急須は魔法のランプではありません。
今までぐうたらと活動していたのが悪かったのだろう。
「―――それじゃ、私物は全部持ち帰ってね。また後で来るから」
生徒会顧問の先生はそう言い残して、茶道部の部室を後にした。
バタン、と扉が閉まる。
この音は、俺ら茶道部の終わりを告げるものだった。
床にぺたんと座り込んだ由依が、ボソリと呟いた。
「…今まで楽しかったのに。終わっちゃったんだね、私たちの部活動」
「……ああ」
俺は彼女に何て声をかけてやれば良かったのか、分からなかった。
事の始まりは、この間行われた生徒会総会での各部活動予算の話。
生徒会会計の二人が、各部活動から出された予算案を元に今年度の予算を決めたのだが。
茶道部の話が出たのは、その時だった。
「突然ですが、生徒会長」
会計の一人がマイクを手に取り、話を切り出した。
「昨年度の茶道部の活動内容は、予算の多さからするととても考えられないものでした。毎日ただ急須で入れたお茶を飲んだり、コンビニで買ってきたお菓子を食べたり…茶道部として相応しくないと思われます」
何故、コンビニで買ったというのが分かるのだ。
監察部なんて、この学校には無かったはずだが?
その後も会計役員の一方的な意見(全て事実)により、そして茶道部は…。
廃部となった。
―――普通だったら、予算を減らすとか同好会に格下げするとかだろ?
この学校は違うんだよ。部活動にはとことん厳しい。
というか、今年の会計役員が厳しすぎる。
慈悲とかいうのが無いのかね。
結局、生徒会に逆らえるはずもない俺たちは…って、待てよ?
―――いるじゃん、由依という名の生徒会副会長様が!!
…といっても、由依もこのぐうたらの茶道部の一員だし、反対意見を出すなんてことは出来ないだろう。
そもそも、茶道部には俺と由依しかいないのだ。
なんだかんだで部員、集まらなかったしなぁ…。
おまけに、昨年度まで茶道部にいた小林先生は遠くの高校に転勤してしまったわけで。バイバイ、先生。良い顧問でした。ありがとな。
まあでも、副会長の由依には何故か甘い生徒会長だけは、最後まで廃部にはしたくないって言ってくれたな。結果的にはダメだったけど。感謝してるよ、会長さん。
だから今俺らに出来るのは、一年間という短い間世話になった茶器を丁寧に片づけることなんだ。
俺は戸棚にある、一年生の最初の時に祖父さん宅から持って来た急須を手に取った。
とても古くて、年季が入った急須。
…待ってろよ。今、綺麗に拭いてやるからな。
いくらぐうたら活動といっても、ちゃんとこの急須だけは使ってた。
由依と二人だけの茶道部で、いつもこの急須は活躍してくれた。
ありがとう、急須。
感謝を込めて。
優しく急須を撫でた。
―――…俺は、信じない。
急須はいきなり光ったりしない。
毎週日曜の朝八時半から大好評放送中のアニメのアイテムみたいに、眩しいくらいに光ってピカーッという音はしない、はずなのに。
俺は、認めない。
急須から煙みたいなのがモクモク出てきて、それが人型になったと思ったら美人なねーちゃんになったなんて。
何故なら急須は、魔法のランプではないのだから。