38話 ダブルデート 1
どうしてこうなった?
あの後、どうして『俺たちなんだ?』と立花さんに抗議した。
すると、すかさず、『だって二人、付き合ってるんでしょ?』と、返ってきた。
確かに俺たちは、以前付き合っていたが、それはあくまで神宮寺を嫉妬させるための偽物に過ぎなかった。
陽菜と俺で困惑しながら、何度も抗議したが立花さんはまともに取り合ってくれなかった。
楓の言った通り、確かに不思議な子だ。
神宮寺も初めの方は、立花さんの意見に反対していたが、あまりに押しの強い立花さんに神宮寺は渋々と受け入れた。
完全に尻に敷かれていた。
立花さんを止めることは、きっとあの場にいた全員が何を言っても不可能だっただろう。
ということで今日――日曜日の朝。俺はダブルデートをするために待ち合わせ場所で待機していた。陽菜と共に。
今日のデートの舞台となる場所は、このだだっ広い遊園地だ。
確かにダブルデートには最適な場所だとは思うけれど、
「どうしたこうなった?」
隣で神宮寺たちのことを待っていた陽菜が、先程の俺と全く同じ感想を口にする。
陽菜からすれば、ただでさえ神宮寺と顔を合わせたくないだろうに、まさかの一緒に遊びに来ることになるなんて……。
だが、陽菜には悪いけど、これは俺にとって立花さんのことを知れる絶好のチャンス。
この機を逃すわけにはいかない。
「すみませーん! 少し遅れました!」
調査の対象となる女の子が神宮寺と共に姿を現す。
元気よく挨拶する私服姿の立花さんに俺たちも「おはよう」と挨拶する。
「はい! おはようございます!」
立花さんが挨拶を返すと、隣にいた神宮寺も気まずそうに挨拶を返す。
「うっす……」
どうやら神宮寺も俺たちと考えていることは同じなようだ。
「何から回りますー? やっぱ手始めに――」
初っ端からテンションマックスの立花さん。その姿を見て、『せっかくなら楽しんでやる』と意気込む陽菜。そして、立花さんの顔を見つめる神宮寺。
そんな様々な表情を浮かべる三人を見ながら、俺もまた覚悟を決める。
今日で立花さんの謎を明らかにする。
まず初めに乗ったのはジェットコースターだった。
初手から、アクセル全開な立花さんに俺たちは振り回される。
そして次に、コーヒーカップ、空中ブランコ、と消費カロリーが高い乗り物に次々と乗っていった。
それからも立花さんの行く先に俺たちはついていき、あっという間に時間が過ぎていった。
◇◇◇
数時間後。
ようやく休憩を与えてもらった。
「はぁはぁ……」
俺、含む男性陣はへたるようにベンチに座り込む。
「ちょっと先輩方二人とも体力なさすぎじゃないですか?」
「いや……さすがにあんな連続で乗ったら誰だって疲れるだろ……」
息切れしながら隣の神宮寺が言う。
次いで陽菜が言う。
「二人とも大丈夫? 特に下を向いて黙り込んでる君」
今喋っていない人なんて一人しかいなかった。
無論、俺だ。
「マジ無理。もう限界」
「雄也って絶叫系無理だったんだね」
「いや。無理なのは連続で乗ることだから」
「あははっ。それもそうか」
そう言う割に陽菜は余裕そうにしていた。
陽菜が優しく俺の背中に手を置こうとしたところで、会話に割り込むように立花さんが言う。
「陽菜先輩! 私たちで飲み物買いに行ってあげましょ。惨めな先輩たちのために」
「おい。それどういう意味だよ」
冗談っぽく言う立花さんに神宮寺がすかさず応える。
「冗談ですってー。じゃあ待っててくださいね。お二方」
軽く手を振る会釈をしつつ、立花さん含む女性陣は飲み物を買いに行った。
そうして残される神宮寺と俺。
「…………」
なんだこれ……気まずすぎる。
神宮寺も俺と同じことを考えているのか、俺たちの間にはただただ沈黙が流れる。
話したいことなんて何一つなかった。否、正直に言うと顔すら合わせたくない。
神宮寺の方も、俺と同じ憎しみを持っているに違いない。
そんな俺の考えはやはりと言ったところか的中した。
沈黙は数分間続いた。
まるで一緒に遊びに来た友人には見えなかった。まぁ、俺たちの関係が最悪なのは言うまでもないのだが……。
今はそんなことよりも――遅い。あまりにも遅い。
既に五分は経過していた。だと言うのに二人は一向に帰ってくる気配がない。
と、そこで初めて神宮寺が沈黙を破る。
「さすがに遅くね? 俺ちょっと様子見てくるわ」
神宮寺はベンチから立ち上がり、さながら主人公のように女の子たちを心配する。
俺も気分が悪くならないようゆっくり立ち上がり、神宮寺の後を追いかける。
しばらく神宮寺の後を追っていると、背中越しに自販機が見えてくる。
その自販機の前に、二人の姿を見つけるが……さすがはラブコメ主人公と言ったところか。
ご都合主義と言わんばかりの展開――二人は見知らぬ男からナンパされていた。
「お姉ちゃんたち可愛いねー」「俺たちと一緒にお化け屋敷入ろうよ〜?」
それを発見した神宮寺は、すかさず走り出す。
「何してるんだ!」
四人の間に割り込んで入り、二人を守るように前に立つ。
「なんだよお前。邪魔すんなよ」「何もんだ? テメェ?」
「その子たちの連れだよ。もしこれ以上揉め事を起こすようなら容赦はしないよ?」
「チッ。クソがっ」「覚えてろよ」
捨て台詞を吐いて、二人の男は逃げるように走っていく。
「二人とも大丈夫? 遅いから心配したよ」
「うん。私は大丈夫です」「私も大丈夫」
「それよりも先輩凄いですね! 見直しましたよ!」
「見直したって。俺は元々期待されてなかったのかよ」
二人のやり取りを眺めながら、俺は初めて神宮寺という主人公と、俺というモブとの差が如何にかけ離れているのか気がつく。
俺みたいな一般人はあんなすぐに状況判断をして行動できない。あれができるのは、きっと神宮寺だけだ。
奴は、惚れさせる方法が最低でも、正真正銘のラブコメ主人公――恵まれた天性の才能を持っている。
だが当然、神宮寺の本性を知っている陽菜はというと、怪訝な表情を浮かべながらこちらに駆け寄ってくる。
もう何を信じればいいのか分からないと言った様子だ。
安心しろ。俺も絶賛困惑中だから。
「とりあえず飲み物は買えたんで、ベンチ戻りましょっか」
神宮寺との会話を終えたのか、立花さんが指揮をとる。
全員がその意見に賛成すると、立花さんが先頭を歩く――と、その刹那、彼女が一瞬こちらに向かって奇妙な笑みを浮かべた。
それはまるで『意気地なし』とでも言われているようだった。




