい」
がぜん、おうちがにぎやかになった。
わたしも手伝って造ったお料理。それを今、二人は向かいあって食べている。
「フローラ、おいしいですか」
「うん、おいしい」
お兄ちゃんは、にっこりとほほ笑む。
「よかった。どんどん食べてくださいね」
いつもと変わらない食事風景。でも、いや、だからこそ。
(なんか、ちょっぴり幸せ)
そんな風に思う自分がいた。
「今回のお話ではフローラにゃんは大かつやくだったにゃん」
「それにさ。『水飛りゅう(竜)』っていう、りゅうじん(龍神)のうちの一体にもなっちゃったじゃない。本当にたまげたわん」
「でもにゃ、ミーにゃん。一刻を争うのは判るのにゃけれども、窓やドアをこわすっていうのは、いくらにゃんでも乱暴すぎるとは思わにゃいか?」
「どうかなぁ。当時の状況を知らないから、なんともいえないけどね。きっと、かなり危険なじょうきゅうだったんだと思うわん。そこらへんは判ってあげなくっちゃね。
でも……なんかおもしろいわん」
「なにが? にゃ、ミーにゃん」
「だってさ。ラミアさんが長い間こわそうとしていたドアを、結果的にはフローラがこわしたってことになるじゃない。あの二人って、『こわし屋』っていうきずなで結ばれた義姉妹、といえないこともないわん」
「どうにゃろう? ウチとしてはフローラにゃんはむしろ、レミナにゃんに近いと思うのにゃけれども」
「どうして?」
「アーガに乗るにはマリアにゃんはまだ不慣れにゃ、って判っているのに、空中回転をやってしまったじゃにゃいか。お話から察するに、こわがることも予想済みだったみたいにゃん。ようするに、お茶目……いや、もっとにゃ。……そうそう、いたずらっ子。いたずらっ子さんにゃんよ、フローラにゃんはにゃ」
「っていうより、ラミアさんとレミナさんのちょうど真ん中ぐらいじゃない? どっちの性格も少しずつあるような気がするわん」
「かもしれないにゃあ」
「あぁあ。アタシもフローラに会いたかったわん。話もしたかったし、遊んでもみたかったわん」
「ウチもにゃ。きっと楽しかったにゃろうにゃあ。……でも」
「なに? ミアン」
「それはいわない約束にゃよ。しょせん、ないものねだりにゃもの」
「うん。判っているわん」
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「さてさてぇ。まだまだ話はつづいているのにゃよぉ!
……ってにゃわけで感動の第三だん。ミーにゃん公認、『ミーにゃん帝国の野望・ぱあと2 副題「真実を求めて・ぱあと2」』にいってみよう、にゃん!」
「念のためにもう一度聞きますが、公認したんですか? ミーナさん」
「うん。ミアンがせっかく造ったお話だしね。楽しみ楽しみ。
……にしても、お題がどんどん長くなっていくわん」
「とのミーにゃんの期待に応えて、いよいよ始まり始まりぃ、にゃん!」
「うわぁい!」
ぱちぱちぱち。
「いつの間に……」
《
「おとめにゃのに、にゃあまん!」
ずんぐりむっくり。
「な、なんなのぎゃ! この濃くて緑っぽい身体は!」
「うぅぅむ。全体像としては後ろ足でのみ立っている『ねこ』、だけどね。もっとも身体は、よもぎだんごのまんまるをくっつけて造られているだけ、みたいな気がするわん」
「ミーにゃん女王さま。のんびりと観察している場合じゃないのぎゃん」
「とはいってもねぇ、ジュリアン三世」
「ちょっと待つのぎゃ。つづきの話なのにどうして二世から三世に変わったのぎゃん?」
「つづきだろうがなんだろうが、話が一区切りつけば名前は変わる。
ジュリアン。それがあなたの……運命だわん!」
「専制君主みたいないい方ぎゃ。まるで」
「女王さま? そうよ。今、アタシは女王さま。だからいいの」
「単にわがままなだけぎゃん」
「んもう! そんなこと、どうでもいいわん。それより、ジュリアン三世。こんなキャラ相手にどうするっていうの?」
「そこを考えるのが女王さまぎゃ」
「ちがうわん。なんにも知らないと思って、でまかせばかりいっているんじゃないわん」
「ぎゃ、ぎゃんと!」
「確かに決めるのはアタシ。でもね。考えるのは補佐や軍師。つまり」
びしっ!
「あなたの任務だわん!」
「う、ううっ……。だ、だぎゃ、あんなもの相手にどうしたら……」
「それを聞くのはアタシ。考えるの……あなた!」
びしびしっ!
「ううっ……」
「君たちぃ! それはいけないのにゃよぉ!」
びしぃっ!
「見て、ジュリアン三世。よもぎだんごがなんかいっているわん」
「ちがうにゃん!」
だんだんだん! だんだんだん!
「あっ。足ぶみしながらおこっているわん」
「じたんだふんで、っていう表現がぴったりな光景ぎゃあ。
……にしても、女王さまって相手をおこらせるのが得意なのぎゃん」
「うふふっ。それほどでもないわん」
「こらぁっ! 私語はつつしみにゃさい!」
「ねぇ、ジュリアン。ちょっと」
ひそひそ。
「あのだんご、まだおこっているわん」
「ミーにゃん女王さま。頭を低くするのぎゃ。どなり声が、すぅっと、頭の上をとおりすぎるまでのしんぼうぎゃん」
「うん。それがいいわん」
ひそひそ。
「(にゃにか小声で話しあっているみたいなのにゃけれども……)
えへん! いいか、あんたら。よく聞くのにゃよ。
ウチは『にゃあまん』。正義と愛の戦士なのにゃん!」
「正義と愛って……ぷふっ。なんかとってもお古い昔話に出てくるような……うぐっ!」
「しっ。女王さま。これ以上、おこらせてはいけないのぎゃん」
「うぐぐっ……」
ばしっ!
「ぷわっ! ふぅ。……だからって、口をふさがなくてもいいわん!」
「だからって、顔を引っぱたくこともないのぎゃん!」
「なによ、やる気ぃ!」
「おもしろいぎゃ。女王さまぎゃんかに、わじがたおせると本気で思っているのぎゃん」
「あにょぉ、そにょぉ、だからにゃ、あぁぁ……」
(ぐすん。だめにゃん。せっかく出てきたのに、だれも相手にしてくれにゃい。ぐすん。
……よぉし、こうにゃったら、やけのやんぱちにゃん!)
こらぁっ! あくぎゃくひどうをたくらむあんたたちを成敗してくれるのにゃん!」
「あくぎゃくひどう? 『これ』のことをいっているのぎゃん?」
「女王さまを指さして、『これ』とはなによ! お前の方があくぎゃくひどうだわん!」
「いや、女王さまが、ぎゃ」「ちがうわん。ジュリアン三世が、よ」
「やかましいのにゃん! ウチをそこまで無視するにゃんて……。
もう絶対に許せないのにゃん!」
「なにをいってんだか。絶対に許せないのはアタシたちの方だわん。ほらっ、ジュリアン。お前の切り札、まねこじゅう(魔ねこ銃)でとどめをさしておしまいっ!」
「判ったぎゃん!」
すくっ。
「ジュリアンが後ろ足だけ立った……。一体なにをするつもりなのにゃん!」
「こうするつもりなのぎゃん!」
がしゃん!
「にゃ、にゃんと! ジュリアンの左前足がてっぽうにぃ!」
「ぎゃははは。わじの右前足がこの引きがねを一回引くだけで、百発以上のまねこだん(魔ねこ弾)が連続発射されるのぎゃ。きさまなんかこっぱみじんぎゃあ!」
「にゃにおぉ! そんにゃものでやられるウチではないのにゃよぉ!」
「強がりもそこまでぎゃ。それぇっ、まねこだん発射ぁ!」
ばがばがばがばがばが! ばがばがばがばがばが! …………。
ぼすっ! ぼすっ! ぼすっ! ぼすっ! ぼすっ! …………。
「うぅっ! うぅっ! うぅっ! うぅっ! うぅっ! ……」
しゅうぅっ!
「…………」
「ふぅぅ。ぎゃははは。身体中に黒い穴ができてしまったのぎゃん」
「しかも完全にだまってしまったわん。さすがは、まねこだん。すごい力だわん」
「ふらふらとよろめいて、今にもたおれそうぎゃん。ぎゃははっ。
ミーにゃん女王さま、わじらの勝ちぎゃあ!」
ふらふら。ふらふら。ふら……ぴたっ。
「やったわん……って、あれっ?」
》
「さてさて。最終回の『その一』は無事終了。次回は『その二』の話にゃん」
「ううん! はらはらどきどき、の展開だわん!」
「あのぉ。前回、今回が最終回とはいってましたけど、『その一』だなんてひとことも」
「ネイルにゃん。明日のことにゃんてだれにも判らないのにゃよ」
「そうそう。予定は未定ともいうわん」
「ミーナさんまで……」




