50話 告白
「ふざけないで……本当に…………どこまで自己中なのよ……」
聞いたことのないドスの効いた声が陽菜から発せられる。
辟易しながらも陽菜の感情を受け止めるため、俺は視線を逸らさず俯いている陽菜を見つめる。
「うん。本当に陽菜の言う通りだ。復讐のために勝手に君たちを巻き込んで、自己中極まりない」
分かってるからこそ、自分が幸せになる価値なんてない、と思う。
「違うっ!」
陽菜は突然顔を上げて、嘆く。
「私が言いたいのはそうじゃなくてっ!」
そう叫ぶ陽菜の頬には、一滴の涙が伝っていた。
その涙は先程のように安堵から来たものではなく、完全に悲しみによるものだった。
――寂しい。
陽菜の目を見つめていると、そんな感情も同時に認識できた。
俺が、陽菜に涙を流させた。
俺は罪悪感を抱きながらも陽菜の顔を見つめていると、陽菜が涙を拭ってから、俺の顔を見つめる。
「ねぇ、雄也。本当にそんなことで自分の罪を償えると思ってるの……?」
「それは……」
思っていない。一生かけてもこの罪が消えることはない。
そんな俺の考えを、陽菜は表情を見て読み取ったのか覚悟を決めた表情で顔を見合わせてくる。
「分かってなさそうだから言うね。ほんとこれ、一度しか言わないからね」
一瞬だけ沈黙がその場を支配するが、すぐに陽菜が深呼吸をしてようやく全ての思いが打ち明けられる。
「自分が悪いと思ってるのなら! 私と! 死ぬまで一緒にいろっ! それが私に贈る最大級の幸せだから……っ!」
言い終わると陽菜は顔を真っ赤に染めながら今一度俯く。
それに変わるように結月が口を開く。
「私の人生に色をつけてくれたのは紛れもない、杉田雄也くん。君だけだから……だから、私の幸せを願ってるのなら、死ぬまで一緒にいてほしい」
確かに二人の言う通りだった。彼女たちの幸せを願ってるのなら、自分が一生をかけて幸せにすればいいだけの話。
だけど……
俺の中で一瞬の迷いが出た瞬間に、瑞希が『配信がしたい』と言った時のように自分の思いを打ち明ける。
「雄也くん。私も雄也くんしか見えてないから。結月さんの言う通り、私たちの幸せを願っているのなら、一生そばにいてほしい」
追い討ちをかけるかのように、望月さんと立花さんも思いを打ち明ける。
「君は私を死なせなかったくせに勝手にどこかへ行こうとするなんて……絶対許さないから。一生かけて償ってもらうから覚悟してて」
「私……もう先輩のいない世界なんて考えられません。毎日ハグして、毎朝キスもして、毎晩セックスもしたいです。だから先輩……お願いですから私を一生一人にしないでください」
全員言い終わったところで、再度陽菜が噤んでいた口を開く。
「私たちの幸せ……それは…………好きな人が幸せになること、ただそれだけっ! だから! 雄也は黙って私たちから幸せにされろっ!」
陽菜は言い終わると、またしても顔を俯かせる。
耳が真っ赤に染まっているのを見て、陽菜がどれだけ勇気を出したのかが分かった。
それなら俺も勇気を出さないと、と思った。
「俺は……っ!」
俺は意を決して、
「君たちを一生かけて幸せにする!」
最大級の告白を彼女たちに向けて放った。
◇◇◇
杉田雄也が、あのストーカー男から刺されて入院することになった。
そのまま死ねばよかったのに……もういっそのこと俺の手で……。
考えた俺は、ヒロイン五人の後をつけて、奴が入院している病院を突き止めた。
そのまま病院に忍び込んで、ヒロインたちが居なくなったところを見計らって、奴が寝ている病室に侵入する。
「何してんの?」
瞬間に背後から怒気を含んだ幼馴染の声が聞こえてくる。
焦って振り返ると、そこには果物ナイフを持った陽菜が殺意に満ちた眼差しでこちらを見つめていた。
「いっ、いやっ!」
初めて見る幼馴染の殺意に、さすがに狼狽える俺。
「もし雄也に手出すつもりなら――」
「――っ!」
命の危険を感じた俺はかつての幼馴染を跳ね飛ばして、逃げるようにその場から立ち去る。が、陽菜の後ろにいた高坂結月に最後、こんなことを囁かれた。
「絶対逃がさないから」
俺はひたすらに恐怖しながら、病院から逃げ出した。
もういい。あんな奴と関わるのはやめよう。あんなのヒロインでも何でもない。
あんな奴ら、ただの怪物だ。
俺は初めて、ラブコメ主人公になることを諦めた。
◇◇◇
後日談。
長い入院とリハビリの日々に耐えて、俺はとうとう病院を退院することになった。
久しぶりの学校にワクワクしながら登校するが、俺の知らない間に神宮寺が学校から姿を消していた。
自主退学したのか、はたまた転校したのか……その行方は分からない。
そう思った矢先、隣の席から話し声が聞こえてくる。
「まさか神宮寺光輝があんな極悪人とは思ってもみなかった」
「それな――校外学習の費用を盗んで、生徒会長を自殺未遂にまで追い込んだ。もしかして、みずりんの炎上もアイツのせいなんじゃねーの?」
「有り得る。ってか絶対そう。だってこれ――」
そんな会話を聞いて、俺も急いでスマホを開く。と、その瞬間に信じられない光景が目に焼き付いた。
これは……神宮寺の顔だ。
ネットで神宮寺の顔が晒されて、みずりんのファンから有り得ないほどの非難を受けていた。
内容としてはこうだった――コイツがみずりんを裏切った――コイツの迂闊な行動がみずりんを炎上させた。
根も葉もない噂ではあったものの、神宮寺が瑞希を裏切ったのは紛れもない事実。
「デジタルタトゥーってやつか。人生終わったな……」
でも、一体どうしてこんなことに……。
「なぁ、梨々花」
俺は後ろにいる梨々花にこのことについて聞いてみることにした。
「どうしたんですか? 先輩」
だけど、その前に……
「ツッコまないでおこうと思ってたけど……そろそろ教室で抱きつくのはやめない?」
「どうしてですか?」
「周りの目も気になるし、それに、さっきから柔らかいたわわが当たってるから」
「当ててるんです」
「そっ、そう……当然だけど周りの目は?」
「周りの目ってなんですか?」
「それはさすがに無理があるだろ……って、そうじゃなくて――これについて何か知らない?」
俺は見ていたスマホを梨々花にも見せる。
「さー? 誰ですか?」
だが、まさかの疑問形で返ってきた。
前までは自分から神宮寺に接触していたのに、今となっては完全に記憶から消去されている。
でも梨々花の反応から察するに、
「絶対何かやったろ」
「別に何もやってませんよ?」
絶対に嘘だ。
前回でさえ、復讐のためにあそこまでした彼女だ。きっと今回もとんでもないことをしたに違いない。
そう考えていると、答え合わせをするかのように梨々花は不気味な笑みを浮かべる。
「それよりも先輩。早く私に教えてくださいよ」
誤魔化すかのように梨々花は話をすり替える。
これ以上問い詰めても無意味と判断した俺は諦めて梨々花の話に乗ってあげることにした。
「教えるって、何を?」
「これ、ですよ」
そう言いながら梨々花は、左手で輪っかを作り、右手の人差し指をその輪っかに出し入れする。
「その下品な手つきを今すぐやめなさい」
後から分かったことなのだが、梨々花は有り得ないほどに下ネタが大好きな変態女子だった。
「そんなことしてたら男子からモテないよ?」
「別に私は先輩さえいてくれればなんでもいいですよ」
言いながら出し入れの速度を上げる梨々花。
「もう、ほんとに……」
それでも、彼女を……いや、彼女たちを幸せにすると決めた以上、そのような行為をする時はいずれ来るのかもしれない……。
ふと、窓の外を眺める。
空は灰色に染まっており、雨を降らせていた。
俺が死ぬはずだった日の雨と今降っている雨は他の人からしたら同じなのに、俺からしたら全くの別物のように思えた。
「たまには雨もいいかもな」
この現象に名前をつけるのなら……
「先輩。今、幸せですか?」
突然、そんなことを言い出す梨々花に俺は思わず吹き出す。
「何それっ。高額な壺でも買わせるつもり?」
俺の冗談に梨々花は頬を膨らませる。
俺は彼女に「冗談だよ」と言ってから、
「幸せだよ」
ハッキリそう告げた。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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本作はこれにて完結となります!
改めて最後まで読んでいただきありがとうございました!




