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第1話 白い結婚の始まり

「悪いが、君を愛することはない。政治の道具であることを黙って了承するような女に気を許すつもりはない」


 彼は冷たい言葉でフェリシアにそう告げた。

 フェリシアはか細い手を彼に重ねながら、美しいブロンドの髪を静かに揺らして微笑んだ。


「オリヴァー様、私は構いません。愛されようなどと傲慢なことも望みません。静かにあなた様の邪魔にならないように過ごさせていただければそれで十分です」


 初夜のベッドの上でそのような言葉が交わされた。


 この結婚はいわゆる政略結婚である。

 クライン王国第一王子であるオリヴァー・ローゼクラインと、その隣国のデュヴィラール王国第二王女フェリシア・リズ・デュヴィラールの結婚は、両国の友好のためにおこなわれた。

 元々海域戦争で敵同士であった両国は、現国王同士も仲が悪い。

 しかしながら、戦争に疲弊した兵たちの嘆願によって休戦となり、そのまま両国は和平を結ぶことになったのだ。

 その友好の証として、フェリシアとオリヴァーの結婚が実現した。



 フェリシアとオリヴァーが結婚してから半年が経ったが、二人の仲が近づくことはなかった。

 食事や寝所を共にはしているものの、夫婦が楽しく会話をすることはない。


「今日は遅くなる。先に寝ておいて構わない」

「かしこまりました」


 このような決まり文句が毎日毎日繰り返されるだけ。

 フェリシアは彼の仕事に干渉をすることもなく、式典などの国家行事に共に参加するのみでそれ以外は必要最低限の人付き合いしかしなかった。


 そんな時だった、彼が戦地入りすることが決まったのは──。


「戦地、ですか?」

「君と結婚すると決まった数日前に、王国南部で小さな戦争が始まった。相手はかつてこの国を裏切った者たちだ。父上はすぐにこのクーデターは終結するだろうと考えているようだが、、私の部下の調査も踏まえると、恐らく二年はかかるだろう」

「そう、ですか……」


 フェリシアはなんと答えたらいいのかわからなかった。


「ご武運を祈っております」

「ああ」


 そう言うのが精いっぱいだった。

 政略結婚とはいえ、新婚の身で夫を戦争に送り出すことになるとは、とフェリシアは悲しく思う。


(ご無事でいてほしい……)


 たとえ政略結婚での夫婦だとしても、彼には死んでほしくはない。

 そのように心の中で思っていたフェリシアは、突然オリヴァーに名前を呼ばれる。


「フェリシア」


(久々に名前、呼ばれた……)


 身支度をしながら彼はフェリシアに告げる。


「もし、俺が戦地から戻ってこなければ、好いた男と結婚しろ」

「え?」

「国に帰っても、この国でそのままいても構わない。父上には、俺が死んだ時に君が好きな男と結婚できるようにと離婚届も預けてある。俺ができるのはそれくらいだ」

「オリヴァー様……」


(こんな会えなくなる最後の日に、彼ともっと話したいと思うなんて……)


 そう思った彼女は、オリヴァーに気持ちを伝える。


「必ず、ここに戻ってきてください。無事で」


 その言葉に彼は何も言わず、戦地へと向かっていった。




 オリヴァーが戦地へと向かった日から、一年が経過した。

 初めはクーデターの勢いに押されていたオリヴァーたちだったが、徐々に兵糧が尽きてきたクーデター側が弱体化していった。

 結果として、オリヴァーの見立てよりも早く戦争が終わり、クーデター鎮圧は目前となっていた。


 フェリシアは戦況を聞くと、急いで自室の片付けを始めた。


(早く……)


 彼女は今までお世話になった道具を隅から隅まで綺麗に掃除し、そして世話をしてくれた侍女たちへの手紙を書いた。

 そして、最後にもう一通手紙を書くと、それらを机の上に置いて引き出しから短刀を取り出す。


(きっと私は殺される、その前に自分で……)


 フェリシアは短刀を自分の胸に向かって刺そうとした。

 その時だった。

 彼女の腕は逞しく力強い手で掴まれており、びくともしない。


(え……)


 振り返ると彼女の動きを止めていたのは、オリヴァーだった。


「オリヴァー様、戦地にいるはずじゃ……」

「はあ、はあ……間に合ってよかった」


 オリヴァーは彼女の腕から短刀を取り上げた。


(どうして……)


「全て聞いた。君が嫁いできた、本当の理由を──」

「もう知ってしまったのですね」

「ああ。君の父君の策略だったのだな」

「その通りです。我が父、デュヴィラール国王が裏でクーデターを扇動しておりました」


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