第1話 車窓
ガダガダガダガダ……
ディーゼル機関車特有の低いエンジン音と、小刻みな振動が体の奥まで染み込んでくる。
私は窓縁に頬杖をつき、焦点の合わない目で外を眺めていた。
車内は暖房が効きすぎて、息苦いほどにあたたかい。
その熱から隔てられた車窓の向こうで、白銀の森だけが、まるで別世界のように見えた。
音のない白い森が、流れては消え、また現れる。
遅い午後の弱い光が、雪の凹凸に濃い影を落とし、景色は次第に立体感を失っていく。
延々と続く白――
それを見ているうちに、自分の輪郭まで薄れていくようで、
私は仄暗いモノトーンの沼の底へ、静かに引き込まれていく気がした。
暗い物思いに沈んでいるうちに、列車は山あいの小さな駅に停車した。
ガラガラガラガラ……
扉が開くと、エンジン音が一際大きくなり、鋭い冷気がさっと車内に吹き込んできた。
冷気をまとった一人の男性客が乗り込んでくる。
紺色の帽子と紺色のジャンパーは、白い粉をうっすらとかぶっている。
彼が手袋をはめた手で肩を払うと、白い雪粒がふわりと舞い、暖気の中で跡形もなく消えた。
彼は手袋を外し、通路を隔てた斜め向かいの席に糸が切れたようにどさりと腰を下ろすと、腕を組み、目を閉じた。
扉が閉まり、列車が再び走り出す。
私は、斜め前で眠っている男性に目を向けた。
帽子を深くかぶり、俯いているせいで顔はよく見えないが、若そうだ。
肩幅が広く、作業着めいたジャンパー姿。大きな荷物も持っていない。乗り込んですぐに居眠りするところを見ると、この辺りで働いている人なのだろうか、と勝手な推理を巡らせる。
私は、絡め取られていた暗い思念から現実へ引き戻されたことに、ほっと息をついた。
堂々巡りの自責の思考から離れ、見知らぬ誰かの背景を想像する――そんな小さな余興に、心がわずかに緩む。
その時、彼が小さく身じろぎした。
手に持っていた手袋が、するりと滑り落ち、床に転がった。
私は一瞬だけ迷ってから、立ち上がった。




