37話 謎の多い女の子
瑞希と別れた後、混乱していた俺は一旦頭を落ち着かせるため走って家まで帰った。
一体どうなっているんだ……。前世ではあんなことなかった。
リリちゃん……フルネームは確か、立花梨々花。
あんな神宮寺の表情は初めて見た……まるで惚れた女に振り回されているようだった。
いや。もう既に二人は付き合っているのか? それとも神宮寺は本当に心の底から好きになれる人ができたのか? ハーレム計画はどうなる?
様々な疑問が頭を駆け巡る。
完全なるプライベートの時間に二人で出かけるなんてデート以外の何物でもない。
それに一年生は親睦会があったんじゃないのか? 立花梨々花は親睦会を断ってまで神宮寺と一緒にいることを選択したのか?
そこで俺はようやく、ある結論に辿り着く。
あぁ、そうか……あの二人は既に相思相愛なのだ。
神宮寺にとって、初めての本気の恋愛。
そんなところに土足で踏み入る資格なんて、俺にはなかった。
だが、それで神宮寺が今までしてきた過去が消えるわけでもない。
奴が過去にしてきた出来事を思い返すと……許せるはずがなかった。
これは正義感とか、そんな大層なものではなく、もっと意地汚い……そう、ただの復讐心に過ぎない。
果たして今の俺に何ができるのか……。今までは前世の記憶があったから何とか阻止できていたが、予想外の展開が起きた途端にこれだ。
まるで阻止できる気がしない。
否。阻止するも何も二人は既に相思相愛なのだ。
それを邪魔する力が果たして俺なんかにあるのだろうか……とりあえずできるところまでやるしかない。
今俺に何ができるのか考えた結果、帰ってきた楓に立花さんのことを聞いてみることにした。
「なぁ、楓。友達のリリちゃんってさ。どんな子なの?」
「リリちゃん? 急にどうしたの? 朝はまるで興味なかったのに」
「ちょっと気になっただけ」
「うーん。どんな子って言われてもなー。元気な子、かな?」
「もっと他に何かないのか? 例えば好きな人とか、恋人とか」
「え? 何? お兄、もしかしてリリちゃんのこと好きなの?」
「いや。そんなんじゃなくて……」
しまった。確かにこんな率直に聞けば勘違いされるのは当然だ。
「まぁ、いいけど……多分彼氏はいないと思う」
つまり、立花さんは親友である楓にさえ話していないのか……それとも俺の杞憂でまだ付き合ってはいないのか。
まだまだ情報が足りない。
「っていうか、リリちゃんが学校で男の子と話してるところ見たことないかも。そういった話も一切聞かないし。私は勝手に男子が苦手だって思ってる」
まずい。ますます分からなくなった。一体彼女は何を考えてるんだ?
「正直謎が多い子、かな? 確かに仲は良いんだけど、自分のことをやたら話したがらないんだよね。今日の親睦会も欠席してたし」
楓さえ分からないことが多い謎の子……。
「分かった。ありがとう」
お礼を言いながら俺は急いで自分の部屋に駆け込む。
まだまだ情報は足りないが、有益な情報ということに変わりはない。
スクールバッグから今まで状況整理をするために使っていたノートを取り出す。
前世のことが、全員分ビッシリと書き込まれている。
望月さんのことが書かれた次の新しいページに先程楓から聞いた情報を書き出す。
真っ白な一ページに立花さんのことを書いてから、俺は早速何ができるかを考えた。
◇◇◇
数日後。
俺は色々と思考したのだが、どう考えても方法が思いつかなかった。
立花さん本人との接触を試みようとしても、俺と彼女にはほとんど接点がない。唯一、楓の友達という関係性があるが、残念ながら相手が俺のことを覚えている保証がなかった。
これでもし、『誰?』なんて言われてしまえば完全に詰みだ。
「雄也。最近昼休み姿見ないけどどこ行ってんの?」
小休憩中、いつものように窓に頬杖をつく陽菜から話しかけられる。
昼休み……俺は『外で空気を吸う』と言いながら望月さんと会っている。
「屋上に行ってる」
嘘をつく意味がないと思ったので正直に話す。
「ふ〜ん。まぁ、いいや。それよりもさ――」
陽菜が何かを言おうとしたその刹那、被せるように後輩の甲高い声が教室内を震わす。
「センパーイ!!」
さながらラブコメのように、元気なヒロインが主人公を呼ぶ。
立花梨々花――その元気な表情には、何かもう一つの感情が隠れているような気がした。
教室に笑顔を振りまく彼女に、神宮寺が急いで駆け寄る。
「梨々花。どうしたんだよ。急に」
「いや。先輩に会いたくなったから来ただけですよ」
「そっ、そう」
神宮寺は満更でもなさそうに相槌を打つ。
「それよりも先輩! 今度デートしましょ!」
「デートか……」
「嫌なんですか?」
「いや、別に嬉しいんだけど……」
なぜかデートを受け入れない神宮寺。もしかすると照れているのかもしれない。
そんなふうに思いながら陽菜と共に二人を盗み見していると、ふと、立花さんと目が合う。
「う〜ん。それなら――」
何か思いついた様子の立花さんが、おもむろにこちらへ体を向けて近づいてくる。
さすがに俺たちじゃないだろ……そう思ったのも束の間、目の前まで来た立花さんは驚くことを口にした。
「ダブルデートしましょう!」




