第2話 白い結婚の陰謀
フェリシアとオリヴァーの結婚式前日のこと──。
彼女は父親である国王に呼ばれて、謁見の間にいた。
「お父様、今なんて仰いましたか?」
「何度も聞き返すな。今から半年後にクライン王国でのクーデターを扇動する。恐らく戦地で指揮を執るのは、軍神と名高き第一王子であるオリヴァーだろう。お前はそいつが戦地に向かうその日、オリヴァーを殺せ」
フェリシアは自分の父親のあまりに惨い計画を聞いて、恐ろしくなった。
「半年経てばこちらも戦支度が整う。クーデターで混乱したクライン王国を一気に叩き潰す。そして、奪う」
「なっ! 和平は!? 和平はどうなるのですか!?」
「あんなものは時間稼ぎに決まっているだろう。誰があんな国なんかと……この時のためにクライン王国に不満を持つ者たちを集めて……あはははは! 自国の者同士で争い、なんと醜いよのう!」
フェリシアの父親の下卑た笑い声が響き渡る。
そのような計画を聞き、フェリシアは黙ってはいなかった。
「私は……私は、オリヴァー王子を殺すために嫁がされるのであれば、クライン王国へは行きません!」
フェリシアが部屋を後にしようとした時、衛兵たちが扉の前に立ちはだかった。
「どきなさい!」
フェリシアがそう叫ぶも、衛兵たちはその命令を聞かずに扉を塞いでいた。
部屋に閉じ込められた彼女に、彼女の父親がにやりと笑いながら告げる。
「フェリシア、お前が行かなければ大好きなお前のお姉様が死ぬぞ」
「なっ!」
フェリシアの姉であるクラリスは幼い頃から体が弱く、外に出ることが叶わなかった。
そこで姉の代わりにフェリシアは政務をおこなって、国家を支えているのだが、いつも優しく「ありがとう」と自分に伝えてくれる姉が大好きだった。
「お姉様を人質にするというのですか!?」
「ああ、あいつは体も弱く政略結婚にも使えないしな、どうせ……」
フェリシアは父親のその先の言葉がわかってしまった。
『用済みだ』
非情な父親の言葉がフェリシアの耳に届く。
姉のクラリスは体が弱いために、そしてフェリシア自身も王宮内でのある噂によって国王から冷遇されていた。
その噂は、『フェリシア第二王女は、国王の子ではない』というものだった。
デュヴィラール国王と王妃の仲が悪くなったきっかけが、フェリシアに関するその噂である。
国王は王妃が浮気をして子を成したと信じて疑わず、フェリシアを自分の子ではないと言い張っていた。
長年、冷めた関係にあった国王と王妃は互いに干渉し合わず、やがて国王は王妃の相談なく第二王妃と娶った。
そうして先日、国王と第二王妃の間には第一王子が生まれ、国王はこの王子を寵愛してフェリシアと彼女の姉を冷遇していたのだ。
「さあ、どうする。わしは一向に構わんぞ。お前が死のうが、クラリスが死のうが」
フェリシアは唇を噛みしめ、そして手を強く握りしめた後、国王に告げる。
「お姉様には手出しはしないでください。絶対に、絶対に」
「ああ、わかった」
フェリシアが父親の交渉に応じると、彼は満足そうに笑った。
こうして、フェリシアはオリヴァーに嫁ぐ日を迎えたのである。