4.自分と学校
次の日、朝8時ごろに目が覚める。昨日は様々な自分に纏わる話を聞き、なかなか眠れなかった。
今日は洋が来るらしい。今は学校が夏休みだけど、学校が始まったら、みんなは私のことを知っているけど、私はみんなのことを知らないという状況でやっていかなければならなかった。
いつものように看護師が朝食を持ってきてそれを食べていると、洋がやってきた。
「おはよーー!来たぞ!咲希元気か?」
「おはよう、洋くん。まあまあだよ。病院食が美味しいからちょっと元気になったかな。」
「そっかー。てかさーその“洋くん”ってのやめてくんね?」
「ええっ!?」
「俺、咲希には俺のこと思い出してほしいから前みたいに“洋”って呼んでほしいんだ。」
洋はそう言いながら眼鏡を外して、顔を近づけ、じっと咲希を見つめる。眼鏡を外した洋は、綺麗な顔をしていたどっからどう見ても美少年。いや、顔つきが大人びているため、美青年と言った方が正しいあもしれない。あえてそれを眼鏡で隠しているようにも感じた。
(何なの!このイケメン!?私を口説いてんの?コワイよ……)
あえて有無を言わさないように、顔近づけているのだろう。
「は…はいっ!洋って呼ぶねっ!」
「それでいいんだ!やっぱ咲希には呼び捨てにされたいし♪」
イケメンは極上の笑みを浮かべた。咲希は、この男には少し、いやだいぶ裏があるように思えた。
「そっそうだ今日は洋が、学校の話をしてくれるんだよね?」
「うん、そうそう。長くなるから覚悟しといた方がいいよ!あ!先に飲み物買ってくるわ。咲希は何がいい?」
「うーん、じゃーカフェオレで!」
「わかった。行ってくるよ!」
「はーい。」
少しして洋が帰ってきた。
学校のことの前に、咲希の人物像についてさっそく話を聞いた。
咲希は、活発な女の子だった。いじめられている子がいたらいじめっ子に文句を言い、その子の親にも文句を言い、先生にも協力を仰ぐ。正義感が強く、悪を許さなかった。そんな咲希は中学校では人気者だった。成績は中の中ぐらいだったが、先生からも信頼も厚く、いじめ撲滅に協力しているという点で学校から表彰されたこともある。
そんな咲希が記憶喪失だということを話すと、昔いじめっ子で咲希に成敗された女の子は復讐してくるかもしれないと考えて、洋は中学校時代の友だちには一切何も話していないらしい。
洋は今、編入手続きをして無理矢理咲希と同じ高校に通おうとしているみたいだ。もともと、亡くなった修と咲希は同じ学校で、成績がものすごく良かった洋は進学校へと進んだが、正直洋は3人同じ高校に行きたかったらしい。修が亡くなったこともあって、もうすぐ許可がおりそうとのこと。
(洋がいればまだ安心かな?洋が危険なんだけどな……。)
話を聞いていると、急に洋がベッドに座って咲希の方に近づいてくる。
「咲希は本当に覚えてないの?俺たちの関係も?」
「えっ?俺たちの関係?」
「何もないよ。学校の話の続きをするな。」
そのときの洋はひどく残念そうな表情をしていた。
(俺たちの関係……一体私と洋ってどんな関係だったんだろう……。)
話の続きで、咲希の通う南高校の話をしていた。今は夏休みで、8月末まで休み。
2学期になると行事ごとが多くなる。南学校は10月末に体育祭、文化祭が2日連続で行われる。そのため、9月から新学期が始まると同時にホームルームで体育祭の係決め、文化祭の出し物決めをしなければならない。
体育祭は各学年から1クラスずつ集まり、団を結成する。団長、副団長、演舞や衣装、ゼッケンのリーダーは3年生がする。ゼッケンというのは、自分が1年1組1番なら“1101”というように番号を書かれたゼッケンであり、デザインは衣装とともに自由である。それを前と後ろにはらなければならないという体育祭のルールがあるためだ。
まだ、1年生だから1年生リーダーは2人しかなれないけど、放課後の練習が大変らしい。学校の時間割もそれに合わせて、新学期が始まった2週目からは、45分授業の8時間目までに変わる。いつもは50分授業の6時間目までで15時くらいには授業が終わるけど、16時半ごろまで拘束されるということだ。
毎日練習が大変だけど、学年を跨いで縦割りの団で構成されているため、部に属していないものも、上下関係を学ぶいい機会になる。それにこの行事で結ばれる年の差カップルも多いらしい。
行事の話を聞いて、咲希はワクワクしていた。やはり活発な性格だからかもしれない。行事が嫌いな人は多いし、好きでもなかなか積極的に行動できる人はいない。
「ねー洋!なんか楽しみになっちゃった!やっぱり性格なのかな?」
「うん、きっとそうだよ!咲希はそうでなくちゃな。」
「洋と同じクラスがいいな。一緒にクラスリーダーになって盛り上げようよ〜。」
無意識に上目遣いで洋を見つめる。
(うわっなんだよ。可愛いな…こいつこんな小悪魔だったっけ?)
「どうなるかわかんないけど、母さんに言ってなんとかしてもらうよ。」
平静を装って答えた。
「うん!その方が安心!だって誰も知ってる人はいないんだもん。」
「ああ、そうだな。」
「ありがとう、洋♪」
「おう!」
話をしていると、気付けばお昼になっていた。
「じゃあ、そろそろ帰るな。また母さんたちと行くから。」
「うん。またね!」
洋は帰ってしまい、一人になった咲希はぼーっと考え事をしていた。
昼食を看護師が持ってきた。それをゆっくり食べて、また眠ることにした。