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憧れのラブコメ主人公のハーレム計画に加担していたけど、クズ野郎と分かったので、次こそは阻止して美少女たちを幸せにしようと思います  作者: 砂糖流
幼馴染

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15話 盗視

 放課後。俺は陽菜と合流するため、急いで帰り支度を終わらせ、席を立つ。


 そのまま教室を出たところで、「杉田くん」と誰からか名前を呼ばれる。


 その人物とは、昼休み中にこちらを見ていた女子だった。


「高坂さん……どうしたの?」


「その……杉田くんさ。私に伝えたいことがあるんじゃないの?」


「伝えたいこと?」


 何のことだか全くもって分からなかった。


「嫌でも自分の口から言わないつもりなんだね」


 もしかして……。


 少し考えたところで俺はようやく、自分がした過ちに気がつく。いや、これは『した』より『しなかった』が正しい。


 そう。俺は未だに彼女に謝罪をしていなかったのだ。


 本当に盗んだのは自分じゃないにせよ、彼女視点、俺はただの濡れ衣を着せようとした犯人に過ぎない。


「……ごめんなさい」


 そんな俺の誠心誠意の謝罪に、彼女は疑問の表情を浮かべる。


 もしかして、間違っていたのか? 彼女が求めていたのは謝罪ではないのだろうか?


「……………………」


 廊下の隅で長すぎる沈黙が流れる。


 き、気まずい……。


 そんな気まずい空気に耐え切れなくなった俺は咄嗟に思いついた嘘が口から漏れ出す。


「えっと……じゃあ、俺この後バイトあるから――」


 いつもの嘘で、その場から逃げるように立ち去ろうとしたところで、腕を掴まれて、逃走を阻止される。


 首だけ振り向かせると、そこには昼の時と同様に頬をぷくーっと膨らませる高坂さんがいた。


「ウソ。バイトなんてないでしょ」


「え?」


 どうして俺がバイトを辞めたことを知っているんだ?


「私、全部知ってるから」


 続けて彼女は恐ろしいことを口にする。


「全部見てたからね」


 二度目の「え?」


 俺の目をジーッと見つめる彼女の紫の瞳は、宝石のように輝いていて、少しだけ眩しいと感じた。


 やっぱり彼女はコンタクトなんてせずに、いつもの丸メガネをかけるべきだと改めて思った。


 俺の脳は彼女の発言を理解しようとしていたが、脳にたどり着くことはできたものの、その後の処理はしてくれなかった。


 そのため彼女の瞳を見つめるほかなかった。


「裕也。何してんの。早く映画行くよ――って」


 そんな時、この後、予定がある彼女が話しかけてきた。


 神タイミングの陽菜に感謝すると同時に、「あっ」と声が出る。


「映画?」


 俺の嘘が完全に露見してしまった。



 その結果――どうしてこうなった?


 コメディ映画の館内で、俺はなぜか二人の女子から挟まれる形で座っていた。


 確かに俺はハーレムを阻止しようと企んではいたが、決してハーレムを築きたかったわけではない。


 右に陽菜。左に高坂さん。こんな両手に花状態、周りから見ればハーレムもどうぜ――


 考えているところで、右からの殺気を感知する。


 右の方向へ目を向けると、陽菜からの『勘違いすんなよ』という圧を感じた。


 調子乗りすぎました。


 反省しつつも三人でコメディ映画を観賞した。


 内容は全くもって頭に入ってこなかった。


 俺は一体なんの映画を見ていたんだ? そう思うほどに呆然としていた俺は、生理現象で溜まった尿意を解消するため、トイレへ向かう。


 二人に「トイレ行ってくる」とだけ伝えて、俺は男子トイレへ入った。


 ◇◇◇


 トイレに入っていく杉田くんの背中を眺めながら、私は隣にいる如月さんに質問を投げかける。


「如月さん。貴方、杉田くんのことをどう思ってますか?」


 そんな質問に彼女は、さっき杉田くんがしたみたいに「え?」と同じ反応をする。


「どう思ってるって……普通に仲のいい友達だけど」


 少し考えた後、彼女はそう答えた。


「良かった」


 私は安心する。こんな気持ち初めてだった。


「どうしてそんなこと訊くの――って、もしかして……」


 話してる途中で如月さんは勘づく。


「……うん。そういうことだよ」


「えっ? で、でも? えっ?」


 動揺を隠せない如月さんは続けて「なんで?」と訊いてくる。


「私は彼に何度も助けられたから。それに……私は――」


 全部見ていたから。


 彼がいじめを止めた後に、職員室へ行って、先生に映像を提出していたのも知ってる。


 如月さんとのデート中に、神宮寺さんが現れて、一人残された杉田くんは見えなくなるまで如月さんの背中を見送っていたのも知ってる。


 校外学習での告白。打ちのめされている如月さんを守ったのも知ってる。守った後、雨が降って、如月さんが濡れないよう自分の背中を犠牲にしたのも知ってる。


 全て知ってる。全部見ていたから。


 こんな感情は初めて。今の私は彼の全てを知りたいと、心からそう思っていた。


 だから私は――


「大体は分かったけど……どうしてそれを私に?」


「ライバルになると思ったから」


「ライバル……」


「だけど、ライバルじゃないと分かったんで良かったです」


「…………」


 笑顔で告げるけど、彼女からの返答はなかった。


 しばらくして杉田くんが戻ってきたので、私は「そういえば映画の感想聞いてなかった」と杉田くんに話題を振る。


 杉田くんからの返答は「う、うん。お、面白かったよ」だった。


 そのまま映画館を後にして、私たちは解散した。


 なぜだか、最後の最後まで如月さんはだんまりだったけど。

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