第3話 白い結婚の終わり
膝をつき、むせび泣きながらフェリシアはオリヴァーに謝罪する。
「申し訳ございません。オリヴァー様……私は、私は……あなたの命を……」
オリヴァーは何度も何度も謝る彼女の傍に跪いて聞く。
「でも、あの日私はあなたを殺す事ができなかった。どうしてもできませんでした……罪のないあなたを卑怯に後ろから刺すことなど……」
「クーデターを扇動している誰かが裏にいることはわかっていた。しかしそれが君の父上であることを突き止めるのに、時間を要してしまった」
それともう一つ、というようにオリヴァーを言葉を続ける。
「君の姉上と母上はすでに裏からデュヴィラール王国を脱出させて、こちらの国境に入ったところだと部下から聞いている。姉上は体が弱いと伺っているから、彼女の体に負担が少ないように細心の注意を払っているから安心しろ」
「姉上も、お母様も生きていらっしゃるのですか!?」
「ああ、国王と第二王妃はクーデターに加担した罪で我が軍が捕らえているが、君の姉上と母上は無関係で罪がないことは確認している。こちらの国で保護することになった。幼い王子は我が父が面倒を見るとのことだ」
オリヴァーの報告を聞いて、フェリシアは顔を覆って涙を流す。
(よかった……よかった……)
「君のことだから、自分が俺を殺さなかったことで姉も死んだと思い込んだのだろう? それで命を断とうとした。違うか?」
フェリシアは何も言えずに黙って頷いた。
後片付けされた部屋、そして机に置かれた複数の手紙。
オリヴァーは手紙に自分宛のものがあることに気づき、静かに開いて読んだ。
文章は短いものだったが、彼の心を大きく動かす。
そんな彼の背に向かい、フェリシアは頭を下げながら言う。
「我が父の罪、そしてあなたを殺そうとしたこと、どんな罰でも受けます。どうか私とは離婚をして、あなたの好きな方と一緒になって幸せになってください」
しばしの沈黙が訪れた後、彼は告げる。
「離婚はしない」
「え……」
そう言うとフェリシアの目の前に跪いて、彼女の頬に手を添えた。
「正直なところ、先程まで君と離婚をしようと思っていた。その方がお互いのためだと思ったからだ。だが、君の手紙を読んで気が変わった」
彼の手にはフェリシアがしたためた手紙があった。
「君のことを知りたくなった。君ともう一度やり直したくなった」
「オリヴァー様……」
「もう一度、夫婦として……いや、恋人としてから始めてくれないだろうか?」
フェリシアの頬を涙が伝う。
その涙を彼は優しく拭って笑った。
「あなた様の笑顔を初めて見ました。素敵な笑顔ですね」
「君の笑顔も、可愛いと思った」
二人はそう言って笑い合った──。
『オリヴァー様へ
あなたと食事をするのが、好きでした。
あなたの傍で眠ると、安心できました。
もっとあなたの素顔を知りたいと思いました。
もし叶うなら、
来世ではあなたと出会って恋をしてみたいです。
フェリシア』