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変わり者ふたりの冒険帖  作者: 瑞代 杏
プロローグ
6/10

Session 0-6




「お待たせしました。神殿のほうに確認が取れましたので、問題なく転写できます。靴や小物もこの色に合わせますか?」

「はーい、お願いします~♪ あっ! ライト・スタッフもくださいー」

 問題がないのであれば、コハルはバッグから予備の靴を取り出してレジ・カウンターの上に置く。そうこうしている間にもサツキが店員に指示を出し、コハルの目の前はまたたく間に商品で埋まった。ワンピースと同じ萌黄色の靴と後頭部を飾る大きめのリボン、打撃には使えないが軽さが売りの杖。サツキは、商品に付いているタグを機械に読み込ませては終えた商品からタグを外していく。ここまでは問題なかったのだが――

「それでは商品代金と転写費用を合わせまして、全部で2,300イェルになります。お支払いは現金ですか?」

「う、うん……。現金だけど……」

 奇妙な言い回しに怪訝な表情を見せながらもコハルは布製の財布を開き、しかしそのまま固まってしまった。財布の中には1,000イェル紙幣が2枚。小銭はない。すなわち、300イェル足りない。

(うーん、ユメちゃんから借りようかな。報酬をもらったら返すってことで)

「ユメちゃ~ん! ちょっと来てくれるー?」

 コハルの呼びかけに、ユメノはすぐさま姿を見せた。特に気分を害された様子でもない。すでにあらかた見終わっていたのだろう。

「……なに? コハル」

「悪いんだけど、300イェル貸してくれないかなー? 報酬をもらったら返すからー」

 ユメノの表情は渋い。信用していないのではなく、何か別の理由があるようだ。

「ごめん……。私、200イェルしか持っていない……」

「えぇー! そっかあ……それじゃあ仕方ないね……。どうしよう」

 明らかな落胆が、コハルの顔に浮かぶ。どれかひとつを諦めるしかないか――コハルはそう思い、サツキに話しかけようとしたとき、場違いな声がサツキの口から飛び出た。

「ところがどっこい! これが何とかなるのです……っ!」

 実に大仰なアクションである。

「わわっ、なになに!?」

「……アコギ?」

 派手なリアクションを返すコハルに対して、ユメノはヤーペング国で人気のある漫画のタイトルをつぶやいただけだった。魔動金銭登録機マギ・レジスターの横に置いてある小さな正方形の物体をふたつ手に取ったサツキは、ユメノの言葉につっこみを入れる。

「アコギではなくカイヂですよ、ユメノさん。それはさておき、コハルちゃんは初の来店ですので値引きのチャンスが与えられます」

 と、サツキは先ほどの正六面体をコハルに手渡した。ネル・フィルキア文字で1から6までの数字が、それぞれの面に彫られている。辺境域のピンガで育ったコハルにもこれは分かる。村の大人たちがたしなむ賭け事の際にも良く使われるからだ。

「6面ダイス、だよね?」

「はい。コハルちゃんには一度だけダイスを2個、同時に振っていただきます。出目が10以上であれば1,500イェル、7以上であれば1,000イェル、3以上であれば500イェル分、値引きいたします。もし、6のゾロ目を振りましたら、その時は商品の代金はいただきません。ただし……絶対失敗ファンブル値であるピンゾロ(両方の出目が1のこと)を振ってしまった場合は、300イェルだけの値引きとなります」

「つまりー……ピンゾロを振っちゃったら、2枚のお札が羽を着けて飛んでっちゃうってことだねー?」

「そうですね。頑張って良い目を出してくださいね、コハルちゃん♪」

 言いながらサツキは商品を脇に寄せてスペースを作る。「えいっ」とコハルは可愛い掛け声でダイスを振り、やや回転した後に目があらわになる。出目は1と4だった。

「あーあ、あんまり良い目じゃないなあ……。まぁ、ピンゾロ振るよりはずっとマシだけどねぇー」

 コハルは眉をハの字にしながら紙幣を二枚、レジ・カウンターの上に置いた。

「残念でしたねー。それでは500イェル値引きしまして、1,800イェルいただきます」

 受け取った紙幣を魔動金銭登録機に入れたサツキは、代わりに100イェル銀貨を二枚取り出してコハルに手渡す。

「ありがとうございます。転写にお時間をいただきますので明日の朝に、まとめてお泊りの宿にお届けいたします。ユメノさんと同じ宿でよろしかったですか?」

「……それで良いわ」

 と、空色の瞳にかかりそうな前髪を鬱陶しそうにかき上げながらユメノ。彼女の部屋は元から2人用であった。

「ええーっ! 今日から着られないのっ!?」

 レジ・カウンターから乗り出さん勢いで、コハルは詰め寄る。鋭い剣幕に押されそうになりながらも、サツキは冷静に答えた。

「申しわけありません。神殿の法衣にはタグが付けられていないのです。今、王都から取り寄せてもらっていますが、どんなに早くとも日終の入(午後8時)よりも後になってしまいます」

 今は陽没の入(午後4時)である。どんなに早馬を飛ばそうとも、王都アルメダからハイネスまでは4時間以上かかるのだ。届いてから転写作業に2時間――今日中に届けられたとしても、おそらくは日終の終(午後11時)の前後になるだろう。朝が早い冒険者は、とっくに眠りについていなければならない時間帯だ。

「……コハル。あまり無理は言っては駄目」

 姉の顔になったユメノが、コハルをたしなめる。静かな言い方ではあったが、効果は覿面てきめんだった。コハルはぺこりと、サツキに頭を下げる。

「そうだよね……。ごめんね、お姉さんたちの都合も考えないで……」

「いえいえ、お気になさらず。こちらこそご理解をいただき、ありがとうございます。それでは、明日の陽入の終(午前7時)頃、お届けにあがりますね」

「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」と、サツキの丁寧な声に見送られたユメノはコハルを連れて『憩いの酒場スレッジ』に登録している冒険者愛用の木賃宿『ボロンソ・イン』に向かう。

 襤褸ぼろながらも食堂があるこの宿で夕食をとり、部屋に戻って交代でシャワーを浴びれば、後は寝間着に着替えて眠るだけ――となるはずであった。



 2階のきしむ床板を踏みしめて歩いた先――廊下の突き当たりにユメノの部屋はある。今日からはコハルも一緒であり、年季の入った石壁の部屋が立てる音は、あたかも可憐な少女が増えたことを歓迎しているかのようだ。

 その部屋のなかで、ユメノは木製の机に細かい部品を広げての作業、コハルはあてがわれたベッドの上でゴロゴロしていた。すでにふたりは寝巻きに着替えている。時折コハルが暇そうな声をかけるも、作業に集中しているユメノは意に介さない。目に見えて頬を膨らませたコハルは、開きっぱなしだったユメノの背負いカバンをこっそりと引き寄せて中身をあさり始めた。するとすぐに、興味を惹くものを発見する。

(……んんー? これ、なんだろー?)

 それは、奇妙な物体だった。中央がくぼんだ2枚の木の板に、鉄製のネジが付けられている。くぼみの部分は、2本の親指がちょうど収まるくらいに作られていた。形状からおおよその用途を理解したコハルは露骨に顔をしかめる。

(親指を締め上げる道具かぁ……きっと蛮族の尋問用に使うんだね。うう、痛そうー)

「……」

 作業が終わったのか、ユメノは残った部品を木目の鮮やかなケースに入れ始める。サッと親指締め具をカバンとともに元の場所に戻したコハルは、高鳴る鼓動を抑えながらユメノに声をかけた。

「ねぇ、ユメちゃん……」

「……なに?」

 椅子から立ち上がったユメノは、ベッドの縁を腰掛けてコハルを見る。

「ユメちゃんはどうして、氷花の家を出て冒険者なんて危ないお仕事をしてるの?」

「……」

 静かに瞼を伏せてうつむくユメノ。その仕草・・・・をコハルは見逃さなかった。

「……華道が肌に合わなくなったから。そう言ったらお父様にひどく叱られて、今まで以上に稽古が厳しくなった。それが嫌になったから家を出てハイネスまでたどり着いて、日銭を稼ぐために冒険者になったの……」

「そうだったんだ……」

 コハルは小さく返しながらも、

(相変わらず、嘘を吐くのが下手だね。ユメちゃん……)

 瞼を伏せてうつむくという、嘘を吐くときのユメノの癖をコハルは忘れてはいなかった。さらにユメノは父親に叱られると仕返しのつもりなのか、父親のことを『家元』と呼んでいた。それを使わなかったということは、家族間の問題でもない。何か重大な――それこそ性格さえも捻じ曲げてしまうような出来事に遭遇してしまったのだろう、とコハルは確信した。

 追ってくのはたやすかった。しかし、コハルは――

(ユメちゃんがどんなひどい目にあったのか、わたしには分からないけど……きっといつか話してくれるよね?)

 と、少し寂しそうな笑顔をユメノに見せただけだった。

「…………そろそろ寝ましょうか」

「うん! 明日も早いし、もう寝よー♪」

 ランプの火が消えると部屋は、間近でなければお互いの顔さえも見えないほどの暗闇に抱擁ほうようされる。近くの酒場からわずかに届くあかりだけが照明として機能していた。

 やや毛羽立った薄毛布を被るコハルは、寝る前に自分のことについて聞かれるのではないかと内心はビクビクしていた。が、しばらくすると隣から静かな寝息が聞こえてくる。よほど疲れていたのだろう、ユメノはコハルよりも先に眠りについていた。

「お疲れさま、ユメちゃん。明日から頑張ろうねっ♪」

 ユメノに笑いかけたコハルは慣れない枕に苦戦しながら、蒼月――静寂と月の女神ルナリスに見守られるなか、少しずつ眠りの世界へと落ちていくのだった――。



Session 0 『偶然の再会』 END.


Session 0 『偶然の再会』 Result.



レベル値:変更なし

ステータス値:変更なし


獲得報酬:なし



名前:氷花こおりのはなユメノ

種族:ヒューマノイド

性別:女

年齢:15

出身:イースレスト地方 ヤーペング国

髪色:水色

瞳色:空色

利腕:両利き


レベル:5

クラス:魔拳闘士マジック・グラップラー斥候スカウト


信仰属性:氷(水)

弱点属性:火(120%)


習得言語:フィルキア公用語(会話/読書)

     エト・スピレングス地方語(会話/読書)

     ヤーペング語(会話/読書)


信仰神:なし


初期装備:

帽子:なし

頭飾:なし

右耳:なし

左耳:なし

首飾:A-ベルベット・チョーカー黒(氷花の証:全ステータス+1)

胸飾:なし

右手:青銀の指輪(発動体)

左手:青銀の指輪(発動体)

右腕:なし

左腕:なし

羽織:なし

上体:A-漆黒のワンピース♀(軽戦闘着♀)

下体:A-漆黒のワンピース♀(軽戦闘着♀)

腰部:なし

右脚:A-レースのニーソックス黒(冒険者の靴下)

  :投擲用ナイフホルダー(投擲用ナイフx4)

左脚:A-レースのニーソックス黒(冒険者の靴下)

  :投擲用ナイフホルダー(投擲用ナイフx4)

右足:A-通学用ローファー黒♀(軽闘士の靴♀)

左足:A-通学用ローファー黒♀(軽闘士の靴♀)


ステータス:

筋力 ★★**

体力 ★☆***

器用 ★★***

敏捷 ★★☆** 

魔力 ★★

知性 ★☆


所持金:200イェル


所持品:

一般保存食(1週間分)

飲料水筒(2本)

丈夫な針金

使い古した金槌

粗末なロープ

ランタン

油(3日分)

錆びたナイフ

寝間着

テント(二人用・寝袋付)

五寸釘x20(尋問用)

親指締め具(尋問用)


所持品(フレーバー):

対蛮族用尋問マニュアル・基礎編

対蛮族用尋問マニュアル・応用編



名前:土筆野つくしのコハル

種族:ヒューマノイド

性別:男(の娘)

年齢:15

出身:エト・スピレングス地方 アルメイーデ王国辺境域 ピンガ村

髪色:亜麻色

瞳色:赤茶色

利腕:左


レベル:2

クラス:神官プリースト魔術師ウィザード


信仰属性:聖、風

弱点属性:火(133%) 死(150%)

習得言語:フィルキア公用語(会話/読書)

     エト・スピレングス地方語(会話/読書)

     ヤーペング語(会話/読書)

     第四種バルバロイ語(会話)

     

信仰神:聖光神アルストロメリス


装備:

帽子:なし

頭飾:萌黄色のリボン

右耳:魔術師のイヤリング

左耳:魔術師のイヤリング

首飾:なし

胸飾:聖光神のクロス(信仰の証)

右手:なし

左手:ライト・スタッフ

右腕:ライト・バックラー

左腕:聖職者の腕輪(知性+1)

羽織:なし

上体:A-萌黄色のワンピース♀(アルストロメリスの神官衣♀)

下体:A-萌黄色のワンピース♀(アルストロメリスの神官衣♀)

右脚:飾り気のないニーソックス白

左脚:飾り気のないニーソックス白

右足:A-萌黄色の靴♀(アルストロメリスの神官靴♀)

左足:A-萌黄色の靴♀(アルストロメリスの神官靴♀)


ステータス:

筋力 ★*

体力 ☆***

器用 ★★** 

敏捷 ★ 

魔力 ★★☆*

知性 ★★☆


所持金:2,000-1,800=200イェル


所持品:

一般保存食(1週間分)

飲料水筒(2本)

簡易裁縫セット

絆創膏x10

傷用軟膏

簡易調理セット

寝間着

魔除けの香(下級)x10


所持品(フレーバー):

アルストロメリスの聖書

男の娘な皇女の調教日記



※ステータス値の見方

★=10

☆=5

*=1

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