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憧れのラブコメ主人公のハーレム計画に加担していたけど、クズ野郎と分かったので、次こそは阻止して美少女たちを幸せにしようと思います  作者: 砂糖流
幼馴染

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9話 デート

 確かに神宮寺の気を引くためだけなら、恋人のフリは、いい作戦だと思った。


 神宮寺なら、前見たく『俺の女に手を出すな』スタイルで、ヒロインを取り返す可能性が高いからだ。


 そんな展開、主人公様は望んでいない。


 主人公は一人ずつ徹底的に惚れさせて、ヒロイン全員を均等に愛でてあげる。


 だから、別の男と仲良くするなんてこと許さない。付き合うなんてもってのほか。


 キャラが勝手に動くとシナリオが崩れてしまう。だからこれから神宮寺とは真正面で戦うことになるだろう。


 覚悟を決めないと。


 そう思っていたのだが、付き合い始めたその日は酷いものだった。


 いや。俺からしてみれば嬉しいことではあるのだが、陽菜からすればそれは最悪の一日だっただろう。


 あの後、小休憩、昼休み、放課後。常に俺は陽菜と一緒にいたのに、神宮寺は一瞥すらしなかった。


 あまりの予想外な展開に、俺も陽菜も困惑せざるを得なかった。


 一体どういうことなのか。どうして奴は何も言ってこないのか。


 そんな疑問は解決しないまま、結局その日は幕を閉じた。



 そして、次の日のデート当日。


 陽菜は明らかに元気がなかった。当たり前だ。好きな人から見向きもされなかったから当然。


「おはよ。陽菜」


「う、うん。おはよう。杉田」


 平然を装ってるつもりなんだろうが、顔が微かに引きつっていた。


 俺はそんな彼女に、まるで本当の彼氏のような言葉を投げかける。


「服。似合ってるよ」


「う、うん……って、そこまで本格的じゃなくていい」


「昨日、陽菜から言ったんじゃないか」


 昨日、LINEを交換した後、俺は陽菜にどうして初っ端からデートをするのかと質問した。


 その答えとして『やるなら本格的にやる』と返ってきたのだ。


「もしかして意識してるの?」


「それはない」


 それはツンデレとは程遠い、ガチの否定だった。


「そっ、か。と、とりあえず行こっか」


「行くって、今日どこ行くか伝えてないよね?」


「大丈夫。もう予約してるから」


「質問の答えになってない……」


 昨日俺が言ったことを真似るかのような陽菜の言葉を聞き流しつつ、デートの定番場所――映画館へ向かった。


 ◇◇◇


 見る映画は、バリバリの恋愛映画。


 陽菜が『やるなら本格的にやる』と言ったので、できるなら本格的なデートを体験させたい。


 これは陽菜から言い出したことなので、他意はない。本当に。


 ということで、俺たちはしっかりとカップル用のポップコーンを購入し、そして席は――


「は、はぁぁぁぁ!?」


 上映前の館内で、陽菜の声が響く。


「ちょっと、館内だよ」


「あぁ、ごめん」


 陽菜は我に返ってから、鋭い視線を俺へ向ける。


「これはなに」


 陽菜が指差した方向には、俺たちがこれから座る席。カップルシートが並んでいた。


「何って、カップルシート」


「いや、それは分かってる。そうじゃなくてさ……確かに本格的にやるとは言ったけどさー……まさかここまでやるとは……」


 陽菜がブツブツと独り言を呟く。


「一応訊くけど、杉田って、私のこと本気で好きじゃないよね?」


「何を言う。彼女を嫌いな彼氏がいるわけないだろ」


「はぁ……人選ミスったかな」


 ちょっとした冗談のつもりだったのに、悲しいことを呟かれてしまった。


 まぁ、俺としては、如月陽菜の近くに居れれば何でもいい。それで未来が変わるのなら。


「まぁ、せっかく予約してくれたし見よっか――言っとくけど手繋いだりとかはやめてね」


「分かってる」


「ほんとかなぁ」


 彼女から警戒されつつも、俺たちは席をついて上映までの時間を潰した。


 観る映画は、言わば恋愛感動映画だった。


 徐々に記憶がなくなっていくヒロインと主人公の話。


 陽菜の心にも刺さってくれたらしく、終始スクリーンに張り付いていた。


 だがそのせいで、ボップコーンを取る時にお互いの手が触れてしまった。


 暗くても分かった。確実に陽菜はこちらをジト目で見つめていた。


 そんな感じで映画は進んでいき、遂にクライマックス。


 完全に記憶を失ったヒロインが、主人公のことを思い出して、感動のハッピーエンド。


 隣からはズズっと鼻をすする音が聞こえてくる。かくいう俺も――


「杉田。あんた顔ぐちゃぐちゃじゃん」


 エンドロールが流れ終わったスクリーンを前に、俺は枯れるほど涙を流していた。


「仕方ないだろ。あんなん誰でも泣く」


「まぁ、確かにそうだけど……」


 そう言うと陽菜は次の瞬間、前触れもなく「っぷ」と笑い出す。


「何笑ってんだよ」


「いや。ごめん。今まで誰かと映画行く時、私より泣く人なんていなかったからさ。それがなんか面白くって」


「なんだよそれ」


 とは言いつつ、きっと陽菜が言っているのは神宮寺のことなんだと、勝手に頭が理解する。


 俺は陽菜から貰ったハンカチを手に取り、涙を拭った。



 映画館を出て、俺たちは駅までの道のりを歩いていた。


「そういえば杉田って、どうしてお金を盗もうとしたの?」


 そんな時、陽菜から訊かれたくないことを訊かれてしまった。


 どうして……。


 本当の理由なんて話せるわけがない。第一に話したとしても、信じてもらえるとも思っていない。


「実はあのお金盗んだの俺じゃないんだよね」


 それでも、本当のことを言えたのは、きっと相手が如月陽菜だったからだろう。


「…………」


 だが、なぜか、陽菜からの返答はなかった。


 俺は、その理由をすぐさま知ることになった。


 陽菜の目線の先。


 そこには、如月陽菜が本当に好きな男の子――神宮寺光輝が立っていた。

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