第六話『空を追いかけて』‐③
アリアはこれが全力とばかり、その身体から霊波を流出、紅い身体をさらに紅く輝かせる。身体をななめにかたむけ、すれあうぎりぎりの状態でミレイを追いぬく。
ぎゅぅん!
「やったぁ!」
再び先行することができたので、思わず右手のこぶしを高くかかげた。いさかかこうふん気味なわたしの耳に、絹をさくよな女の子の悲鳴……こういういい方でまちがっていないよね……が聞こえてきた。
「きゃあああ! た、助けてくださぁい!」
「えっ!」
わたしは思わずたづなを引き、アリアをとめた。
(そうだ。マリアさんも乗っていたんだ)
わたしは戦いに夢中になって、すっかり彼女のことを失念していた。
「マリアさん!」
急いで後ろをふり返る。だけど、座っていたはずの彼女の姿がどこにもない。血の気が引いていくのが自分でも判った。
「どうしよう……。一体どこへ?」
「くぉーっ(心配はいらない。足元にいる)」
「足元に、って……あっ! 見つけた!」
アリアの左前足にマリアさんは救われていた。
「ありがとう、アリア」
わたしは心の底から、ほっ、とした。マリアさんに、もしも、のことがあれば、お兄ちゃんを始め、悲しむ人の数がどれほどまでにのぼるか。想像するだにおそろしい。目立たないひかえめな存在がゆえに、だれからも愛される。そんなふしぎな人だ。彼女は。
上からマリアさんを見つめた。つかまれているこしひもが、ゆいつのささえとばかり、身体は二つ折りにだらんとたれさがっている。『もうだめなのでは?』、と思わないでもなかった。だけど、すぐにその考えをうち消した。ぴくりぴくり、と規則的に動く身体が、『私は生きている』ことを暗に物語っていた。
(ひょっとすると、気を失っているのかもしれない。でも、えらいな)
彼女の右手には手さげ袋がしっかりとにぎられていた。『さすがは村役場職員。意地をみせてくれたんだ』と感心していると、上空から声が聞こえてくる。
「じゃあな、フローラ。お先にぃ」
ぎゅぅん!
ラミアさんが追いこしてしまった。
「あぁあ。負けちゃった」
本来であれば、がっかり、とするところ。だけど、今はそれどころじゃない。わたしはアリアを静かに地上へとおろす。
「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」
アリアの前足からはなれたとたん、マリアさんはあお向けに転がって十の字になる。気を失ってなどいなかった。それでも、ぐったりとした様子であらい息をはずませているその姿は見ていて心に痛い。
「ひ、ひどいです……。フローラ……さん。わ、私が……乗っているって……いうのに」
「ごめんね、マリアさん」
服はぼろぼろ、息もたえだえ、のマリアさんにわたしができることっていったら、ただただ頭をさげることだけ。けがをしていないことだけがせめてもの救い。
(きっと作務衣もミレイとすれちがう際に破れたんだ。本当に悪いことをしちゃったな)
反省することしきり、のわたしだった。
「おぉい!」
ラミアさんの声が聞こえてくる。
(もどってきたな)
こちらに飛んでくるアーガと、そのアーガのせなかの上に立ってうでを組んでいる人の姿が、見あげたわたしの目に映った。
「くぉーっ(はい、ごめんくださいまし)」
ミレイはそう声をかけると、アリアの横に並ぶ形で着地した。と同時にラミアさんが、わたしたちの前に、さぁっ、と降りたつ。
「勝負はあたいたちの勝ちだ……って、マリア。どうしたんだよ、その姿は」
「どう……したって……ラミアさんたちが……はぁっ、はぁっ、はぁっ」
「そういや、お前もいたな。一体なにが……。
ああ、今は話さなくてもいいや。もうちょっと呼吸が楽になってからにしよう」
わたしはマリアさんをラミアさんに任せ、近くの水源から水をくんできた。
「さぁ、マリアさん。どうぞ」「ありがとう、フローラさん」
ごくごくごくっ。
しばらくして、やっと落ちついてきたのだろう。マリアさんが口を開いた。
「ふぅ。なんとかふつうに呼吸が……できるようになりましたよ。
それにしても、まさか、こんなことになるなんて」
ぼやき始めた彼女に、ラミアさんは話しかける。
「なぁ、マリア。ちょっと聞いてもいいか」
「なんでしょう? ラミアさん」
「確か今日、村役場は休みじゃないよな。
なのに、なんでアリアに乗ってフローラと遊んでいるんだよ?」
「遊んでなんかいません!」
マリアさんは頭にきたようだ。
「私がこの荷物を運んでいる時、ちょうどフローラさんがとおりかかったんです」
「そうなの。それで、わたしが運んであげようってことになって」
わたしも言葉をそえた。
「それでいっしょに乗っていたのか。あたいはてっきり二人が遊んでいるんだとばかり」
ラミアさんの言葉に、マリアさんはふんがいした様子。
「私は仕事のとちゅうです。それなのに、アーガ同士を戦わせるなんて。
本当にもう。ぷんぷん!」
(ふくれっつらで真っ赤。多分、おこっているんだろうな。だけど何故か、マリアさんはこの顔が一番可愛いような気がする)
「やぁ、マリア。悪かった悪かった」
頭の後ろに手をあて、ラミアさんはあやまっている。
「本当にごめんね、マリアさん」
わたしも……何度目だろう?……謝罪の言葉を口にした。
追いかけっこをする前、やたらけんかごしだったアーガたちは、といえば。
「くぉーっ(どうです、アリア。アタシメが勝ちましてよ)」
じまんげに話しかけるミレイ。
「くぉーっ(確かに。ワタシの負けだな。これ、このとおり)」
アリアはいさぎよく頭をさげる。
「くぉーっ、くぉーっ。
(まぁ今回、アタシメは乗り手がラミアさんでございましたもの。それに引きかえアリアの方は、『成りたてほやほや』か『ど素人同然』の乗り手二人。これじゃあ公平な勝負とは、とてもいえませんわね。その上、勝って当然の中、最後につかの間ではあったにせよ、アタシメの油断から追いぬかれてしまったのも事実。今思えば、どちらが勝ったとはいえないのかも知れません)」
ミレイの自かいをこめたような言葉に、アリアは頭を横にふる。
「くぉーっ、くぉーっ。
(いや、負けは負けだ。どのようなじょうきょう下であれ、勝負に応じた以上、その結果はしんしに受けとめる。否定もいいわけもしない。それが戦った相手に対するれいぎというもの。そうではないか)」
「くぉーっ(相変わらずりちぎな方ですのね、あなたは)」
「くぉーっ、くぉーっ。
(それに、フローラはよくやった。ワタシを見事に乗りこなした。よい乗り手にめぐり会えたと、うれしく思っている)」
「くぉーっ、くぉーっ。
(アリア……。あなたの、戦った相手や乗り手に対する心づかい。いつもながら頭のさがる思いでございます。そんなあなただからこそ、アタシメは好きになったのでしょう)」
「くぉーっ(そんな言葉を不意にいうな。……照れてしまうではないか)」
「くぉーっ、くぉーっ。
(それそれ、そういうところにひかれてしまいますの。アタシメは、あなたと同期の友でよかった、とつくづく思いますわ)」
「くぉーっ(ワタシも、だ。お前が友であることに感謝している)」
「くぉーっ(機会がありましたら、ぜひ、また勝負を)」
「くぉーっ(よかろう。次は必ず勝ってみせる)」
「くぉーっ(アリア。アタシメも負けません。その日が来るのを楽しみにしておりますわ)」
(ふぅ。どうやら、こちらも丸くおさまったみたいね。よかったよかった)
「もうこんな時間に」
マリアさんは立ちあがって、手さげ袋の中身を調べている。
「ええと……これと、これと。それから……あれと、あれも。
……うん、大丈夫。全部あるようですね。それじゃあ、みなさん。私はこれで」
マリアさんは頭をさげたあと、早く行かなきゃ、といわんばかりに足を前へとふみだす。
「待てよ、マリア。送っていくから」
「そうです。いっしょに行きましょうよ」
「でも、またさっきみたいになると……」
ラミアさんとわたしがしきりに声をかける中、マリアさんの顔には、ためらい、みたいな表情がうかんでいる。
「大丈夫だから。あたいにも責任があるし、いっしょについていくよ」
「お願い、マリアさん。さっきみたいに、わたしの後ろへ」
「でも……」
マリアさんは明らかにけいかいしている。だけど、当初予定していたよりも、だいぶおくれてしまったらしい。とどのつまり、わたしたちの申し出に応じてくれた。
「判りました。では、お願いします」
そういって、ぺこり、と頭をさげた。
「よかったぁ。じゃあ、マリアさん。後ろに乗って」
わたしにうながされ、再びアリアのせなかへまたがった。
「じゃあ、出発するよ」
わたしがそういうと、ラミアさんから思いもかけない声が。
「待て待て。お前たち。一体、どこに行くんだ?」
「えっ!」
わたしはたづなを引こうとしたその手を思わずとめる。後ろをふり返ったわたしを、マリアさんは、きょとん、とした顔で見つめている。
「あのぉ、どうかしたんですか?」
「マリアさん。マリアさんはどこへ行くつもりだったの?」
「……えっ。私、フローラさんにいっていませんでしたっけ?」
「確か、聞いていなかったと思うんだけど」
「……ああ、そうでした。行き先を教えようとしたのに、アリアが急にぐるりとまわり始めたたからものだから」
(わたしがいたずらっ気を起こしてたのんだ時だ。そういえば、なにかいいかけていたような気がする)
「ああ、だからか」
わたしとマリアさんの会話を聞いて、ラミアさんもなにかを思いだしたみたい。
「あたいがお前たちのところへ来た時、宙返りかなんかやっていたろう? それでてっきり、遊んでいると思いこんじまったってわけだ」
「思いかえしてみれば、あれはこわかった半面、それなりに楽しくもありましたね。ふふふっ」
マリアさんが笑いだし、わたしたちもつられて笑いだす。悪いことをしちゃったな、って思い返していただけに、ほっとむねをなでおろした。和やかな空気があたりにただよっている。そう思って楽しい気分にひたっていたわたしの耳に、とつじょ、このふんいきをうち消さんばかりのさけびが聞こえた。
「笑っている場合じゃありません!」
最初に笑った当の本人が、ひょう変した。
(うん。確かにね)
わたしは、今度こそちゃんと聞いてあげようと思い、たずねてみる。
「それで、一体どこへ?」
「岩石研究所です。フィルさんに、
『村役場で保管している資料の中に必要なものがあるから、持ってきてほしい』ってたのまれたんです」
「そうだったんだ」
わたしはこの時、初めてマリアさんの用事を知った。
「なぁんだ。この袋の中身って書類のたばか。道理で重そうなわけだ。だけど、そんなのがほしいなら、フィル自身が取りにくればいいのに」
ラミアさんは不満をフィルさんへぶつける。
「来たんですよ。でもその時、おじいさん、いえ、村長さんは席をはずしていて、書庫のかぎが見つからなかったんです。それで」
「マリアが運び人になったってわけか。大変だな、村役場の職員も」
ラミアさんはマリアさんに同情したような表情をうかべている。
「さぁ、早く行きましょう。これ以上、一刻もゆうよはなりません」
少々、あせり気味に声をかけるマリアさん。
「うん」とわたしが、「じゃあ、行くか」とラミアさんもうなずく。
わたしたちはそれぞれの聖竜を空へと舞いあがらせた。
わたしは最初、マリアさんの案内で岩石研究所とやらへ行こうと思っていた。でも、ぐう然出会ったラミアさんから、こんな言葉をもらう。
「フィルのところへ行くんだろう? だったら、あたいが道案内してやるよ。だまってあたいについてきな」
なんともたのもしいお言葉。マリアさんはいい人だけれど、彼女の案内では、後ろから指図されながら飛ばなきゃならない。いささか、めんどうだと思っていた。それだけにラミアさんの好意がとてもうれしい。
「岩石研究所は工業区にある。研究所とは名ばかりで、実際は昔の採くつ現場近くに建てられた『大きな山小屋』といったところだ。……ほら、見えてきた!」
ラミアさんのいうとおり、わたしたちの目の前には、山小屋風の研究所が現われた。こげ茶色がかった丸太で組まれていて、そぼくでかつ、がんじょうそうな感じのする建物だ。
「よぉし、着地するぞ」
現在、工業区にある建物の数はほんのわずか。土をならしてはあるものの、ほとんどが空き地のまま。ラミアさんのかけ声とともに、わたしたちは研究所の前に拡がる空き地の一角にアーガたちをおろした。
「ふぅ。やっと着きましたね」
マリアさんはそういって、だれよりもほっとした表情を見せている。
(思えば、マリアさんと会ってから、ずいぶんと時間が経っちゃったなぁ。
ごめんね、マリアさん)
今日はあやまってばかり。わたしって悪い子? なんて落ちこんでいる自分がいた。
「にゃあ、ミーにゃん。今回は歯がゆい結果に終わってしまったのにゃあ」
「本当本当。歯がゆいわん。これってあれかな。ほら、よくいうじゃない。
『戦いに勝って、勝負に負けた』って。そんな感じがしたわん」
「まったくにゃ。こうにゃれば、次回は必ず」
「そうね。勝ってほしいわん」
「あのぉ、すみません」
「なんにゃ、ネイルにゃん」
くるっ。くるっ。
「にゃ、にゃんと! にゃんでそんな真っ青な顔に」
「なっているの? あっ。ひょっとしたら食中毒?」
「それはいかんにゃ。で? 一体なににあたったのにゃん?」
「ミアン。原因の究明はあとでもいいわん。それより早くふとんを」
「うんにゃ。まずは」
せっせ。せっせ。
「ふぅ。なんとかしけたわん」
「さぁさぁ。ネイルにゃん。早くこの中へ」
「入るんだわん」
「あのぉ。せっかくふとんを用意してくださったのに、こんなことをいうのもなんなんですが」
「なんにゃ?」「どうしたの?」
「別に食中毒になったわけじゃないんですよ」
「にゃんと!」「そうなの?」
「ミーにゃん。ウチらはどうも、早合点をしてしまったみたいにゃ」
「そうみたいね」
「にゃははは」「あははは」
「やれやれ。どうやらその様子では、ことの重大さを飲みこめていないようですね」
「ネイルにゃん。さっきからどうしたのにゃ?」
「そうそう。なにしかめっつらをしているのよ。
いいたいことがあるなら、さっさといってほしいわん」
「それなら話しますけどね。今回は勝負うんぬんよりも、もっと大事なことがあるじゃないですか」
「勝負よりも? はて、なんにゃろ? ミーにゃん。にゃんだと思う?」
「さぁ? 今回のお話で一番話題のたねになるとしたら、ずばり、『勝負の行方』。これしかないわん、って思っていたのに。 さっぱり判らないわん」
「ふぅ。お二方って……意外と冷たいんですね。
しょうがありません。それじゃあ、『ひんと』をさしあげますよ」
「ミーにゃん。にゃんかウチら、さげすまされた、みたいないいかたをされたのにゃけれども」
「本当本当。これでたいしたことじゃなかったら、ネイルさんといえども許せないわん」
「ばつとして、ここはげんこつ一発にゃろうか?」
ぐっ!
「いやいや。『妖力爆風波』でしょ?」
ばさっ。ばたばた。
「『砕撃破』はどうにゃろ?」
ぐわん!
「それもこうりょの余地があるわん。でもまぁ一応、聞いてみましょうよ」
「それもそうにゃん。さぁ、ネイルにゃん。早く『ひんと』とやらを話すのにゃん」
「ではいいますが……。
まず最初は、
『この勝負では被害者が出ています。それはだれか?』
次に、
『僕だけじゃなくて、ミーナさんやミアンさんにとってもなじみ深い人が、第六話の最初から登場しています。にもかかわらず、悲しむべきことに話題にすらのぼっていません。それはだれか?』
三番目の『ひんと』は、この二つの人物の名前は同じです。
さぁ、お二方。お答えください」
「被害者? ……おうおう、そうにゃった!」
「アタシたちになじみ深い? ……うわうわ。そうだったわん!」
がばっ! がばっ! がばっ!
「ははぁっ、にゃん!」「ははぁっ、だわん!」「ははぁっ、ですっ!」
「この場にはいないのにゃけれども……、
マリアにゃんさま。ご出演、おめでとうございますにゃん」
「マリアさま。ご登場、おめでとうだわん」
「お姉ちゃん。つつしんで今までのご無礼をお許しください」
ぺこり。ぺこり。ぺこり。
「ふぅ。ウチら、とんでもない見のがしをしてしまっていたのにゃん」
「そうね。穴があったら入りたいぐらいだわん」
「僕も一時はどうなるかと。でも、気づいてくださってよかった」
「にゃははは」「あははは」「はははは」
「……って、笑っている場合じゃありませんよ。
今回、こともあろうにお姉ちゃんが危険な目にあっているんです」
「そうにゃそうにゃ。あってはならにゃいことが起きていたのにゃ。
それはいけないことなのにゃよ」
「勝負にすっかり気を取られて、命の大切さを見すごしていたわん」
「ここは深く反省にゃん!」「そうだわん!」「そのとおりです!」
がばっ。がばっ。がばっ。
「ははぁっ、にゃん!」「ははぁっ、だわん!」「ははぁっ、ですっ!」
「ごめんにゃ、マリアにゃん。これで許してほしいのにゃん」
「ごめんね、マリアさん。これで許してほしいわん」
「お姉ちゃん。ここはひとつ、これでごかんべんを。
じゃあ、ミーナさん、ミアンさん。最後にもう一度。せぇのぉ!」
『ははぁっ!』
「とまぁ、こんなもんでどうにゃろ? ネイルにゃん」
「マリアさんはやさしいから許してくれたと思うわん」
「そうですね。これで手打ちにしますか」
ぱぱんがぱん!
「ふぅ。終わったのにゃ。それにしてもマリアにゃんを失念してしまうにゃんて。あれほどお世話になっているっていうのににゃあ……。
ふぅ。つくづく自分が情けなくなってくるのにゃん」
「それはアタシも同じだわん。どういいわけしてもだめだわん」
「マリアにゃんとカスミにゃん。ウチらにとっては一番忘れちゃいけない人にゃん」
「ずいぶんとお世話になっているものね。大事な人たちだわん。もっと大切にしなきゃ」
「あのぁ、ミーナさん。ミアンさん」
「どうしたのにゃ? ネイルにゃん」
「またまた顔が真っ青になっているわん。どうしたっていうの? 一体」
「いまさら、ですが……」
「なんにゃ?」「なんなの?」
「僕はどうなんでしょう?」
「……」「……」
「彼女、いえ、精霊イオラさんをのぞけば、
一番お二方の世話をしているのは僕のような気がするんですが……」
「そ、それは……。(ミーにゃん。どうしよう? 笑うに笑えないのにゃん)」
「そ、そうよね。 (ミアン。 どうしよう? 笑うに笑えない現実だわん)」
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「じゃあ、ミーにゃん。あんまりどきまぎしなくにゃった、『ミーにゃん帝国の野望』の後編を話すことにするのにゃん」
「ミアンがそれをいってどうするの? って聞きたいわん」
《
「ふぅむ……。おかしいのぎゃあ」
「どうしたの? ジュリアン」
「それを答える前に……。ミーにゃん女王さま。わじらの帝国は天空の村で一番高い山『ねぐろ』の頂上にあるのぎゃ」
「あれっ? 一番高いのは霊山『亜矢華』でしょ?」
「そんな山は知らんぎゃ」
「知らないって……」
「天空の村のどこにもそんな名の山はないぎゃ。おおかた、女王さまの夢にでも現われたまぼろしの山じゃないのぎゃ」
「そうかなぁ……」
「わじらの話は現実。空想といっしょにされては困るのぎゃ。まっ、それはそれとして。
ここミーにゃん帝国は、屋根がおわん型をしている円柱状の建物。『ねぐろ』の白っぽい石を切りだして造られている。高台にあるため、村を一望できるという優位性を持っているのぎゃん」
「うん。それはよく知っているわん」
「ところが……ぎゃ。この高台から村の周囲を見まわしても、あわてふためく様子が一切見えないのぎゃん」
「失敗? なの?」
「今、ていさつに行った部下からの報告を待っているところぎゃ。もうちょっと待っててほしいのぎゃん」
たったったったっ。
「報告しますです。大変なことが判りましたです」
「なんぎゃ? その大変というのは?」
「すべての『みもぐら』がおなかいっぱいで動けなくなっていたのです」
「ぎゃんと!」
「おそらく、ではありますが、です。だれかに『えづけ』をされてしまったのでは? と考えるのであります」
「つまり、今回の作戦を前もって知っていたものの仕業ってことね」
「女王さま。そのとおりでありますです」
「ジュリアン。大変だわん。帝国内部にうらぎり者がいるわん」
「まさか……。女王さま。あなたぎゃ?」
「なにをいっているの? ジュリアン。あなたが進言してそれをアタシが受けいれたからこそ、この作戦は始まったのよ。気にいらないなら始めっからそういっているわん」
「ぎゃが、それなら一体だれぎゃ」
「にゃはははっ」
「あっ、ミアン! ……ああっ!」
よろよろ。
「と、とつぜん、めまいが……、ああ、ミアン」
ふらふら。ふらふら。
「ミーにゃん!
ジュリアン。一体なにをしたのにゃ?」
「それはこっちの台詞だぎゃあ。ミアン。『えづけ』は全てお前が」
「そういうことにゃん。ジュリアン。あんたの野望は終わりにゃん。観念するのにゃ」
「そうはいかないぎゃ。これをよく見るのぎゃあ」
ぴこんぴこんぴこんぴこんぴこん。
「あっ。ミーにゃんの頭の上に乗っている女王のかんむりが、光っているのにゃ」
「ふふふっ。これで女王を操っていたのぎゃあ」
「操っていた? どういうことにゃん?」
「ふふふっ。わじがただの白黒ぶちねこだと思っていたのなら、大まちがいぎゃ」
「するとあんたは」
「生きものを操る装置を生みだせるまほう使い、いや、まほうねこぎゃ」
「にゃんと! 『まねこ』、にゃったとは……」
「ふふふっ。このかんむりによって女王はわじの思うがままぎゃ。女王の力を利用すれば、天空の村など、あっという間に帝国の支配下。もちろん、そうなったあかつきには、女王など、じゃまな存在。力をしぼるだけしぼりとって、あとは、ぽい、と捨てるだけぎゃあ。ぎゃはははは」
「おのれぇ、ジュリアン。にゃんってひどいことを」
わなわなわなわな。
「そればかりではないぎゃよ。このかんむりはぎゃ。ぎゃんと、時限ばくだんにもなっているのぎゃあ」
「にゃ、にゃんと!」
「女王がうらぎった場合を考えてのことぎゃ。ぎゃが、もういい。これで死んでもらうぎゃあ」
ささっ。
「そ、その緑色の箱はなんにゃ? なにをするつもりにゃん?」
「この上にある赤いボタンをぷちっとおすだけだぎゃ。たったそれだけでお前の大好きな女王の命は、ばっがぁぁん! あとかたもなくなるのぎゃあ。ぎゃははは」
「ううむ。一体どうしたらよいのにゃろう……はっ! あ、あれはっ!」
たたたたたっ!
「な、なんぎゃ。あの怪しいひとかげはぁ!」
「とぉっ!」
ひらり!
「極太注射ぁ!」
ぶずっ!
にゅううう。
「あうっ。力が……なくなってきたのぎゃあ……」
「今にゃん!」
たたたたたっ! ぐわん!
「お、おのれ、ミアン。わじに飛びつくつもり……。
ち、ちがうぎゃ。飛びこえたぎゃん!」
「にゃあ!」
ぴきん! さぁっ!
からんからん。からんからん。
「し、しまったぁ、女王の頭に乗せてあったかんむり、いや、操り装置が取りはらわれてしまったのぎゃあ」
「はっ! ……ミアン。アタシ、どうしたの?」
「ミーにゃん。あんたは、にゃ。ジュリアンに、そのかんむりで操られていたのにゃん」
「なんだってぇ。許せないわん!」
「なんぎゃとぉ! 許せないならどうするつもりぎゃん?」
「じゅうてん無用の必殺技を受けるがいいわん!
それぇっ! 『妖力爆風波(小)』!」
ばふっ!
「うわあああっ、ぎゃあああ!」
ひゅるひゅるひゅるぅぅぅっ。
どががぁぁん!
「あっ! ジュリアンがぶつかって帝国の天井に穴が空いたわん!」
ぐらぐらぐら。ぐらぐらぐら。
「大変。ミアン、帝国が!」
「くずれてきたにゃよ。ミーにゃん。大急ぎで脱出にゃあ!」
「うん。急がなくっちゃ!」
たったったったった!
ばたばたばた。ばたばたばた。
ざざざざざぁぁぁん!
「ふぅ。ミーにゃん帝国の最後にゃ」
「ほろびゆくものの末路かぁ。あわれなものだったわん」
「さぁ、ミーにゃん」
「うん。あっ、ミアン。ネイルさんのとこへ帰る前にうちへよっていってよ」
「うぅぅん、どうしようかにゃあ……。最近ごぶさたしているし、にゃ。たまにはイオラにゃんに顔を見せた方がいいのかもしれないにゃあ」
「うわぁい!」
「よぉし、決めたにゃん。行こう! ミーにゃん!」「うん。行こう! ミアン!」
たったったったった!
ばたばたばた。ばたばたばた。
》
「かくして天空の村は平和を、ってわけにゃん。どうにゃった?」
「女王さまのアタシがめざめて敵をたおしたってわけね。
まぁ、悪くないオチだったわん」
「あのぉ。ミアンさん。僕はどこに出ていたんですか?」
「ほら、極太注射にゃ。あれをやったのがネイルにゃんなのにゃよ」
「あれが。僕はてっきり先生だとばかり」
「ごほん。失礼な」
「先生。急に出てくるのはやめてください」
「そうだな。では」
ぱっ!
「あっ。消えたのにゃ」
「なんであんな風に出入りが簡単なのかなぁ?」
「さぁ? 僕にも、さっぱり、です」
「まぁ、いいや。それはそうと。ねぇ、ミアン」
「なんにゃ? ミーにゃん」
「今回のお話って、アタシたちが文句をいったから変えたんでしょ?
本当はどうだったの?」
「ミ、ミーナさん。それをいったらミアンさんの思うつぼ……」
「えっ!」
「ふふふふふっ。そうにゃよ。ウチはこの時を手ぐすねひいて待っていたのにゃん。
それなら始めるとするにゃよ。ご期待に応えて真実の物語を!」
「し、しまったわん! こうくるとは思わなかったわん!」
「ミーナさん……。本当ですか? それ」
じぃっ。
「ちっちっちっ。ネイルさん。うたがってはいけないわん」




