42話 最後の告白劇
次の日――三度目の告白劇の日。
昼頃に立花さんから『放課後 三階端の空き教室』という一通のLINEが入っていた。
『面白いものを見せてあげます』
そんなメッセージも一緒に添えられていた。
立花さんがどうしてそこまで教えてくれるのかは分からなかったけど、今は教えてくれた彼女に感謝しつつ、俺は言われた通り三階の空き教室へ向かう。
部活動などで賑やかな廊下は端の方に行くにつれて、静かになっていき、新たな声が耳に入ってくる。
「先輩。来てくれてありがとうございます」
無論、立花さんの声だった。
聞く感じ、既に告白劇は始まっているようだった。
バレないようにこっそり中を覗くと、案の定と言ったところか、二人は向かい合う形で顔を見合わせていた。
「大丈夫。それで何の用なんだ?」
神宮寺はこれから何を言われるのか分かっているはずなのに、あくまで知らないといった様子で応じる。
全てを知っている俺からすれば、白々しい限りだ。
だが、立花さんは気にせず続ける。
「それなら早速本題に入りますか…………ははっ。なんかこういうの初めてだからちょっと照れくさいですね」
恥じらう立花さんのおかげで、緊迫した空間が少し穏やかになる。
それでもなお、その張り詰めた空気を完全に払拭することはできなかった。
立花さんが「ふー」と深呼吸をすると、薄れていた空気感が再度部屋に充満する。
俺は思わず息を呑む。
「…………」
粛然とした場所で、立花さんが声を張り上げる。
「先輩! 好きです! 私と付き合ってくださいっ!」
顔を真っ赤に染めながら言い切った立花さんは、大仰に頭を下に向ける。
二人の恋が実る瞬間――そう思っていたのだが、刹那、神宮寺がある表情を浮かべる。
その表情とは――何度も何度も俺の目に焼き付けた、あの不気味な笑みだった。
神宮寺は……奴は、未だにハーレム計画を諦めてはいない。
ダブルデートではやけに大人しいと思っていたが、それはきっと俺に自分の本心を悟られないためにした演技に過ぎなかった。
今の神宮寺の表情を見るに、立花さんに惚れているのは確かだろう。が、奴はそんな恋心よりも己のプライドを選んだ。
きっとこう考えているのだろう。好きな女の子も手に入れて、更にそこから復讐もできればどれだけ最高なことか、と。
「ありがとう梨々花。凄く嬉しいよ」
不気味な笑みを、あたかも本当に喜んでいるかのような笑顔に変えて、奴は立花さんの手を握る。
もう今更どうすることもできない。俺は最善を尽くしたはずだ。
俺は立花さんの謎を明らかにしようとしていたが、そもそもが間違っていた。
俺と立花さんが知り合った頃には既に二人は出来上がっていた。つまり……その時点で負けが確定していたのだ。
それでも俺が諦め切れなかったのは、立花さんには幸せになってほしいと思ったからだろう。
俺は無意識に扉に手をかけて、ガラガラと勢いよく開ける。
と、その瞬間、俺と彼女の視線が交わり合う。
「いえ。私が本当に好きな人は貴方ではなく――」
立花さんは、神宮寺の手を振りほどいた後、
「杉田雄也くん。先輩です」
本命の告白の言葉を扉の方に向かって口にした。
刹那、神宮寺の笑顔が明確に崩れる。
「は?」
続けて神宮寺は「なに言ってんだよ?」と、更に笑顔を崩して今までに見たことのない歪な表情で、俺と立花さんを交互に見やる。
神宮寺の言っていることに初めて共感を覚える。神宮寺同様、俺も状況が理解できなかった。
だが、立花さんは気にせず、まるで恋する乙女のような顔でこちらを見続ける。
動揺を隠せない俺は、そんな彼女に問いかけようとする、と、
「ふざけんなっ!」
大声を上げた神宮寺は何かを感じ取ったのか、血相を変えながら入口に立っている俺を跳ね飛ばし、逃げるように去っていった。
それでもなお、立花さんは一切表情を変えずに問いかけてくる。
「先輩。もう一度訊きます――本当に覚えてないんですか? 私のこと」
覚えてるも何も、俺は君のことは――
そこで今日見た夢の内容が頭をよぎる。
もしかして…………、
しばらく考えて、俺はようやく彼女の本当の呼ぶべき名前を思い出す。
「リーちゃん?」
そんな俺の声に、彼女は昔何度も見せてくれた笑顔を俺に向ける。
それを見て確信する。
立花さん、彼女は……俺が小学生時代に毎日給食の余りをあげていた女の子。リーちゃんだ。
◇◇◇
クソがっ。完全にしてやられた。
「クソっ、クソがっ!!」
誰もいない静かな廊下で叫び声が響く。
あいつら二人して俺のことをハメやがった。
どうして今まで気づかなかったんだ。どうして今になって気づいたんだ。
気づきたくなかった事実。でも、気づかないといけなかった事実。
あの女……立花梨々花は、俺の初恋相手だ。
杉田雄也を見る梨々花の顔がそれを物語っていた。
あの顔は、中学時代、俺を無視して杉田雄也に目を奪われていたあの女と全く同じ表情だった。
あの目障りなモブに目を奪われる忌々しい女の顔。
思い出しただけでイライラする。
つまり、今回俺は戦う前から負けが確定していたということだ。
あの女が杉田雄也を裏切るわけがないからだ。あの女は杉田雄也のためだけにずっと俺を弄んでいた。ずっと俺を騙していた。
絶対許さん。許せるわけがない。
奴の歪んだ顔が見たい。見下したい。メンタルをズタズタにしてやりたい。
あの男のハーレムをぐちゃぐちゃに引き裂いてやりたい。
俺は、誰もいない教室に向かい、奴のロッカーの中を漁った。
さながら、校外学習の費用を盗んだ時のように。




