生命のエンジン①
――やっぱり、見つかっちまったか。
省生は悪戯を見つかった子供のように、どこか楽し気に言った。
物置で実験器具を見つけた茂木は、柊を呼びに行き、梅村省生を連れて物置に戻った。ドアの鍵を開けるように言われた省生は、さして抵抗も見せずに、素直に要求に応じた。
柊と梅村省生が物置の中に入る。入口を塞ぐ形で茂木が後に続く。省生に逃げられては一大事だ。
薬品の匂いだろう、物置の中は独特の匂いがした。茂木は高校時代の理科室を思い出した。あの何処か乾燥した無機質な匂いがした。
柊は物置の中央に置かれているテーブルの周りをぐるぐると歩き回った。省生は入口の側の茂木の横に立って、柊の様子を見つめていた。柊は窓際の机の前で足を停めると、机の上に置かれている書類を手に取って眺め始めた。
「刑事さん。そんなもの読んだって、あんたには分からないよ」省生が冷やかす。
柊は書類を机の上に投げ捨てると、「ふん。あんた、ここで毒を抽出していたんだろう?」と振り返りながら言った。
省生は「ふふふ」と笑って見せただけだった。
「まあ、良い。鑑識に調べてもらえば、直ぐに分かることだ。おい、鑑識を呼んでくれ」
柊に言われるまでもなく、既に県警と鑑識に連絡済だった。
「はい。大丈夫です。手配済です」と茂木が答えると、柊は嫌な顔をした。
そこそこ長い付き合いだ。柊が(余計なことをしやがって――黙って、俺の指示通りにしていれば良いんだ)と思っていることは、容易に想像できた。
物置の中で三人、黙って睨み合ったまま、時間だけが過ぎて行った。やがて、パトカーのサイレンの音と共に、安中警察署の刑事と鑑識が駆けつけて来た。
新井と金子がいた。物置の中を一目、見ると、「ああ、茂木さん。やりましたね。ここで毒を作っていたのですね!」と傍らの省生を睨みながら言った。
「それを鑑識に調べてもらいたいのです」
「分かりました。おいっ!テーブルの上のものを調べてくれ。毒成分が検出できたら、直ぐに教えてくれ!」新井がてきぱきと指示を出す。
「とりあえず、母屋で待っていて下さい」と新井が言うので、柊と茂木は省生を間に挟むようにして母屋に戻った。
「物置にあった、あの実験器具は何なのですか?あれで、トリカブトやドクゼリから毒を抽出したのでしょう?」ともう一度、柊が問い詰めたが、省生は「ふふ。刑事さん。黙秘権というのがありますよね。暫く、黙っていましょうや」とふてぶてしく答えた。
三人、睨み合う形で沈黙が続いた。
テーブルの上にあったシャーレに粉末状の物体が残っていた。鑑識が調べたところ、アコニチンが検出された。トリカブトから抽出されたのだ。毒成分だ。
新井が飛んできた。「茂木さん!出ました!アコニチンです。トリカブトの猛毒です。物置にあったシャーレから検出されました‼」
梅村省生はその場で緊急逮捕された。
「やはり、お前の犯行だったのだな?」
柊の言葉に、「はは。もっと早く捕まると思っていましたよ。時間がかかりましたね。意外に、とろくさかったなあ~」と梅村はせせら笑った。