46話 病室
私含む五人で雄也が入院している病室へ向かう。
あれから五日――雄也を刺した犯人は捕まったけど、雄也は未だに目を覚ましていない。
あの後、雄也を探しに行った私たち四人は、学校近くの公園で立花さんの姿を見つけ、急いで駆け寄った。
立ち尽くしている立花さんの前には、お腹から血を出して倒れている雄也――お腹にはナイフが刺さっており、私たちが来た時には既に犯人は逃亡したようだった。
私は急いで持っていたハンカチを刺されたお腹付近に固定して、少しでも出血が抑えられるように対処した。
瑞希さんが救急車を呼び、望月先輩が助けを呼びに行き、高坂さんは私と一緒に止血を手伝った。
だけど、その間立花さんはずっと突っ立ったままだった。彼女にも指示を出したけど、彼女は後ろで過呼吸を起こして、まともに動ける状態ではなかった。
私も怖かった。もし雄也が死ねば……このまま一生会えなくなったら……。
そんなことを考える度に泣きそうになった。
病院の先生には『命に別状はない』と言われたけど、同時に『目を覚ますかも分からない』と言われた。
何とか一命をとりとめたけど、それでも不安が消えてくれることはなかった。
私たち五人は、未だに昏睡状態の雄也を囲むように座っていた。
私と高坂さんは、人工呼吸器をつけている雄也の顔を見つめ、七瀬さんは手で顔を覆いながら俯いていて、望月先輩は悲しそうな表情で虚空を見つめていた。
そして最も辛そうにしていた立花さんは、雄也が眠っているベッドに顔をうずめていて、微動だにしていなかった。
この五日間、私たちは少ない面会時間をずっとこのように無言の時間で過ごしていた。
「…………」
そんな空気の中、私は初めて自分から静寂を断ち切る。
「ねぇ、みんな。これを見てほしいだけど」
私はそう言って雄也のノートを鞄から抜き出す。
立花さん以外、顔を上げて私の方に視線を向ける。
「それって……」
高坂さんの呟きに、私は説明する。
「雄也の手記――あの後、一人であの空き教室に行ったら床に投げ捨てられてたから一応拾っておいた」
そう説明すると顔を上げていた三人の表情に不快感が現れる。投げ捨てた張本人――神宮寺光輝を思い出したのだろう。
「それで、それがどうしたの」
望月先輩が訊いてくる。
「これをもう一度読んでみて思ったんだけど……雄也は誰に向けてこれを書いたんだろう?」
私のそんな疑問に、三人は目を見開く。
「それ、貸して」
望月先輩がノートを手に取り、パラバラとページをめくっていく。
数秒ぐらい病室で、ページをめくる音だけが響いていた。
すると突如、望月先輩が何かを見つけたのか、ページをめくる音が止まった。
「どうしたの?」
私が訊くと、望月先輩は「これ……」と言ってノートをこちらへ向ける。
開かれていたページは、一番最後の真っ白なページだった。
何も書いてなかったから全く気にとめてなかったけど…………。
ノートに視線を巡らせていると、右下に書かれていたある文字が目に入る。
「しにたくない」
私が口にすると、一瞬だけ立花さんが肩を震わせた。
それを見て先程の疑問が解決される。
そう。これは、
「雄也は、誰かに助けを求めるために書いたんだ」
雄也はずっと誰かに助けを求めていた。このノートはその助けてくれる誰かに向けて書いたものだったんだ。
実際に口で助けを求めると迷惑をかけると思ったんだろう。だから雄也はこうしてノートに記すことにした。
それに皆、気がついたのか更に表情は曇る。
「…………」
長らく沈黙が流れる。
私がまたしてもその沈黙を破る。
「ねぇ、私たちの共通点って何かな?」
「共通点?」
七瀬さんが鼻をすすってから聞き返してくる。
「そう。これはただの憶測に過ぎないけど……雄也はタイムリープしてくる前、前世で私たちを助けて死んだんじゃないかなって」
「えっ。それ、どういうことですか?」
高坂さんが催促するように私の目を見つめる。
「私思ったの。今世も前世と同じ未来を辿っているとするならば……前世の雄也も同じストーカーに刺されたんじゃないのかなって。例えば七瀬さんを庇って、死んだとか」
「そんなっ……!」
酷く狼狽する七瀬さんに私は申し訳なく思う。
それでも今はこの話をしなくちゃいけないと思った。
「それで思ったの。どうして雄也は死ぬ未来が分かっているのに私たちに干渉したのか……」
復讐だけが目的なら他に方法はいくらでもある。単純だけど、例えば痛めつけるとか。未来を知ってるなら貶めることだって容易なはず。
でも雄也は私たちを……守るかのように復讐をしていた。
「それで私たちの共通点ってことですか……」
高坂さんの呟きに私は「そういうこと」と返す。
「私気づいたの――私たち全員、光輝と何らかの関係があるんだよね」
一番有力な例をあげるとするならば、元々は全員光輝と仲が良かった。
「つまり――」
望月先輩が促してきたので私は続ける。
「前世の私たちは……もれなく光輝のことが好きだったんじゃないかな」
「………………………………」
そんな私の憶測にまたしても沈黙が流れる。
今日一番長い沈黙だった。
そんな重すぎる沈黙を破ったのは、
「ふざけないで」
ずっと顔を伏せていた立花さんだった。




