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憧れのラブコメ主人公のハーレム計画に加担していたけど、クズ野郎と分かったので、次こそは阻止して美少女たちを幸せにしようと思います  作者: 砂糖流
幼馴染

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12話 一度目の告白劇

 班の皆と色々な場所を回り、時が流れていった。


 その間、神宮寺は終始、不機嫌な様子だった。


 理由は、俺が神宮寺の二人のヒロインと話す機会が増えたからだろう。


 校外学習は終わりを告げる時間に刻々と近づいている。


 もうほとんど全て回り切ったくらいの時に、神宮寺がスマホを開いて、不機嫌な顔に新たな表情をつける。


 眉間にしわを寄せる神宮寺は、スマホの内容を確認すると、高坂さんを一瞥してから班の皆に告げる。


「ごめん、みんな。俺、ちょっと用事できたから少し抜けてもいいかな?」


 それに同じ班の男子が「もうほぼ回り切ったし大丈夫」と軽く返答する。


 班からの了承を確認した神宮寺は「じゃあ」と、急いでどこかへ向かう。


「俺たちはどうするかー」「どっか飯でも食い行かね?」「あり」


 始めは、班の皆で行動する、とか何とか言っていたのに、今となってはまるで協調性がない。


 だが、そっちの方が俺としても有難かった。何せ、これで気兼ねなく神宮寺の跡を追うことができる。


「杉田くん。どこか行くの?」


 そう思っていたのだが、一人残された高坂さんから呼び止められた。


「えっ。う、うん。俺もちょっと用事できたから」


「そっ、か。分かった。いってらっしゃい」


「えっと、いってきます?」


 なぜか笑顔をこちらに向ける高坂さんに背を向けて、俺は神宮寺の跡を追いかけた。


 これから告白劇が始まる。



 どうしてもイライラを隠せない様子の神宮寺は、人気の少ない路地裏へ入っていく。


 しばらく狭い道を進み、少し開けた場所に出る。


 先程までの風情ある場所とは打って変わって、自然溢れる緑が目に入り込む。


 周りは木々で囲まれており、小鳥のチュンチュンというさえずりが音色をつけていた。


 そんないかにもな告白スポットの真ん中には、ヒロイン――如月陽菜がモジモジと緊張した様子で待っていた。


 その場所に未だにイライラした様子の神宮寺が姿を現す。


「光輝。来てくれてありがとう」


「大丈夫。それで話って?」


 さっさと本題を話せ、と言わんばかりの神宮寺が陽菜を急かせる。


 言っちゃ悪いが、今の神宮寺にはまるでラブコメ主人公の雰囲気を感じなかった。


 例えるなら、自分のおもちゃを取られてキレる子どものようだった。


 なぜかは分からないが、嫌な予感がする。


「まずは来てくれてありがとう。光輝。今日は光輝に伝えたいことがあって呼び出したの」


「…………」


「私ね――」


 陽菜は全ての空気を吸い込むかの如く一度深呼吸をしてから、


「小学生の助けられた時からずっと、光輝のことが好きでした」


 今までの想いを口にした。


「覚えてるかな? 学校で虐められてる私を光輝が助けてくれたんだよね。私、凄く嬉しかったんだよ? 学校で誰も助けてくれなくて、心細かった時に、唯一、光輝だけが私に手を差し伸べてくれた」


「…………」


「それがすごく嬉しかった。あの時のことは一生忘れない」


「…………」


「それから光輝を目で追うようになって、気がつけば……信じられないほど好きになってた」


「…………」


「だからね――」


 陽菜はもう一度、深く息を吸って、


「私と付き合ってくださいっ!」


 頭を下げて、右手を差し出した。


「…………」


 一気にその場の空間に静寂が訪れて、気がつけば鳥のさえずりさえ聞こえなくなっていた。


 そんな中、陽菜は精一杯に自分の想いを目の前の男子へ向けている。


 その告白に対する、神宮寺の答えは――


「はぁ……」


 肯定でも否定でもなく――落胆のため息だった。


「もう遅い」


 その一言がこの場を凍りつかせる。


「え? 何言って――」


 陽菜が顔を上げて、疑問の表情を浮かべる。


 すぐさま理解できない陽菜に、とうとう痺れを切らした神宮寺が大声を上げる。


「他の男に靡くようなヒロインは要らないんだよっ!」


 その一言で俺はようやく気がつく。どうして神宮寺が今まで俺と陽菜が付き合ったことに何も言ってこなかったのか。


 神宮寺は、陽菜が俺と話したその瞬間に、自分のヒロイン候補から除外した。


 他の男に少しでも靡けば、動機が何であれ、その時点でヒロインとして見られなくなる。


 それは神宮寺からすれば、プライドのようなものなのだろう。


「遅すぎたんだよ。あの杉田って男とつるむ前ならまだ考えてやったのによ」


 きっと神宮寺は今日の鬱憤が今になって爆発したのだろう。


 神宮寺の罵声は止まらない。


「小学生の時、一度助けただけで、簡単に恋に落ちて、そこから中学、高校と俺と同じ学校についてきた。いいご身分だな。何年間も想いを寄せた男から、こうもあっさり振られるなんて。考えるだけで、ニヤニヤが止まらん」


 木々に囲まれた空間に、俺が死ぬ前、目にした不気味な笑みが、その場を支配する。


 目に生気が抜けた陽菜の瞳から、前触れもなく一粒の涙が頬を伝う。


 その涙が無表情の顔から滑り落ち、地面にぽつん。


 その瞬間に、一つの丸い塊が空気を震わせる。


 そして――


「ブフォッ」


 その塊は、神宮寺の顔面に炸裂した。


「ふざけるなよ」


 その丸い塊とは、無論――俺の小さな握り拳だった。

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