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第10話 母は強し、裁きは下る

 第二王妃の嘘が何かわからないまま、オリヴァーが部屋に戻ってきた。

 戻るなり椅子に座り込んでぶつぶつと何か言っている。


「どうなさいましたか?」

「君の父君のクーデター関与の証拠に穴があった。第二王妃の証言と近衛兵の証言が食い違う。どうしても矛盾が生じてこのままでは告訴できない」

「では、このままでは……」

「ああ、君の父君と第二王妃の罪を立証できず、法で裁く事が難しくなる」


(お父様がクーデターを扇動していたのは確か。では、どうしたら……)


 その時、フェリシアの脳裏に昼間聞いた母親の言葉が思い浮かぶ。



『第二王妃は一つ嘘をついている。それを暴けば、解決するはずよ』



(もしかして……その可能性が高い。自分だったらそうするかもしれない……)


 フェリシアは夫に進言する。


「第二王妃はもしかしたら、嘘をついているかもしれません」

「嘘……?」

「はい。昼間、お母様……私の実の母ヘレナに王子のことを相談しに行った時、母がそう言ったんです」


 オリヴァーは口元に手を当てて考えを巡り合わせると、持ち帰った書類を机に広げた。

 いくつもの書類に目を通した後、彼は小さな声で呟く。


「でかした、フェリシア。これで証言が崩せる」

「では……!」

「ああ、デュヴィラール国王を裁くことができる。そして、幼い王子を救うことができる」


 二人は目を合わせて頷いた──。




******




「ふんっ! 玉座に招待とは、わしのことを解放する気になったか? ああ!?」


 クライン王国の玉座に集まった者の一人、デュヴィラール国王は悪態をついた。

 彼は手足を縛られたままにも関わらず、自分が裁かれないと確信しているのか大きな態度でふんぞり返っている。

 その少し後ろに控えているのは、デュヴィラール国王と共にクーデター扇動に関与したとされる第二王妃ジェリーだった。


 クライン国王の傍で立つオリヴァーは、冷静な態度で口を開く。


「あなたにはとても苦しめられましたよ。ですから、我が国の権威をもってこれからあなたを裁きます」

「できるのか? お前のような若造に」


 そう言いながらデュヴィラール国王は不敵な笑みを浮かべる。


「先日我が国で起こったクーデターにあなたが裏から手を回し、クライン王国を乗っ取ろうとしていたことはすでにわかっています」

「ふんっ! 証拠はどこにある」

「こちらにあなたの近衛兵とクーデター首謀者が交わした手紙があります。ここにはしっかりと、あなたの名前が書かれている。影で支援する者の名前として」


 該当の手紙を見せながら、オリヴァーをデュヴィラール国王を問い詰めていく。


「あなたがクーデターの首謀者と繋がっていた、そうですね?」

「そんなことはしていない」


 デュヴィラール国王は余裕ぶった表情を浮かべながらオリヴァーの言葉を真っ向から否定した。

 まるで自分の罪をオリヴァーが暴くことはできないと確信しているように……。


(お父様、どうか罪を償ってください……)


 その動向を見ていたフェリシアは、第二王妃のもとへゆっくりと近づく。

 第二王妃ジェリーはそんなフェリシアを睨みつけていた。


「第二王妃ジェリー様、お久しぶりです」

「ええ、そうですわね」

「あなたは嘘をついています。あなたは我が父、デュヴィラール国王のことをかばうために嘘の証言をしていましたね? 自分もクーデター扇動の一人として罪をかぶることになっても、お父様を守ろうとした」


 フェリシアの言葉にわずかに眉をひそめるが、冷たい口調で返事をする。


「なんのこと? さっぱりわからない」

「あなたと近衛兵の証言が食い違うのは、あなたが嘘をついているから。クーデターの実行を合図したのは自分だと証言していますが、あなたではない。合図をしたのは、お父様でありあなたはクーデター扇動には一切関与していない。違いますか?」

「私は間違いなくクーデターの合図を送った。だから、クーデターの引き金を引いたのはむしろ国王ではなく私かもしれないわね」


 そう証言しながら、彼女は高らかに笑う。

 笑いが響き渡った時、フェリシアはデュヴィラール国王がにやりと笑ったのを見逃さなかった。


(やはり、『言わせている』。第二王妃であるジェリー様はお父様に利用されているだけ。きっと、彼を信じている。愛しているから、信じている……どうしたら……)


 オリヴァーが彼女の証言を崩すために口を開く。


「いいえ。あなたは合図を送っていない。扇動に関与自体していない」

「なんであなたにそんなことがわかるの?」


 その時、ジェリーの後ろからある人物が声をかけた。


「あなたではなく、そこの狸親父が合図を王宮の一室から侍女伝いで送ったからよ。他の女と浮気している時にね」


 そう発しながら玉座の間に入ってきたのは、正妃であるヘレナだった。


「お母様……!」


 フェリシアが驚きの声をあげる。

 ヘレナは優雅に歩きながらデュヴィラール国王とジェリーのもとへ歩いていくと、ジェリーに言う。


「あなたは私なんかより、よほど夫のことを信じている。愛している。だからこそ、嘘の証言までして庇っている。だけど、この男はあなたが思うほど純粋でも一途でもない。この男には何人も女がいる」

「そんなこと……」


 ヘレナの登場と発言から明らかにジェリーの様子が変わった。

 彼女の目は泳ぎ、そして唇が震えている。


「騙されるな! 俺が愛しているのはお前だけだ! 俺を信じろ!」

「いいえ、あなたはわかっているはずよ。自分が利用され続けていることを。王子を産むときも、そして、今も……!」


 ヘレナの言葉にジェリーは首を振る。


「いいえ、国王は私だけを愛してる。私だけを必要としてくれてるの。だから……」


 まるで自分に言い聞かせるように呟くジェリーに、ヘレナのビンタがお見舞いされる。


「いい加減目を覚ましなさい! あなたが本当に守るべきものは、この嘘親父なんかじゃない。あなたがお腹を痛めて産んだ子じゃないの!?」


(お母様……)


 その言葉にはっとしたジェリーは、目を閉じて唇を震わせて涙を流す。


「おいっ! そんな女のことは信じるな!」

「黙りなさい、この最低男! 何人の女を不幸にすれば気が済むのですか!」


 あまりの剣幕におされてデュヴィラール国王はごくりと唾を飲む。


「わたしは……」


 ヘレナの言葉が効いたのか、彼女は静かに嘘を認めていく。


「申し訳ございませんでした。私は何も知らず、彼の……デュヴィラール国王の言いなりで嘘の証言をしました」

「おいっ! ジェリー! 貴様っ!」


 ジェリーに体当たりをして恨みをぶつけようとするデュヴィラール国王に、ヘレナのビンタがお見舞いされる。


「いてっ!」

「いい加減に罪を償いなさい、この恥知らず!」


 彼は息を荒くしながらも何もできなくなる。

 フェリシアは国王や母たちの様子を見た後、オリヴァーに視線を送った。


(あとはお願いします、旦那様……)


 彼は頷くと、いくつかの証言書類などの証拠をデュヴィラール国王に提示する。


「あなたが浮気をしていた侯爵夫人にも裏をとり、はっきりクーデターの合図をしたことがこちらでもわかっています。あなたはクライン王国へ仇を成した者として裁きます。そして、全ての女性への償いと我が妻を冷遇し、そして暗殺依頼をして苦しめた罪はしっかり償ってもらいます」


 もう言い逃れできないと感じたのか、デュヴィラール国王は床を殴って悔しそうに吐き捨てる。


「くそっ! くそっー!!」



(お父様、償ってください……)


 こうして、デュヴィラール国王は正式に法で裁きを受け、牢獄に入れられることとなった。


 一方、デュヴィラール国王を庇っていたジェリーには監視付きではあるものの、幼い王子との面会が許された。

 そして数日後、完全に無実だと判明した彼女は釈放され、幼い王子と自らの身分を捨てる署名を残して、平民としてクライン王国で暮らす事となった。


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