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憧れのラブコメ主人公のハーレム計画に加担していたけど、クズ野郎と分かったので、次こそは阻止して美少女たちを幸せにしようと思います  作者: 砂糖流
幼馴染

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10話 覚悟

 街の中で、神宮寺と陽菜の視線がぶつかる。


 嫉妬させるために俺たちは付き合ったのだから、これは絶好のチャンスだろう。


 デートしているところを見せびらかす唯一の機会だ。


 だったはずなのに――


「光輝っ!」


 陽菜は必死に神宮寺を呼び止めるため、名前を叫んだ。


 それはきっと、神宮寺が俺たちのデート中を目にしたのに、一切の動揺を見せなかったからだろう。まるで興味がないと言った様子で神宮寺は俺たちの前から立ち去ろうとした。


 好きな人に一番されたくない反応だった。


「ちょっと待って! 光輝! これは違うのっ!」


 陽菜がここまで焦っているのは初めて見た。


 常にどこか余裕があって、だけど毒舌ないつもの彼女は、今では影すらなかった。


「光輝っ!」


 完全に落ち着きが失った彼女は、必死に名前を呼んで、神宮寺の後を追っていった。


 俺たちの恋人関係は……一日で完全に破綻した。


 ◇◇◇


 その日の夜。


 俺は、唯一学校でLINEを交換している女の子へメッセージを送る。


『陽菜』

『大丈夫か?』


 あの後、神宮寺の後を追いかけていった陽菜からLINEで『ごめん』とだけ言われて、そのまま流れで解散することとなった。


 今の時間的にもう家に帰ってるはずだ。


『大丈夫』


 そんな返信を見て安心したのも、束の間。


『じゃないかも』


 連続でそんなメッセージも送信された。


 それを見た瞬間に察する。


『今どこにいる?』


 陽菜は今、外にいる。


 もしかしたら一人で泣いてるかもしれない。


『どこって』


 だが、そんな俺の心配は杞憂に終わる。

 

『カラオケ』


『は?』



 陽菜から場所を聞き出して、俺は急いで陽菜がいるカラオケへ向かった。


「大丈夫かっ――って」


 教えられた部屋の扉を開けた瞬間、陽菜の熱唱している声が耳に入り込んでくる。


「あ。杉田ほんとに来たんだ」


「ほんとに来たんだって……」


 陽菜は何事もなかったかのようにケロッとしていた。


 心配して損した。


「とりあえず、杉田も歌って。ほら」


 そう言ってもう一つのマイクを渡される。


「歌ってって、俺この曲知らなっ――」


「いいからいいから。私に合わせて」


 壊滅的に音痴な俺が全く知らない曲を歌うことになった。それは聞くに堪えなかっただろう。


 音漏れして、隣の部屋に聞こえているんじゃないか、など余計なことを考えてしまう。


 それでもなぜだか、陽菜は、そんな俺を見て大爆笑していた。


「おい」


 だから、俺は歌うのをやめた。


「はー、ホントおもろい」


 俺は何も面白くない。


「ってかさ。杉田。どうして来てくれたの?」


 俺が演奏中止のボタンを押すと、突然陽菜が真剣に話し出す。俺はそれに少しだけ辟易してしまう。


 どうして来た……理由なんて一つしかない。


「もしかして、心配してくれたの?」


「そんなんじゃない」


「そっか。杉田は優しいね。私、さっきあんな酷い別れ方しちゃったのに」


「それは大丈夫。ちゃんと()()だって、分かってるから」


「そうだね。私たちは、光輝を嫉妬させるために付き合ったに過ぎない」


 俺もそのことは重々承知なので、文句を言うようなことはしない。


「ねぇ、杉田」


 どうした、と答える前に、陽菜が先に口を開く。


「私。光輝に告白しようと思う」


「え」


 一瞬、思考が停止する。


「変なことに付き合わせちゃってごめんね」


「いや、大丈夫。でも告白って……俺はてっきり……」


 さっき追いかけた時、既に神宮寺に告白して振られたとばかり思っていた。


 だからこうして気晴らしにカラオケに来てるんだと思った。


「もう告白してると思った?」


「う、うん……」


「さっき光輝を追いかけた時、『俺は何も気にしてないから』ってだけ言われた。それを聞いて踏ん切りがついた」


 とうとう、今まで隠していた想いを打ち明けようと。


 俺は絶対にここで陽菜を止めるべきだった。


 あいつはクソ野郎だ。あんな奴なんてやめて、また新しい恋を見つけよう。そして……幸せになるんだ。


 でも、陽菜の表情を見ると、到底そんなこと口にできなかった。


 今の陽菜に何を言っても意味がない。直感でそう思った。


 何せ、陽菜は既に恋に溺れている身。


 神宮寺がどれだけクソ野郎でも、どれだけ下心丸出しだとしても、一度好きになってしまった心はどうにもできない。


 だから俺は止めなかった。止められなかった。


「来週の校外学習の日。二人っきりの時に告白する」


「そっか……」


 素直に応援はできなかったけど、彼女の幸せを願ったのは本心だった。


「なに? 杉田、もしかして寂しいの?」


「そんなわけあるか」


 マイクを握る手が汗で滲んで、足も微かに震えていた。


 それでも隣の彼女は、覚悟を決めた表情をしていた。

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