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憧れのラブコメ主人公のハーレム計画に加担していたけど、クズ野郎と分かったので、次こそは阻止して美少女たちを幸せにしようと思います  作者: 砂糖流
優等生

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2話 タイムリープ

 周りには一年生の頃のクラスメイトたちが、さも初対面かのように顔色を窺いながら会話していた。


 ここは夢の中なのか? それとも死んだ後の世界? 死んだ後にも嫌いな教室にいるなんてとんだ皮肉だな。


 冗談交じりに思いながら、自分の右頬を強めにつねってみる。


 右頬は数秒で赤く膨れ上がり、一瞬で脳に痛みが伝達される。


 それはつまりここが夢の中ではなく現実世界だということを意味していた。


 だけど、俺は公園で男から包丁で刺されて死んだ。それは夢ではなく紛れもない現実世界での出来事だった。


 あの痛みは未だに覚えている。刺された横腹が急速に冷えていき、全身から生気が抜けていくあの感覚。


 だが、今はお腹に傷一つすらなかった。


 そんな謎な状況の理解に苦しむ。


 一体全体何がどうなっているんだ。とりあえず状況整理から――


「ねぇ、君。そんな所で突っ立ってどうかしたの?」


 周りを見渡そうとしたところで、背後から声をかけられる。


「そうだ。君も僕たちと一緒に話さない?」


 その声を認識した瞬間に、背筋が凍り、全身が悲鳴を上げるように震えあがる。


 気持ち悪い。声をかけてくるな。


 罵詈雑言を浴びせたくなるその男の正体は――俺が過去に最も尊敬していた男。神宮寺光輝だった。


 声のした方向へ振り返り、聴覚だけでなく視覚でも確認した瞬間、吐き気を催す。


「どうしたの? 大丈夫? もしかして――」


 だが、俺の気も知らない神宮寺は呑気にそんなことを訊いてくる。まるで初対面かのように。


 他人行儀な神宮寺の反応に違和感を抱いていると、神宮寺は更に驚くことを口にする。


「今日遅刻したのって体調が優れなかったから?」


 遅刻?


 前に一度聞いたことがあるその言葉に更に深い違和感を抱く。


 俺は過去に神宮寺から同じことを言われたことがある。


 そうだ。高校入学初日。神宮寺が遅刻してクラスに馴染めなかった俺に優しく声をかけてくれた。


 そのおかげで俺はクラスに馴染めるようになり、友達を作ることにも成功した。


 それが神宮寺を尊敬するようになったきっかけ。


 つまりそれが意味する答えとは――俺は、高校入学式の日にタイムリープした。


 周りを見渡して完全にそれを理解する。


 前世の神宮寺ハーレムの一員だった女の子。常に神宮寺の気を引くため一緒にいた彼女が机で一人、静かに本を読んでいた。


「本当に大丈夫? 声が出せないほどしんどいのか?」


 本格的に目の前のこの男と会話しなければいけなくなったので、俺は「大丈夫、大丈夫」と大袈裟に話し始める。


「普通に電車乗り間違えちゃっただけだから」


「そっか。それなら良かった。それでどう? 君もこっちに――」


 その神宮寺からの提案に俺は即座に否定の言葉を口にする。


「俺は大丈夫だから」


 俺に構うな、と思うだけで口にはしなかった。


「ほんとに? いつでもこっちに来ていいからね」


「神宮寺。早くこっち来いよ」


 そこで神宮寺が一つの陽キャグループから名前を呼ばれる。


「じゃあ、俺行ってくるから」


「うん」


 神宮寺は「またね」と手を降ると、グループの方へ歩いていった。


 一人になった俺は、教室のド真ん中で立ち尽くすことしかできなかった。


 今の神宮寺はまだ俺に何もしていない。さっきのも、彼なりの優しさなのかもしれない。幾ら、数年後に公園で死んだ俺を嘲笑ったとしても、今の神宮寺に罪は――


 考えながら、ぼんやりと陽キャグループを眺めていると、神宮寺がある方向を見ていることに気がつく。


 その方向とは――高坂結月(たかさかゆづき)


 長い黒髪に、メガネ越しから見える綺麗な紫の瞳には、数々の緻密な文章が映し出されていた。


 本を読んでいる彼女――言うまでもなく、一人目の神宮寺ハーレムの一員だ。


 そうか。神宮寺はこの時点で決めていたんだ。ハーレムを作ることを。


 だが、一人じゃ完成まで持っていくことはできない。だから、動かしやすい駒が欲しかった神宮寺は、困っている俺に手を差し伸べた。


 それは善意ではなく、紛れもない偽善。


 整った顔立ちの高坂結月は、数々の男子から視線を浴びていた。


 あの容姿なら注目されるのも当然。だが、それがいけなかった。彼女はこれから、壮絶ないじめに遭う。


 それを回避するためには――俺は自分の席について、スマホであるものを調べた。


 ◇◇◇


 入学式の日から数週間が経過した。


 今回の俺は前回の人生とは違い、友達を一人も作っていない。


 一度目の人生の時は、何とかして神宮寺光輝のグループに混ぜてもらい、友達を作っていた。いわゆる、金魚のフンというやつだ。


 だが、今回は違う。


 なぜ今回は友達を作らないのか……その理由は――


 思考しているところで、事件は起きる。


「今から、みんなで親睦会も兼ねてカラオケにでも行かないか?」


 放課後の教室。そんなことを発言したのは、神宮寺と仲良くしている陽キャグループのリーダー。


 その提案に、陽キャグループのメンバーが次々と賛成の声を上げる。その中には神宮寺も含まれていた。


「行けない人は断ってくれてもいいけど、できればクラス全員で仲良くなりたいから、なるべく参加してくれ。クラスLINEも今日作ろうと思ってるから」


 そう言う彼の目は完全に高坂結月のことを意識していた。


 そういえばそうだった。


 初めの時点で高坂結月は有り得ないほど男子からモテていた。


 あの容姿だから当然と言えば当然なのだが、彼女は後に、今では考えられないほどに没落することになる。


 だが、彼女は何も悪くない。全部、善意の皮を被った主人公――あいつが悪い。


「じゃあ行けない人は今言ってくれ。誰かいるかー?」


 少し大袈裟に陽キャグループのリーダーが言う。


 そんな圧のある言い方なので、当然手を挙げる人はいるはずもなく、


「じゃあ、全員参加ってことで大丈夫か?」


 全員強制参加といったそんな雰囲気で一人の生徒が手を挙げる。


 その人物とは、当然――


「あのー」


 俺は静かに手を挙げて、その親睦会には参加できない旨をしっかりと伝える。


「これから用事があるから行けないんだけど。不参加ってことで大丈夫かな?」


「…………」


 まるで時間が止まったかのように、教室内に沈黙が落ちる。長い長い沈黙。


 お前空気読めよ、と言いたげな陽キャグループのリーダーが歪んだ顔を動かす。


「え、えっと。なんの予定があるの?」


 予定……このために用意したといえば嘘になるが、誰もが納得する正当な予定がある。それは――


 ってかアイツ誰だよ、という小さな声を聞き流しながら、堂々と口を開く。


「俺、これからバイトがあるんだよね。さすがに休むわけにもいかないからさ」


 そう。俺が友達を作らない理由はバイトだ。極力無駄な時間は削って、バイトに勤しみたい。


 当然ながら入学したてなので、俺以外にバイトしている人はいないようだった。


 なので、簡単に見逃してもらえた。


 きっと、お金がない家庭なんだと、勝手に解釈されたのだろう。そんなことは全くもってないのだが。


 とにもかくにもお金が欲しい俺は、話がついた瞬間に教室を出ていき、バ先へ直行した。

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