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不良学生野村くん!

作者: ハルト

 野村敦司のむらあつしといえば、北晴ほくせい高校で有名な男子学生だ。一言でいえば「不良」である。

 不良といっても不良にもピンからキリまである。ちょっと学校に反抗したくて規則違反しちゃった可愛い不良から、犯罪暴力手のつけられないような不良まで色々いる。

 なら、野村敦司はどうだろうか?

 




「…………」


 高校三年生、今年受験生の一ノ瀬光太郎は、数学のテキストを手にしながらも、ひとつも問題を解いていない。

 答えが分からないからシャープペンシルを握り締めたままなのではない。それは一応なりとも三年生主席の彼のために弁解しておこう。

 光太郎が先ほどからテキストに手をつけられないのは理由がある。


「この期間限定チップスうめぇ!」


 そう言いながら、バリバリとジャガイモのスライス揚げを机の反対で食べている男子生徒。

 真っ赤な染めた髪に、シャツの下には校則違反の派手な服を着て、耳にはピアス、指にはごつごつとしたシルバーのリングをしていた。

 教室でこの上なく目立つ男子生徒を周りのクラスメイト達はちらちらとみている。当の本人は週刊誌の漫画に見入っていて視線に気がつかないらしい。


「……おい。野村」


 いい加減目立つ男子生徒と一緒にいることに居たたまれなくなってきて、光太郎は目の前の男子生徒――学校一の不良学生と言われる、野村敦司に声をかけた。その瞬間クラスメイト達が息をのむのが分かった。


「あ?」


 野村は機嫌よく週刊誌に落としていた視線を上げ、光太郎を睨みつけてきた。クラスに緊迫した空気が流れる。


「そろそろ昼休みが終わるから、自分の教室に戻ったらどうだ」


 バンッ、と野村が週刊誌を机のテキストの上に叩きつけた。女子生徒の小さな悲鳴が聞こえた。


「はああ?」

「だから、もう教室戻れ、って言ってるんだ」


 野村が光太郎の制服を掴む。吊目がちの瞳が睨みつけてきた。


「なんでてめぇにそんなこと言われなきゃいけねぇんだよ」

「落ち着け。周りが引いてる」


 光太郎は溜息をついて野村の腕を払う。そして机の上の週刊誌を手に取ると――窓の外にそれを放り投げた。

 唖然とするクラスメイト達。野村の表情は固まっていた。


「取りにいってこい。それで戻ってくるな」


 光太郎はそう言って着席する。

 野村は形相を変えると、右手を振り上げた。


「てめぇなにすんだよッ!!」


 クラスメイト達は青ざめる。再び悲鳴が上がった。


――バキィィッッ!!


 拳は――しかし光太郎にではなく、光太郎の机の上に落とされた。


「一之瀬のバーカッ!! バカバカバーカアホ!!」


 誰もが目を点にした。


「一ノ瀬先輩だろうが、先輩! お前は二年だろうが!」

「んなもん知るかよ! ああああ、俺の、俺のヨウコちゃん……」

「学校でグラビアページばっか見るんじゃない! だいだい三年の教室まできて見る意味がわからん! 屋上でも裏庭でも好きな場所にいけばいいだろうが。なんで俺の教室までくるんだよ!」


 呆然とするクラスメイト達。かまわず二人の応酬は続く。


「そんな冷たいこと言わなくてもいいだろ!? 友達ダチだろ?」

「友達、だぁ!? お前の顔を知ったのは昨日が初めてだぞ!? いままでまともに会話したことすらないだろうが! そもそも俺は年上なんだから敬語を使え、敬語を!」

「ひでぇ……。お昼一人で食べるのつらいんだぞ? いいじゃん、一緒にお昼過ごしてもいいじゃん……」


 不良で名高い野村敦司は袖で目元をぬぐう。


「うぜえええ!! そもそもおまえにだってつるんでる仲間の一人や二人いるだろう!?」

「いないよ。だって俺、ロンリーウルフだし」

「自分で言ってんじゃねえ!」


 野村は鼻をすすると、自分を慰めるようにポケットから煙草を取り出し火をつけようとした。光太郎は慌てて煙草を取り上げる。


「あ、学校って禁煙だっけ?」

「そういう問題じゃねぇええ!!」


 絶叫した光太郎はようやく周りの反応に気がつく。


 まるで奇妙な演劇でも見たような、異世界の住人でも見るような眼差したち。その中には野村ではなく、光太郎へ向けられた視線が混ざっていることも分かった。


 一ノ瀬光太郎。


 北晴高校三年、学年主席。テストのみならず運動神経も抜群、勉学に専念したいという理由で会長は辞退したものの生徒会副会長も務めていた。

 いつも涼しげな振る舞いで同い年とは思えないような秀才。容姿も今時のアイドルとは系統が違うが、切れ長の目をしたクールな顔立ちで、女子人気も高い。


 ……その築き上げて来た光太郎のイメージがガラガラと崩れ落ちて行く。

 青ざめた顔でフリーズしている光太郎に、仕上げと言わんばかりに野村が手榴弾を投げつけた。


「そうそう。俺が机に置いて行った時に熱心に読んでたからこれ、友情のしるしお前ににやるわ」


 そうしてそっと手渡されたのは、水着姿の女の子が表紙の写真集だった。





 その後、一ノ瀬光太郎と言えば才色兼備のツッコミ男、実はグラビアアイドルの七緒ちゃんが好きである、という実に不名誉な付加物が経歴に添えられたのだった。

 ちなみに野村くんに関しては、ただの今時の空気の読めない、ちょっぴり寂し屋がりな少年であることが判明した。




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― 新着の感想 ―
[一言]  短いのに余計な文がなく綺麗にまとまっていますね♪キャラのギャップが凄いですw 一ノ瀬先輩・・・不憫ですね←
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