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憧れのラブコメ主人公のハーレム計画に加担していたけど、クズ野郎と分かったので、次こそは阻止して美少女たちを幸せにしようと思います  作者: 砂糖流
転校生

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26話 イヤホン

 配信が終わって、一気に静かになる部屋。


 時刻は既に22時を回っており、未成年が外を出歩くには遅い時間帯だった。補導もあり得る時間帯。


 だと言うのに、俺の中で焦りは一切生じていなかった。どちらかというと安堵の方が大きい。


 全て終わった……。否。七瀬さんからすれば始まりに過ぎなかった。


「終わったね」


 七瀬さんの言葉に「うん」と返す。


「最後まで手伝ってくれてありがとう。杉田雄也くん」


 なぜだかフルネームで呼ぶ七瀬さんに、俺もやり返すかの如く呼び返す。


「大丈夫。七瀬瑞希さん」


「なんで私だけ『さん』なの」


「なら、ちゃん?」


「やっぱり『さん』でいい」


「分かった。七瀬さん」


 結局いつもの呼び方に戻ってしまった。


 だが、今更敬称なんてどうだっていい。七瀬さんも俺と同じ意見なのか、気にしないといった様子で、帰りを促してくる。


「それよりも帰らなくて大丈夫? もう10時半だけど」


「かなりまずいね。帰るよ」


「分かった」


 俺は荷物を手に取り、立ち上がる。


「今日は本当に付き合ってくれてありがとう……って、違うか。この一週間ずっと、私に寄り添ってくれてありがとう」


 配信でしたように、俺にも深々と頭を下げる七瀬さん。


 数秒して顔を上げた七瀬さんに俺は微笑みながら質問を投げかける。


「ねぇ、七瀬さん。明日は学校来る?」


「…………行きたい」


 ハッキリと言い切らなかったのは、七瀬さんの中の不安が燻っている所以だろう。


「分かった。じゃあ明日の朝八時で大丈夫?」


「えっ、それって……」


 七瀬さんは俺の顔を見据えて、理解する。


「分かった。待ってる。いつまでも」


「安心して。寝坊はしないから」


「そういう意味で言ったわけじゃないんだけどな……」


 そういう意味かと思って言ったのだが、どうやら見当違いだったらしい。


「そういうことで――私は待ってるから」


「うん」


 不安が消えたわけではないが、覚悟を決めた七瀬さんの顔を見て、俺は何度も通った扉の方へ体を向ける。


 靴を履き終えて、扉を開けようとしたところで後ろから「ちょっと待って」と呼び止められる。


「これ――」


 振り返ると、そこにはLINEのQRをこちらへ向ける七瀬さんが立っていた。


「交換しよ」


「喜んで」


 そうして七瀬さんとLINEを交換した。


「じゃあ、また明日」


「うん。また明日」


 俺はこの一週間ずっと来ていた家を後にした。


 放課後いつも歩いていた道が、いつもとは雰囲気がガラッと違い、真っ暗な道には街灯で地面が照らされていた。


 少し早足で歩いて、その道を踏みしめようとすると、スマホが震えた。


 先程新しく追加された彼女からだった。


『雄也くん』

『さっき私の名前はさんでいいって言ったけど』

『やっぱり下の名前で呼んで欲しい』


『瑞希さんってこと?』


『本当に?』


『みずりん』


『いじわるだね』


『冗談だよ』

『瑞希』


『うん』


 そんな返信と共に、可愛らしいクマがサムズアップしているスタンプが飛んでくる。


 俺もそれにクマがお辞儀しているスタンプを返して、スマホを閉じた。



 23時と、高校生にしては遅めの帰宅。


 静かに家の扉を開けて、寝ているかもしれない家族を起こさないように、靴を脱ぐ。


「お兄。帰ってくるの遅かったね」


 そこで妹の楓がちょうど居間の方から出てきて、俺にそう言ってきた。


「何してたの?」


 バカ正直に『謝罪配信の手伝いをしてた』と言うわけにもいかないので、俺は話をすり替えるように言う。


「なんだ? 楓、まさか嫉妬か?」


「そんなんじゃないから」


 確かに冗談で言ったものの、まさかそんな真面目に返答されるとは思わなかった。


「お兄なんか最近思いつめてない? なんて言うか……焦ってる、っていうか……怖がっている、っていうか」


「…………」


「お兄?」


 顔を覗き込んでくる楓から俺は逃げるように視線を逸らす。


「何言ってんだよ楓。嫉妬でおかしくなってんじゃないの?」


「まぁ、お兄が言う気ないなら、別に何でもいいけど」


 言う気がないも何も、本当に思いつめるようなことはない…………はずだ。


 俺は胸の奥につかえているモヤモヤから目を逸らすかの如く、自室に向かった。


 ◇◇◇


 次の日の朝。


 ――ピンポーン。


 インターホンを鳴らすと、初めて瑞希自ら、扉を開けてくれた。


 「おはよう」と挨拶をし合って、俺は瑞希のことを上から下まで見渡す。


 制服姿の瑞樹に俺はどこか違和感を覚える。


 その違和感の正体は、いつも瑞希が肌身離さず首にかけていたヘッドホンが今回はなかったことだ。


 ヘッドホンがないおかげか、首回りがスッキリした瑞希にどこか新鮮味を感じる。


「今日はヘッドホン首にかけてないんだな」


「うん。こっちの方がスッキリしてて見栄えもいいかなって思ってね」


「見栄えがいいって……大体『スタイルが良い』って意味合いで使うと思うんだが」


「でも、ヘッドホンない方が見栄えいいでしょ?」


「確かに」


 別にヘッドホンがあるかないかで、そこまで変わるとは思わないけど。


「つまり雄也くんは私のことスタイルが良いって思ってるんだ?」


「聞いてた話と違うぞ」


「冗談冗談」


 とはいえ、彼女は有名なコスプレイヤーだ。スタイルが良くないわけがない。


「それより雄也くん。好きな曲ってある?」


 唐突な質問に俺はすかさず「JPOP」と答える。


「幅広いね……まぁ、いいや。はいこれ――」


 そう言って、瑞希はスマホに繋がれたイヤホンの片方を差し出してくる。


「これは?」


「イヤホン」


 あぁ、なるほど。


 今日、どうして彼女がヘッドホンをかけてこなかったのか、ようやく理解した。


 俺と音楽を共有するためだ。


 とはいえ、俺もこういうシチュエーションは憧れていたので、快くイヤホンを受け取り、耳にはめる。


 イヤホンのコードがあまり長くないせいで、必然的に隣の彼女との距離感が縮まる。


 瑞希の息遣い。片耳から聴こえてくる、聞き覚えのある音楽。肩に少し触れる肩。


「この曲、懐かしい」


「懐かしいって言っても三年前とかの曲だよ?」


「そうだっけ?」


「そうだよ」


 二人で同じ音楽を聴きながら、そんな言葉を交わし、いつも一人で歩いていた通学路を彼女と並んで歩いた。

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