44話 ノート
「……………………」
今までに感じたことのないほどの長い沈黙がこの場を支配する。
その沈黙を破ったのは、立花さんだった。
「それにしても先輩もたらしですよね。仲良くする女の子がコロコロ変わる」
「それは……」
「分かってます。あの子たちを助けるためですよね?」
「…………」
違う……そんなに綺麗なものではない。俺は神宮寺に復讐するためだけにタイムリープしてきたのだ。
立花さんはそれがまるで分かっているかのように妖艶な笑みを浮かべる。
「先輩……私は貴方が好きです」
立花さんは目を合わせながら、またもう一度同じ告白の言葉を口にする。
ここまで俺に尽くしてくれる女の子……正直に言うと好きにならないわけがない。
『俺も君が、立花梨々花が――』
「ありがとう。すごく嬉しい」
「じゃあっ――」
「ごめん。でも、君の期待に応えることはできない」
だが、そんな想いに反して、俺の口から出たのは突き放す言葉だった。
それを聞いた立花さんは意外にも、何事もなかったかのように平然としていた。
「先輩は私のこと嫌いですか?」
「いや……」
「なら、好きですか?」
「…………」
俺はその問いに沈黙で返す。
「それは好きって解釈でいいですか?」
「俺は君が…………」
長い沈黙を経て、
「好きじゃない」
思ってもいないことを口にした。
「そうですか。なら、これからはなるべく話しかけないようにします」
「…………」
凛々しく平然としていた彼女は、俺に背を向けて、空き教室から出ていく。
俺は立花さんの背中を呆然と見つめることしかできず、しばらくして扉が閉められた。
これで良かった。きっとこれで良かったんだ。変に期待させてはいけない。
自分に言い聞かすように、手で胸を押さえながら、ようやく覚悟を決めた。
「よし。死ぬか」
◇◇◇
次の日――雄也は学校を休んでいた。
不思議に思いながら、お昼を食べようとしたところで、机の引き出しに入っている一枚の紙切れに気がつく。
『杉田が今日休んだ理由を知りたいなら、昼休み。三階空き教室に』
あまりに胡散臭くて怪しかったけど、確かに理由は知りたかったから私は書かれた指定場所に行くことにした。
空き教室に着いて扉を開ける、と既に私以外に四人の女の子が来ていることに気づく。
高坂結月。七瀬瑞希。望月花音。立花梨々花。
見た感じ、全員呼ばれた内容としては私と同様『雄也が休んだ理由』のようだった。
でも一体誰がこんなことを――
そう思った瞬間に、私が閉めた扉が大仰に開かれて、ここに呼び出した張本人が明らかになる。
その人物とは、
「みんな来てくれてありがとう」
ノートを手に持った光輝だった。
私は早速光輝に切り出す。
「『雄也が今日休んだ理由』って、どういうこと?」
「そうだな。じゃあ早速君たちに奴の本性を教えてやる」
雄也の本性……。
光輝以外の皆、一斉に固唾を呑む。
光輝は「まずはこれを見てくれ」と言いながら、持っていたノートを開いて、こちらに向ける。
「えっ。なにこれ……」
向けられたノートには、高坂結月のことについてビッシリと書き込まれていた。
これは、雄也が書いた手記だ――見た瞬間に思った。
高坂さんに関すること。過去にあった出来事。いじめのことなんかも綴られていた。
特に書き込まれていたのが、校外学習費用についてのことだった。
『どうすれば神宮寺の邪魔をできるのか→自分が費用を盗んだ犯人になって阻止する』
高坂さんが困惑しながら口を開こうとしたところで、光輝は遮るように次のページへ進む。
次は私のことがビッシリと綴られていた。
『如月陽菜は神宮寺の幼馴染で、小さい時から神宮寺に好意を抱いている。これを邪魔するためには✕✕✕✕✕✕✕✕』
様々な計画が事細かに書かれていたが、被さるように✕が描かれており、読めないようになっていた。
私も高坂さんと同じように動揺を隠せずにいると、光輝がまたしても次のページを開く。
その後も、七瀬さんのこと、望月先輩のこと、立花さんのことが同じようにビッシリ書き込まれていた。
全てを読み終えた後、七瀬さんが呟く。
「これって……」
「あの男が書いたものだよ。本当に気味が悪い」
「…………」
そんな光輝の発言に私たちは黙り込むしかできなかった。
きっと全員混乱していたのだろう。
急にこんなものを見せられても、困惑するだけだ。
「これ、今までの出来事がまるで二回目のように書かれている……」
そう思っていたのだけど、意外と冷静な高坂さんが独り言のように呟く。
言われてみればだった。
こんなのまるで、
「タイムリープ……」
次いで望月先輩が呟いた。
「いや、でも、そんなことって……」
私は困惑のあまり口から言葉が漏れ出す。
冷静に考察する高坂さん。困惑する私。同様に困惑する七瀬さん。無表情の望月先輩。そして、なぜか俯いている立花さん。
そのうちの考察していた高坂さんが光輝に問いかける。
「それで、これを見てどうやったら杉田くんが今日休んだ理由が分かるんですか?」
「あぁ。そうだった、そうだった」
光輝はもう一度ノートを開いて、立花さんのことが書かれている次のページを見せながらとんでもないことを口にした。
「多分だが、今日あいつは死ぬ」




