11話 校外学習
とうとう校外学習が始まる。
前世では何事もなかった校外学習だが、今世ではそうはいかない。
何せ、今の俺には友達が一人もいないのである。
唯一、陽菜とだけLINEを交換しているが、残念ながらクラスは違う。
そうなると、バスの席は愚か、班すら組む人がいなかった。
一人残された俺が入る班なんてどこにもない。
俺は泣く泣く、先生に『残りました』と伝えるほかない。
そう決めて、俺が手を挙げた次の瞬間――
「ねぇ、君。杉田くん、だっけ?」
入学式の日の如く、神宮寺が俺の肩に手を置いて声をかけてくる。
「うちの班に来ない?」
「え?」
それはまさかの誘いだった。
でもどうして俺を誘ってきたのかが読めなかった。神宮寺の中にまだ良心が残っていて、ボッチだった俺を班に誘おうと思った?
そんなことあるわけがなかった。
何せ、神宮寺は俺が目の前にいるのに、周りにはバレぬよう、微かに笑みを浮かべていたからだ。
それを見て確信する。
神宮寺は腹いせのためだけに俺を班に誘った。
――ヒロインに手を出したモブは蹴散らす。
腹いせの内容としては、班にいた高坂さんが関係しているのだろう。
きっと、高坂さんとイチャイチャしているところを俺に見せつける、とかそんな感じだろう。
憶測ではあるものの、なぜか俺にはそうとしか思えなかった。
とはいえ、今の俺に班を選ぶ権利なんてあるはずもないので、神宮寺の班に入らざるを得ない。
その結果、俺は神宮寺と高坂さんがいる班に入ることとなった。
バスの席は仕方がないということで、先生の隣になり、何とかやり過ごした。
「よろしくね。杉田くん」
高坂さんに話しかけられる。
「よ、よろしく。高坂さん」
俺は、毒にも薬にもならない言葉で挨拶を返した。
◇◇◇
そこからはあっという間に時間が過ぎていった。
気がつけば、校外学習当日。
学校に集まって一人ひとりバスに乗り込む。俺は予定通り、先生の隣を座る。
当たり前の如く、高坂さんの隣を占拠している神宮寺は、楽しそうに高坂さんと話していた。
バスの中で、カラオケやクイズ大会が催されている間、当然馴染めるわけもない俺は、到着まで静かに過ごした。
風情ある場所に到着し、先生たちから、これからの流れ、注意事項などの説明を受けてから、各々班に分かれる。
「みんな揃ったね。今日は、班みんなで動くから勝手な行動は慎むこと」
班長の神宮寺が指揮をとる。
班の皆が元気よく返事していたので、俺も続いて返事しようとした瞬間――
「楽しみだね」
同じ班の高坂さんが話しかけてきた。
同じ班だから、会話するのは当たり前なのだが、俺は神宮寺の前で話しかけてきた高坂さんに、驚きを隠せなかった。
「えっ。そ、そうだね」
それゆえ、たどたどしい返事になってしまった。
「杉田くんは今日回りたい所とか決めてるの?」
「いや、特には……」
「そうなんだ。私は――」
どうして彼女はここまでして俺に絡んでくるのだろう。その意図が全くもって読めなかった。
もしかして、校外学習のお金の件の恨みを晴らすために、こうして情報収集をしているのだろうか。
ありもしないことを考えていると、神宮寺が少し語気を強めて皆に告げる。
「早速行くよ。はぐれないように」
◇◇◇
はぐれた。
それも、高坂さんと二人で。
経緯としては、俺がトイレへ行って戻ってきた時には既に誰もいなかった。
その場所には、なぜだか俺のことを待っていた唯一の生徒。高坂さんがいた。
もしかして、これも神宮寺の策略なんだろうか。嫌がらせで俺を一人にさせようとしたが、計画が狂い、なぜか高坂さんだけ待っていた。
とりあえず今は――
「どうにかして合流するしかないかな」
とは言っても、俺が陽菜以外のLINEを持っているわけもないので、高坂さん頼りになってしまう。
「高坂さん。班の誰かにLINE送ってくれない?」
そう訊くが、返答はなく、高坂さんは独り言を呟いていた。
「合流……」
「高坂さん?」
「えっ!? あっ、あぁ。うん。連絡ね」
高坂さんは曖昧な返事をすると、スマホを取り出して、班の誰かに連絡する。
彼女もあまりの予想外な展開に戸惑っているのかもしれない。
今頃、俺と高坂さんがいないことを知った神宮寺は、怒り狂っていることだろう。
「とりあえず、そこら辺に座って待とうか」
「…………」
無言の高坂さんを連れて、トイレ近くのベンチに腰を下ろす。俺の隣に高坂さんも腰を下ろす。
「「…………」」
分かってはいたけど、やはり気まずい。
無駄に会話する意味もないし、ここは無言を貫く以外ない。余計に話しかけると、高坂さんの反感を買いかねない。
そう思っていたのだが、まさかの高坂さんから話しかけてくる。
「ねぇ、杉田くん……少しだけ歩かない?」
「え?」
「せっかくの校外学習なんだし、近くを回るぐらいなら班のみんなも許してくれるかなって」
本当に何が目的なのか……。
俺が返答に困っていると、無言に耐え切れなくなったのか高坂さんから話し出す。
「私と距離を置きたい気持ちも分かるけど…………」
長い長い沈黙を経て、
「あの校外学習のお金を盗んだのって、本当は――」
「あっ、いたいた」「探したよー」
高坂さんの言葉が耳にたどり着こうとした瞬間、同じ班の人たちの声が耳を貫く。
「ごめんねー。二人とも。気づかなくって」
謝罪する同じ班の生徒の後ろには、顔が引きつっている班長の姿があった。
俺がみんなに謝罪をすると、不機嫌な班長が「時間がないから」と、また指揮をとり出す。
その後に班の皆、続く。
そう思っていたのだが、俺の後ろにいる高坂さんはなぜか固まっていた。
「高坂さん? みんな行っちゃうよ?」
「う、うん……でもその前に……」
「ん?」
疑問に思っていると、高坂さんはスマホを取り出して、LINEのQRをこちらに向ける。
「LINE交換しない?」
「え? いいけど……理由を聞いても?」
「理由は……次、またいつはぐれるか分からないから」
言われてみれば確かにそうだ。念には念を。
「分かった。じゃあ交換しよっか」
そうして、俺のLINEに二人目の友だちが追加されたのだった。




