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一日の計は朝食にあり③

 柊の追及が始まる。「遺体を司法解剖に回したところ、血中から毒成分が検出されました。トリカブトやドクゼリといった野生の植物に含まれる毒です」

「ほう~トリカブトにドクゼリですか。それは猛毒ですな」

「毒に詳しいようですね。誰が奥さんに毒をもったのでしょうか?」

「トリカブトはね、三十種類くらい自生しているんだ。多年草でね。湿気の多い場所に何年も生息する」

「そう言えば、昔、学校で教師をやられていたとか。確か、中学校で、それも、理科の先生だったそうですね」

「昔のことです。教師をやっていたことなんか、もう忘れたました」

「トリカブトやドクゼリの精製なんてのも、お手の物だったんじゃありませんか?毒を抽出するなんて、朝飯前でしょう。理科の先生だったくらいですから」

 柊の言葉を誉め言葉だと勘違いしたのか、「ああ、私の手に掛かれば、そんなの簡単なものだよ」と省生は胸を張った。そして、「だがね、刑事さん。残念ながら、私じゃない。わざわざトリカブトから毒を精製してあれを殺して、私に一体、何の得があるって言うんです。あれがいなくなってから、朝飯を自分で作らなければならなくなった。全く、困ったもんです」と愚痴った。

 相変わらず妻の美咲より食事が大事なようだ。

「奥さん、まるであなたの家政婦みたいですな?」柊が嫌味を言う。

「はは。あれが家政婦?そんな良いもんじゃありませんよ。でも、まあ、お給金を払っていた訳じゃないから、家政婦よりましかもしれませんね」

(何だ、こいつは――)と隣で聞いていて茂木は思った。(死んだ奥さんが可哀そうだ)とも思った。自分にとって得かどうかで、全てを判断しているようだ。見下げ果てた男だ。

「ちょっと良いですか?」と柊に断ってから、「梅村さん。奥さん、朝、起きてからトリカブトの毒が混入したものを食べたか、飲んだかしたようなのですが、心当たりはありませんか?」と茂木が尋ねた。

 柊と波長が合いそうな相手だ。柊に任せておくと、話がなかなか進まない。隣で柊が(お前は余計なことをするな。俺が仕切る)と言いたげな顔だった。

 美咲の血液からアコニチン、シクトシンといった毒成分が検出されているが、胃の中から食べ物は見つかっていなかった。美咲がどうやって毒成分を摂取したのか不明だった。

「さあてね。私には分かりません。あれが、朝起きて、何を食べていたのかなんて、気にしたことはありませんからね。どうせ、私に隠れて、つまみ食いをしていたのでしょう。食い意地の張ったやつでしたから」

「毎朝、決まって飲んでいたものはありませんか?」

「えっ――⁉」と省生は一瞬、表情を固くしてから、「だから言っているでしょう。あれが、朝、何を飲み食いしていたのかなんて、知りません」と吐き捨てた。

(嘘だ!奥さんは毎朝、何か飲んでいたのではないか?)と茂木は直感した。

 省生は何かを知っている。

「夫婦仲はどうでした?何かでトラブルになっていた――なんていうことはありませんか?」柊が会話を取り戻す。

「夫婦仲?そんなもん。あれは、至って平凡な女でしたから、私の言うことには絶対服従でした。一人じゃ何も出来ない、そんな女でしたから」

「ああ、そうですか。ところで、部屋の中を見せてもらっても良いですか?」

 突然、柊が自宅の捜索を申し出ると、傍で見ていて動揺が分かるほど省生は狼狽した。「ど、ど、ど、どうして・・・な、な、何で、部屋の中を、あんたらに見せなきゃならんのだ!失敬な‼」

(何かある!)と柊も思ったようだ。

「おや、おや~梅村さん。調べられて困ることでも、あるのですか?我々に見られて困るようなものが部屋にあるのですか?」

「ば、ば、馬鹿な。そんなもん、ある訳ないだろう!」

「じゃあ、部屋を見せてもらって、構いませんよね。おい、茂木、手分けして見て回ろう。俺は家の中を見て回るから、お前は庭を見て回れ。早くしろ」そう言うと、柊はポケットから手袋を取り出すと、手にはめながら、省生を押しのけるようにして部屋に上がり込んだ。

 流石は柊だ。傍若無人振りなら負けていない。

「ああ、刑事さん。ちょっと――」省生が右往左往する。柊と茂木のどちらを追いかけようか迷っているのだ。

 脅迫に近い形で、強引に家宅捜索を始めてしまった。「ああ、梅村さん。これは何ですか?」と柊が部屋の奥から叫ぶ。省生は「ちっ!」と茂木に聞こえるように舌打ちをすると、声のする方へと歩いて行った。

 茂木は家を出た。

 庭いっぱいに物置がある。庭を見て回るということは、物置を捜索しろということだ。

 玄関から庭に回った。庭には物置があるだけだ。後は雑草が生い茂っている。物置にしては大きい。ドアノブを回して見ると鍵が掛かっていた。

 仕方がないので、雑草を踏みながら、物置の周りを回ってみた。屋敷に向いた側には窓がないが、植木塀に向いた側に窓があった。中をのぞいてみたがカーテンが閉まっていた。何も見えなかった。

 裏側に回ってみる。こちらにも窓があった。窓際にごちゃごちゃと物を置いている。物に遮られて、カーテンの端がめくれあがっていた。隙間から僅かに中が見えた。

 茂木は体勢を変えながら、物置の中を伺い見た。

(何だ~これは――!)

 中は結構広い。窓際に机が置いてある。机の上に置いた本や文房具、卓上ライトなどで、カーテンの一部が捲れあがっていた。部屋の中央には、また大きなテーブルが置いてあった。テーブルの上には科学の実験で使うような試験管やビーカー、フラスコ、アルコール・ランプなどが、雑然と置かれてあった。

(ここだ!やつはここで、トリカブトやドクゼリの精製を行っていたんだ)

 茂木は確信した。

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