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天空の村2・水の妖精  作者: シード
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第七話『岩石研究所』‐①

 第七話『岩石研究所』


 とんとん。とんとん。

(あれっ、出ないや)

 とまどっているわたしに、『まぁ、代われ』と、ラミアさんが押しのける。

「それじゃあだめなんだよ、フローラ。ここはな。こうやってたたくんだ」

 どんどん! どんどん! がんがん! がんがん!

(ラミアさん。いくらなんでも、それは)

 たたきこわしてやる、といわんばかりに、ラミアさんのげんこつ横打ちや、けりがさくれつする!

 ぐわん!

「や、やめろぉ!」

 いともあっさりとドアが開いたため、すんでのところでラミアさんのまわしげりが、開けた人間のひたいをちょくげき、するところだった。

「うっ!」

 反射的、みたいな感じで後ろへのけぞる、だれか知らない男の人。黒いぼさぼさっとしたかみと丸いメガネがやたらと目につく。

「……ラミア。やっぱり、お前か。ここへ来るたびに、そんなあらっぽいたたき方をしやがって。家(研究所)のドアをこわすつもりか!」

「ちっ、しくじったか!」とくやしがるラミアさん。

「ラミア……。さてはお前、確信犯だな」

「なんのことかな?」

 うすらとぼけた様子のラミアさん。両手を頭の後ろに組んで、口笛なんぞふいている。

「フィル。そんなことよりさ。お前にお客さんを連れてきてやったぞ。少しはありがたく思うんだな」

「お客さん? こんな『へんぴ』なところにか?」

「自分でいうな!」

「いや、すっかり村人から忘れられた状態になっていると思ったものだから。

 ……なんかうれしい。……ぐすんぐすん」

「……泣くなよ。いい年の男が」

「お前よりは若い」「学生時代、あたいと同級生だったろうが」

「確かに。だが、生まれた日がちがう」

「それはそうだろうけど。あれっ。でもさ、あたいとお前って同じ年じゃなかったっけ?

あとはみんな、一つ年下で」

「よく聞けよ、ラミア。同じ年でも、俺はお前より半年後に生まれた。その差は大きいんだ。しっかりと、きもにめいじろ。このおばあちゃん」

「……たかだか半年ぐらいの差で、おばあちゃん呼ばわりしやがって。フィル。いいどきょうをしているじゃないか。あたいにけんかを売るつもりか?」

 いいぜ、いつでも受けてやる、といわんばかりに、指の骨をぽきぽきと鳴らし、すご味を利かせるラミアさん。

「いや。けんかを売っているのは、このかただ」

 なぜか、フィルさん。自分の前に女の人を出してきた。かみの長いきれいな人だ。

「はぁい、ラミアちゃん。お久しぶりぃ。

 あらぁ、今日はたくさん人が見えているわぁ。千客万来ね……うっ」

 このあと、女の人は目から下の部分を両手でおおい、おえつ、ともとれる声を発した。

「ううっ……こんなことって年に何回あるか……ううっ……。

 あら、ごめんなさい。つい、涙が出ちゃって。これだけ大勢の人が来てくれたっていうのにあたくしったら、なんてはずかしいさまを」

(なんでこの人たち、さっきから泣いているのかな。そんなに人こいしかったら、さっさとこんなとこ出ちゃえばいいのに)

「リンダ……。お前、生きていたのか」

「ぐすん……。あら、ラミアちゃん。一つ年上の者に対して、名前の呼びすてはよくなくってよ。それに、『お前』呼ばわりもね。こんな『かそ』な場所に住んでいる相手とはいっても、少しぐらいはれいぎをわきまえなさい。それが人間というものよ。ちがうかしら?」

 それを後ろで聞いているフィルさんがいやな顔をしている。

「リンダ。いくらなんでも、『かそ』っていい方は」

「あら。先ほど、『へんぴ』っていってらしたご仁がいたと思うんですけど」

「フィル、リンダ。内輪もめはやめろ。さっきもいったとおり、こちとら、お前たちにお客さんを連れてきてやったんだぜ。少しぐらいは感謝したらどうだ」

「それもそうだわね」

 リンダさんはそういうやいなや、いきなりラミアさんをだきしめる。

「ちょ、ちょっと待て。リンダ、なにをする気だ」

「あら。今、自分でおっしゃったばかりじゃない。感謝を身体で表わせって。だから……」

「ちょっと待て。『身体で』なんてだれがいっ……」

 ぶちゅぅっ!

「はぁ、はぁ、はぁ。あ、危ないところだった」

「あらっ。ラミアさんにしては、くちびるが、ふわぁっ、と……。あっ、あなたはマリアさま」

「わ、私の生まれて初めての口づけがぁ……ふぅぅっ」

 ばたん!

「えっ! ちょ、ちょっと、マリアさま。マリアさまったらぁ!」

 ラミアさんがなにをしたかといえば……、リンダさんが目をつむってくちびるをあわせようとする寸前、すばやくわきにつっ立っていたマリアさんを、ぐい、と前に押しやったのだ。

(つまり、自分の身代りにしたってわけ。かわいそうなマリアさん)

 実はお兄ちゃんからあらかじめ、『ラミアさんと研究所へ行った時はね。そばにいちゃ絶対にいけませんよ』との注意を受けていた。どうしてかは教えてくれなかったけど、それじゃあ、ってことで、とりあえず数歩、後ろに引きさがっていたのが幸いした。

(いうとおりにしておいてよかったな)

 やはり、『持つべきものはいいお兄ちゃん』と、わたしは、ほっとむねをなでおろした。


「なぁ、リンダ」

 盛んに『マリアさま!』を連発し、気を失っている彼女に声をかけるリンダさん。ラミアさんはそんなリンダさんのかたを、ぽんと、たたく。

「なによ、ラミアちゃん。今、取りこみ中……。

 あっ。ひょっとして、あたくしのあまいくちづけがほしかったとか。だったら」

 なんか急に張りきりだして立ちあがるリンダさん。ラミアさんはすぐさま、

『ちがう!』といやそうな顔を向けた。

「そんなんじゃなくて。リンダ。お前、なんでマリアにだけ、『さま』をつけるんだよ」

「えっ! だって彼女の名前は『マリア』でしょ? 神々しい名前じゃない」

「お前って……。そういえば、小さいころから見かけとか名前にこだわるやつだったな」

「見かけは大事よ。それに『名は体を表わす』って言葉、ご存じないの?

 あら、いやだ。これだから無学な者とつきあうのは苦労が」

「お前、わざとあたいをおこらせようとしていないか?」

『いかく』でもするかのように、こぶしをにぎりしめるラミアさん。

「ちがいますわよ。それに、女の子がそんな仕草をしてはいけませんわ。

 ところで、ラミアちゃん。何故、『さま』をつけたぐらいで、そんなにムキになっていらっしゃるの?」

「だれがムキになっているって? あたいがいいたいのはな。マリアだけを『さま』づけで呼ぶのはおかしいだろう、ってことだ。あたいたちには『ちゃん』づけで呼びやがるくせにさ」

「ラミアちゃん、ひょっとして……」

 リンダさん顔に喜びめいたものがあふれている。きらきらと輝いている。

「なんだよ、リンダ」

「それって、『しっと』?」「なわけないだろうが!」

 ラミアさんがすかさず強い調子で否定するも、リンダさんの表情は変わらない。

「ラミアちゃん。それならそうと、はっきりおっしゃればいいじゃありませんこと。それにしても、やきもちはほどほどに。なんでしたら、あとでたっぷりと可愛がってあげますわよ」

「いいかげんにしゃべるのをやめろぉ! 張りたおすぞ!」

「それなら、この人に」

 さっ。

「な、なにをする! リンダ!」

 今度は、フィルさんがたてにされた。

 ぼがっ!

 マリアさんの横に、フィルさんも気を失ってたおれた。


「こいつらをこのままにしておくわけにもいかないよな」

「そうですわね。では、ラミアちゃん。お手数ですが、『小屋』の中へ運んでもらえます?

 ここには人手がありませんので、ぜひとも、お願いしますわ」

「力仕事はいつもあたいか。まぁ、いいけどな。それにしても、リンダ」

「はい? なんですの?」

「ここは『研究所』だろう? 『小屋』じゃないよな」

「ラミアちゃん……。ありがとう。そうおっしゃってくれたのは、あなたが初めてですわ。

 ……ぐすん」

「なぜ、泣く。あっ、いいや。返事をしなくても」

 ラミアさんは二人を無造作に引きおこすと、両かたにかつぎあげる。

「よいしょ、と」

(すごいなぁ。二人もの人間を軽々とかつぐなんて)

 ラミアさんはフィルさんとマリアさんを研究所の中へと運んだ。もちろん、最後に入ったわたしが、その重いドアを閉めたのはいうまでもない。


 研究所のドアを開けると、いきなり、居間、あるいは応接間と呼ばれる空間が現われた。すぐ目につくものといえば木造りのテーブル。うちかべと同じようなこげ茶色がかった木片が使われていた。両わきにはそれぞれ、三人ぐらいが座れるやわらかそうな長椅子が置かれている。今、わたしはラミアさんと向かいあう形で、リンダさんはラミアさんのすぐ横で、こしをおろしてくつろいでいる。奥の方へと目を向ければ、正面つきあたりには窓が開いていた。そこへとつづくせまい通路の左右には、いくつか部屋が並んでいる。気を失っているマリアさんとフィルさんにはその一室で休んでもらった。だけど、フィルさんはすぐにめざめたみたい。部屋に入ってくると、わたしの横に座った。

「それにしても」

「いうな、ラミア」

「いうな、っていったって……。フィル。この悪臭、なんとかならないのか?」

「村役場にも、どうにかしてくれって再三泣きついているのだがな。らちがあかん」

「くんくん。確かに変なにおいね。これってなんなの?」

 わたしも気になるのでラミアさんにたずねてみた。

「トイレのにおいさ。村の中で人が住むところって、今ではたいがい、『水洗トイレ』ってやつに置きかわっているから、それほど気にはならないんだけどな。ここは従来どおりの『くみとり式』。つまり、あたいたちの『はいせつぶつ』を、水に流すことなくためこんでいる。だからトイレの外でも、こんなにおいがただよっているのさ。ためこんだ容器をこうかんしてもらうまでは、残念ながらがまんするしかないってわけだ」

「ふぅん。ラミアさんって、割とものしりなのね。なんだか尊敬しちゃう」

「いやあ、それほどでも……あるかなぁ、なんて」

 ラミアさんは手を頭の後ろにあてると、照れたような笑いをうかべた。

「ちょっと、ラミアちゃん」

 リンダさんが小声で話しかけている。

「なんだよ、リンダ。今、せっかく気分よく話をしているっていうのに」

「だから目上のものには、もっと敬語をお使いなさいって……。

 ふぅ。仕方がありませんわね。しょせん、ラミアちゃんですし」

「なんだ、あきらめ顔でため息なんぞつきやがって」

「いいんですのよ、ラミアちゃん。もう、あなたに期待なんかしておりません。そんなことより、問題はこの子。一体、どなたでいらっしゃるの? 男の子なら、同じ顔をした『とのがた』をひとり、知ってはいますけど」

「ああ、実は……なぁ、フローラ」

「なに?」

「お前のこと、こいつにしゃべってもいいのか?」

「ええと。お兄ちゃんにめいわくをかけないのなら」

「そうか。そういうことか。うぅん、なやむな」

「ラミアちゃん。なにを二人で密談しているのか知りませんけど、こう見えても、あたくしって割と口は固い方ですのよ。どんな秘密を打ちあけてくださっても大丈夫です」

「本当か、リンダ?」

 なぜか、ラミアさんはジト目でリンダさんをにらんでいる。

「いやですわ、ラミアちゃん。そんな疑いのまなざしを向けたりなんかして。あたくし、断言します。これから聞くことは、最低でも一時間ぐらいはだまっているって」

「ミーにゃん。ウチはまだ一度も工業区に足をふみいれたことはないのにゃけれども」

「ええっ! そうなの?」

「そんなに目を丸くしておどろくことでもないにゃろう?」

「だってぇ。もう何百年も生きているっていうのに……」

「いや。工業区ができる前、つまり、森林がばっさいされる前は、ちょくちょく遊びにいっていたのにゃん」

「へぇ。どんな感じだったの?」

「ウチの好きな木の実がいっぱいなっていたのにゃよ。種類も豊富で、さながら、おいしさの宝庫にゃった」

「それなのに、人間はばっさいしちゃったの? なんだかもったいないわん」

「まぁ、人には食べられないものばっかりにゃったから。それに、工業製品が村に普及しつつあったってこともあげられるのにゃ。中央区や住居区では手ぜまになって、新たに工業区の新設を、って目をつけられたのが、ウチの愛した森にゃったってわけにゃん」

「食べられないって、まずいってこと?」

「それもあるのにゃろうけれども……」

「けども?」

「人の場合、口だけじゃにゃくて、身体にもあわなかったみたいなのにゃ。おなかをこわす、なんてこともざらにあったそうにゃよ。にゃから、ひとっこひとり、よりつかないありさまにゃった」

「でも、ミアンにとっては最高の場所だったってわけね」

「ウチだけじゃにゃい。森の生きものにとってもにゃ。ばっさいが行なわれた時は、みんなあぜんとしてながめていたものにゃん。今、想いだしてもつらいできごとにゃったと心がうたれるのにゃ」

「そうか……。だから行かないのね」

「行かにゃければ、ウチの心の中にはまだあの森は生きつづけている。この想い出をずぅっと残すためにも、これからも行くことはにゃいと思う」

「うん。気持ちは判るわん」

「でも、今どうなっているか、ぐらいは、知りたいって気持ちもあるのにゃん。

 ミーにゃん。ミーにゃんは行ったことがあるのにゃろ?」

「もちろん、だわん。でも、あまりいいながめとはいえないわん」

「どんな感じなのにゃろうか?」

「まず木は一本も生えていないわん。地面の土はならされて平ら。その上に、ぽつりぽつりと、『工場』っていうのかな? みたいなものが建っているの。でも、ほとんどがまだ空き地のまま。ところどころに小さい葉の雑草がのびているのが目につくわん」

「『荒野』、みたいになっているのにゃろうか?」

「ぴったりの表現だわん。建物がなければ、だけどね」

『あの森が……残念なことにゃん。にゃあ、ネイルにゃんはどう思う?」

「ミアンさん。実は工業区についてはガムラもいかり……」

「うん? なんにゃ? ネイルにゃん」

「ガムラがどうしたの? ネイルさん」

「……いえ、なんでもありません」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「それではぁ、というわけでにゃ。ミーにゃん公認、『ミーにゃん帝国の野望・ぱあと2 副題「真実を求めて」』を話すとするのにゃん」

「公認したんですか? ミーナさん」

「んなわけないわん。ねぇ、ミアン。同じ話すなら前回終わったあとに、ぱぁっ、としゃべっちゃえばよかったじゃない。どうしてわざわざ新たな話にしちゃうの? しかも副題までくっつけて」

「とのミーにゃんの熱い期待に応えて、いよいよ始まり始まりぃ、にゃん!

 あっ、いうのを忘れていたのにゃけれども。物語的には最初からじゃにゃくて、ウチが笑いながら出てきたところからにするのにゃん」

「んもう! 少しはアタシの話を聞いてほしいわん!」


「にゃはははっ」

「だれなのぎゃあ? きさまはぁ!」

「ここはアタシの帝国よ。それを無断で入りこむなんて。許せないわん」

「ウチはにゃ」

 ひらり!

「あっ。赤いマントをひるがえしたのぎゃ」

「あっ。見てよ、ジュリアン二世。手によもぎだんごをにぎっているわん」

「まさか……ぎゃ」

「もしや……だわん」

「にゃはははっ。どうやら気がついたみたいなのにゃん」

 がじっ。ぶずぶずぶずぶずぶずっ。

「ああっ! ミーにゃん女王さま。こいつ、よもぎだんごをくわえたとたん、一瞬で『くし』のだんご全部を口の中に入れてしまったのぎゃあ」

「なんていうあざやかな手つき、いや、口つき。もうまちがいないわん」

 ぶるぶるぶる。ぶるぶるぶる。

「ふるえているにゃ。

 どうやらウチの正体がおぼろげながらつかめたとみえる。にゃらば!」

 ぴきぃん!

「おおっ! 高くかかげた『くし』が千六百七十七万とんで一色の変化へんかを見せているのぎゃん!」

「これはいよいよ、来るべきものが来たって感じだわん!」

「いくにゃよぉ! それぇっ! 『にゃあまん』!」

 ぴにゃんにゃんにゃんにゃん!

「うわっ! すごい光だぎゃあ!」

「まぶしすぎるわぁん!」


「満を持して、正義と愛の戦士『にゃあまん』、ただいま参上にゃん!」


 みっし。みっし。

「おとめにゃのに、にゃあまん!」

「ああっ! ミーにゃん女王さま。大変なことになったぎゃん!」

「う、う、うん。とんでもないキャラが生まれてしまったわん……」


「と、今回はここまでにゃあ!

『おとめにゃのに、にゃあまん!』

 どうにゃ? かっこよかったにゃろう?」

「にゃあまん……ってなに? さっぱり判らないわん」

「にゃあまん……ってなんです? さっぱり判りません」

「そんにゃあんたたちへの答えもふくめて、次回をお楽しみにぃ、にゃん!」

「ミアン。まだつづけるつもりなの?」

「ミアンさん。こんなものをつづけることにどんな意味が?」

「♪にゃんにゃんにゃん♪ ♪にゃんにゃんにゃん♪ 

『おとめにゃのに、にゃあまん!』

♪にゃんにゃんにゃん♪ ♪にゃんにゃんにゃん♪ 」

「……うかれているわん。もうだれにもミアンはとめられないわん」


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