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憧れのラブコメ主人公のハーレム計画に加担していたけど、クズ野郎と分かったので、次こそは阻止して美少女たちを幸せにしようと思います  作者: 砂糖流
幼馴染

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13話 彼女の苦労

「いってぇっ!!」


 握り拳を直で受けた神宮寺の鼻からポタポタと血が垂れる。


 女の子の目から涙を流させたのだから、この男からも血を流すのは当然の報いだった。


 そんな赤い鮮血を見て、俺は我に返る――ことはなく、血を見てもなお、怒りが抑えきれなかった。


 何せ、陽菜が――


「彼女が、どれだけお前のことを想って……どれだけの時間、悩んで告白したことか……っ! ずっと好きだった想いを打ち明けられず、それでもなお、努力し続けてお前の気を引こうとしていた」


 彼女の苦労は痛いほど知っている。


 だって俺は前世……過去に彼女からたくさんの恋愛相談を受けていたからだ。


 ずっと……ずっと……神宮寺のことだけを考えて、ヘアスタイルを変えてみたり、少しメイクを濃くしてみたり、時には神宮寺に料理を振る舞うため、俺に料理を教えてほしいとさえ言ってきたことがあった。


 神宮寺のヒロインの中で一番誠実だったのは彼女だろう。


 いつまでも努力を惜しまず、神宮寺が他のヒロインに気を取られていても、気後れせず諦めずに猛アタックする。


 そんな彼女にこの男は一番やってはいけないことをした。


 やはり俺の目に狂いはなかった。この男はとんだクズ野郎だった。


「なにすんだよ」


 鼻血をポタポタ垂らした神宮寺は鼻を押さえながらおもむろに立ち上がる。


「何度も何度も俺の邪魔をしやがっ――」


 そんな神宮寺に足を引っかけ、再度、地に手をつかせる。


 それでも俺の怒りは未だに収まらなかった。


 こんな奴に彼女たちを幸せにする資格はない。


「いっそのこともう一度――」


 俺の殺意を察知したのか、神宮寺は急いで立ち上がりひるんだ様子で、


「くそがっ」


 捨て台詞を吐いて、早足で去っていった。


 その跡を追おうとした俺だったが、陽菜から肩を掴まれて止められる。


「杉田……もういいから……」


 その声でようやく俺は我に返る。


 あんなもんじゃ足りないのは紛れもない事実だった。


 だけど今はあんな奴に構うより彼女を優先したい。悲しんでいる彼女を放っておくことはできない。


 それでも俺に慰めることなんてことはできなかった。


 そんなの俺の役目じゃない。俺なんかに彼女の横に立つ資格はなかった。


 神宮寺と同様、俺にだって彼女を幸せにする権利はない。


 何せ、俺は一度死んだ人間。


 未来を知っている俺が、その培った知識を使って彼女を幸せにするなんて……そんなの卑怯だ。


 それでも彼女の傍に居ようと思ったのは、俺にとって彼女が大切な人間だったからだろう。恋愛感情ではなく、深い友情。


 俺を止めた後に、膝を折って両腕で顔を隠している如月陽菜。まるで世界の全ての音を遮断するかのように。


 多分泣いてるのだろう。微かに嗚咽のような声が聞こえる。


 そんな彼女に話しかけたりはせず、ただ傍にいるだけ。なんの干渉もしない。


 そう思った矢先、陽菜の感情を表すかの如く、雨粒が空から降ってくる。


 俺は持っていた折りたたみ傘を広げて、陽菜が濡れないように傘を空へ向けた。彼女がこれ以上悲しまぬように――


 ◇◇◇


 しばらく時間が経って、ようやく雨が止んだ。


 湿気を含んだ風が頬を殴る。まるで陽菜を慰めろと言われているようだった。


 未だになんの言葉もかけられていなかった。なんと声をかければいいのか……。


 すると突如、膝を折っていた陽菜が「よしっ!」と立ち上がる。


「お、おぉ――もう大丈夫なのか?」


「うん。全く大丈夫じゃない。今にも泣き出しそう」


 鼻声でハッキリと言う陽菜に、ちょっとした冗談を投げかける。


「さっきまで散々泣いてただろ」


 そう言うと、陽菜はこちらへ顔を向けて、いつしかしたようにジト目を向けてくる。


「ほんと杉田って女心分かってないよね」


「今まで彼女がいたことない男子に女心なんて分かるわけない」


「まぁ……それもそっか」


 俺たちが付き合ったのは、ただ嫉妬させるために過ぎないのでカウントはされない。それを陽菜も理解しているのか何も言ってこなかった。


「それよりも杉田さ。なんで私の名前呼ばないの?」


「え?」


 突拍子もない質問に疑問を抱く。


「気づいてないとでも思った? 杉田。私が光輝に告白するって言ってから一度も私の名前呼んでないでしょ」


 ギクッ。


 どうやらバレていたらしい。


 俺は陽菜の言った通り、告白すると言われてから陽菜の名前を一度も口にしなかった。


 俺が陽菜の名前を口にするのはおこがましいと思ったからだ。


 それに、その時点でもう偽物の恋人は破綻していたのだから呼ぶ必要もない。


 あれは、偽物の恋人をリアルに演じるために呼んだ名前に過ぎない。


「もう陽菜って呼んでくれないの?」


 そう思っていたのだけど――目が仄かに充血してる今の彼女を妙に艶めかしく感じた。


「陽菜」


「なに?」


「大丈夫。またすぐに新しい恋が見つかる。この世には何十億と男がいるんだし」


「うっさい。余計なお世話」


 せっかく慰めてあげたのに、返答は酷いものだった。


「でもさっきのはありがと。嬉しかった」


「うん」


 もしかすると、助けたことにも『余計なお世話』と言われるかもと怯えていたが、陽菜に限ってそんなことはなかった。


「でも、さすがに殴るのはやりすぎ」


「おっしゃる通りでございます……」


 そこに関しては少しだけ反省した。

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