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天空の村2・水の妖精  作者: シード
13/33

第四話『きずな』‐④


「この子がフローラちゃんなの?」

 わたしをじっと見つめるレミナさん。

「うわさどおりだね。ネイルによくにているし、可愛いし」

「先生から聞いたんですか?」

「ラミアさんにもね。今朝、彼女を紹介してもらった、っていってたよ」

「そうでしたか」

「あちきもその場にいたらなぁ。もっと……。

 あっ、本当にそろそろまずいや。じゃあ、帰るから」

 レミナさんはそういうと、あみから顔を出しているマリエさんにも声をかけた。

「マリエちゃん、行くよ。あちきの後ろに乗って」

「お姉ちゅわぁん。わかりますぃたぁ」

 右手で敬礼の姿勢をするやいなや、ぽぉん、と勢いよく跳びはねた。あみからなんなく脱出したあとは、レミナさんの頭上をこえて彼女の後ろへ、すくっ、と降りたつ。

 レミナさんはそれを見届けると、アーガのせなかに腰をおろして玉あみをすぐわきに置く。たづなを手に持ち、あぶみにも足をかける。一方、マリエさんは両足を、ぐわん、と開いて、あたかも落下するような感じでマミーにまたがる。つづいて、自分の両うでをレミナさんのこしにまわした。

「準備完了ぉ! いつでもどうぞぉ!」

「前から思っていたんだけどね」

 レミナさんはマリエさんの座り方をずっとながめていた。

「それで乗ったら、『おまた』の部分が痛いんじゃないの?」

「いえぃっ! 敵に後ろは見せられましゅえん!」

「だれなの? 敵って?」

 マリエさんは、ちっちっちっ、と右手の人さし指を横にふる。

「お姉ちゅわぁん。だれでもぉ、最初と最後の敵はぁ、自分自身なのでありまぁぁちゅ」

「あっ、そ」

 レミナさんはそれだけつぶやくと、前を向いた。

「うわぁぁん! ちょっとぉ、無視しちゃいやああん!」

 レミナさんに、がばっ、としがみつくマリエさん。

「おはなしよ! それじゃあ、操れないじゃないかぁ!」

「……ふぁぁい」

「まったくぅ。お務め自体はちゃんとやるっていうのにぃ……。

 本当に世話のかかる子なんだからぁ」

「すみましぇぇん」

 レミナさんにおこられて、しゅん、とうなだれた表情のマリエさん。そんな彼女を可愛い、って思ったのは、……わたしだけじゃなかったはず。

(ねぇ、お兄ちゃん)


 レミナさんは両手でたづなをひいた。玉あみは後ろに乗っているマリエさんの手にある。

 ばさっ! ばさっ!

 上空へとまいあがるマミーから声が聞こえてきた。

「また会いましょうぬゅぇぇ! おにいたまぁ!」

 眼下に向けて大きく手をふるマリエさん。この言葉を最後に、二人の乗せたアーガはどこへともなく飛んでいってしまった。

(あっという間に現われて、あっという間に消えちゃったな)

 音楽祭はまだつづいているけど、ひとつの祭りが終わったような、そんなさみしさを覚えていた。だまったままでいるのがいやで、わたしは思いついたことを口にしてみた。

「ねぇ、お兄ちゃん。彼女のいう『おにいたま』って一体だれなの?」

(まぁ、お兄ちゃんのことだろうな)

 そう思いつつたずねてみる。そしたら、お兄ちゃんは、ぐるっと周りを見たあとに、

「多分、この会場内で手をふって泣いているだれかさんだと思います」と言葉を返した。

「えっ!」

 わたしも視線を走らせてみる。目に映った光景にあぜんとするしかすべはなかった。

「どうしてなんだ。どうして君は行ってしまったんだ。ボクひとりを残して。……ううっ!」

「あなたの歌が聞きたいから今まで待ったのに。こんな終わりが来るなんて。……くくっ!」

「また次の音楽祭まで君とは会えないんだね。つらい、つらすぎるぅ。ああっ!」

「お願い、もどってきてぇ、わたしの女神さまぁ!」

「うぇぇん。ミアン。楽しい人がいってしまったわぁん。うぇぇん」

「ミーにゃん。泣かなくてもいいのにゃよ。またいつの日か会える。生きているかぎりは会えるのにゃん」

 ひざをつく者。うちひしがれている者。地面に泣きふす者。さまざまな悲しみの表情がそこにはえがかれていた。

(そんなぁ。全員が泣きくずれている……)

 わたしはマリエさんという存在の大きさをいまさらのようにかみしめていた。


 わたしとお兄ちゃんはマリエさんが消えた会場をあとにした。

「フローラ。次はここに行きましょう」

 お兄ちゃんが、なにやらうれしげな顔つきをしている。それじゃあ、といってたどりついた先には、いすがずらりと並べられていた。座ってしばらくすると、音楽が聞こえてきた。落ちついた悲しげな曲が会場の周りを流れる。どうやら、お兄ちゃんは自分が好みとする音楽に出会えたみたい。静かに聞きいっていた。一方、わたしは、といえば、実はものすごいねむけにおそわれている。

「あれだけ動いたんだもの。仕方がないよね」

 そうつぶやきつつ、いつの間にか本当にねむってしまった。

 こうして……不本意ながら、わたしにとって初めての音楽祭は終わりを告げた。


 がばっ。

「えっ。ここは!」

 自宅のふとんでねていた。お兄ちゃんの話によると、わたしは会場で気持ちよくねむりこけて、いくら起こそうとしても起きなかったみたい。それでやむなく、予定を早めて帰ってきたとのこと。

「ごめんね、お兄ちゃん」

「いいんですよ。僕は十分楽しませてもらいましたから。

 さぁ、フローラ。食事にしましょう」

 夕食はすでにお兄ちゃんが造ってくれていた。わたしもそうだけど、お兄ちゃんもかなりおなかがすいていたみたい。二人ともしゃべることなく、がつがつとたいらげた。


 食べ終えてやっとひとごこちがつくと、ぽつり、ぽつり、と、今日あったできごとを話し始めた。川でこどもを助けた話が一段落したあと、ふと昔のことが頭にうかんだ。

「ねぇ、お兄ちゃん。ちょっと聞いてもいい?」

 ごくごくごくっ。ごくごくごくっ。

 お兄ちゃんはよほど、のどがかわいていたとみえて、大きなコップについだ飲料水を一気飲みしている。わたしの真正面にいるため、のどぼとけの動いているのがはっきりと判る。

 ぷふぅ!

 お兄ちゃんは大きく息をはくと、わたしの顔を見つめた。

「……かまいませんけど、なんです? フローラ」

「あのね、お兄ちゃん。お兄ちゃんって小さいころ」

「はい?」

 ごくごくごくっ。ごくごくごくっ。

 お兄ちゃんは再び一気飲みを試みている。

「小さいころ……、一回、死ななかった?」

 ぶばあぁぁぁっ!

 わたしはこの時、心にちかった。人が食べたり飲んだり、ましてや一気飲みをしているさなかに、その人の『心のきんせん』にふれるようなことはいうまい……と。

 お兄ちゃんの口からはきだされた飲料水が残らずわたしの顔面をちょくげきした。ぽたぽたと顔からこぼれ落ちるしずくが作務衣をぬらしていく。

 ぷふっ。ぷふっ。

「お兄ちゃん……、ひどぉい……」

 けふっ。けふっ。

 お兄ちゃんもむせているみたい。

「す、すみません、フローラ。あまりにも思いがけない言葉だったから」

 ともあれ話しあいは中断。ちゃぶ台やたたみ、わたしの顔や作務衣など、ぬれたものをふきとることに専念した。


 作業は一段落。再びわたしたちは向かいあう。わたしが口を開こうとしたら、お兄ちゃんは、『フローラ』っていいながら手をあげて制した。

「どうしてそんなことを?」

 わたしは昔の記憶をお兄ちゃんに伝えた。

「お兄ちゃん。わたしね。お兄ちゃんを小さいころから知っているの。ある日。いやな感覚におそわれてね。それがただよってくる方へ泳いでいったんだ」

「いやな感覚って?」

「『死のにおい』。正確にいえば、においじゃなくて気配、なんだけどね。感じたってわけ。それでたどりついたら、お兄ちゃんが」

「僕が?」

「足が底の方に生えている水草のつるに巻きつかれていてね。身体が水の中にもぐった状態でゆらゆらしていたの。目や口も開いたまま。もう、ぴくりとも動いていなかった」

「そうだったんですか」

「ふしぎなことがあったの。そのあと少し経って湖の中全体に波紋のようなものが拡がってね。どうしたのかな、って思った次のしゅんかん、なにかが、びしゅん、って心をつらぬいたみたいだった。そしたらそのあとは……なんていったらいいのか……、そう、悲痛な感じの思いだけが残ったの。今思えば、強い霊力を持つ霊体がやってきたのかもしれない。そしてそれが霊覚交信を……、とてつもない悲しみをだれかにうったえるかのような、そんな強い言葉を発したにちがいないと思うの。たとえば……、そう、たとえば、よ。『だれか、この子を助けてぇ!』、みたいな言葉を。だってわたしだけじゃなくてほかの妖精たちも、泳ぐのはおろかしゃべるのもやめてしばらくの間、その場に立ちどまったままでいたぐらいだから。

 あとにもさきにも、あんな体験をしたことはなかったな。大体わたしたち水の妖精って、自分たち以上に強い霊力を持つ霊体を感知できないはずなの。もちろん、その霊体が使う霊体交信も、ね。人間たちの姿を確認したり、声を感知したりする方がまだ容易にできるくらい。ところが、あの時だけは感じたの。例外中の例外といえるかもね」

 一気にしゃべりまくったので、のどがかわいた。わたしも、手元に用意してある飲みものを、ごくごくっ、とのどに流しこむ。

「多分、それはレイナスさんでしょう。それから?」

 ぷふぅ。

 息をはきだしたあと、わたしは言葉をつづけた。

「湖の上空に人を乗せたアーガがやってきたの。大きな箱にくっついているひもを前足でつかんでいたよ。箱の中にも人がいてね。その人たちが湖からお兄ちゃんをすくいあげて箱の中に運びいれたの。それからあとは……もうなにもしていなかったな。あっという間に飛んでいっちゃったんだ」

「なるほどねぇ……。フローラ。多分、もうない、とは思いますけど、それ以後の僕についてなにか知っていることはありますか?」

「ええと……、次の日もだめ。その次の日も、って感じで、ずぅっと、お兄ちゃんは湖に現われなかったから、やっぱり、だめだったのかなって思っていたの。そしたら……、どれくらいかな。かなり間があったと思うけど、再び元気な姿でやってきてね。釣りを楽しんでいったよ。思わずほっとしちゃった。当時のことでわたしが覚えているのはこれぐらいかな」

「そうですか……。いや、ありがとうございます。当時のことをそんなにくわしく聞けるなんて思いもしませんでした。フローラ。君がここに来てくれて本当によかった」

「えへへ。そんなぁ」

 わたしはひとしきり照れたような笑みをうかべていたと思う。そのあと、自分が聞きたかった言葉を口にした。

「ねぇ、お兄ちゃん。湖をはなれてからなにがあったの? 教えて」

 わたしは、『実はね』とすぐに話してくれると思っていた。ところが、うでを組んでなにやら考えごとをしているような仕草をみせるだけ。

「どうしたの? お兄ちゃん?」

 ちょっと間をおいたあと、もう一度聞いてみた。そしたら、やっと口を開いてくれた。

「期待にそえなくて申しわけないんですが……、僕はそのあたりのこと、全然知らないんですよ。今いったようにフローラの方がくわしいくらいです」

「えっ? それってどういうこと?」

 お兄ちゃんは、くすっ、と笑って、『念のためにいっておきますけど、しらばっくれているわけじゃありませんからね』と前置きして言葉をつづけた。

「当時のことでうっすらと覚えているのは、自分がおぼれて気を失ったような感じになったことと、目がさめたら病院のベッドでねていたことぐらいです。それ以外は記憶にありません」

「記憶にないって……、あっ、そうか」

(死んでいるにせよ、気を失っているにせよ、とうの本人がその間に起きたできごとを知っているわけがないんだ)

 ちょっと考えれば判ること。自分のアホさかげんがつくづくいやになる。

「それでもベッドから起きたあとは、僕を助けてくれた人や精霊さんから断片的ではあるものの、お話をうかがうことができたんです。それらをつなぎあわせてみたところ、おぼろげながら当時のことを想像できるまでにはなりましたよ」

「そうなの? 教えて。一体なにがあったの?」

「今までだれにもしゃべったことがなかったんですが……、いいでしょう。僕のことを教えてくれたお礼の意味もかねてお話します。でもね、フローラ。念のためにもう一度いっておきますが、これから話すのは僕自身の記憶によるものではなく、あくまでも人や精霊さんから聞いたことをまとめただけのもの。真実かもしれませんし、そうじゃないかもしれません。そのことをくれぐれもお忘れなく」

「うん。判った」

「では、話を始めますね」

 お兄ちゃんは両ひじをちゃぶ台の上に乗せると、両手をからませた。目も口も閉じられた。なにやら考えごとをしているみたい。でもすぐに目を開けて、ぽつりぽつり、と話し始めた。

「当時のことについては、さきほど、フローラがいったとおりです。僕がそのあとに知りえた情報でも、あれ以上、つけたすことはありません。問題は、救助に来たアーガに僕を乗せてからあとのことですよね?」

「そう。それが知りたいの」

「僕はその時、一体ひとりの精霊と出会ったのです。彼は僕に、生と死。どちらを望むか、と問いかけました。それに対し、僕は『死にたくない』と答えたのです。そこで彼はある願いを口にし、それをかなえてくれるのなら、という条件の元に、僕の願いを聞きいれ、命を与えてくれました。そのおかげで病院へたどりつく前に息をふき返し、かんじゃ用のベッドに横たわることができたんです」

「そんなことが……。お兄ちゃん。お兄ちゃんを助けてくれた精霊って?」

「フローラも知っていますよ。天空の村にきょをかまえるものなら、だれでもね」

「わたしも? お兄ちゃん、一体だれなの?」

 そのあと、お兄ちゃんが告げた名前に、わたしはおどろきをかくせなかった。

「ガムラ。地霊ガムラです」

「あ、あの神霊と呼ばれている……」

「そうです。天空の村に満ちている霊力の源。この村が惑星ウォーレスから切りはなされて以来、ふゆう(浮遊)する力を与えつづけている精霊です」

「どうしてそんな精霊とお兄ちゃんが」

「彼は日常的に自分の命の一部を使ってアーガなどの霊体にとりつき、村を見まわっていました。レイナスさんのさけびを聞いた彼は、彼女にそうさせた僕に興味を持ったのです。それで、救助に現われたアーガにとりつくことによって、僕との出会いの場をもうけた、というわけです」

「とても信じられない……」

 わたしの言葉に、お兄ちゃんは『そうでしょうね』といってほほ笑んだ。

「僕にも信じられません。最初にもいったとおり、これらはみな、聞いた話をまとめただけのもの。それが正しいのか誤りなのかは、フローラ。君自身の判断にゆだねます」

「そんなこといったって……」

 なおも質問をぶつけてみた。

『これとこれはだれから聞いたの?』、『条件ってなんなの?』、みたいな感じで。お兄ちゃんは自分の判るはんいで一つ一つていねいに答えてくれた。


 勢いこんで聞いたせいか、話が一区切りついたころには、今日一日の疲れがどっとおしよせてきた。朝早くに行なわれたセレン先生との話しあい以降、いろいろなことがありすぎたと思う。ねるにはまだ早い時刻だったけど、わたしたちはそれぞれのふとんをしいた。

(もうだめ。目を開けているのもつらい)

『おやすみ』と声をかけあったのを最後に、わたしはふとんの中へもぐりこむ。そのあとの記憶がないところをみると、すぐさまねむってしまったにちがいない。お兄ちゃんもそうだったかは……、わたしが知るよしもない。


 くるっ。

「ミーにゃん! 気がついていたのにゃん!」

 くるっ。

「ミアン! もちろん、だわん!」

「ネイルにゃんの話をよぉく聞いていたら、前々回と前回、つづいて今回と、ウチらが出ているみたいなのにゃけれども」

「うん。アタシたち、『そのた、大勢』、みたいな感じでで出ていたわん」

「確かに何年か前、ウチらは音楽祭に行っているのにゃん」

「そうそう。アタシもこんな会話をした気がするわん」

「ミーにゃん。こうにゃったら」

「ミアン、判っているわん。……せぇのぉ!」

「ばんにゃあい! ばんにゃあい!」

「……あのぉ、喜んでいるところすみません。お二体ふたりのつっこみどころって、そこだけですか?」

「うんにゃ。ここだけにゃん!」「ほかにはないわん!」

 きっぱり!

「そうですか……。よかったですね。……しくしく」

「おや、ネイルにゃん。なにを泣いているのにゃん?」

「本当本当。泣くことなんてなんにもないのに」

「あのぉ、本当にほかには……。たとえば僕の過去のこととか……」

「ぶふふっ。ネイルにゃんのこと? そんにゃのぉ。

(ご主人さまのネイルにゃんには悪いのにゃけれども、野郎のうちあけ話にゃんてウチにかぎらずだれも興味がわかないと思うのにゃん。……とはいってもにゃ。ふぅ。面と向かってはとてもいえないしにゃあ。困ったものにゃん)」

「あはっ。そうよねぇ、ネイルさんのことなんてねぇ。

(ラミアさんあたりの『恋バナ』ならともかく、男じゃねぇ。そもそも関心をもってくれるって考えること自体、自信かじょうっていうか、ネイルさんが思いあがっていることを物語っているわん。

 ……でもこんなこと、口がさけてもいえないしなぁ。困ったものだわん)」

 がしっ。がしっ。

「なんです? 二体ふたりとも、なにがいいたいんですか? ほら、そっぽを向いていないで。僕の目をちゃんと見て答えてください」

「ぶふふっ、にゃん」「えへへ、だわん」



「あっ、そうだわん!」

「ミーにゃん、どうしたのにゃ? 急に大声にゃんか張りあげて。

 まさか……」

「ミアンの、まさか、は、あてにならないわん。どうせまた、なんかくだらないことを思いついたんでしょ?」

「まぁ、聞きにゃさい。今度はあたっているかもしれないのにゃよ」

「そりゃあ、聞けっていわれれば聞くけどね。で? なんなの?」

「にゃあ、ミーにゃん。もし、ウチのためにお菓子を買っていて、出すのを忘れていたのにゃら、今すぐここへ置きにゃさい。ありがたく、ぺろっ、と食べてあげるのにゃん」

「ぶぅぅっ。やっぱりはずれたわん。……にしても、なにかあるとどうして食べものと結びつけちゃうの? そんなこと、絶対にありえないわん」

「ありえにゃい? この世のにゃかで」

「ミアン。そのキャラはやめておいたほうがいいわん。ねこあたまがふっ飛んで終わりだわん」

「うんにゃ。やめるのにゃよ」

「それが正解だわん」


「ねぇ、ミアン。アタシって確か、ぺったんこになっちゃっていたよね?」

「よぉくおぼえていたのにゃあ。感心感心」

 ぱちぱちぱち。ぱちぱちぱち。

「そんなぁ。拍手されるほどのことではないわん。……それでアタシの身体は、と。目をさましてからじっくりと自分の身体を見ていなかったわん」

 じろじろじろ。じろじろじろ。

「ふぅ。よかったぁ。なおっているわん。おくればせながら、ありがとう、ミアン」

「どういたしまして、にゃん」

 ばたばたばた。

「飛ぶこともできる。本当にすっかり元に戻っているわん。

 でも、ミアン。いまさらだけど、どうやってなおしたの?」

「聞きたいのにゃん?」

「うん」

「じゃあ、これから三つあげるから、どれが正しいかあててほしいのにゃん」

「三択? なんでそんなことを」

「いいからいいから、にゃん」

「まぁ、ミアンがそうしたいっていうなら。それで? 三つとやらをいってみてよ」

「にゃら、いくにゃよぉ。


 1.ミーにゃんの口をテープでふさいだのにゃよ。そのあと、空気入れの『せん』をミーにゃんのおしりにつっこんで、空気をどんどん入れることで元に戻したのにゃん。


 2.ネイルにゃんが造る赤玉ゼリーの元となっている木の実の赤ジャム。これを食ぱん二つにぬって、その間にミーにゃんをはさんで食べたのにゃ。おなかに入ったミーにゃんの身体はウチの体内で復元。りきんだひょうしに、そのたもろもろにまみれてウチのおしりから飛びでたのにゃん。


 3.1と2以外の方法で元に戻したのにゃん。


 さぁ、ミーにゃん。好きなものを選ぶのにゃん」

「好きなものって……。正解はどれか? じゃないの?」

「どっちでもいいのにゃん。それで? どれにするのにゃん?」

「もうミアンったらぁ。

 それにしても……、どうせ、でたらめだろうけど、ろくなものがないわね。となれば」

「とにゃれば?」

「こんなのちっちゃい子でも判るわん」

「ミーにゃんは、ちっちゃいにゃよ」

「うるさいわん。……ごほん。当然、三番でしょ?」

「ぶぅぅっ!」

「ええっ! ま、まさか!」

「不正解にゃん!」

「う、うそでしょ、ミアン。ねぇ、うそだといってぇ!」

「残念にゃがら」

「うそだわん、絶対に。そうよね、ネイルさ……。

 どうして? どうして泣いているの? どうしてぶるぶるふるえているの?

 ネイルさん。ネイルさんってぇばぁ」

「ぼ、僕でも……。見習いとはいえ、五年もの間、医療にたずさわった僕でも……、

 あんな無茶ななおしかたがあるなんて。それもちゃんとなおるなんて。

 この目で見た今でも信じられない……」

「(目を丸くして口に両手を……。まさか本当に? ううん。絶対に違うわん)

 うそっ。そんなの……」

「にゃら、ミーにゃん。正解をいうにゃよ」

「や、やめてぇ! 聞きたくない! 聞きたくないわん!」

「正解は……」

 すたすたすた。

「ミーにゃん、実は」

 ひそひそひそ。

「ぎゃあああ!」


 ひゅぅぅっ。


「……真っ白に燃えつきたわん」


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