第1話 アイドル、倒れる
「みんな~!!! 盛り上がってる~?!!!!」
とあるアイドルのライブ風景
「うおおおお」
盛り上がりを見せる会場とよそに俺は目の前に繰り広げられている光景をぼんやりと見つめていた
「はぁ~……とっくに追い越されてしまったな~」
そして改めて目の前の女の子が手の届かない場所にいってしまったんだと実感する。
「なんかいったか?」
一緒に来ている友人に尋ねられる
「いや」
俺は否定する
「それよりさ、お前もう少し盛り上がれよ? 最前列なんだからレナタンに見られるぞ」
友人はそう促す。
レナタンこと三井怜奈今では知らない人がいないトップアイドルだ。少しあどけないルックスにグラビア並のスタイル。公式ではGカップらしいが。そしてかわいい声にその声とは正反対の歌声。歌唱力も抜群。
全てにおいて絶大な評価を受けている。10年に1人でるかという逸材とも言われている
最近は毎日彼女の顔を見ない日がないというくらいひっぱりだこなのだ。
なのでもちろんライブチケットは即完売で入手困難な状態だ。このライブも受付開始30秒で完売したらしい
別に激しい争奪戦に勝ってライブチケットを入手したわけではないし、ライブにいく奴らからチケットを奪ったわけでもない。
ならなぜライブに来れたかって? それは……
「侑? 届いてる?」
かかってきた電話に出るとそんな聞きなれた声で第一声が聞こえてきた。だがあえて
「どなたでしょうか? 間違え電話なら切りますよ」
厳しい態度を取ってみる
「ちょっと! 待って! 私よ! 私」
名乗ろうとしているところを遮り
「あいにく振り込め詐欺は受付しておりませんので」
俺は電話を切ろうとする
「だから待って! 怜奈よ! 有川侑の幼なじみの三井怜奈!」
「普通、電話をかけたら犯罪者とかではない限り、自分が誰だか最初に名乗ると思うんだが?」
失礼な第一声に説教じみたことを言う
「別にいいじゃん。幼なじみの声くらいわかるでしょ? そんなことよりちゃんと届いてる?」
少しふて腐れてそう続けた
「何が?」
何のことだろう?
「ライブのチケット」
彼女が答えた後少し考える
そういえば郵便受けの中に少し小洒落た封筒があったな
会話をしながらリビングに向かい郵便物から探してみる
その封筒はすぐに見つかり中身を確認してみるとビンゴ! その中には怜奈のライブチケットが2枚入っていた
「いい? 今回のライブは絶対に来るのよ? 何しろ凱旋ライブなんだから。侑が来ないと意味がないんだから」
念を押して怜奈はライブに来るよう催促する
「もしも来ないって言ったらどうする?」
恐る恐る聞いてみる
「殺す(ハートマーク)」
電話越しだがものすごい満面の笑みで答えているのが想像できる明るい声だった
「アイドルがそんなこと言ってはいけません!!」
こうして怜奈ファンである友人を連れてライブに行くことになったのだ
ライブの中盤
怜奈は、アイドルになれたきっかけを話し始めた
「私が今ここに立てるのは、ここに来ているであろう友人のおかげでもあります。いやその人のおかげといっても過言ではありません。くじけそうになったときや、挫折しそうになったときはいつもその人に励まされました。そのおかげでなんとかこのステージに立つことができるのです。それにアイドルになるのを後押しをしてくれました。なのでその友人には本当に感謝しています」
自分のことを言っているようだった
それからライブが終わり
帰ろうとする友人に
「俺よるところがあるから。先に帰っててくれ」
と告げた
「そうか。ならレナタンに大ファンだって伝えておいてくれ」
怜奈と俺の関係を全く知らないはずの友人がそんなことを言ってきたので少し冷や汗がでた
そして俺は怜奈のところへと向かった。
一応俺たち家族を含めて関係者になっている。なので楽屋も少しだけだが入ることが許される。
先導員に誘導され、お疲れ様のあいさつをする。その中には大物芸能人も多数いるときもあって緊張することも。しかしここは地方なので滅多にないのだが。これも幼なじみ特権というやつだろうか
俺は楽屋に入る
「侑だ! ちゃんと来てくれたんだ~?」
うれしそうに話しかける
「来ないと殺すと脅しておいてよく言うわ」
そんな彼女に呆れる俺。
「ライブどうだった?」
感想を聞かれた
「いいライブだったよ。楽しかった」
ライブの感想を述べると
「本当? よかった~! 侑に言われるのが一番うれしいな~」
怜奈は喜びを爆発させる
それからマネージャーの関谷さんが入ってきた
「有川さん! いらしてたんですね!!」
少しびっくりしたような感じであった
「え~。お久しぶりです。関谷さん。いつも怜奈がお世話になっております」
俺は深々と頭を下げる
「いえいえこちらこそ。お世話になっているのはこっちのほうですよ」
と関谷さんは謙遜するが、あながち間違ってはいないように思う
「有川さん、お茶をどうぞ?」
お茶を持ってくる。それから数秒後
「うわ~!!」
何もないところにつまづいて転び、お茶は俺にめがけて一直線。
バシャ!
「あちーーー!!!」
そうドジっ娘なのだ
「大丈夫ですか?」
あわてて駆け寄る関谷さん
しかしまた転んで強烈なヘッドバッドを食らった
「うぐっ」
「申し訳ありません!!」
と謝罪する
怜奈はというと
「大丈夫? ケガはない?」
すごく心配そうに見つめる
「ああ。大丈夫だ」
頭を押さえて返答する
それから
「関谷さんはねいつも完璧なんだよ? こんなこと滅多に起こらないんだから」
フォローをし始める怜奈。
しかしいつも俺はこういう関谷さんしか見たことがない。
何だよ? それ! 俺にだけにしか発動しないとかどんな新手のいじめだよ!
俺は心の中で毒づいた
「そうそう。そういや今度いつ帰るんだ?」
いつ帰れるかわからないので聞いてみた
「そうだね~……しばらくは無理だね~……ドラマの撮影もあるし、年末にはカウントダウンライブもあるしね」
やっぱりそうか
分刻みで入っている過密スケジュールをこなさないといけない。なので当然帰る時間なんてないのだ
「そうだよな……」
俯く俺
「そんな暗い顔しないの! 別に私死ぬわけでもないし、一生会えないわけでもないでしょ? また余裕ができたら帰るから! 男の子でしょ? もっとしゃきっとする!」
顔色を曇らせる俺に檄を飛ばす
「へいへい」
俺は生返事で返す
「行くわよ」
帰り支度を終えた怜奈はその足で新潟に行く。
明日は新潟でライブがある
どうやら飛行機の時間が近いらしい
「それでは失礼します。今日は本当にありがとうございました!!」
関谷さんとともに深々と怜奈は頭を下げた
怜奈も次に仕事場に行き、俺は自宅へと帰った
「ねぇねぇ? どうだった? 怜奈ちゃんのライブ。ちゃんと会えたの?」
興味津々で聞いてくる母
「楽しかったよ。ちゃんと会えたし」
返答する俺。
「で生アイドルの怜奈ちゃんどうだった? 可愛かったでしょう?」
興奮気味で話す母親
「そんなに気になる一緒に来ればよかっただろ?」
母親に言うと
「私みたいなおばさんが行っても気持ち悪いだけよ」
と反論する母親。そんな中
プルルルプルル
電話がなった
「あ~ら電話が鳴ったわ。出ないとね」
言うだけ言って逃げるかのように電話に向かった
「なんだよ……それ……」
そんなこと言うだったらなんでこんな事聞いてくるんだろうか?
半ば呆れていると
「なんですって!!!」
母親の大きな声が聞こえた
とても深刻な声だった
電話を切った
「どうしたんだ?」
母親は一言
「怜奈ちゃんが……倒れたって……」
俺はその瞬間頭が真っ白になった