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昭和系・短編集

【掌編小説】性教育、昭和時代、うちの中学の先生と生徒

掲載日:2026/09/13

 昭和50年、僕は北九州市若戸区にある市立平原中学校に入学した。平原は「ひらばる」と読む。この中学に、柴垣と書いて「しがき」と読む、保健の先生がいた。普通に読めば「しばがき」だけど、うちの中学に、柴垣先生の名前を間違って呼ぶ人はまずいなかった。これは柴垣先生に独特の存在感があったからじゃないだろうか?


 柴垣先生は校史に残る美人教師という評判だった。代々の養護教諭の中で、という意味ではない。すべての教職員の中で一番という意味。それだからと言って、生徒からアイドル視されることもない。圧倒的に大人の女性なので、そういった見方をされない。それでいて、生徒に嫌われているってことも絶対にない。威厳はあるけど、話しかけやすい感じもあり、本当に独特の存在感だった。


 中1の1学期、中間テストが終わったくらいの時期に、僕らは柴垣先生から性教育を受けた。男女が別教室に分けられての授業だったので、だいたいどのような授業なのかは想像はついていた。

 柴垣先生はいつもと変わらない穏やかな口調で生徒に問いかけた。

「皆さんは先生を見てどう思いますか?」

 悪戯小僧の小園君が「セックスした〜い」と答えた。


 ほとんどの生徒は笑ったけど、意味がよくわからず、きょとんとした生徒もいた。

 柴垣先生は僕らのリアクションを確認し、まじめな顔で大きくうなずいた。

「そうですね。それはとても自然な感情です。でも、そんなときはスポーツで発散させましょう」

 それからも授業は続いたが、僕はこのやりとりしか頭に残っていない。多分ほかの生徒も同じだったろう。


 翌年、僕らは2年生になった。担任は白髪混じりで、レンズの下に老眼用の四角い切れ込みがあるメガネをかけた野見山先生。俳人として有名な先生だったけど、生徒にはそんなオーラを見せなかった。技術の先生で、いつも腰にタオルをぶら下げていて、ただのユーモラスなおじいちゃん先生という感じだった。


 その野見山先生が、ホームルームで養護教諭の柴垣先生の寿退職を報告した。「退職されることになった」という報告ではなく、すでに「退職された」と報告したのだ。みんな、「ええ〜っ」と驚きの声を上げた。柴垣先生はオメデタだという情報も追加された。


 野見山先生は、「子供は秋頃に生まれる予定とのこと」と追加した後、出産予定月までの月数を指折り数えて見せて、「計算合わんねえ」と首をかしげ、中2になった僕らを笑わせた。

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